夢小説
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まっさらなジョウトの自然公園。辺りには雪が降り積もり、吐く息は白い。
今日は仕事帰りだと言うサカキさんと、この自然公園の入り口で待ち合わせをしている。
寒さで手を擦り合わせていると、真っ黒なコートに身を包んだサカキさんが雪景色の中を歩いてくるのが視界に入った。
すぐに「サカキさん!」と名前を呼びたかったけれど、人気が多い場所なので唇を結ぶ。
私が無言で駆け寄ると、ぽんぽんと優しく頭を撫でられる。その様子はまるで飼い犬とその飼い主のようだけど、彼の大きな手のひらに思わず口元が緩んだ。
しかしその手のひらはすぐに止まり、ふと外されてしまう。その動きに疑問を感じて彼の顔を見つめると、広場の方を凝視していた。
「あれは……」
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
バツが悪そうに顔を背けるサカキさん。
何だか様子がおかしい。そう思って先程彼が視線を送っていた先を見ると、赤髪の少年が帽子を被った少年少女達と雪合戦をしていた。無邪気に、しかし見覚えのある顔で。
サカキさんだ……
考える間もなくそう思ってしまうほどに、その少年はサカキさんの面影を強く感じさせる顔立ちをしていた。
「……あの子、サカキさんの息子さんですか?」
呟くようにそう聞くと、サカキさんが驚いた目をしてこちらを見つめる。
「……どうしてわかったんだ」
「え、だってそっくりですよ。目付きとか、笑い方とか」
まだ十歳ほどの少年。年相応の幼さは残るものの、眉根を寄せながら笑うその表情は、サカキさんそのものだった。
綺麗な赤毛は母親譲りなのだろう。揺れるその赤色が視界にチラつく度にチクリと胸が痛むけれど、表に出すわけにはいかない。彼を困らせるだけなのだから。
「……そうか」
サカキさんは何を考えているかわからない表情で一言そう呟くと、目を細めてまた赤髪の少年を見つめる。
その横顔がなんだかとても遠く感じて、私は口を噤んでしまった。
*
私達二人はそのまま無言で自然公園から離れると、雪に足跡を残しながら街路を進む。
さっきの男の子、本当にサカキさんそっくりだったな……
綺麗な赤髪が鮮明に浮かび上がり、また、胸がチクリと痛む。
そのうち喉の奥まで苦しくなってふと歩みを止めるけれど、サカキさんは気づかずに歩き続ける。上の空だ。
私は胸の痛みを誤魔化すように、足元の雪を掬って雪玉を作り始めた。
思いの丈をぶつけるようにぐしゃぐしゃに丸めて固めると、歪な雪玉が出来上がる。しかしそれでもまだ足りずに、もう一つ、ぐしゃぐしゃと歪な雪玉を作り上げていく。まるで八つ当たりだ。
私はサカキさんの黒いコートに狙いを定め、思い切り投げつけた。
ぼすん。
歪な雪玉はボロボロと崩れ落ちると、足元の雪に還っていく。
「……おい、何の真似だ」
「雪合戦!」
私が大きな声を出すと、サカキさんは片眉を歪ませてコートに乗ったままの雪を手で払う。
「……ウエサキ、このコートがいくらか知ってるか?」
「あ、ええと……」
私に気づいてくれないサカキさんが悪いんですよと言いたかったけれど、彼のコートは私のお給料二ヶ月分、いや、それ以上かもしれない。
私は慌てて二つ目の雪玉を後ろに隠した。
「全く、仕方のないやつだな」
眉根を寄せてふっと笑うサカキさんは私の知るいつもの彼だったが、見れば見るほど、やはりさっきの少年とそっくりだった。
「子供は風の子と言うが、君は子供じゃないだろう。早く家で暖まろう」
私が返事をするより先に私の手を取り、ゆっくりと歩き始めるサカキさん。
その拍子に、隠し持った歪な雪玉が私の手元から零れ落ちた。
あまり多くを語らない彼の、私が知らない彼のこと。全部丸ごと愛しいと思える日が来たら、もっとあなたに近づけますか。
祈るようにしてサカキさんと繋いだ手を握ると、彼はふっと笑って同じ力で握り返してくれる。
私達が呼吸をする度に、白い吐息が澄んだ空気に舞う。
来年の冬も、こうして彼の隣を歩いていられますように。
今日は仕事帰りだと言うサカキさんと、この自然公園の入り口で待ち合わせをしている。
寒さで手を擦り合わせていると、真っ黒なコートに身を包んだサカキさんが雪景色の中を歩いてくるのが視界に入った。
すぐに「サカキさん!」と名前を呼びたかったけれど、人気が多い場所なので唇を結ぶ。
私が無言で駆け寄ると、ぽんぽんと優しく頭を撫でられる。その様子はまるで飼い犬とその飼い主のようだけど、彼の大きな手のひらに思わず口元が緩んだ。
しかしその手のひらはすぐに止まり、ふと外されてしまう。その動きに疑問を感じて彼の顔を見つめると、広場の方を凝視していた。
「あれは……」
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
バツが悪そうに顔を背けるサカキさん。
何だか様子がおかしい。そう思って先程彼が視線を送っていた先を見ると、赤髪の少年が帽子を被った少年少女達と雪合戦をしていた。無邪気に、しかし見覚えのある顔で。
サカキさんだ……
考える間もなくそう思ってしまうほどに、その少年はサカキさんの面影を強く感じさせる顔立ちをしていた。
「……あの子、サカキさんの息子さんですか?」
呟くようにそう聞くと、サカキさんが驚いた目をしてこちらを見つめる。
「……どうしてわかったんだ」
「え、だってそっくりですよ。目付きとか、笑い方とか」
まだ十歳ほどの少年。年相応の幼さは残るものの、眉根を寄せながら笑うその表情は、サカキさんそのものだった。
綺麗な赤毛は母親譲りなのだろう。揺れるその赤色が視界にチラつく度にチクリと胸が痛むけれど、表に出すわけにはいかない。彼を困らせるだけなのだから。
「……そうか」
サカキさんは何を考えているかわからない表情で一言そう呟くと、目を細めてまた赤髪の少年を見つめる。
その横顔がなんだかとても遠く感じて、私は口を噤んでしまった。
*
私達二人はそのまま無言で自然公園から離れると、雪に足跡を残しながら街路を進む。
さっきの男の子、本当にサカキさんそっくりだったな……
綺麗な赤髪が鮮明に浮かび上がり、また、胸がチクリと痛む。
そのうち喉の奥まで苦しくなってふと歩みを止めるけれど、サカキさんは気づかずに歩き続ける。上の空だ。
私は胸の痛みを誤魔化すように、足元の雪を掬って雪玉を作り始めた。
思いの丈をぶつけるようにぐしゃぐしゃに丸めて固めると、歪な雪玉が出来上がる。しかしそれでもまだ足りずに、もう一つ、ぐしゃぐしゃと歪な雪玉を作り上げていく。まるで八つ当たりだ。
私はサカキさんの黒いコートに狙いを定め、思い切り投げつけた。
ぼすん。
歪な雪玉はボロボロと崩れ落ちると、足元の雪に還っていく。
「……おい、何の真似だ」
「雪合戦!」
私が大きな声を出すと、サカキさんは片眉を歪ませてコートに乗ったままの雪を手で払う。
「……ウエサキ、このコートがいくらか知ってるか?」
「あ、ええと……」
私に気づいてくれないサカキさんが悪いんですよと言いたかったけれど、彼のコートは私のお給料二ヶ月分、いや、それ以上かもしれない。
私は慌てて二つ目の雪玉を後ろに隠した。
「全く、仕方のないやつだな」
眉根を寄せてふっと笑うサカキさんは私の知るいつもの彼だったが、見れば見るほど、やはりさっきの少年とそっくりだった。
「子供は風の子と言うが、君は子供じゃないだろう。早く家で暖まろう」
私が返事をするより先に私の手を取り、ゆっくりと歩き始めるサカキさん。
その拍子に、隠し持った歪な雪玉が私の手元から零れ落ちた。
あまり多くを語らない彼の、私が知らない彼のこと。全部丸ごと愛しいと思える日が来たら、もっとあなたに近づけますか。
祈るようにしてサカキさんと繋いだ手を握ると、彼はふっと笑って同じ力で握り返してくれる。
私達が呼吸をする度に、白い吐息が澄んだ空気に舞う。
来年の冬も、こうして彼の隣を歩いていられますように。