「ウエサキ、君はよく熱を出すな」
「すみません……」
「責めてるわけじゃない」
　そう言って私の額を優しく撫でる彼の冷たい手のひらが、気持ちいい。
「ねえ、サカキさん。手が冷たい人は心が温かいってよく聞きますけど、ほんとなんですかね」
「……本当だと思うか？」
　今度はその冷たい手のひらで私の頬を撫で、片眉を下げて呆れた顔をするサカキさん。
「サカキさん、悪い人ですもんね」
「ああ。よくわかってるじゃないか」
「でも、温かい人だなって思います」
事実、サカキさんは私のことをたくさん甘やかしてくれる。
　その分叱られることも多いけれど、それを加味しても優しく、時折温かさをくれる人だ。世界に優しくはないけれど。
　サカキさんの冷たい手のひらに、そっと自分の手のひらを重ね、その低い体温をじっくりと感じ取る。
「……君は変わってるな」
　サカキさんはそう呟くと、優しい顔で私の額にキスを落とした。
「唇は温かいんですね」
「何ならこっちでも確かめてみるか？」
「え？」
　疑問に思うも一瞬で、親指で唇をゆっくり、ゆっくりとわざとらしくさすられれば、体温が一気に上昇する。
　ただでさえ熱があるというのにこれ以上熱くなればどうにかなってしまいそうで、私は慌てて顔を背けた。
「かっ、か、風邪！！移りますよ！！」
「ふっ。冗談だ」
　くすくすと楽しそうに笑うサカキさん。
　私は彼の冷たい手のひらに名残惜しさを感じながらも、それどころではないと、温かい布団にその身を隠した。