夢小説
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空はまだ薄暗い明け方。
扉が開く音で目が覚めた私は寝室を出たサカキさんを追うと、一足先にソファに座った。寝惚けながらぼんやり時計の針を眺めていると、聞き慣れた低い声が降ってくる。
「今日は早いな」
サカキさんはそう言うと、マグカップを手渡してきた。注がれているのはホットミルク。彼のカップから香るのは珈琲の匂い。わざわざ別に用意してくれたことを思うと、また少し好きになった。
「ありがとうございます、サカキさん」
私がお礼を言うと、サカキさんは私の頭を一撫でして隣に座った。
静かに鳴る秒針の音と、マグカップからふわふわと発生する湯気。そして混ざり合うホットミルクの香りと珈琲の香りが、幸せを感じさせる。
彼が起きてから仕事に行くまでの短い一時。いつもならまだまだ夢の中だけど損していたな、なんて思うけれど、明日にはまた呑気に寝ているのだろう。
*
マグカップの中、残り少ないホットミルクを覗き込んでいると、これから仕事に行かなければならない現実に少しだけ寂しさを思い起こす。
「ねぇサカキさん、恋人、作らないでくださいね」
離れたくないなぁ、なんて思いながら口に出した話題は突拍子もなく、けれどいつも不安に思っていることだった。
横目で覗き見るようにして見たサカキさんの顔は、片眉が上がって怪訝そうだ。
「なんだいきなり。君の方こそどうなんだ」
「私が他の人を好きになると思います?」
「まぁないだろうな」
考える素振りもなく即答され、ムッとする。いつだって私の気持ちばかりが大きくて。
「……そもそも私に恋人が出来ても何とも思わないでしょ、サカキさん」
私はわざとらしくそっぽを向くと、拗ね気味に返事をする。まるで幼い子供だが、寝起きだから仕方がないと自分に言い訳をした。
「どうだかな」
いつもと同じ答えのない返事に、私はまたムッとして口を尖らせる。いっそ風船のように頬を膨らませてやろうかと思ったけれど、どうせ呆れた顔をされるだけだ。
「また曖昧な返事する」
「ハッキリさせたらつまらないだろ?」
「恋愛に面白さなんて求めてないです」
「だが君は、ここから抜け出そうとはしないよな」
「それは……」
図星を突かれて言い淀む。だが一方的な恋愛が好きなわけではない。私は反論しようときちんと彼の方を向いて言葉を探すが、彼に先を越されてしまう。
「俺のこの態度も言動も、案外君の好みだったりしてな」
サカキさんはそう言うと口角を上げ、いつもの意地悪そうな顔をこちらに向けてくる。
他の誰でもないあなただからですよ、と伝えるのはなんだか癪で、私はまたそっぽを向こうと顔を左に動かした。しかしそれを阻止するようにして顎を捕えられ、目を逸らすことすら叶わなかった。
「ウエサキ」
名前を呼ばれたかと思うと、返事をする間もなく唇を塞がれる。そのまま遠慮なしに入り込んで来た舌に自身の舌を絡め取られ、私は流れのままに彼に体を預けた。
結局サカキさんの気持ちは少しも分からないままだけど、ほろ苦い珈琲の唾液が、私の中をゆっくりと満たしていった。
扉が開く音で目が覚めた私は寝室を出たサカキさんを追うと、一足先にソファに座った。寝惚けながらぼんやり時計の針を眺めていると、聞き慣れた低い声が降ってくる。
「今日は早いな」
サカキさんはそう言うと、マグカップを手渡してきた。注がれているのはホットミルク。彼のカップから香るのは珈琲の匂い。わざわざ別に用意してくれたことを思うと、また少し好きになった。
「ありがとうございます、サカキさん」
私がお礼を言うと、サカキさんは私の頭を一撫でして隣に座った。
静かに鳴る秒針の音と、マグカップからふわふわと発生する湯気。そして混ざり合うホットミルクの香りと珈琲の香りが、幸せを感じさせる。
彼が起きてから仕事に行くまでの短い一時。いつもならまだまだ夢の中だけど損していたな、なんて思うけれど、明日にはまた呑気に寝ているのだろう。
*
マグカップの中、残り少ないホットミルクを覗き込んでいると、これから仕事に行かなければならない現実に少しだけ寂しさを思い起こす。
「ねぇサカキさん、恋人、作らないでくださいね」
離れたくないなぁ、なんて思いながら口に出した話題は突拍子もなく、けれどいつも不安に思っていることだった。
横目で覗き見るようにして見たサカキさんの顔は、片眉が上がって怪訝そうだ。
「なんだいきなり。君の方こそどうなんだ」
「私が他の人を好きになると思います?」
「まぁないだろうな」
考える素振りもなく即答され、ムッとする。いつだって私の気持ちばかりが大きくて。
「……そもそも私に恋人が出来ても何とも思わないでしょ、サカキさん」
私はわざとらしくそっぽを向くと、拗ね気味に返事をする。まるで幼い子供だが、寝起きだから仕方がないと自分に言い訳をした。
「どうだかな」
いつもと同じ答えのない返事に、私はまたムッとして口を尖らせる。いっそ風船のように頬を膨らませてやろうかと思ったけれど、どうせ呆れた顔をされるだけだ。
「また曖昧な返事する」
「ハッキリさせたらつまらないだろ?」
「恋愛に面白さなんて求めてないです」
「だが君は、ここから抜け出そうとはしないよな」
「それは……」
図星を突かれて言い淀む。だが一方的な恋愛が好きなわけではない。私は反論しようときちんと彼の方を向いて言葉を探すが、彼に先を越されてしまう。
「俺のこの態度も言動も、案外君の好みだったりしてな」
サカキさんはそう言うと口角を上げ、いつもの意地悪そうな顔をこちらに向けてくる。
他の誰でもないあなただからですよ、と伝えるのはなんだか癪で、私はまたそっぽを向こうと顔を左に動かした。しかしそれを阻止するようにして顎を捕えられ、目を逸らすことすら叶わなかった。
「ウエサキ」
名前を呼ばれたかと思うと、返事をする間もなく唇を塞がれる。そのまま遠慮なしに入り込んで来た舌に自身の舌を絡め取られ、私は流れのままに彼に体を預けた。
結局サカキさんの気持ちは少しも分からないままだけど、ほろ苦い珈琲の唾液が、私の中をゆっくりと満たしていった。