夢小説
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いつもはリモートトレーニングの毎日。しかし今日は月に何度か開催される、直にベルナルドさんからボクシングの動きを教われる日だ。
クッションフロアには大きなマットが敷かれ、そこにはたくさんの生徒がベルナルドさんを前に立っている。
そして今日はバレンタイン。もうすぐ今日のトレーニングが終わる時間というのもあって、みんながみんなソワソワしている。
「よーし!今日のトレーニングはこれで終わりだ!よく頑張ったな!お疲れさん!」
その一声で、みんな一斉に荷物を取りに行く。それはすぐに帰りたがっているのではなく、大方バレンタインのチョコレートを取りに行ったのだろう。
私も本命へのチョコレートを隠し持ち、仕事終わりのベルナルドさんへと近づく。私は彼に淡い恋心を抱いているのだ。
この気持ちを、今日こそ彼に伝えたい。
一つ深呼吸をした私は心を決めて一歩踏み出す。けれど、トレーニングが終わるタイミングを見計らっていた他の生徒達がすでにベルナルドさんを囲っていた。みんな可愛く包装された箱や紙袋を高らかに掲げ、私の入る隙間はない。
みんなのお父さんとして高い人気を誇るベルナルドさん。こうなることはわかっていたけれど、実際にその光景を目の当たりにするとどうしても悶々としてしまう。
「おうおう!みんなありがとなぁ!」
ベルナルドさんは通る大きな声でお礼を言いながら、両の手を使って次々と女性陣からのプレゼントを受け取っていく。中にはベルナルドさんに抱きつく女性までいたが、私はその様子を後ろの方から恨めしそうに見ていることしかできなかった。
*
しばらくして人集りが引いていき、ようやくベルナルドさんがこちらに気づいて話しかけてくれる。両手いっぱいに可愛らしい箱や袋を抱えながら。
「お前さんもか?」
「……その中に本命、ありますか」
「ん?あるかもな」
「去年はどうだったんですか?」
「去年はいくつかあったなぁ」
その答えに、ズキリと胸が痛くなる。みんなお父さんみたいだと口を揃えて言うけれど、やっぱりモテるんじゃないか。
私は胸の痛みに耐え切れず、ムスッとした顔で押し黙る。
「なんだ、気になるか」
「……気になります」
「どうしてだ」
ベルナルドさんがこちらを覗き込んでくる。
放っておかれても泣くけれど、深堀りされても困ってしまう。
「そ、それは……」
私はチョコレートが入った紙袋を持つ手を、背の方でギュッと握る。
今が気持ちを伝えるチャンスだと、喉の奥から好きですの四文字を絞り出そうとするけれど、いざとなるとその勇気は引っ込んでしまっていた。
私が視線を彷徨わせながら言いあぐねていると、ベルナルドさんはふっと笑って荷物を抱え直すと、私の頭の上に大きな手のひらをぽすんと置いた。
「お前さんはその先が言えるようになったらだな」
「それって、どういう……」
「ほら、半分持つの手伝え!これもトレーニングだ!」
私にたくさんの箱や紙袋を押し付け、わっはっはと大きな口を開けて笑うベルナルドさん。
なんだかよくわからないけれど、しれっと彼と一緒に帰る権利を手に入れられただけで良しとしよう。
「お、それが桜木が用意してくれたチョコレートか?」
「へ?」
私はベルナルドさんの視線の先を見る。そこには私がずっと隠し持っていた紙袋が。先程彼からたくさんの荷物を受け取った時に、反射的に肘へとぶら下げてしまったのだ。
「あっ!えっと、これは」
「桜木。一度荷物を置け」
「え、あ、はい」
持てと言ったり置けと言ったり、これもトレーニングの一環なのだろうか。
「ああ、お前さんのは俺にくれないか」
「?」
私はよくわからないまま紙袋をベルナルドさんへと差し出すが、空いた片手で受け取ってくれる気配はない。
彼が持つ他のチョコレートと同じように上に積み上げればいいのかなと背伸びをしてみるも、全く届きそうになく、私は紙袋を持った手を彷徨わせてしまう。
「そうじゃない」
ベルナルドさんは荷物を抱えながら少しだけ腰を落とすと、口を開けた。
「今ここで食べさせてくれ」
「え!?」
「お前さんのことだ。どうせ名前を書いていないんだろう。家に着く頃には混ざってどれだかわからない……なんてことになるかもなあ」
「う……」
「ほら、早くしろ」
私は強引なベルナルドさんを拒むことができず、渋々紙袋から小さな袋を取り出した。それから封を開けて手作りのチョコレートを一つ摘むと、ベルナルドさんの口へと放り込んだ。
「むう…………」
「ど、どうですか……?」
ドキドキしながら顔を覗き込むと、キレのあるグッドサインをこちらに向けるベルナルドさん。
「うまいぞ!!」
その言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。
「で、改めて俺に言うことはないのか?」
「へ!?」
ふいを突かれて、固まる私。まさかここで掘り返されるとは思っていなかったのだ。
「い、いや、あの、」
私がしどろもどろになっていると、ベルナルドさんがまた大きな口を開けてわっはっはと笑う。
さっきの言葉といえ、この人はきっと、私の気持ちにとっくに気がついているのだろう。
私は途端に恥ずかしくなり、熱い顔を隠すように俯いた。
「桜木」
「は、はい」
「来年は言えるようにしておけよ。待ってるぞ」
「え!?あ、あの、それって」
「さぁて、帰るぞー桜木!」
「ま、待ってくださいベルナルドさん!」
私はたくさんの荷物をもう一度両手に抱えると、上機嫌なベルナルドさんの大きな背中を追いかける。
期待しても、いいんですか。
少し前を歩くベルナルドさんはもう何でもない顔をして他愛もない話を振ってくるけれど、私は高鳴る鼓動とニヤける顔が邪魔をして、始終上の空だった。
クッションフロアには大きなマットが敷かれ、そこにはたくさんの生徒がベルナルドさんを前に立っている。
そして今日はバレンタイン。もうすぐ今日のトレーニングが終わる時間というのもあって、みんながみんなソワソワしている。
「よーし!今日のトレーニングはこれで終わりだ!よく頑張ったな!お疲れさん!」
その一声で、みんな一斉に荷物を取りに行く。それはすぐに帰りたがっているのではなく、大方バレンタインのチョコレートを取りに行ったのだろう。
私も本命へのチョコレートを隠し持ち、仕事終わりのベルナルドさんへと近づく。私は彼に淡い恋心を抱いているのだ。
この気持ちを、今日こそ彼に伝えたい。
一つ深呼吸をした私は心を決めて一歩踏み出す。けれど、トレーニングが終わるタイミングを見計らっていた他の生徒達がすでにベルナルドさんを囲っていた。みんな可愛く包装された箱や紙袋を高らかに掲げ、私の入る隙間はない。
みんなのお父さんとして高い人気を誇るベルナルドさん。こうなることはわかっていたけれど、実際にその光景を目の当たりにするとどうしても悶々としてしまう。
「おうおう!みんなありがとなぁ!」
ベルナルドさんは通る大きな声でお礼を言いながら、両の手を使って次々と女性陣からのプレゼントを受け取っていく。中にはベルナルドさんに抱きつく女性までいたが、私はその様子を後ろの方から恨めしそうに見ていることしかできなかった。
*
しばらくして人集りが引いていき、ようやくベルナルドさんがこちらに気づいて話しかけてくれる。両手いっぱいに可愛らしい箱や袋を抱えながら。
「お前さんもか?」
「……その中に本命、ありますか」
「ん?あるかもな」
「去年はどうだったんですか?」
「去年はいくつかあったなぁ」
その答えに、ズキリと胸が痛くなる。みんなお父さんみたいだと口を揃えて言うけれど、やっぱりモテるんじゃないか。
私は胸の痛みに耐え切れず、ムスッとした顔で押し黙る。
「なんだ、気になるか」
「……気になります」
「どうしてだ」
ベルナルドさんがこちらを覗き込んでくる。
放っておかれても泣くけれど、深堀りされても困ってしまう。
「そ、それは……」
私はチョコレートが入った紙袋を持つ手を、背の方でギュッと握る。
今が気持ちを伝えるチャンスだと、喉の奥から好きですの四文字を絞り出そうとするけれど、いざとなるとその勇気は引っ込んでしまっていた。
私が視線を彷徨わせながら言いあぐねていると、ベルナルドさんはふっと笑って荷物を抱え直すと、私の頭の上に大きな手のひらをぽすんと置いた。
「お前さんはその先が言えるようになったらだな」
「それって、どういう……」
「ほら、半分持つの手伝え!これもトレーニングだ!」
私にたくさんの箱や紙袋を押し付け、わっはっはと大きな口を開けて笑うベルナルドさん。
なんだかよくわからないけれど、しれっと彼と一緒に帰る権利を手に入れられただけで良しとしよう。
「お、それが桜木が用意してくれたチョコレートか?」
「へ?」
私はベルナルドさんの視線の先を見る。そこには私がずっと隠し持っていた紙袋が。先程彼からたくさんの荷物を受け取った時に、反射的に肘へとぶら下げてしまったのだ。
「あっ!えっと、これは」
「桜木。一度荷物を置け」
「え、あ、はい」
持てと言ったり置けと言ったり、これもトレーニングの一環なのだろうか。
「ああ、お前さんのは俺にくれないか」
「?」
私はよくわからないまま紙袋をベルナルドさんへと差し出すが、空いた片手で受け取ってくれる気配はない。
彼が持つ他のチョコレートと同じように上に積み上げればいいのかなと背伸びをしてみるも、全く届きそうになく、私は紙袋を持った手を彷徨わせてしまう。
「そうじゃない」
ベルナルドさんは荷物を抱えながら少しだけ腰を落とすと、口を開けた。
「今ここで食べさせてくれ」
「え!?」
「お前さんのことだ。どうせ名前を書いていないんだろう。家に着く頃には混ざってどれだかわからない……なんてことになるかもなあ」
「う……」
「ほら、早くしろ」
私は強引なベルナルドさんを拒むことができず、渋々紙袋から小さな袋を取り出した。それから封を開けて手作りのチョコレートを一つ摘むと、ベルナルドさんの口へと放り込んだ。
「むう…………」
「ど、どうですか……?」
ドキドキしながら顔を覗き込むと、キレのあるグッドサインをこちらに向けるベルナルドさん。
「うまいぞ!!」
その言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。
「で、改めて俺に言うことはないのか?」
「へ!?」
ふいを突かれて、固まる私。まさかここで掘り返されるとは思っていなかったのだ。
「い、いや、あの、」
私がしどろもどろになっていると、ベルナルドさんがまた大きな口を開けてわっはっはと笑う。
さっきの言葉といえ、この人はきっと、私の気持ちにとっくに気がついているのだろう。
私は途端に恥ずかしくなり、熱い顔を隠すように俯いた。
「桜木」
「は、はい」
「来年は言えるようにしておけよ。待ってるぞ」
「え!?あ、あの、それって」
「さぁて、帰るぞー桜木!」
「ま、待ってくださいベルナルドさん!」
私はたくさんの荷物をもう一度両手に抱えると、上機嫌なベルナルドさんの大きな背中を追いかける。
期待しても、いいんですか。
少し前を歩くベルナルドさんはもう何でもない顔をして他愛もない話を振ってくるけれど、私は高鳴る鼓動とニヤける顔が邪魔をして、始終上の空だった。
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