サカキ×夢主
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朝七時。ベッドから起き上がると頭が痛み、体がふらつく。熱を測れば38.2度。
今日はサカキさんと会う約束をしていたのに……
私は溜め息を吐き、今日の予定を取り消す為に携帯を手に取る。
四回目のコールで聞こえる彼の声。
「どうした?」
「あの、風邪引いちゃったみたいで……」
「熱はあるのか」
「はい、さっき測ったら38度ありました」
「そうか。君は水分を取って寝ていろ。後で様子を見に行く」
そこで終わる会話。デートは中止になってしまったけれど、わざわざ様子を見に来てくれるという彼の優しさに口元がほころぶ。
サカキさんが来るなら服くらい着替えないと……それにこの寝癖だらけの頭もどうにかしたい。
しかし体がふわふわとして瞼が勝手に落ちていく。
私は体の熱さと眠気に負け、そこで意識が途絶えてしまった。
*
まどろみの中、低音が頭の中に響く。その心地好さにまた深い眠りについてしまいそうになるが、その音がサカキさんの声だと理解した瞬間、バチッと目が覚める。
「ウエサキ、大丈夫か」
少し焦ったような顔をしてこちらを覗き込んで来る彼の顔。
「え、あ、寝ちゃったみたいで……大丈夫です」
「そうか……水分は取ってから寝たのか?」
少し安心したような様子で、水を注いだグラスを手渡してくれるサカキさん。そういえば朝起きてからまだ何も飲んでいない。
私がふるふると首を横に振りながらグラスを受け取ると、寝癖だらけの私の髪を梳くように撫でてくれる。
いつの間に入って来たんだろうと疑問に思うが、彼がこうして勝手に部屋に入ってくるのは珍しい事じゃない。いつだってアジト全ての部屋に通じるマスターキーで簡単に開かれてしまうのだ。
「何か食べられそうか」
「お粥かうどん……」
私はぼんやりとした頭のままそう答える。しかしよくよく考えてみればどちらも既製品というよりは手料理のイメージが強い。これじゃ作れと言っているのと同じじゃないか。
簡単に買えてすぐに食べられるアイスとでも言っておけば良かったなと後悔しながら、私は慌てて取り繕った。
「あっいや!作れって言ってるわけじゃなくて……!」
「それくらいならすぐに作れる。少し待ってろ」
私の言葉は何の意味も成さず、スタスタと歩いて行ってしまうサカキさん。
わざわざ作ってもらうだなんて悪い事をしたなと、私は申し訳なさから口元まで布団に潜り込む。しかしその反面で、部下としてではなく恋人として心配してくれているサカキさんの様子にニヤけてしまうのもまた事実。
そんな淡い気持ちが熱に浮かされ、心身ともにふわふわとする。その心地好さにまた睡魔が姿を現すが、キッチンの方から戻って来るサカキさんの小言に目を覚ます。
「ちゃんと栄養は摂ってるのか?野菜が見当たらなかったが」
「た、たまたま切らしてるだけです」
「体調管理はきちんとしなさい」
私は慌てて誤魔化すけれど、溜め息をつきながら注意をされる。しかしそれはまるで父親が子供を叱る時のような言い方で、思わずきょとんとしてしまう。
いつもと違う雰囲気のサカキさん。それをふと疑問に感じれば、その疑問は言葉になって、自然と口から漏れ出した。
「息子さんにもそんな風に叱っていたんですか?」
「ん?いや、息子は叱らずともあまり好き嫌いせずに食べていたよ」
優しい顔に優しい口調。
そこにいるのはロケット団のボスでも、私の恋人でもなく、父親としてのサカキさんだった。
「ご飯を作ってたのはサカキさん?」
「ああ。息子とは二人暮しだったからな」
「じゃあサカキさんの作るご飯がそれだけおいしかったんですね」
「どうだろうな。まあ、息子は普段から無茶な事はそうしなかった。君と違ってな」
急に振られて、言葉が詰まる。サカキさんにはなんだかんだと迷惑をかけていて、またお小言が始まると思ったのだ。しかし彼はふっと笑うと、私の頭をクシャリと撫でた。
「そろそろ出来た頃だろう。少し待っていなさい」
さっきと同じ、お父さんのような話し方。
私は思わずふふ、と笑ってしまう。
「どうした?」
「サカキさん、やっぱりお父さんみたい」
「お父さん……?」
サカキさんの温かかった視線が途端に鋭くなり、私を射貫いた。
彼の腕が私を囲えば、ギシ、とベッドが軋む音がする。
「さ、かきさん……?」
周囲が彼の影に覆われる。気づけば鼻先が当たりそうなほどの至近距離。当然視線がぶつかるけれど、恥ずかしくて視線を逸らしてしまう。
「おい、目を逸らすな」
低く響くその声に、ビクリと肩を震わせる。無視できないその声にもう一度視線を合わせれば、互いの鼻先が当たり、そのまますれ違う。
「今君の目の前にいるのは君の男だ。君の父親じゃない」
熱い吐息が混ざり、すり……と乾いた唇同士がかする。
「わかるか」
静かに、言い聞かせるように語りかけられる。その間も唇同士が何度もかすり、私の心臓はもう限界だった。
「わか、ります……!」
苦しい胸を抑えながら精一杯の返事。身体が熱くて苦しくて、もっと熱が上がってしまいそうだった。
「ふ、わかればいい」
彼は小さく笑ってその吐息を残し、唇同士は合わさらないままそっと離れていく。その名残惜しさから自分の唇の縁を指でなぞれば、わざとらしく口角を上げる彼。
「続きは風邪を治したらな」
魅惑的な笑み。
いつの間にか面倒見の良いお父さんから悪い大人に戻ってしまったサカキさん。
私は全身の熱を感じながら、キッチンへと戻る彼の背中をぼんやりと見つめた。
今日はサカキさんと会う約束をしていたのに……
私は溜め息を吐き、今日の予定を取り消す為に携帯を手に取る。
四回目のコールで聞こえる彼の声。
「どうした?」
「あの、風邪引いちゃったみたいで……」
「熱はあるのか」
「はい、さっき測ったら38度ありました」
「そうか。君は水分を取って寝ていろ。後で様子を見に行く」
そこで終わる会話。デートは中止になってしまったけれど、わざわざ様子を見に来てくれるという彼の優しさに口元がほころぶ。
サカキさんが来るなら服くらい着替えないと……それにこの寝癖だらけの頭もどうにかしたい。
しかし体がふわふわとして瞼が勝手に落ちていく。
私は体の熱さと眠気に負け、そこで意識が途絶えてしまった。
*
まどろみの中、低音が頭の中に響く。その心地好さにまた深い眠りについてしまいそうになるが、その音がサカキさんの声だと理解した瞬間、バチッと目が覚める。
「ウエサキ、大丈夫か」
少し焦ったような顔をしてこちらを覗き込んで来る彼の顔。
「え、あ、寝ちゃったみたいで……大丈夫です」
「そうか……水分は取ってから寝たのか?」
少し安心したような様子で、水を注いだグラスを手渡してくれるサカキさん。そういえば朝起きてからまだ何も飲んでいない。
私がふるふると首を横に振りながらグラスを受け取ると、寝癖だらけの私の髪を梳くように撫でてくれる。
いつの間に入って来たんだろうと疑問に思うが、彼がこうして勝手に部屋に入ってくるのは珍しい事じゃない。いつだってアジト全ての部屋に通じるマスターキーで簡単に開かれてしまうのだ。
「何か食べられそうか」
「お粥かうどん……」
私はぼんやりとした頭のままそう答える。しかしよくよく考えてみればどちらも既製品というよりは手料理のイメージが強い。これじゃ作れと言っているのと同じじゃないか。
簡単に買えてすぐに食べられるアイスとでも言っておけば良かったなと後悔しながら、私は慌てて取り繕った。
「あっいや!作れって言ってるわけじゃなくて……!」
「それくらいならすぐに作れる。少し待ってろ」
私の言葉は何の意味も成さず、スタスタと歩いて行ってしまうサカキさん。
わざわざ作ってもらうだなんて悪い事をしたなと、私は申し訳なさから口元まで布団に潜り込む。しかしその反面で、部下としてではなく恋人として心配してくれているサカキさんの様子にニヤけてしまうのもまた事実。
そんな淡い気持ちが熱に浮かされ、心身ともにふわふわとする。その心地好さにまた睡魔が姿を現すが、キッチンの方から戻って来るサカキさんの小言に目を覚ます。
「ちゃんと栄養は摂ってるのか?野菜が見当たらなかったが」
「た、たまたま切らしてるだけです」
「体調管理はきちんとしなさい」
私は慌てて誤魔化すけれど、溜め息をつきながら注意をされる。しかしそれはまるで父親が子供を叱る時のような言い方で、思わずきょとんとしてしまう。
いつもと違う雰囲気のサカキさん。それをふと疑問に感じれば、その疑問は言葉になって、自然と口から漏れ出した。
「息子さんにもそんな風に叱っていたんですか?」
「ん?いや、息子は叱らずともあまり好き嫌いせずに食べていたよ」
優しい顔に優しい口調。
そこにいるのはロケット団のボスでも、私の恋人でもなく、父親としてのサカキさんだった。
「ご飯を作ってたのはサカキさん?」
「ああ。息子とは二人暮しだったからな」
「じゃあサカキさんの作るご飯がそれだけおいしかったんですね」
「どうだろうな。まあ、息子は普段から無茶な事はそうしなかった。君と違ってな」
急に振られて、言葉が詰まる。サカキさんにはなんだかんだと迷惑をかけていて、またお小言が始まると思ったのだ。しかし彼はふっと笑うと、私の頭をクシャリと撫でた。
「そろそろ出来た頃だろう。少し待っていなさい」
さっきと同じ、お父さんのような話し方。
私は思わずふふ、と笑ってしまう。
「どうした?」
「サカキさん、やっぱりお父さんみたい」
「お父さん……?」
サカキさんの温かかった視線が途端に鋭くなり、私を射貫いた。
彼の腕が私を囲えば、ギシ、とベッドが軋む音がする。
「さ、かきさん……?」
周囲が彼の影に覆われる。気づけば鼻先が当たりそうなほどの至近距離。当然視線がぶつかるけれど、恥ずかしくて視線を逸らしてしまう。
「おい、目を逸らすな」
低く響くその声に、ビクリと肩を震わせる。無視できないその声にもう一度視線を合わせれば、互いの鼻先が当たり、そのまますれ違う。
「今君の目の前にいるのは君の男だ。君の父親じゃない」
熱い吐息が混ざり、すり……と乾いた唇同士がかする。
「わかるか」
静かに、言い聞かせるように語りかけられる。その間も唇同士が何度もかすり、私の心臓はもう限界だった。
「わか、ります……!」
苦しい胸を抑えながら精一杯の返事。身体が熱くて苦しくて、もっと熱が上がってしまいそうだった。
「ふ、わかればいい」
彼は小さく笑ってその吐息を残し、唇同士は合わさらないままそっと離れていく。その名残惜しさから自分の唇の縁を指でなぞれば、わざとらしく口角を上げる彼。
「続きは風邪を治したらな」
魅惑的な笑み。
いつの間にか面倒見の良いお父さんから悪い大人に戻ってしまったサカキさん。
私は全身の熱を感じながら、キッチンへと戻る彼の背中をぼんやりと見つめた。