「ご機嫌ナナメのようだな、我が姫は」
　からかうようなその言い方に、私はわざとらしく膨らませた頬をさらに膨らませる。
　今日の昼間、依頼が早く終わってアルタミラに足を運んだ時にリーガルが可愛らしい女性と二人で話しているところを見てしまったのだ。
　最初はきっと仕事中なのだろうと思って我慢していたのだけど、途中で連絡先を交換するような動作が見られたこと、そして休憩中だったということがわかってからこの有様だ。
　リーガルにその気がないことはわかっているけど、相手が勘違いしてしまったら嫌だし、何より私も話したかった。
　私は頬を膨らませたまま、ソファの上で膝を抱えて縮こまる。
「何が不満なのか教えてはくれないだろうか」
　子供を宥めるような優しい声に棘ついていた気が少しだけ抜け、ふしゅ、と頬の空気が抜ける。
　ちらりと隣を見ると、困ったような表情をしたリーガルの顔。困らせたいわけじゃない。でも、リーガルにだけはこの子供みたいな部分をどうしても隠していられないのだ。
「……今日、他の女性と、喋ってた……」
「ん？他の女性？」
　リーガルは何のことかと思い出すような仕草をしてから、数秒後。
「ああ、あの時の女性のことか。飼い犬を探していたようでな。夜までに見つからなかったらアイレスに依頼を頼もうと思っていたのだ」
「……へ？あ、そ、そうなんだ……」
　全部自分の勘違いだった。
　私は恥ずかしさから俯いた顔を上げられず、さらに体を縮め丸まった。
「アイレス、まだ不満か？」
　優しく頭を撫でながら顔を覗き込んでくるリーガル私が勝手に勘違いして怒っていたのに、それを責め立てるでもなく、私の不安を取り除いてくれようとするその懐の大きさと優しさに、自分が小さく思えて情けなくなる。
「……ごめん、なさい……」
「どうしてお前が謝る。辛かったのだろう」
　縮こめた身体をぎゅっと抱き締められ、私はやっと安心する。
「……りーが、すき」
「ああ、私も好きだ」
　自分勝手に機嫌を直した私は縮こめた身体をうんと伸ばし、リーガルの身体をぎゅっと抱き締めた。