午後六時。私が手伝いをしているバドさんの鍛冶屋『のらりくらり』が閉店する時間。
「ふぁ……」
　まだ夕方だというのに眠くて眠くて、私は大きなあくびを繰り返し、うとうとしながら椅子の片付けや金庫の確認をする。バドさんは鍛冶に使う道具や完成品を整理する為に部屋を行き来しているが、私は不意にそれを引き留めた。
「ばどさん、こっち」
「ン？」
　不思議そうな顔をするバドさんの手を掴んで軽く引っ張ると、大人しくついてきてくれる。そのままバドさんの手を引いて隣の部屋まで移動すると、窓際にあるベッドまで一気に引き連れ、ひとり寝転んだ。
「ばどさん……」
　こちらを見下ろすバドさんの大きな手のひらを拾い、自分の頬まで持っていく。
「眠いのカ？」
「うん……ねむい……」
　私の眠気をやっと察したバドさんが、優しく頬を撫でてくれる。温かくて心地良い。
「今寝ると変な時間に起きることになるゾ」
「んー……一時間だけ……」
「……腹は減ってないカ？」
「さっき料理中につまみ食いしたから大丈夫デース……」
　私はポコリーヌさんの真似をしながら窓の外をぼんやり眺める。日が暮れた夕飯時。こんなにだらだらしてちゃ良くないし、バドさんはお腹を空かせているかもしれない。
「んーー、よし」
　気合いで眠気をやっつけて嫌々起き上がろうとしたその時、バドさんがベッドに乗り込んできた。
「じゃあ、オレも少しだけ寝ようかナ」
「わ、」
　少しだけ起こした上体をまた倒されて、抱き枕のように抱えられる。
「ばどさん、あったかい……落ち着く……」
　私の呟きが虚空に響く中、返答の代わりに髪を梳くようにゆっくりと撫でられる。
　眠りに誘うようなその手のひらに、抗い難い眠気を感じ、私はその温かさに身を包まれながら眠りに落ちた。