「ナオさん！ただいまかえりましたよ！」
　部屋の扉が勢い良く開かれ、現れるのは目付きの悪い宇宙人。地球人に紛れる為にとストライプの入ったワイシャツに黒いスラックスを着ているけれど、青白い肌に光を反射した紫色の頭は丸出しだ。この地域の人達はもう少し人種を気にした方がいいんじゃないかと心配になるけれど、その宇宙人と一緒に暮らす私にとっては都合が良い。
「おかえりなさい、今日もお疲れ様」
　私は鼻歌を歌うご機嫌な宇宙人、フリーザを出迎える。その不気味に光る赤い瞳が私の姿を捉えれば、私の手を取り甲にキスを落とされる。
　一緒に恋愛映画を見てからはずっとこの調子だ。それがちょっと可愛らしくて、毎回くすりと笑ってしまいそうになる。
「はい、ナオさん。今日の分です」
　そう言って手渡してくれるのは封筒に入ったいくつかの万札。彼がどんな仕事をしているのかを全く知らない私は怖くて素直に喜べないけれど、これも彼の愛情表現の一つだと思えば今日も受け取らざるを得ない。
「何やら不満げですね。まだ足りませんか？」
「う、ううん。そんなことないよ」
「そうですか。足りなければ教えてください。部下達にもう少し頑張らせますから」
　苦い笑顔を作って誤魔化すと、簡単に誤魔化されてくれるフリーザ。部下達は大変そうだし彼を怒らせたら怖そうだなといつも思うけれど、実際に怒られた事は一度もないので身内には甘い人なのかもしれない。
「ポトフですか？美味しそうですね」
　鍋の中を覗いて褒めてくれる彼。食べるのを楽しみにしているのか、大きなしっぽが小さく揺れて可愛らしい。
「あとは煮込むだけだから、一緒にテレビでも見る？」
「おや、良いですね。地球人の作る物語は面白いですから」
　鍋に蓋をしてから声を掛ければ、フリーザは素直にソファに腰をかける。
「ほら、早くこちらにおいでなさい」
　宇宙人だとは思えない彼の様子にくすくすと笑っていると、ソファの背もたれから顔を出す彼に催促されてしまう。
　急いで彼の隣に腰を掛ければ、テレビのリモコンを手に取る前にトントン、と肩をつつかれる。
「少し……甘えてもいいですか？」
　不気味な赤い瞳でそんなに可愛らしくねだられたら敵わない。
　何も言わずに綺麗な紫色の頭を撫でてあげると、少しずつこちらに傾いてくるフリーザ。
　私はポトフが出来るまでの少しの間、不気味で甘えん坊な宇宙人に肩を貸してあげる事にした。