wild police story
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桜花の候…私は憧れだった警察官への一歩を踏み出した。
これは、私がまだ新人警官だった頃の物語。
どちらかというと、規律は重んじる方だ。
先生が右と言えば右を向くし、左と言ったら左を向く。そういう風に生きてきた。つまり…クソ真面目だという事は痛いくらいに自覚している。
厳格な両親に育てられてきたせいか、大人の言うことは絶対だった。
小学校の頃には先生に何でも報告しスパイだと揶揄され、中学高校では不真面目な連中と喧嘩が絶えなかった。
大学では専攻していた犯罪心理学に熱中しすぎるあまり、遊んだ経験はあまりない。
真面目にクソが付くと本当に厄介で、この非常に取り扱いにくい性格のせいか私には…残念な事に友達と呼べる人物がとても少なかった。
でも、憧れの職業に就けるならそれでも良かった。
そして、警察官採用試験に上位の成績で合格し順風満帆な学校生活を…
そう思っていた矢先の出来事だった。
「驚いたな…僕の拳をくらって…立っているやつがいるとは…」
「へっ、そいつはこっちの台詞だぜ…パツキン野郎!!」
(どうしようこの状況…)
警察学校では22:30の消灯以降は基本的に部屋から出てはならない。
消灯後でも1人部屋な為、周りに迷惑をかけることなく勉強ができると教本を開けば、気付くともう日を跨ぐ時間になっていた。
早く寝なければと思ったが、その前にトイレへ行こうと丁度部屋を出た所で、女子達の噂話が耳に入る。
なんでまだ寝ていないんだ、と言いたくなったが自分も人の事を言える立場ではない事を思い口を噤んだ。
そんな時に聞こえてきた話の内容は『男子が2人外へ出ていった』というもの。
しかも、不穏な空気だったらしい。
軽く挨拶すると、そそくさと彼女たちの側を通り過ぎ用を済ませて部屋に戻った。
布団に潜ってから先程の話を思い返す。
(…気になる…。)
それから、何度も眠ろうとしてもなかなか眠れず、気が付けば自室のドアを開け放っていた。
忍び足で建物を抜け、門の側に寄ると、激しい打撃音とともに両者の声が聞こえてきた、というわけだ。
殴り合っているのは自分と同じ鬼塚教場の降谷零と松田陣平だろう。
降谷君は採用試験をトップの成績で合格し、入学式の総代を務めあげた。
褐色肌に金髪といういかにもチャラそうな見た目とは裏腹に、彼もまたクソ真面目な性格だった。
頭髪は地毛らしく、外人のイケメンだと同じ教場の女子が騒いでいた。
確かに彼の容姿は少し日本人離れしており、且つとても整っている。
彼女たちに悪気はないのだが、彼も国籍が日本なのに外人と呼ばれるなんて、気の毒だなと思う。
対する松田は成績こそ良いが初日からの態度を見るに、降谷君と真逆で不真面目な印象を受けた。
私も正直こういう男は嫌いだ。
今の喧嘩でどちらかの肩を持つとするならば、間違いなく降谷君の肩を持つだろう。
なんて事を考えている間にも2人の殴り合いはヒートアップしていく。まずいと思った私は慌てて前へ出る。
「ちょっとストップ!!」
「「!!??」」
私の介入によって降谷君の拳はピタッと止まる。
松田の右ストレートを外へ受け流すと咄嗟に彼の軸足を自身の右足で払う。
身体の支えをなくした松田は見事に前に吹っ飛ぶこととなった。
「おわぁ!?」
(あ、つい足が出てしまった…)
私の突然の登場に降谷君も松田もぽかんと口を開けてその場に立っていた。
何にせよ、とりあえず喧嘩は止められたらしい。
「もう消灯時間!早く部屋に戻れ!!」
「てめぇ千代田!邪魔するんじゃねぇ!」
寮の方向へ指さし声を張り上げると、松田はこちらを睨んで怒鳴る。
「うるさい!この事教官に報告するからね!」
「はぁ?いい子ちゃんかよ!てかお前も夜中に抜け出してっし同罪だからな!」
もうこの男は放っておこうと、背中側にいた降谷君を振り返る。
「降谷君、あんな奴放っておいて戻ろう。」
「あ、ああ…」
「大丈夫?歩ける?」
「ああ、自分で帰れるから、千代田さんは先に戻ってくれ。」
かなり激しい殴り合いだった為か、彼は歩き出そうとしてもその足取りはフラフラと、とてもまともに歩けそうにない。
強がりなのか、頼りたくないだけなのか、そんな発言をする彼に構うこと無く私は続ける。
「おんぶと肩貸すの、どっちがいい?」
「いや、だから歩けるって」
「どっちがいい?」
「……肩を貸してくれ」
「了解。」
有無を言わせぬ私の様子に観念したのか、少し間を空けてからお願いされる。
私が手を差し出すと、遠慮がちに肩に掴まったのでゆっくり立ち上がらせる。
立ち上がった後も、ふらふらしているのでしっかり掴むように促す。
「おい!勝負はまだ終わってねぇぞ!」
「ばーか、松田君もはやく帰りなよ。」
吐き捨てるように言うと、そのまま背を向けて寮の方へと歩き出す。
後ろから松田がまだ何か言っている気がするが無視を決め込むことにした。
「なんで喧嘩してたの?」
道中、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「彼は僕の事が気に入らないみたいなんだ。」
「あー、なるほどね。」
「僕は何もしていないんだけどな……。」
苦笑いしながらそう話す彼の表情はどこか寂しそうに見えた。
「それにしても、あの喧嘩に乱入するなんて、千代田さんは強いんだな。」
「強いって程では無いけど…小さい頃から刑事になりたくて、鍛錬は欠かさなかったからかな?」
「へぇ…」
そんな話をしているうちに、いつの間にか男子の部屋があるフロアまで辿り着いていた。
「ここだよね?」
部屋番号を確認しながら尋ねると、こくりと頷くのを確認して部屋の前まで送り届けることにする。
手当は自分で出来るとの事だったので彼の自室の前で別れることになった。
「じゃあ、私は戻るね。おやすみ。」
「ありがとう。助かったよ。おやすみ。」
最後に笑顔を見せてくれたので、こちらも笑顔で返すと自分の部屋へと戻った。
(なんか疲れた……)
ベッドに潜り込んで目を瞑ると直ぐに睡魔が襲ってきた。
幼い頃に助けて貰った彼のようになる為、そして憧れていた正義の為にこの道を選んだのだ。
しかし、実際に警察官になってみると想像とはすこしかけ離れていた。
女子達は降谷君とか萩原君みたいなイケメンにキャーキャー言うし、差別するやつもいる。
それに、松田みたいな不真面目なやつもいるし…
(まあ、まだ入ったばかりだしこれからよね)
自分に言い聞かせるように心の中で呟くと、そのまま意識を手放したのだった。
