ホウエン地方
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目を開けると海水の中だった。あのままフリードと海に落ちたのだ。
しまった、説得に失敗してしまった…
私たち二人は海の底へと沈んで行く。
酸素不足で意識が朦朧としてくる中、必死に手を動かし、フリードの手を強く掴んだ。
(フリード……!)
しかし、意識を失っているようで反応がない。
息が苦しい……もう、だめかも……
そう思い目を閉じた瞬間、突然体が浮き上がった。
驚いて目を開けると、ヌオーが私とフリードを押し上げるように、上昇していた。
しかし、この荒れた海の中ヌオーだけでは私達を海面へ連れていくことは難しい。
力尽きたように徐々に下へ下がっていってしまう。
このままではヌオーも一緒に力尽きてしまう。
その時、小さな無数の光がこちらへ近づいてきた。
チョンチーの群れだ。
船に匿っていた個体だろうか、チョンチー達は私とフリードの周りに集まると、ヌオーを助けるように私たちを押し上げた。
そのまま海面へ向かって上昇すると、私たちは水面を突き破り、ようやく海上に顔を出すことができた。
酸素を求める様に大きく息を吸い込む。
「はぁ……はぁ……」
助かったんだ……ポケモンたちが助けてくれた…。
すると、私の手を握る感触がした。
隣を見ると、そこには同じように荒い呼吸を繰り返すフリードの姿があった。
よかった……
安心した途端、体から力が抜けていくのを感じた。
もう、限界かもしれない……そう思った時、私の手を握っている手に力が込められるのを感じた。
顔を上げると、そこには私を見つめるフリードの姿があった。
彼はまだ諦めていないようだ。
私もそれに応えるように強く手を握り返し、声を張り上げた。
「チョンチー、ありがとう!でも、まだ私たちに協力してほしい!」
そう伝えるとチョンチー達は快く頷いてくれた。
気が付けばチョンチーだけではない。
ランターンにホエルコ、ドククラゲやサメハダー…たくさんのポケモンが集まっていた。
皆、私たちの味方になってくれるらしい。
「みんな、力を貸して……!」
私がそう言うと、一斉に鳴き声を上げながらカイオーガに向かって動き出した。
「カイオーガ、みんながあなたを助けたいと思っている。」
未だ渦の中心に佇むカイオーガを見据え、私は小さくつぶやいた。
次の瞬間、カイオーガは再び咆哮を上げた。
それはまるで、怒りに身を任せて叫んでいるかのようだった。
そして、その巨体を大きくうねらせると、こちらに突進してくる。
それを合図に、周りのポケモンたちも再び動き始めた。
水しぶきをあげながら泳ぎ、カイオーガに向けて技を放つ。
ホエルコ達はたいあたりでカイオーガの動きを鈍らせ、ドククラゲ達はその触手で捕らえようと試みる。
他のポケモン達もそれぞれ得意な攻撃方法で攻撃を仕掛けていた。
しかし、カイオーガはその攻撃をものともせず、暴れまわる。
巨大なひれを振り回すたびに、激しい波が打ち寄る。
振り落とされないようにヌオーに掴まりながら、カイオーガへ近づいていく。あと少しというところで、カイオーガがこちらへ攻撃を放つ。ハイドロポンプだ。
「ヌオー避けて!」
「躱しきれない・・・!」
ヌオーも必死に躱そうと身体を動かすが、間に合わない。
その瞬間、目の前に大きな影が立ち塞がる。
見上げると、そこにいたのはギャラドスだった。
口から放たれる熱線で、カイオーガの攻撃を打ち消す。
「ギャラドス!」
「進むぞ!」
私たちはさらにカイオーガへと近づく。
あと少しでカイオーガに触れられる所で、続けざまにカイオーガの起こした濁流が私達を襲う。
腕でガードし濁流に備えるが、その前にまた意識が引き込まれる。
その空間には再び私とカイオーガの二人だけとなっていた。
『くどいぞ、人間。』
カイオーガは再び私にそう言い放つ。
「何度でも言う。あなたを助けたい。」
私は真っ直ぐにカイオーガを見つめ返す。
『なぜそこまでする?お前にとって我は何の関係もない存在だ。』
カイオーガの言葉に私は首を横に振る。
「ポケモンは、私の全てだから。」
小さい頃からポケモンが大好きだった。
リザードン、オーダイル、バシャーモ、ドダイトス・・・
頼れるパートナー達と、いくつもの場所を旅して、冒険した。
社会人になって、辛い事があっても家に帰ってポケモンの世界に浸れば、全てを忘れられる。
ポケモンは生活の一部であり、憧れの存在だった。
そして今、私はこの世界を生きている。
バタフリーやヌオー、ワシボンと出逢い、彼らと過ごすうちに
ポケモン達は憧れの存在から少しずつ、少しずつ大切な
かけがえのない存在へと変わっていく。
この世界で生きると決めた以上、私はポケモンと共にありたい。
かけがえのない存在である彼らを守りたい。
頭の中でそう強く念じると、私の周りの空間にバタフリー、ヌオー、ワシボンが現れた。
「みんな……!」
突然現れた3匹に驚嘆してたのも束の間、気付けば辺りいっぱいに先程助けてくれた水タイプのポケモン達が集まっていた。
彼らは私の真上の一点に一斉に水を放つ、するとそれは一つの藍色の玉となって、ゆっくりと私の手元へ降りてくる。
そっと両手で受け止めると、それは温かく優しい光を放っていた。
「カイオーガ、受け取って。」
私はそう言ってカイオーガへその光を手渡した。
光はカイオーガの身体へ吸収されるように消えていく。
カイオーガはしばらく目を閉じていたが、やがてゆっくりと目を開いた。
『暖かい……』
カイオーガが小さく呟くと、空間は海に沈んでいくように静かに消えていった。
それと同時に段々と意識が遠のいていく。
海の中に落ちていくと言うのに、不思議と心地の良い感覚に襲われて私は身を委ねるようにそのまま目を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ユイさんは夏のボーナス、何に使うんですか?」
「え?うーん・・・」
すっかり暗くなった空を眺めながら帰路につくと、隣を歩いていた後輩にそう問いかけられ考え込む。
ボーナスか・・・仕事に追われすぎて気が付かなかったが、そろそろそういう時期か。
旅行や遊びに行く元気はないし、車やアクセサリーにも興味がない。
大抵いつも貯金かゲームだなぁ…とぼんやり考える。
「んー……とりあえず貯蓄かな……」
と答えると、後輩は少し残念そうな顔をする。
「……そうですか……じゃあ、結婚資金ですかね!」
「えっ!?」
突然の話に驚いて思わず聞き返す。
「だって結婚するならお金必要じゃないですか!結婚式とか新婚旅行とか!」
目を輝かせながら話す彼女を見て苦笑する。
「ないない、相手もいないし、予定もないし…」
えー、と彼女は不満そうに声を上げる。
気が付けば駅前の大きな広場に差し掛かっていた。
街頭やビルの大型ディスプレイには色とりどりの飾り付けが施されており、華やかな雰囲気を醸し出している。
「もうすぐ七夕ですねー」
そんな景色を見ながら彼女がぽつりと呟いた。
ああ、夏季賞与も出たしもうそんな季節か。
広場の真ん中には7月7日に向けて、大きな笹が飾られている。
色とりどりの短冊が下げられていて、子供たちが楽しそうに願い事を書いていた。
そういえば小学生の頃はよく友達と一緒に書いたっけなぁ……懐かしい。
ふと足を止めてぼんやりと眺めていると、彼女も隣に並んで一緒に眺める。
「私たちも書きましょうよ!」
そう言うと短冊とペンを持って走って行ってしまった。
やれやれと思いながら後を追うと、既にたくさんの短冊がぶら下げられていた。
さて何を書こうかと思案していると、先に書いて戻ってきた彼女に声をかけられる。
「書けました?私はこれです!!」
そう言いながら見せてくれた短冊を見ると、そこには『彼氏が欲しい!』と書かれていた。
いやまぁ確かに欲しいけども……もうちょっと何かあるだろうに……。
心の中でツッコミを入れつつ、私も自分の願い事を考える。
「・・・・・・!」
考えを巡らせていると、誰かが何かを叫ぶ声が聞こえた。
「………!」
何故だかその声は自分を呼んでいるような気がしたので、慌てて声のした方を振り返る。
しかし振り返っても人込みがそこにあるだけだった。
気のせいだろうか?そう思い、また願い事へと意識を集中させる。
「…ユイ!」
今度ははっきり聞こえたその声に振り返ると同時に、ふわりと浮くような感覚に襲われた。
目の前には大きな海が現れ、それが自分を飲み込もうとしているのが分かった瞬間、意識が途切れたのだった。
ーーー
「…ユイ!!」
「フリー・・・ド・・・」
ゆっくりと目を開けると、そこには心配そうにこちらを見つめるフリードの姿があった。
どうやらあの後気を失ってしまっていたらしい。
周りを見渡すと、ここは浜辺のようだった。
海にはもうカイオーガの姿はなく、いつもの穏やかな海に戻っていた。
フリードは安堵の表情を浮かべると腰が抜けたようにその場に胡座をかいて座り込む。
ゆっくり身体を起こすと、辺りを見回した。ヌオー達も集まってくる。
船に乗っていた船員やケイタさん達も砂浜にたどり着いた様だ。
「ありがとう、ヌオー。助けてくれて。」
ヌオーはニコリと微笑むと、私を抱き締めてくれた。
バタフリーとワシボンも集まってきて、私の肩に乗ってくる。
「みんな、ありがとう。」
「本当に大丈夫か?」
心配そうな表情を浮かべながらフリードは私の顔を覗き込んでくる。
「・・・うん、大丈夫!」
笑顔でそう言うと、彼は安堵の表情を浮かべた。
「…カイオーガは…?」
「目が覚めたらもういなかった・・・海へ帰って行ったのかもしれないな。」
「・・・皆の想いが伝わったんだね。」
私がそう呟くとフリードは黙って頷いてくれた。
「フリードは大丈夫?どこも怪我とかしてない?」
「あぁ、オレも大丈夫だ。」
そう言って笑うと、私に向かって手を差し出してきた。私はその手をしっかり握り立ち上がる。
「海を広げた伝説のポケモン、カイオーガか・・・すげぇ迫力だったな。」
フリードの言葉に同意するように頷く。
「しっかし、お前の度胸はどうなってんだ、カイオーガ相手に怯みもしないなんて。」
「そうかな?これでも結構ビビってたんだよ?」
私がそう言うと、彼は一瞬驚いたような顔をして、すぐに笑い出した。
つられて私も笑ってしまう。
笑い疲れて呼吸を整えると、二人の間を潮風が吹き抜ける。
静かな海には、波の音が優しく響いていた。
しばらくすると、救助船に乗ってモリー達もこの浜辺までたどり着いた。
近海で壊れて無惨な姿で発見された船からはソナーが回収され、船員達も警察へと連れて行かれることとなった。
伝説のポケモンであるカイオーガがこの海で見つかったと知れると、同じ事が起こるかもしれない。
この事は関わった人間以外は他言無用とされた。
もちろん私達も言いふらすつもりなどない。
カイオーガは今も海の深い所で眠っている事だろう。
もう会う事はないだろうけれど、カイオーガとの出逢いを忘れないようにしようと思う。
今回の件を受け、後にケイタさんはソナーにより発生する超音波はポケモンに害がある、として研究論文を発表する。
フリードもポケモン博士として協力したのだが、その論文は大変評価され、法による規制が入る事となったのだった。
しまった、説得に失敗してしまった…
私たち二人は海の底へと沈んで行く。
酸素不足で意識が朦朧としてくる中、必死に手を動かし、フリードの手を強く掴んだ。
(フリード……!)
しかし、意識を失っているようで反応がない。
息が苦しい……もう、だめかも……
そう思い目を閉じた瞬間、突然体が浮き上がった。
驚いて目を開けると、ヌオーが私とフリードを押し上げるように、上昇していた。
しかし、この荒れた海の中ヌオーだけでは私達を海面へ連れていくことは難しい。
力尽きたように徐々に下へ下がっていってしまう。
このままではヌオーも一緒に力尽きてしまう。
その時、小さな無数の光がこちらへ近づいてきた。
チョンチーの群れだ。
船に匿っていた個体だろうか、チョンチー達は私とフリードの周りに集まると、ヌオーを助けるように私たちを押し上げた。
そのまま海面へ向かって上昇すると、私たちは水面を突き破り、ようやく海上に顔を出すことができた。
酸素を求める様に大きく息を吸い込む。
「はぁ……はぁ……」
助かったんだ……ポケモンたちが助けてくれた…。
すると、私の手を握る感触がした。
隣を見ると、そこには同じように荒い呼吸を繰り返すフリードの姿があった。
よかった……
安心した途端、体から力が抜けていくのを感じた。
もう、限界かもしれない……そう思った時、私の手を握っている手に力が込められるのを感じた。
顔を上げると、そこには私を見つめるフリードの姿があった。
彼はまだ諦めていないようだ。
私もそれに応えるように強く手を握り返し、声を張り上げた。
「チョンチー、ありがとう!でも、まだ私たちに協力してほしい!」
そう伝えるとチョンチー達は快く頷いてくれた。
気が付けばチョンチーだけではない。
ランターンにホエルコ、ドククラゲやサメハダー…たくさんのポケモンが集まっていた。
皆、私たちの味方になってくれるらしい。
「みんな、力を貸して……!」
私がそう言うと、一斉に鳴き声を上げながらカイオーガに向かって動き出した。
「カイオーガ、みんながあなたを助けたいと思っている。」
未だ渦の中心に佇むカイオーガを見据え、私は小さくつぶやいた。
次の瞬間、カイオーガは再び咆哮を上げた。
それはまるで、怒りに身を任せて叫んでいるかのようだった。
そして、その巨体を大きくうねらせると、こちらに突進してくる。
それを合図に、周りのポケモンたちも再び動き始めた。
水しぶきをあげながら泳ぎ、カイオーガに向けて技を放つ。
ホエルコ達はたいあたりでカイオーガの動きを鈍らせ、ドククラゲ達はその触手で捕らえようと試みる。
他のポケモン達もそれぞれ得意な攻撃方法で攻撃を仕掛けていた。
しかし、カイオーガはその攻撃をものともせず、暴れまわる。
巨大なひれを振り回すたびに、激しい波が打ち寄る。
振り落とされないようにヌオーに掴まりながら、カイオーガへ近づいていく。あと少しというところで、カイオーガがこちらへ攻撃を放つ。ハイドロポンプだ。
「ヌオー避けて!」
「躱しきれない・・・!」
ヌオーも必死に躱そうと身体を動かすが、間に合わない。
その瞬間、目の前に大きな影が立ち塞がる。
見上げると、そこにいたのはギャラドスだった。
口から放たれる熱線で、カイオーガの攻撃を打ち消す。
「ギャラドス!」
「進むぞ!」
私たちはさらにカイオーガへと近づく。
あと少しでカイオーガに触れられる所で、続けざまにカイオーガの起こした濁流が私達を襲う。
腕でガードし濁流に備えるが、その前にまた意識が引き込まれる。
その空間には再び私とカイオーガの二人だけとなっていた。
『くどいぞ、人間。』
カイオーガは再び私にそう言い放つ。
「何度でも言う。あなたを助けたい。」
私は真っ直ぐにカイオーガを見つめ返す。
『なぜそこまでする?お前にとって我は何の関係もない存在だ。』
カイオーガの言葉に私は首を横に振る。
「ポケモンは、私の全てだから。」
小さい頃からポケモンが大好きだった。
リザードン、オーダイル、バシャーモ、ドダイトス・・・
頼れるパートナー達と、いくつもの場所を旅して、冒険した。
社会人になって、辛い事があっても家に帰ってポケモンの世界に浸れば、全てを忘れられる。
ポケモンは生活の一部であり、憧れの存在だった。
そして今、私はこの世界を生きている。
バタフリーやヌオー、ワシボンと出逢い、彼らと過ごすうちに
ポケモン達は憧れの存在から少しずつ、少しずつ大切な
かけがえのない存在へと変わっていく。
この世界で生きると決めた以上、私はポケモンと共にありたい。
かけがえのない存在である彼らを守りたい。
頭の中でそう強く念じると、私の周りの空間にバタフリー、ヌオー、ワシボンが現れた。
「みんな……!」
突然現れた3匹に驚嘆してたのも束の間、気付けば辺りいっぱいに先程助けてくれた水タイプのポケモン達が集まっていた。
彼らは私の真上の一点に一斉に水を放つ、するとそれは一つの藍色の玉となって、ゆっくりと私の手元へ降りてくる。
そっと両手で受け止めると、それは温かく優しい光を放っていた。
「カイオーガ、受け取って。」
私はそう言ってカイオーガへその光を手渡した。
光はカイオーガの身体へ吸収されるように消えていく。
カイオーガはしばらく目を閉じていたが、やがてゆっくりと目を開いた。
『暖かい……』
カイオーガが小さく呟くと、空間は海に沈んでいくように静かに消えていった。
それと同時に段々と意識が遠のいていく。
海の中に落ちていくと言うのに、不思議と心地の良い感覚に襲われて私は身を委ねるようにそのまま目を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ユイさんは夏のボーナス、何に使うんですか?」
「え?うーん・・・」
すっかり暗くなった空を眺めながら帰路につくと、隣を歩いていた後輩にそう問いかけられ考え込む。
ボーナスか・・・仕事に追われすぎて気が付かなかったが、そろそろそういう時期か。
旅行や遊びに行く元気はないし、車やアクセサリーにも興味がない。
大抵いつも貯金かゲームだなぁ…とぼんやり考える。
「んー……とりあえず貯蓄かな……」
と答えると、後輩は少し残念そうな顔をする。
「……そうですか……じゃあ、結婚資金ですかね!」
「えっ!?」
突然の話に驚いて思わず聞き返す。
「だって結婚するならお金必要じゃないですか!結婚式とか新婚旅行とか!」
目を輝かせながら話す彼女を見て苦笑する。
「ないない、相手もいないし、予定もないし…」
えー、と彼女は不満そうに声を上げる。
気が付けば駅前の大きな広場に差し掛かっていた。
街頭やビルの大型ディスプレイには色とりどりの飾り付けが施されており、華やかな雰囲気を醸し出している。
「もうすぐ七夕ですねー」
そんな景色を見ながら彼女がぽつりと呟いた。
ああ、夏季賞与も出たしもうそんな季節か。
広場の真ん中には7月7日に向けて、大きな笹が飾られている。
色とりどりの短冊が下げられていて、子供たちが楽しそうに願い事を書いていた。
そういえば小学生の頃はよく友達と一緒に書いたっけなぁ……懐かしい。
ふと足を止めてぼんやりと眺めていると、彼女も隣に並んで一緒に眺める。
「私たちも書きましょうよ!」
そう言うと短冊とペンを持って走って行ってしまった。
やれやれと思いながら後を追うと、既にたくさんの短冊がぶら下げられていた。
さて何を書こうかと思案していると、先に書いて戻ってきた彼女に声をかけられる。
「書けました?私はこれです!!」
そう言いながら見せてくれた短冊を見ると、そこには『彼氏が欲しい!』と書かれていた。
いやまぁ確かに欲しいけども……もうちょっと何かあるだろうに……。
心の中でツッコミを入れつつ、私も自分の願い事を考える。
「・・・・・・!」
考えを巡らせていると、誰かが何かを叫ぶ声が聞こえた。
「………!」
何故だかその声は自分を呼んでいるような気がしたので、慌てて声のした方を振り返る。
しかし振り返っても人込みがそこにあるだけだった。
気のせいだろうか?そう思い、また願い事へと意識を集中させる。
「…ユイ!」
今度ははっきり聞こえたその声に振り返ると同時に、ふわりと浮くような感覚に襲われた。
目の前には大きな海が現れ、それが自分を飲み込もうとしているのが分かった瞬間、意識が途切れたのだった。
ーーー
「…ユイ!!」
「フリー・・・ド・・・」
ゆっくりと目を開けると、そこには心配そうにこちらを見つめるフリードの姿があった。
どうやらあの後気を失ってしまっていたらしい。
周りを見渡すと、ここは浜辺のようだった。
海にはもうカイオーガの姿はなく、いつもの穏やかな海に戻っていた。
フリードは安堵の表情を浮かべると腰が抜けたようにその場に胡座をかいて座り込む。
ゆっくり身体を起こすと、辺りを見回した。ヌオー達も集まってくる。
船に乗っていた船員やケイタさん達も砂浜にたどり着いた様だ。
「ありがとう、ヌオー。助けてくれて。」
ヌオーはニコリと微笑むと、私を抱き締めてくれた。
バタフリーとワシボンも集まってきて、私の肩に乗ってくる。
「みんな、ありがとう。」
「本当に大丈夫か?」
心配そうな表情を浮かべながらフリードは私の顔を覗き込んでくる。
「・・・うん、大丈夫!」
笑顔でそう言うと、彼は安堵の表情を浮かべた。
「…カイオーガは…?」
「目が覚めたらもういなかった・・・海へ帰って行ったのかもしれないな。」
「・・・皆の想いが伝わったんだね。」
私がそう呟くとフリードは黙って頷いてくれた。
「フリードは大丈夫?どこも怪我とかしてない?」
「あぁ、オレも大丈夫だ。」
そう言って笑うと、私に向かって手を差し出してきた。私はその手をしっかり握り立ち上がる。
「海を広げた伝説のポケモン、カイオーガか・・・すげぇ迫力だったな。」
フリードの言葉に同意するように頷く。
「しっかし、お前の度胸はどうなってんだ、カイオーガ相手に怯みもしないなんて。」
「そうかな?これでも結構ビビってたんだよ?」
私がそう言うと、彼は一瞬驚いたような顔をして、すぐに笑い出した。
つられて私も笑ってしまう。
笑い疲れて呼吸を整えると、二人の間を潮風が吹き抜ける。
静かな海には、波の音が優しく響いていた。
しばらくすると、救助船に乗ってモリー達もこの浜辺までたどり着いた。
近海で壊れて無惨な姿で発見された船からはソナーが回収され、船員達も警察へと連れて行かれることとなった。
伝説のポケモンであるカイオーガがこの海で見つかったと知れると、同じ事が起こるかもしれない。
この事は関わった人間以外は他言無用とされた。
もちろん私達も言いふらすつもりなどない。
カイオーガは今も海の深い所で眠っている事だろう。
もう会う事はないだろうけれど、カイオーガとの出逢いを忘れないようにしようと思う。
今回の件を受け、後にケイタさんはソナーにより発生する超音波はポケモンに害がある、として研究論文を発表する。
フリードもポケモン博士として協力したのだが、その論文は大変評価され、法による規制が入る事となったのだった。