ホウエン地方
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敵は思ったより弱く、私達が数では劣勢だったがあっさりと打ち勝った。
船員達は機械を停止させ、その場にへたり込んで動かない。
「貴方たちが発生させている超音波で海のポケモンが苦しんでいるんですよ!」
ケイタさんがそう言って前に出ると、船員達は怯んだ様子を見せる。
「何が目的でそんなことを・・・!」
フリードが怒りながら聞くと、一人の男が口を開いた。
「お、俺達はただ、頼まれただけだ・・・」
その男は震えながら話を始めた。
「ある筋からの頼みで、伝説のポケモンを探すよう言われて・・・」
私とフリードは顔を見合わせる。
「伝説のポケモンだと?」
その時、彼らが大事そうに抱えていた荷物が腕からこぼれ落ち、袋の中から玉のような物がコロコロと地面に転がった。
その玉は藍色に輝いている。
玉はそのまま私の足元へ転がってきたので、思わず拾い上げる。
「これって…!」
「ユイ、知っているのか?」
私はその玉を見て驚愕する。それは私がよく知っているものだったからだ。
「あいいろのたま、ですよね・・・。」
あいいろのたま、と言うアイテムは
そして、それを持っているということは彼らは・・・
「カイオーガを探していたんですね・・・だからソナーを使っていた・・・」
私の言葉に船員達は俯いた。どうやら図星のようだ。
「ユイ、その玉がカイオーガに関係しているのか?」
フリードの言葉に私は冷や汗を流しながら頷く。
「あいいろのたまはカイオーガの力を抑える役目がある・・・はず。」
「それを使ってこいつらは伝説のポケモン、カイオーガを捕まえようとしたってことか。」
私の説明を聞いて、フリードは納得したように呟いた。
「そ、その通りだ!でも俺達だってこんなことやりたくなかったんだ!!」
船員の一人がそう叫んだ。
すると他の船員達も口々に叫ぶ。
「そうだ!俺達は騙されたんだ!」
「あいつらのせいで俺たちはこんな目に遭わされてるんだ!」
彼らの目は恐怖に支配されているようだった。
その様子を見て、フリードは顔をしかめる。
「どういうことだ?詳しく話せ。」
フリードがそう言うと、一人の船員が口を開く。
「俺達は確かに依頼を受けてカイオーガを探していた・・・。だけどこの機械がポケモンに悪影響を与えるなんて知らなくて・・・。」
「じゃあなんで影響が出ていると気付いても続けたんですか!?」
私は思わず叫んでしまう。
「最初は断ろうと思ったんだが、報酬が良かったし・・・」
「金のためにポケモン達を苦しめたのか?」
船員達が口々に話す言い訳に思わず耳を塞ぎたくなる。
「・・・貴方達、それでもトレーナーですか?」
私がそう呟くと、私は再度ヌオーの入ったボールを握りしめるが、フリードは私を制止した。
「待て、ユイ。気持ちはわかるが今はコイツらから詳しい話を聞くべきだ。」
そう言われてハッと我に帰る。
「ごめん、つい・・・」
私が謝ると、フリードは気にするなというように首を振った。
そして船員達に向き直り、質問を続ける。
「それで、お前達は誰に頼まれてこんなことをしたんだ?」
「そ、それは・・・」
すると突然、船の揺れが激しくなった。まるで船の底に巨大な何かがぶつかったような衝撃だ。
「なんだ!?」
私達は慌てて甲板へ出ると周囲を見回す。
フリードは警戒しながら身構えた。
その時、海の底から大きな影が浮かび上がってきた。
「あれは・・・?」
そこには、巨大な魚のような形をしたポケモンがいた。
全長5メートルはあるだろうか。その姿はまさしく・・・
「カ、カイオーガ・・・」
私は唖然として呟く。
カイオーガが大きな咆哮を上げると、周囲の空気がビリビリと震え、たちまち空からは大雨が降ってきた。
波がだんだんと高くなり、船を大きく揺らす。
「このままでは危険だ!脱出するぞ!」
フリードは叫び、私の手を掴むと調査船へと飛び乗った。
この場から離れようと全速力で船を動かすが、カイオーガは逃さないとばかりに攻撃を仕掛けてくる。
激しい水流が襲いかかり、船は転覆寸前だった。
「くそっ・・・このままだと沈んでしまう・・・どうすれば・・・」
焦る私達をよそに、カイオーガは更に攻撃を仕掛けてきた。
今度は海面が大きく盛り上がり、津波となって襲ってくる。
「まずいっ!!飲み込まれる!!」
誰かがそう叫んだ瞬間、私は手を掴んで引き寄せられる。
フリードに抱きしめられたのだ。しっかりと私もフリードの手を握り返す。
私達はそのまま海中へと引きずり込まれたのだった。
………
冷たい海水が全身に染み渡り、息が苦しくなる。
もう駄目かと思ったその時、不思議な感覚が私を襲った。
あれ?なんだか暖かい・・・。
それはとても心地の良い感覚で、不思議と恐怖心は感じなかった。むしろ安心感すら覚えるほどだ。
ゆっくりと目を開けると、そこは海の中なのだが、私達の周りにだけ空気の膜のようなものがある。
息をする事も出来るし、服も身体も濡れていない。これは一体・・・
「どう言う状況だ・・・?」
フリードが困惑した様子で呟く。どうやら彼も状況が掴めていないようだ。
そんな時、目の前にあいいろのたまが現れたかと思うと、それが徐々に形を変えていくのが見えた。
「・・・アルセウス。」
私の呟きを聞いたフリードは驚いて目を見開く。
「アルセウスだと!?」
藍色の輝きはやがて姿を変え、小さなポケモンの姿になった。
「ユイ また会いましたね」
「どうしてここに…」
私の問いかけにアルセウスは答える。
「カイオーガは 怒り 悲しんでいます このままでは 世界を 全て海に 沈めてしまうでしょう」
「そんな…」
それを聞いて私は言葉を失う。カイオーガを止める方法はないのだろうか……
「どうやったらカイオーガを止められる?」
フリードが訊ねるとアルセウスはこう答えた。
「ユイ フリード あなた達の 力が必要です」
「俺とユイが?」
2人は顔を見合わせて困惑する。
「ユイ あなたは 私に認められた存在です」
「やっぱり、この不思議な力は貴方が私にくれた物だったんだね。」
私がそう問いかけると、アルセウスは小さく頷く。
「どういう事だ。」
事情を知らないフリードが訊ねたので、アルセウスが出てきた以上、話をせざるを得ない。
「ユイは ポケモンの 強い 負の感情を 感じ取る事が 出来るのです」
「…そうなのか、ユイ。」
「黙っててごめん。プテラの時もヤミラミの時も負の感情が伝わってきていたからこそ、行動出来た。」
私は正直に打ち明けた。
「なるほどな・・・。」
話を聞いたフリードは少し考え込んでいた様子だったが、すぐに顔を上げると言った。
「それで、俺達はどうしたらいい?」
「ユイ 貴方なら カイオーガの 負の感情を読み取り 対話が出来るはずです」
「私が、カイオーガと対話を…?」
「そうです あなたなら出来ます ・・・ そして フリード 貴方はユイを カイオーガの 元へ 連れて行くのです」
「まて、ユイに危険はないのか。」
「いざという時は 私が護ります ・・・ 大丈夫 貴方と リザードンなら 出来ますよ」
「神様には何でもお見通しって訳か…」
フリードはやれやれと首を振った。
「ユイ これを」
そう言ってアルセウスはより一層青く輝くとまた球体へと戻って行った。そしてその光は私の手の中に収まる。
「幸運を 祈ります」
「ありがとう、アルセウス。」
フリードはボールからリザードンを出すと、背中に跨がる。
私達は不思議な膜に包まれたまま上昇し、海中から脱出した。
膜がなくなった事で自由に動けるようになった私達は、リザードンに乗って天高く飛び上がった。
眼下に広がる海の中には巨大なカイオーガの姿が見える。
「行こう、フリード、リザードン!」
「任せとけ!」
私とフリードを乗せたリザードンは真っ直ぐにカイオーガの元へと突き進む。すると突然、カイオーガの周りに巨大な渦潮が発生したかと思うと、私達目掛けて襲いかかってきた!
「くっ……!リザードン!」
咄嗟に急旋回し渦から回避する。
間一髪で避けることが出来たものの、あのまま進んでいたら間違いなく飲み込まれていただろう。
「慎重に行くぞ!」
「うん!」
私達はカイオーガの渦潮を避けつつ、徐々に距離を詰めていく。
カイオーガに近づくにつれて、頭がキリキリと痛み始める。
「うっ…」
「ユイ!!」
それはとても強い感情で、まるで心に直接訴えかけられているようだった。
「大丈夫…もっとカイオーガに近付いて…!」
更に意識を集中すると頭痛は強くなり、頭の中に様々なイメージが流れ込んでくるような感覚に襲われた。
これは……!?
深い深い海の中、カイオーガは眠っていた。その巨体は動く事なく、ただ静かに佇んでいるだけだ。
暫く観察していると、カイオーガの影から一匹のポケモンが顔を出す。
また一匹、また一匹と次々に現れてくる様子はまるでイソギンチャクのようだと思った。
神話ではカイオーガはグラードンとの長きにわたる死闘の末、海溝の底で眠りについたと言われている。
古代人の創作という意見もあるようだが・・・
しかし、事実カイオーガは海の底で深い眠りについていて、海で暮らすポケモンは眠ったままのカイオーガと共存しているのだ。
「そんな平和な海に人間が超音波を発生させたせいで、カイオーガは怒り、暴れ始めたんだ。」
そう呟いて拳を握りしめる。
「なんとかして、あのカイオーガを鎮めないと・・・」
その時、海が一瞬にして強く揺れたのが分かった。キイィイと耳障りな音が響き始める。
ソナーはこのタイミングで投入されたのだ。
周りにいたポケモンは皆混乱してしまい、一斉に騒ぎ出す。
海上に逃げるポケモンもいたり、パニックになり周囲に技を放つポケモン、進行方向が分からなくなりぶつかり合うポケモンもいて、思わず目を背けてしまう。
「超音波が海のポケモン達をこんなに苦しめていたなんて・・・!」
私は愕然と下を向く。そんな私の頭上に大きな影がかかる。
見上げるとそこには目覚めたカイオーガの姿があった。
真上で咆哮を上げるカイオーガに思わず耳を塞ぐ。
やはり、ソナーはカイオーガにも影響を及ぼしていた。カイオーガもまた、混乱状態にあるのかもしれない。
ソナーを止めた今、しなければならない事はひとつ。
大きく深呼吸をして、ふっと意識を回復させる。
「・・・ユイ!」
次に目を開けると、リザードンの背中に戻っていた。
「フリード!」
どうやら一瞬意識を飛ばしていたらしい。
フリードの心配そうな視線が痛いほど伝わってくるが、それを振り切るかのように声を絞り出した。
「もっと・・・もっとカイオーガの側に!」
「何を」「大丈夫!」
そう答えるとフリードは遂に押し黙ってしまう。
そんな彼をよそに私は続けた。
「大丈夫だよ。アルセウスが護ってくれる。」
「・・・。」
「それに、フリードも守ってくれるんだよね。」
「・・・!」
「だから私は大丈夫。」
そう微笑むと、彼は諦めたように溜め息をついた。
「どうなっても知らないからな。」
「うん、分かってるよ。」
フリードは呆れたように笑うと、リザードンはスピードを上げた。
カイオーガの近くまで来ると、カイオーガは再び海流を発生させる。
「ユイ、しっかり掴まってろ!」
「うん!」
カイオーガの攻撃をかわすため、リザードンは上空へ急上昇する。
カイオーガの真上に辿り着くと、今度は渦の中に向かって急降下する。
「いくぞ、ユイ!」
「うん!!」
フリードはリザードンをボールへ戻すと、私と共にカイオーガのもとへ落ちていく。
私達の手はしっかりと繋がれており、落下しているというのに不思議と恐怖心は感じない。
高度が下がるにつれ、繋いだ手は更に固く結ばれる。
そして私達はそのままカイオーガの元へたどり着く。
カイオーガへ急接近したその瞬間。
辺りが眩く光り、辺り一面が真っ白になった。
フリードはおらず私一人がこの空間に取り残されてしまったようだ。
しかし、手のひらは温かく、彼が手を繋いでくれているということがわかる。
目の前には巨大なカイオーガがいる。
「カイオーガ・・・」
私が呟くと、カイオーガはゆっくりと目を開ける。
『なぜ弱いはずの人間が私に立ち向かう』
「戦いたいわけじゃない。」
『ならば何故私たちを傷つける』
「確かに、私たち人間は海のポケモンやあなたを傷つけてしまった。だけど、傷つける人間がいるのと反対に、ポケモンを助けたい人間もいるという事をわかって欲しい。」
『そのような詭弁を信じると思うか?』
カイオーガは静かに目を閉じる。すると海面が激しく揺れ始め、波が荒れ狂い始めた。
波は私をいとも簡単に飲み込んでゆく。
「信じて貰えなくても構わない!でも私は貴方を助けてみせる!」
波に飲まれながらも私はカイオーガに届くよう精一杯声を張り上げた。
波に吸い込まれる私の意識は手を引かれるように遠のいていく。
船員達は機械を停止させ、その場にへたり込んで動かない。
「貴方たちが発生させている超音波で海のポケモンが苦しんでいるんですよ!」
ケイタさんがそう言って前に出ると、船員達は怯んだ様子を見せる。
「何が目的でそんなことを・・・!」
フリードが怒りながら聞くと、一人の男が口を開いた。
「お、俺達はただ、頼まれただけだ・・・」
その男は震えながら話を始めた。
「ある筋からの頼みで、伝説のポケモンを探すよう言われて・・・」
私とフリードは顔を見合わせる。
「伝説のポケモンだと?」
その時、彼らが大事そうに抱えていた荷物が腕からこぼれ落ち、袋の中から玉のような物がコロコロと地面に転がった。
その玉は藍色に輝いている。
玉はそのまま私の足元へ転がってきたので、思わず拾い上げる。
「これって…!」
「ユイ、知っているのか?」
私はその玉を見て驚愕する。それは私がよく知っているものだったからだ。
「あいいろのたま、ですよね・・・。」
あいいろのたま、と言うアイテムは
そして、それを持っているということは彼らは・・・
「カイオーガを探していたんですね・・・だからソナーを使っていた・・・」
私の言葉に船員達は俯いた。どうやら図星のようだ。
「ユイ、その玉がカイオーガに関係しているのか?」
フリードの言葉に私は冷や汗を流しながら頷く。
「あいいろのたまはカイオーガの力を抑える役目がある・・・はず。」
「それを使ってこいつらは伝説のポケモン、カイオーガを捕まえようとしたってことか。」
私の説明を聞いて、フリードは納得したように呟いた。
「そ、その通りだ!でも俺達だってこんなことやりたくなかったんだ!!」
船員の一人がそう叫んだ。
すると他の船員達も口々に叫ぶ。
「そうだ!俺達は騙されたんだ!」
「あいつらのせいで俺たちはこんな目に遭わされてるんだ!」
彼らの目は恐怖に支配されているようだった。
その様子を見て、フリードは顔をしかめる。
「どういうことだ?詳しく話せ。」
フリードがそう言うと、一人の船員が口を開く。
「俺達は確かに依頼を受けてカイオーガを探していた・・・。だけどこの機械がポケモンに悪影響を与えるなんて知らなくて・・・。」
「じゃあなんで影響が出ていると気付いても続けたんですか!?」
私は思わず叫んでしまう。
「最初は断ろうと思ったんだが、報酬が良かったし・・・」
「金のためにポケモン達を苦しめたのか?」
船員達が口々に話す言い訳に思わず耳を塞ぎたくなる。
「・・・貴方達、それでもトレーナーですか?」
私がそう呟くと、私は再度ヌオーの入ったボールを握りしめるが、フリードは私を制止した。
「待て、ユイ。気持ちはわかるが今はコイツらから詳しい話を聞くべきだ。」
そう言われてハッと我に帰る。
「ごめん、つい・・・」
私が謝ると、フリードは気にするなというように首を振った。
そして船員達に向き直り、質問を続ける。
「それで、お前達は誰に頼まれてこんなことをしたんだ?」
「そ、それは・・・」
すると突然、船の揺れが激しくなった。まるで船の底に巨大な何かがぶつかったような衝撃だ。
「なんだ!?」
私達は慌てて甲板へ出ると周囲を見回す。
フリードは警戒しながら身構えた。
その時、海の底から大きな影が浮かび上がってきた。
「あれは・・・?」
そこには、巨大な魚のような形をしたポケモンがいた。
全長5メートルはあるだろうか。その姿はまさしく・・・
「カ、カイオーガ・・・」
私は唖然として呟く。
カイオーガが大きな咆哮を上げると、周囲の空気がビリビリと震え、たちまち空からは大雨が降ってきた。
波がだんだんと高くなり、船を大きく揺らす。
「このままでは危険だ!脱出するぞ!」
フリードは叫び、私の手を掴むと調査船へと飛び乗った。
この場から離れようと全速力で船を動かすが、カイオーガは逃さないとばかりに攻撃を仕掛けてくる。
激しい水流が襲いかかり、船は転覆寸前だった。
「くそっ・・・このままだと沈んでしまう・・・どうすれば・・・」
焦る私達をよそに、カイオーガは更に攻撃を仕掛けてきた。
今度は海面が大きく盛り上がり、津波となって襲ってくる。
「まずいっ!!飲み込まれる!!」
誰かがそう叫んだ瞬間、私は手を掴んで引き寄せられる。
フリードに抱きしめられたのだ。しっかりと私もフリードの手を握り返す。
私達はそのまま海中へと引きずり込まれたのだった。
………
冷たい海水が全身に染み渡り、息が苦しくなる。
もう駄目かと思ったその時、不思議な感覚が私を襲った。
あれ?なんだか暖かい・・・。
それはとても心地の良い感覚で、不思議と恐怖心は感じなかった。むしろ安心感すら覚えるほどだ。
ゆっくりと目を開けると、そこは海の中なのだが、私達の周りにだけ空気の膜のようなものがある。
息をする事も出来るし、服も身体も濡れていない。これは一体・・・
「どう言う状況だ・・・?」
フリードが困惑した様子で呟く。どうやら彼も状況が掴めていないようだ。
そんな時、目の前にあいいろのたまが現れたかと思うと、それが徐々に形を変えていくのが見えた。
「・・・アルセウス。」
私の呟きを聞いたフリードは驚いて目を見開く。
「アルセウスだと!?」
藍色の輝きはやがて姿を変え、小さなポケモンの姿になった。
「ユイ また会いましたね」
「どうしてここに…」
私の問いかけにアルセウスは答える。
「カイオーガは 怒り 悲しんでいます このままでは 世界を 全て海に 沈めてしまうでしょう」
「そんな…」
それを聞いて私は言葉を失う。カイオーガを止める方法はないのだろうか……
「どうやったらカイオーガを止められる?」
フリードが訊ねるとアルセウスはこう答えた。
「ユイ フリード あなた達の 力が必要です」
「俺とユイが?」
2人は顔を見合わせて困惑する。
「ユイ あなたは 私に認められた存在です」
「やっぱり、この不思議な力は貴方が私にくれた物だったんだね。」
私がそう問いかけると、アルセウスは小さく頷く。
「どういう事だ。」
事情を知らないフリードが訊ねたので、アルセウスが出てきた以上、話をせざるを得ない。
「ユイは ポケモンの 強い 負の感情を 感じ取る事が 出来るのです」
「…そうなのか、ユイ。」
「黙っててごめん。プテラの時もヤミラミの時も負の感情が伝わってきていたからこそ、行動出来た。」
私は正直に打ち明けた。
「なるほどな・・・。」
話を聞いたフリードは少し考え込んでいた様子だったが、すぐに顔を上げると言った。
「それで、俺達はどうしたらいい?」
「ユイ 貴方なら カイオーガの 負の感情を読み取り 対話が出来るはずです」
「私が、カイオーガと対話を…?」
「そうです あなたなら出来ます ・・・ そして フリード 貴方はユイを カイオーガの 元へ 連れて行くのです」
「まて、ユイに危険はないのか。」
「いざという時は 私が護ります ・・・ 大丈夫 貴方と リザードンなら 出来ますよ」
「神様には何でもお見通しって訳か…」
フリードはやれやれと首を振った。
「ユイ これを」
そう言ってアルセウスはより一層青く輝くとまた球体へと戻って行った。そしてその光は私の手の中に収まる。
「幸運を 祈ります」
「ありがとう、アルセウス。」
フリードはボールからリザードンを出すと、背中に跨がる。
私達は不思議な膜に包まれたまま上昇し、海中から脱出した。
膜がなくなった事で自由に動けるようになった私達は、リザードンに乗って天高く飛び上がった。
眼下に広がる海の中には巨大なカイオーガの姿が見える。
「行こう、フリード、リザードン!」
「任せとけ!」
私とフリードを乗せたリザードンは真っ直ぐにカイオーガの元へと突き進む。すると突然、カイオーガの周りに巨大な渦潮が発生したかと思うと、私達目掛けて襲いかかってきた!
「くっ……!リザードン!」
咄嗟に急旋回し渦から回避する。
間一髪で避けることが出来たものの、あのまま進んでいたら間違いなく飲み込まれていただろう。
「慎重に行くぞ!」
「うん!」
私達はカイオーガの渦潮を避けつつ、徐々に距離を詰めていく。
カイオーガに近づくにつれて、頭がキリキリと痛み始める。
「うっ…」
「ユイ!!」
それはとても強い感情で、まるで心に直接訴えかけられているようだった。
「大丈夫…もっとカイオーガに近付いて…!」
更に意識を集中すると頭痛は強くなり、頭の中に様々なイメージが流れ込んでくるような感覚に襲われた。
これは……!?
深い深い海の中、カイオーガは眠っていた。その巨体は動く事なく、ただ静かに佇んでいるだけだ。
暫く観察していると、カイオーガの影から一匹のポケモンが顔を出す。
また一匹、また一匹と次々に現れてくる様子はまるでイソギンチャクのようだと思った。
神話ではカイオーガはグラードンとの長きにわたる死闘の末、海溝の底で眠りについたと言われている。
古代人の創作という意見もあるようだが・・・
しかし、事実カイオーガは海の底で深い眠りについていて、海で暮らすポケモンは眠ったままのカイオーガと共存しているのだ。
「そんな平和な海に人間が超音波を発生させたせいで、カイオーガは怒り、暴れ始めたんだ。」
そう呟いて拳を握りしめる。
「なんとかして、あのカイオーガを鎮めないと・・・」
その時、海が一瞬にして強く揺れたのが分かった。キイィイと耳障りな音が響き始める。
ソナーはこのタイミングで投入されたのだ。
周りにいたポケモンは皆混乱してしまい、一斉に騒ぎ出す。
海上に逃げるポケモンもいたり、パニックになり周囲に技を放つポケモン、進行方向が分からなくなりぶつかり合うポケモンもいて、思わず目を背けてしまう。
「超音波が海のポケモン達をこんなに苦しめていたなんて・・・!」
私は愕然と下を向く。そんな私の頭上に大きな影がかかる。
見上げるとそこには目覚めたカイオーガの姿があった。
真上で咆哮を上げるカイオーガに思わず耳を塞ぐ。
やはり、ソナーはカイオーガにも影響を及ぼしていた。カイオーガもまた、混乱状態にあるのかもしれない。
ソナーを止めた今、しなければならない事はひとつ。
大きく深呼吸をして、ふっと意識を回復させる。
「・・・ユイ!」
次に目を開けると、リザードンの背中に戻っていた。
「フリード!」
どうやら一瞬意識を飛ばしていたらしい。
フリードの心配そうな視線が痛いほど伝わってくるが、それを振り切るかのように声を絞り出した。
「もっと・・・もっとカイオーガの側に!」
「何を」「大丈夫!」
そう答えるとフリードは遂に押し黙ってしまう。
そんな彼をよそに私は続けた。
「大丈夫だよ。アルセウスが護ってくれる。」
「・・・。」
「それに、フリードも守ってくれるんだよね。」
「・・・!」
「だから私は大丈夫。」
そう微笑むと、彼は諦めたように溜め息をついた。
「どうなっても知らないからな。」
「うん、分かってるよ。」
フリードは呆れたように笑うと、リザードンはスピードを上げた。
カイオーガの近くまで来ると、カイオーガは再び海流を発生させる。
「ユイ、しっかり掴まってろ!」
「うん!」
カイオーガの攻撃をかわすため、リザードンは上空へ急上昇する。
カイオーガの真上に辿り着くと、今度は渦の中に向かって急降下する。
「いくぞ、ユイ!」
「うん!!」
フリードはリザードンをボールへ戻すと、私と共にカイオーガのもとへ落ちていく。
私達の手はしっかりと繋がれており、落下しているというのに不思議と恐怖心は感じない。
高度が下がるにつれ、繋いだ手は更に固く結ばれる。
そして私達はそのままカイオーガの元へたどり着く。
カイオーガへ急接近したその瞬間。
辺りが眩く光り、辺り一面が真っ白になった。
フリードはおらず私一人がこの空間に取り残されてしまったようだ。
しかし、手のひらは温かく、彼が手を繋いでくれているということがわかる。
目の前には巨大なカイオーガがいる。
「カイオーガ・・・」
私が呟くと、カイオーガはゆっくりと目を開ける。
『なぜ弱いはずの人間が私に立ち向かう』
「戦いたいわけじゃない。」
『ならば何故私たちを傷つける』
「確かに、私たち人間は海のポケモンやあなたを傷つけてしまった。だけど、傷つける人間がいるのと反対に、ポケモンを助けたい人間もいるという事をわかって欲しい。」
『そのような詭弁を信じると思うか?』
カイオーガは静かに目を閉じる。すると海面が激しく揺れ始め、波が荒れ狂い始めた。
波は私をいとも簡単に飲み込んでゆく。
「信じて貰えなくても構わない!でも私は貴方を助けてみせる!」
波に飲まれながらも私はカイオーガに届くよう精一杯声を張り上げた。
波に吸い込まれる私の意識は手を引かれるように遠のいていく。