ホウエン地方
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今日は私がお留守番。
船に残って掃除をしたり、ポケモン達のお世話をする。
ポケモン達がご飯を食べたらブラシを持って1匹1匹をブラッシングしていく。
ブラッシングは好きな子もいれば苦手な子もいるみたいで、ベトベトンやクワッスなんかはブラシを見ただけでも逃げていってしまう。
ホゲータはブラッシングが大好きみたいで、私がブラシを持つとすぐに膝の上に乗ってそわそわしている。
ホゲータに時間をかけていると、ブラッシング待機の列がどんどん伸びていく。
もう終わったよ、とホゲータを地面に下ろすと、また列の1番後ろ並ぶ。その姿が本当に可愛くて、いつもついつい甘やかしてしまう。
1番時間がかかるのが体の大きなリザードンだ。
トレーナーがいるポケモンは基本的にその人がお手入れをするので、私がケアをする必要はないのだが、リザードンにはいつも乗せてもらったりと何かとお世話になっているので、こんな日はいつもリザードンにもブラッシングをしている…いや、させて貰っている。
ブラッシングが終わると読書の時間。
いつも書斎から本を持ち出すと、それを読みながら外でくつろぐ。
今日はランドウさんもいないし甲板で読もうかな。
そんな事を考えながら通路を歩いていると、スーッと後ろを誰かが通ったような気がした。
「誰かいる…?」
隣を歩いていたヌオーに問うと、ヌオーもまた疑問符を浮かべている。
まあ、この船には沢山ポケモンがいるし、その中の誰かだろう。
私はあまり気にとめず、甲板へと急いだ。
今日読んだ本はゴーストタイプのポケモンについて書かれたものだ。
ゴーストタイプの起源は様々で人の怨念や魂、元々人だった説もある…と言うのはゲームとして遊んでいた頃から有名だ。あの時は興味深い話だとしか思わなかったけど、こうして実際に知識がある状態で読むとなかなか面白いものだと思った。
しかし、いざ同じ世界戦にいるとなると、少々背筋が凍る想いだ。
それなりにホラー映画や都市伝説、お化け屋敷など、幽霊系統の物は昔から苦手で、実際にゲンガーやジュペッタに脅かされてしまった日には気絶では済まないかもしれない。
ふぅーっと息をつくと、目の前にいたヌオーに心配されてしまう。
大丈夫だよ、と言い聞かせて再び本を読み始めた。
次のページへ進もうとした時、不意に後ろを振り向いてしまう。…………誰もいないよね? 辺りを見渡すけどもやっぱり何もない。安心して本をめくろうとした瞬間、背後から肩に手が置かれた! 突然の事だったので思わず声を上げてしまう。
おそるおそる振り返るとそこにいたのは・・・
「モ、モリー、びっくりしたぁ・・・」
「ごめん、そんなビックリされるとは思わなくて・・・」
船に戻ってきたモリーとラッキーがいた。
モリーは私の読んでいた本のタイトルを見ると面白そうに笑いながら言う。
「ユイって、ホラー苦手なのにそういうのは読めるんだ?」
モリーの言葉に思わず肩が跳ねる。
「えっ!?なんで知ってるの!?」
「見てたらわかるでしょ。」
そんなに私って分かりやすいのだろうか。
確かに、お風呂は最後にはならないようにしているし、夢中になって考え事をしていない限り、真夜中に自室を出ることはほぼないし、船内に棲み着いているユキメノコが突然現われるといつもビックリしているが・・・・
一人で葛藤しているのを見て、ついに我慢できなくなったのか、モリーは吹き出してしまった。
どうやら、私が考えていたことは全部見透かされていたらしい。
そして、私が思っていたよりも顔に出ていたようだ。
恥ずかしくて顔を真っ赤にしていると、またモリーは真剣な表情で言った。
「実は、この船にはあと一人謎のメンバーが潜んでいるとか・・・」
「えっ!何々、この船の七不思議!?」
私が怖がっていると、モリーはニヤリと笑った。
「その正体は・・・」
ゴクリと唾を飲み込む。両手で耳を抑える準備は出来ている。
「・・・冗談だよ。ただ、本当にホラー苦手なんだなって思っただけ。」
私はホッと胸を撫で下ろした。
「もう、脅かさないでよ!」
怒っていると、またもや背後から誰かの手が伸びて、私の肩にポン、と触れた。
「うわああああっ!!」
驚きすぎて大きな声を出して私はその場から逃走してしまう。
「どうしたんだ?ユイのやつ・・・って、なんで笑ってるんだ?」
「実はさ・・・」
と、先程のやり取りを話すと、先程ユイを驚かせた張本人、フリードは何かを閃いたのか、いたずらっ子の様に笑った。
猛ダッシュで自室のベッドに潜り込んだ。
恐怖を紛らわせる様にベットサイドのリザードンドールを抱きしめる。暫くすると落ち着いたので、もう一度本の続きを読み始めようとしたが、内容が内容なので一応栞を挟んでパタリと閉じる。
そうだ、楽しい事を考えよう。
今日の晩御飯の内容とか、食後のデザートとか、次の町の特産品とか…だめだ、私の頭の中は今食べ物の事ばかり。
気晴らしにウイングデッキにでも出よう!でも、怖いからと寝ていたバタフリーを起こして一緒に部屋を出る。
ちなみに、ヌオーは熟睡していて起きなかった。
ウイングデッキに出るとイワンコとホゲータが日光浴をしている。
バタフリーもそこに混ざって行ったので、私もポケモン達の隣に座ってボーッとする。
ホウエンの日差しは強くて溶けそうになってしまう日もあるが、今日は程よい気温でぽかぽかと心地よい。
気持ち良さそうに眠っているポケモン達を眺めながらうとうとしていると、何処からか良い匂いがした。
匂いに惹かれて船内に戻ると、案の定、キッチンにマードックの姿が見えた。
食材調達に行っていたからか、机の上には大量の食材が並んでいる。
「マードック!おかえり!」
「ユイ!丁度いい所に来たな!」
マードックは私をキッチンへ快く迎え入れると今作っている物を見せてくれる。
「わあ!プリン!」
「試作中なんだが、完成したら味を見て欲しいんだ。」
頼む!と両手を合わせるマードックだが、そんな事頼まれずとも答えは決まっている。
「もちろんいいよ。」
私は二つ返事でOKを出した。
「ありがとうな!ただ、プリンが固まるのが夜中だから、また夜に取りに来て欲しい!」
そう言うと、早速冷蔵庫の中に仕舞い始める。
「わかった!楽しみにしてるね!」
そう言って自室に戻ろうとすると、背後から肩を叩かれてビクッと肩を揺らす。
振り向くとそこにはフリードがいた。
「どうしたの?」
「あの話をモリーから聞いちまったんだってな。」
「あの話?」
「ほら、さっき話してただろ?この船にはあと一人謎のメンバーが潜んでるって。」
「え、もしかして・・・」
「いるんだよ。…夜にだけ現れるもう1人のメンバーが。」
あまりにも怪談話の様にフリードが話すので思わず「ひっ」と言う声が漏れる。
「そ、そんなの、冗談でしょ…」
「…以前のブレイブアサギ号の持ち主は、この船の中で消えてしまったのだとか。彼の相棒ポケモンがゴーストになって夜な夜な彼を探しているとか…」
「やめてーーー!!!」
もうすっかり怖くなってしまった私は急いで部屋に逃げ帰った。
「あちゃー、やりすぎたか?」
「おいおい、あんまり怖がらせてやるなよ。」
そんなユイの様子を見ていたマードックが言う。
「後で謝っておけよ。」
「わかったよ。」
ヒラヒラと手を振りながら、フリードは持ち場へと戻って行った。
めずらしくごはんの時間も忘れて自室にこもっていると、すっかり夜遅くなってしまった。
案の定腹の虫が鳴いてどうしたものかと考えていると、それを見越してかマードックが夕食を持ってきてくれた。
下げに来るとまで申し出てくれたが、流石に申し訳なくて自分で返すと伝えた。
マードックが持ってきたご飯をぺろりと完食すると、トレーを持って自室を出た。
心細かったので誰かに着いてきて欲しかったが、ヌオーもバタフリーも眠っているので、意を決して1人で飛び出す。
早歩きで食堂へは難なく到着し、食器を洗って干す。
プリンも食べたかったが、冷蔵庫を開けることすら恐怖で、泣く泣く断念した。
そして、何事もなく食堂を後にする。
ほら、大丈夫、何もいない。そう自分に言い聞かせる。
でも、ホラー映画だったらここから…と勝手に頭の中で悪い考えが産まれてくるので、他の事を考えるようにした。
ポケモンの名前でも呟きながら帰ろう…好きな事を考えていたら気も紛れるだろう。
ピカチュウ、カイリュー、ヤドラン、ピジョン、コダック、コラッタ、ズバット、ギャロップ……
ポケモンの名前と姿を思い浮かべながら通路を戻っていく。
考えれば考えるほど楽しくなってきて、さっき迄の怖さはどこかへ行ってしまう。
我ながら単純だな…と思いながら歩みを進めていると突然、ガタン!という音が鳴り響き、私も思考も一旦リセットされた。
ピタリと歩みも止まってしまう。
な、なになに!?何の音!?
恐怖で周りを見渡す事は出来ない。
真夜中、静かな通路、突然の音…
また勝手に悪い考えが浮かんでくるので、それを消し去るために半泣きになりながらもポケモンの名前呟く。
「ニョロボン、カモネギ、ラプラス…」
ガタン!
次は真後ろだった。
驚いて体が飛び跳ねてしまう。
「ラフレシア」
尚もポケモンの名前を呟き続けながら。
「カブトプス」
ゆっくりと後ろを振り返った。
「ニドリーナ…ばり…」
そこには不気味な笑みを浮かべる、大きな大きなポケモンが。
「に、にど、にど…」
巨大な二足歩行のニドリーナは笑いながらこちらに一歩近づいてくる。
「ひいいいっ!」
私は悲鳴を上げてその場から全速力で逃げ出した。
全力疾走のまま自室に飛び込み、涙ながらに座っていたヌオーに抱きついた。
「こ、怖かった…!ヌオー聞いて!デカくて二足歩行してるニドリーナが…あれ?」
恐怖で感覚が麻痺していたのか、話しているうちに、抱きついた感触が自分のポケモンで無い事に気付いた。
「おいおい、オレ、ヌオーじゃないんだけどな。」
「フ、フリード!?」
恐怖で焦る余り部屋を間違えたのか、抱きついたのはヌオーではなくフリードだった。
「ご、ごめん!ヌオーだと思ってつい……」
そう言って離れようと思ったのだが、緊張が一気に解けた為か身体は言う事を聞いてくれないし、震えはまだ止まらない。
フリードの胸に顔を埋めたまま動けなくなってしまったのだ。
そんな私をフリードは何も言わず待ってくれている。
暫くそのままの状態が続いた後、ようやく落ち着いた私を見てフリードは言った。
「……大丈夫か?」
心配そうに私の顔を覗き込むフリードの顔が近い。
その距離僅か数センチ程だ。
「昼間は、怖がらせる様な事言って悪かった。」
「怖いのは、苦手。ほんとに苦手だから…」
「ホントにごめん。もうしないから、許してくれ。」
「……うん」
私はコクンと頷くと、フリードはポンポンと頭を撫でる。
ふと、きゅーっと胸を締め付けられるような感覚に陥る。
あれ、なんだか苦しい。
状況を確認すると、今更座っているフリードの腰辺りに跨っていたままという事に気付いた。
「ご、ごめん」と離れようと後ろに下がるが、フリードに腕を掴まれて引き戻されてしまう。
何が何だかわからず混乱していると、フリードは真剣な眼差しでこちらを見つめてきた。
「ユイ。」
名前を呼ばれ、更に胸が苦しくなる。
なんだこれ、どうなってるの? 心臓の音がうるさい。
フリードに至近距離で見つめられて、顔が熱くなる。
すると、フリードの顔はどんどん近づいてきて……「ヌオー。」
唇が触れ合いそうになったその瞬間にヌオーの声がして我に返った。
パッと振り返るとヌオーが立っていた。
どうやら私が部屋に居なかったから探しにきてくれたらしい。
「ヌ、ヌオー。探しに来てくれたんだね…」
動揺を隠しきれない私にヌオーは首を傾げる。
「よ、良かったじゃねぇか…ヌオー、ユイを連れて帰ってくれ…」
フリードも動揺しているのか、発する言葉はどこがぎこちない。
ヌオーはフリードの言葉に頷いて私の腕を掴むとグイグイ引っ張っていく。
部屋を出る際にもう一度振り返り、今度はしっかりとフリードの目を見た。
「おやすみ、ありがとう。」
バタンッ!と扉を閉め、ヌオーに引かれながら自分の部屋へと戻って行く。
「キ、キスされるかと思った…」
まだ心臓がバクバクしている。
あのままヌオーが来なければ、どうなっていたのだろうか。
その先の事を想像すると再び顔に熱が集まる。
私の勘違い?いや、しかしあれは誰がどう見ても…
悶々としながら自室に戻ると、バタフリーは既に眠っていたので起こさないようにそっと布団に入る。
目を瞑ると先程の光景が脳裏に浮かぶ。
『……ユイ』
真剣な表情のフリード。
そして、私の顔に徐々に近づく彼の顔。
思い出しただけで身体が熱くなってくる。
「だめだめ!考えない!寝よう!寝るんだ!」
自分に言い聞かせるようにそう呟いて、無理やり眠りにつく事にした。
そこで、ふと大きなニドリーナの事を思い出した。
あのニドリーナは何だったのだろう…
でも、普通ニドリーナは四足歩行だし、あんなに大きくないし…やっぱり気の所為?見間違い?
そんな事を考えているうちに私は眠りに落ちていたのだった
船に残って掃除をしたり、ポケモン達のお世話をする。
ポケモン達がご飯を食べたらブラシを持って1匹1匹をブラッシングしていく。
ブラッシングは好きな子もいれば苦手な子もいるみたいで、ベトベトンやクワッスなんかはブラシを見ただけでも逃げていってしまう。
ホゲータはブラッシングが大好きみたいで、私がブラシを持つとすぐに膝の上に乗ってそわそわしている。
ホゲータに時間をかけていると、ブラッシング待機の列がどんどん伸びていく。
もう終わったよ、とホゲータを地面に下ろすと、また列の1番後ろ並ぶ。その姿が本当に可愛くて、いつもついつい甘やかしてしまう。
1番時間がかかるのが体の大きなリザードンだ。
トレーナーがいるポケモンは基本的にその人がお手入れをするので、私がケアをする必要はないのだが、リザードンにはいつも乗せてもらったりと何かとお世話になっているので、こんな日はいつもリザードンにもブラッシングをしている…いや、させて貰っている。
ブラッシングが終わると読書の時間。
いつも書斎から本を持ち出すと、それを読みながら外でくつろぐ。
今日はランドウさんもいないし甲板で読もうかな。
そんな事を考えながら通路を歩いていると、スーッと後ろを誰かが通ったような気がした。
「誰かいる…?」
隣を歩いていたヌオーに問うと、ヌオーもまた疑問符を浮かべている。
まあ、この船には沢山ポケモンがいるし、その中の誰かだろう。
私はあまり気にとめず、甲板へと急いだ。
今日読んだ本はゴーストタイプのポケモンについて書かれたものだ。
ゴーストタイプの起源は様々で人の怨念や魂、元々人だった説もある…と言うのはゲームとして遊んでいた頃から有名だ。あの時は興味深い話だとしか思わなかったけど、こうして実際に知識がある状態で読むとなかなか面白いものだと思った。
しかし、いざ同じ世界戦にいるとなると、少々背筋が凍る想いだ。
それなりにホラー映画や都市伝説、お化け屋敷など、幽霊系統の物は昔から苦手で、実際にゲンガーやジュペッタに脅かされてしまった日には気絶では済まないかもしれない。
ふぅーっと息をつくと、目の前にいたヌオーに心配されてしまう。
大丈夫だよ、と言い聞かせて再び本を読み始めた。
次のページへ進もうとした時、不意に後ろを振り向いてしまう。…………誰もいないよね? 辺りを見渡すけどもやっぱり何もない。安心して本をめくろうとした瞬間、背後から肩に手が置かれた! 突然の事だったので思わず声を上げてしまう。
おそるおそる振り返るとそこにいたのは・・・
「モ、モリー、びっくりしたぁ・・・」
「ごめん、そんなビックリされるとは思わなくて・・・」
船に戻ってきたモリーとラッキーがいた。
モリーは私の読んでいた本のタイトルを見ると面白そうに笑いながら言う。
「ユイって、ホラー苦手なのにそういうのは読めるんだ?」
モリーの言葉に思わず肩が跳ねる。
「えっ!?なんで知ってるの!?」
「見てたらわかるでしょ。」
そんなに私って分かりやすいのだろうか。
確かに、お風呂は最後にはならないようにしているし、夢中になって考え事をしていない限り、真夜中に自室を出ることはほぼないし、船内に棲み着いているユキメノコが突然現われるといつもビックリしているが・・・・
一人で葛藤しているのを見て、ついに我慢できなくなったのか、モリーは吹き出してしまった。
どうやら、私が考えていたことは全部見透かされていたらしい。
そして、私が思っていたよりも顔に出ていたようだ。
恥ずかしくて顔を真っ赤にしていると、またモリーは真剣な表情で言った。
「実は、この船にはあと一人謎のメンバーが潜んでいるとか・・・」
「えっ!何々、この船の七不思議!?」
私が怖がっていると、モリーはニヤリと笑った。
「その正体は・・・」
ゴクリと唾を飲み込む。両手で耳を抑える準備は出来ている。
「・・・冗談だよ。ただ、本当にホラー苦手なんだなって思っただけ。」
私はホッと胸を撫で下ろした。
「もう、脅かさないでよ!」
怒っていると、またもや背後から誰かの手が伸びて、私の肩にポン、と触れた。
「うわああああっ!!」
驚きすぎて大きな声を出して私はその場から逃走してしまう。
「どうしたんだ?ユイのやつ・・・って、なんで笑ってるんだ?」
「実はさ・・・」
と、先程のやり取りを話すと、先程ユイを驚かせた張本人、フリードは何かを閃いたのか、いたずらっ子の様に笑った。
猛ダッシュで自室のベッドに潜り込んだ。
恐怖を紛らわせる様にベットサイドのリザードンドールを抱きしめる。暫くすると落ち着いたので、もう一度本の続きを読み始めようとしたが、内容が内容なので一応栞を挟んでパタリと閉じる。
そうだ、楽しい事を考えよう。
今日の晩御飯の内容とか、食後のデザートとか、次の町の特産品とか…だめだ、私の頭の中は今食べ物の事ばかり。
気晴らしにウイングデッキにでも出よう!でも、怖いからと寝ていたバタフリーを起こして一緒に部屋を出る。
ちなみに、ヌオーは熟睡していて起きなかった。
ウイングデッキに出るとイワンコとホゲータが日光浴をしている。
バタフリーもそこに混ざって行ったので、私もポケモン達の隣に座ってボーッとする。
ホウエンの日差しは強くて溶けそうになってしまう日もあるが、今日は程よい気温でぽかぽかと心地よい。
気持ち良さそうに眠っているポケモン達を眺めながらうとうとしていると、何処からか良い匂いがした。
匂いに惹かれて船内に戻ると、案の定、キッチンにマードックの姿が見えた。
食材調達に行っていたからか、机の上には大量の食材が並んでいる。
「マードック!おかえり!」
「ユイ!丁度いい所に来たな!」
マードックは私をキッチンへ快く迎え入れると今作っている物を見せてくれる。
「わあ!プリン!」
「試作中なんだが、完成したら味を見て欲しいんだ。」
頼む!と両手を合わせるマードックだが、そんな事頼まれずとも答えは決まっている。
「もちろんいいよ。」
私は二つ返事でOKを出した。
「ありがとうな!ただ、プリンが固まるのが夜中だから、また夜に取りに来て欲しい!」
そう言うと、早速冷蔵庫の中に仕舞い始める。
「わかった!楽しみにしてるね!」
そう言って自室に戻ろうとすると、背後から肩を叩かれてビクッと肩を揺らす。
振り向くとそこにはフリードがいた。
「どうしたの?」
「あの話をモリーから聞いちまったんだってな。」
「あの話?」
「ほら、さっき話してただろ?この船にはあと一人謎のメンバーが潜んでるって。」
「え、もしかして・・・」
「いるんだよ。…夜にだけ現れるもう1人のメンバーが。」
あまりにも怪談話の様にフリードが話すので思わず「ひっ」と言う声が漏れる。
「そ、そんなの、冗談でしょ…」
「…以前のブレイブアサギ号の持ち主は、この船の中で消えてしまったのだとか。彼の相棒ポケモンがゴーストになって夜な夜な彼を探しているとか…」
「やめてーーー!!!」
もうすっかり怖くなってしまった私は急いで部屋に逃げ帰った。
「あちゃー、やりすぎたか?」
「おいおい、あんまり怖がらせてやるなよ。」
そんなユイの様子を見ていたマードックが言う。
「後で謝っておけよ。」
「わかったよ。」
ヒラヒラと手を振りながら、フリードは持ち場へと戻って行った。
めずらしくごはんの時間も忘れて自室にこもっていると、すっかり夜遅くなってしまった。
案の定腹の虫が鳴いてどうしたものかと考えていると、それを見越してかマードックが夕食を持ってきてくれた。
下げに来るとまで申し出てくれたが、流石に申し訳なくて自分で返すと伝えた。
マードックが持ってきたご飯をぺろりと完食すると、トレーを持って自室を出た。
心細かったので誰かに着いてきて欲しかったが、ヌオーもバタフリーも眠っているので、意を決して1人で飛び出す。
早歩きで食堂へは難なく到着し、食器を洗って干す。
プリンも食べたかったが、冷蔵庫を開けることすら恐怖で、泣く泣く断念した。
そして、何事もなく食堂を後にする。
ほら、大丈夫、何もいない。そう自分に言い聞かせる。
でも、ホラー映画だったらここから…と勝手に頭の中で悪い考えが産まれてくるので、他の事を考えるようにした。
ポケモンの名前でも呟きながら帰ろう…好きな事を考えていたら気も紛れるだろう。
ピカチュウ、カイリュー、ヤドラン、ピジョン、コダック、コラッタ、ズバット、ギャロップ……
ポケモンの名前と姿を思い浮かべながら通路を戻っていく。
考えれば考えるほど楽しくなってきて、さっき迄の怖さはどこかへ行ってしまう。
我ながら単純だな…と思いながら歩みを進めていると突然、ガタン!という音が鳴り響き、私も思考も一旦リセットされた。
ピタリと歩みも止まってしまう。
な、なになに!?何の音!?
恐怖で周りを見渡す事は出来ない。
真夜中、静かな通路、突然の音…
また勝手に悪い考えが浮かんでくるので、それを消し去るために半泣きになりながらもポケモンの名前呟く。
「ニョロボン、カモネギ、ラプラス…」
ガタン!
次は真後ろだった。
驚いて体が飛び跳ねてしまう。
「ラフレシア」
尚もポケモンの名前を呟き続けながら。
「カブトプス」
ゆっくりと後ろを振り返った。
「ニドリーナ…ばり…」
そこには不気味な笑みを浮かべる、大きな大きなポケモンが。
「に、にど、にど…」
巨大な二足歩行のニドリーナは笑いながらこちらに一歩近づいてくる。
「ひいいいっ!」
私は悲鳴を上げてその場から全速力で逃げ出した。
全力疾走のまま自室に飛び込み、涙ながらに座っていたヌオーに抱きついた。
「こ、怖かった…!ヌオー聞いて!デカくて二足歩行してるニドリーナが…あれ?」
恐怖で感覚が麻痺していたのか、話しているうちに、抱きついた感触が自分のポケモンで無い事に気付いた。
「おいおい、オレ、ヌオーじゃないんだけどな。」
「フ、フリード!?」
恐怖で焦る余り部屋を間違えたのか、抱きついたのはヌオーではなくフリードだった。
「ご、ごめん!ヌオーだと思ってつい……」
そう言って離れようと思ったのだが、緊張が一気に解けた為か身体は言う事を聞いてくれないし、震えはまだ止まらない。
フリードの胸に顔を埋めたまま動けなくなってしまったのだ。
そんな私をフリードは何も言わず待ってくれている。
暫くそのままの状態が続いた後、ようやく落ち着いた私を見てフリードは言った。
「……大丈夫か?」
心配そうに私の顔を覗き込むフリードの顔が近い。
その距離僅か数センチ程だ。
「昼間は、怖がらせる様な事言って悪かった。」
「怖いのは、苦手。ほんとに苦手だから…」
「ホントにごめん。もうしないから、許してくれ。」
「……うん」
私はコクンと頷くと、フリードはポンポンと頭を撫でる。
ふと、きゅーっと胸を締め付けられるような感覚に陥る。
あれ、なんだか苦しい。
状況を確認すると、今更座っているフリードの腰辺りに跨っていたままという事に気付いた。
「ご、ごめん」と離れようと後ろに下がるが、フリードに腕を掴まれて引き戻されてしまう。
何が何だかわからず混乱していると、フリードは真剣な眼差しでこちらを見つめてきた。
「ユイ。」
名前を呼ばれ、更に胸が苦しくなる。
なんだこれ、どうなってるの? 心臓の音がうるさい。
フリードに至近距離で見つめられて、顔が熱くなる。
すると、フリードの顔はどんどん近づいてきて……「ヌオー。」
唇が触れ合いそうになったその瞬間にヌオーの声がして我に返った。
パッと振り返るとヌオーが立っていた。
どうやら私が部屋に居なかったから探しにきてくれたらしい。
「ヌ、ヌオー。探しに来てくれたんだね…」
動揺を隠しきれない私にヌオーは首を傾げる。
「よ、良かったじゃねぇか…ヌオー、ユイを連れて帰ってくれ…」
フリードも動揺しているのか、発する言葉はどこがぎこちない。
ヌオーはフリードの言葉に頷いて私の腕を掴むとグイグイ引っ張っていく。
部屋を出る際にもう一度振り返り、今度はしっかりとフリードの目を見た。
「おやすみ、ありがとう。」
バタンッ!と扉を閉め、ヌオーに引かれながら自分の部屋へと戻って行く。
「キ、キスされるかと思った…」
まだ心臓がバクバクしている。
あのままヌオーが来なければ、どうなっていたのだろうか。
その先の事を想像すると再び顔に熱が集まる。
私の勘違い?いや、しかしあれは誰がどう見ても…
悶々としながら自室に戻ると、バタフリーは既に眠っていたので起こさないようにそっと布団に入る。
目を瞑ると先程の光景が脳裏に浮かぶ。
『……ユイ』
真剣な表情のフリード。
そして、私の顔に徐々に近づく彼の顔。
思い出しただけで身体が熱くなってくる。
「だめだめ!考えない!寝よう!寝るんだ!」
自分に言い聞かせるようにそう呟いて、無理やり眠りにつく事にした。
そこで、ふと大きなニドリーナの事を思い出した。
あのニドリーナは何だったのだろう…
でも、普通ニドリーナは四足歩行だし、あんなに大きくないし…やっぱり気の所為?見間違い?
そんな事を考えているうちに私は眠りに落ちていたのだった
