中原
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異能力者。イコール、常人には持ち得ない特殊な力を持つ、限られた人達のことを指す言葉。そんな人達が此処、横浜に居ると都市伝説のようにまことしやかに囁かれていたのを聞いた事があったが、真逆自分が出くわすとは夢にも思ってはいなかった。
今日出逢った黒の外套を羽織り、黒の手袋を嵌め、黒の帽子を被ったわたしよりも背の低い少年は、何とも珍しいその異能力者だった。他者が関わろうとしなかった、木から降りられなかった猫とわたしを助けようと協力してくれた、不思議な人でもある。
最初は使う気が無かったのだろう、猫を降ろす時は特に使わなかったその能力を、何を思ったのかわたしを降ろす際にはお披露目してくれた──その方法が、わたしと彼が地面に直撃する直前、二人の身体を浮かせた事で発覚させるという何とも心臓と内臓に悪い方法だった──その真意はよくわからないが、能力を持っている事を自慢したかったのかな、なんて具合にしか思わなかった。絶叫マシンは内臓が浮く感じがして苦手だというのに、それに似た体験を真逆こんな所でしてしまうとは。不運にも程が有る。
「……でも、綺麗な空色だったなあ」
腕を引かれ堕ちる少し前、偽物にはとても思えない澄んだ蒼の瞳と視線が交わった時、少しだけその色に見惚れたのは内緒だ。わたしの一番好きな色だったのだから仕方が無い。好きなものは全力で愛でる性質なのだ、わたしという人間は。
怯えるわたしを見て盛大に笑った少年は、自分が異能力者だという種明かしをして尚且つそれを口外するなと口止め──とは言え単なる口約束なのだが──をした後、名も名乗らずに去っていった。最後に一言『精々、無茶はすんなよ』とわたしを心配する言葉を残して。今日限りの出逢いにも関わらず、名前も知らない人間の事にそこまで気が割けるなんて、あの少年は口と態度は悪かったけれど屹度根はいい子なんだろうなあ、なんて適当に結論づけた。
にゃあ
「あ、さっきのかわい子ちゃん」
不意に聴こえた愛しい鳴き声に先刻までの思考を投げ捨て、わたしの意識は目の前に来た茶虎の猫の事で一杯になる。その場にしゃがみ込むと距離を詰めるように茶虎はとててて、と小走りにやって来てはわたしの折り畳まれた脚に擦り寄ってくるものだから、辛抱堪らん、わたしは緩む頬をそのままにその頭をぐりぐりと撫で付けてやった。
「さっきはごめんよ。あれぐらいしかいい方法が思い付かなくて……君を落とすなんて真似、したくなかったんだけど」
ゆるゆるな頬のまま眉だけは申し訳ないと八の字に下げて謝るわたしに、まるで「気にしちゃいないさ」とでも言っているように喉を鳴らす茶虎。嗚呼この仔ってばもう、何て優しいのかしら!
犬や猫、その他動物達の言葉など、わたしたち動物界の底辺である人間種が解るはずもない。だからこそ、切望するのだ。想像何かではなく、彼等が何を思い何を言いたいのか、理解できるようになりたいのだと。
あーあ、わたしにも動物達の声が聴ける異能があればいいのになあ。