影が薄い子の
星に溶けゆく
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こいつには、気配ってものがまるで無い。
視界に入れていても、他のものに気を取られれば一瞬のうちに居なくなっていることもしばしば。
この間も、ほんの一瞬目を離した隙に距離を詰められ押し倒され、戦場であれば殺されても可笑しくない状況にまで追い詰められた。
存在感の無さも然ることながら、異様な俊敏さを持つこいつだからこそ可能な戦闘方法なのだろう。
「だからこれ」
「何処から来た『だから』なのか意味不明ですが。何ですかその首輪」
「これ着けてれば、俺がお前を撃たなくて済むだろ」
「待って何の話?」
話の筋が見えていないらしい女に仕方なしに説明をしてやる。
気配がないということは、ふとした時に急に視界に入ってくる可能性だってないとは言い切れない。つまり敵を撃とうとしたところにお前が割り込んできて、弾が当たらない保証はないということだ。無駄撃ちさせられるのはごめんだ。
「なんだ、ちゃんとした理由があったんですね」
「他に何があるってんだ」
「いや、性癖かと…」
「俺はそこまで変態じゃねえ」
「…」
「黙るな」
「でも、そんなの貴方の腕なら問題ないでしょう。わたしも貴方の射線に入らないよう戦えばいいだけですし」
「…出来るのか」
「やるしかないでしょう。そんな変なもの着けられるくらいなら」
「変なものじゃない、目印だ」
「目印なんて、わたしの戦い方では支障が出ます」
それもそうだ。そもそもこいつの戦い方は暗殺向きで、相手に気付かれる前に始末するのを得意としている節がある。そんな奴が鈴付きの首輪なんて着けていたら…まあ、想像に難しくはない。
そんなこたわかっている。納得も理解もしているが、それでも心のどこかが妙にざわついて落ち着かないのだ。
本当は戦いにどうだのこうだの、そんなのは建前でしかない。ただ自分は。
「じゃあ、傍に居ろ」
居ると思ったところにこの女が居ないことに、いつも漠然とした不安を覚えるのだ。
そして毎回そんな思いをする自分に疲れて、面倒になって、それならば、この女が変わればいいのだと、変えてしまえばいいのだと思った。
「は?」
「こっちはお前が消える度に探す羽目になって、いい加減うんざりしてんだ。無駄な労力かけさせるな」
「そんなの、別に探さなければいいじゃないですか。旅の道中でも戦いの場でも、わたしは居なくなったりはしませんよ」
「はっ、どうだかな」
「えええ…もう、結局何が言いたいんですか?」
「これ着けるか、嫌ならもっと存在感を出せ」
「ううん…首輪は絶対嫌だし、影の薄さは体質みたいなものだしな…」
呆れた顔でそれでも顎に手を当てて思案し出す女を、正面からじっと見据える。ややあって何か閃いたのか、「それじゃあ、」と口火を切ってから一歩近付いてくる。
くん、と外套が引かれる感触に視線を下げると、女の手が外套の裾を握り締めていた。
「戦いの時以外、必ずこの外套を掴んでいること。…ってことで譲歩してもらえませんか?」
表情こそ変わらないが、その声色は諦観と羞恥が混ざり合ったものだった。
でも女から出された案は、暗に俺の傍を離れないと公言しているもので、こりゃ首輪を着けるより良い結果になったと内心ほくそ笑んだ。
これからは、振り返る度にこいつがいるのだろう。あれだけ感じていた不安が無くなる未来を手に入れた心は、珍しく晴れやかだった。
山猫は幽霊を手に入れた
視界に入れていても、他のものに気を取られれば一瞬のうちに居なくなっていることもしばしば。
この間も、ほんの一瞬目を離した隙に距離を詰められ押し倒され、戦場であれば殺されても可笑しくない状況にまで追い詰められた。
存在感の無さも然ることながら、異様な俊敏さを持つこいつだからこそ可能な戦闘方法なのだろう。
「だからこれ」
「何処から来た『だから』なのか意味不明ですが。何ですかその首輪」
「これ着けてれば、俺がお前を撃たなくて済むだろ」
「待って何の話?」
話の筋が見えていないらしい女に仕方なしに説明をしてやる。
気配がないということは、ふとした時に急に視界に入ってくる可能性だってないとは言い切れない。つまり敵を撃とうとしたところにお前が割り込んできて、弾が当たらない保証はないということだ。無駄撃ちさせられるのはごめんだ。
「なんだ、ちゃんとした理由があったんですね」
「他に何があるってんだ」
「いや、性癖かと…」
「俺はそこまで変態じゃねえ」
「…」
「黙るな」
「でも、そんなの貴方の腕なら問題ないでしょう。わたしも貴方の射線に入らないよう戦えばいいだけですし」
「…出来るのか」
「やるしかないでしょう。そんな変なもの着けられるくらいなら」
「変なものじゃない、目印だ」
「目印なんて、わたしの戦い方では支障が出ます」
それもそうだ。そもそもこいつの戦い方は暗殺向きで、相手に気付かれる前に始末するのを得意としている節がある。そんな奴が鈴付きの首輪なんて着けていたら…まあ、想像に難しくはない。
そんなこたわかっている。納得も理解もしているが、それでも心のどこかが妙にざわついて落ち着かないのだ。
本当は戦いにどうだのこうだの、そんなのは建前でしかない。ただ自分は。
「じゃあ、傍に居ろ」
居ると思ったところにこの女が居ないことに、いつも漠然とした不安を覚えるのだ。
そして毎回そんな思いをする自分に疲れて、面倒になって、それならば、この女が変わればいいのだと、変えてしまえばいいのだと思った。
「は?」
「こっちはお前が消える度に探す羽目になって、いい加減うんざりしてんだ。無駄な労力かけさせるな」
「そんなの、別に探さなければいいじゃないですか。旅の道中でも戦いの場でも、わたしは居なくなったりはしませんよ」
「はっ、どうだかな」
「えええ…もう、結局何が言いたいんですか?」
「これ着けるか、嫌ならもっと存在感を出せ」
「ううん…首輪は絶対嫌だし、影の薄さは体質みたいなものだしな…」
呆れた顔でそれでも顎に手を当てて思案し出す女を、正面からじっと見据える。ややあって何か閃いたのか、「それじゃあ、」と口火を切ってから一歩近付いてくる。
くん、と外套が引かれる感触に視線を下げると、女の手が外套の裾を握り締めていた。
「戦いの時以外、必ずこの外套を掴んでいること。…ってことで譲歩してもらえませんか?」
表情こそ変わらないが、その声色は諦観と羞恥が混ざり合ったものだった。
でも女から出された案は、暗に俺の傍を離れないと公言しているもので、こりゃ首輪を着けるより良い結果になったと内心ほくそ笑んだ。
これからは、振り返る度にこいつがいるのだろう。あれだけ感じていた不安が無くなる未来を手に入れた心は、珍しく晴れやかだった。
山猫は幽霊を手に入れた