影が薄い子の
星に溶けゆく
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長期戦は好まない。戦場になった時、意識するのは如何に相手を一撃で沈めるか。
「そう思うなら、銃を使うべきだろう」
そんなちんけな得物じゃあ殺せやしないだろう。呆れた色を乗せてそう言うのは、軍を抜けてきた狙撃手だ。
彼は軍人ならでは、近接戦闘も得意としているようだが、最も得意なのは遠距離からの狙撃なのだ。故に、彼が言いたいことはよく理解できる。
「旋棍なんざ、良くて昏倒させるくらいだろうに」
心底訳がわからない、といったように大袈裟に肩を竦める相手に一瞥をくれることもなく、わたしは己の相棒でもあるトンファーに付いた汚れを懇切丁寧に拭き取っていった。
「生憎と、銃は不得手なもので」
「このご時世、銃くらい扱えなくてどうする」
「わたしは近接戦闘を得意としていますので。長銃など長い得物は不利になるだけです」
そんなわたしの背後では、同じように己の武器を手入れしている音が聞こえる。カチャカチャと部品の触れ合う音が部屋の中に響いて、ほんの時々、わたしたちの交わす声がそこに加わるだけで、至って静かだった。
「……もし」
その静寂に、またぽとりと雫を落とすのは彼だった。
「俺とお前が敵同士だったとして、今、互いを殺さねえといけなくなったとして。お前の武器が俺に届く前に、俺はお前の脳天に銃弾を撃ち込めるぜ」
落ちた雫は波紋をつくり、徐々に周りへ浸透していく。
そうして部屋の中を満たしていくのは、殺伐とした殺意だ。
背を向けていたのが仇となったか、相手が今どんな顔をしているかはわからない。それでも確かに、わたしへその銃口を向けているのはわかる。
「…だから、何だと言うのです?」
きっとわたしが振り向こうと顔を動かしただけでも、相手はこの頭を撃ってくるのだろう。スコープ越しの筈なのに視線をばしばしと感じるのは、この距離感の所為か隠れる筈の狙撃手が隠れていないからか…まあ、どっちでもいいかそんなこと。
「殺したければご自由にどうぞ。…でも、」
そこで一度言葉を切ったわたしは、相手の視界スコープに入り込むようにトンファーの片方を下から上へ投げる。それにより一瞬だけ相手の視界がわたしではなくソレに向けば、この殺し合いはわたしの勝ちだ。
彼の視線がわたしの頭部から投げられたトンファーにズレたその隙に、一気に部屋の端から端へ距離を移動したわたしは勢いのまま相手の肩を押すようにして倒れ込む。
体勢を崩した相手の腹に馬乗りになり、片手にはもうひとつのトンファー、もう片手には小刀を持ち相手の首に突き付ける。…背後で先程のトンファーがごとりと着地した音が聴こえた時には、ほら、形勢逆転になっていた。
「……もし、貴方とわたしが敵同士だったとしたら。貴方の銃弾がわたしに届くより速く、わたしは貴方の喉を掻っ捌くなり、骨を粉砕したりできますけど?」
上体を屈め、不意をつかれた驚きで目を大きく開く相手に顔を近付けそう言葉を返す。すると何が可笑しいのか、相手は僅かに口角を上げ「ははっ」と嗤ってみせた。
「お前、本当に人間かよ」
「さあ。もしかしたら幽霊かも」
「おっかねえな」
ここで反撃をしてこないところを見ると、どうやら相手は揶揄うことを止めたらしい。ふっと漂っていた殺気が消えたところで得物を首から退かし身体も起こそうとした……のに、何故両の手首を掴まれているのだろうか。下に引っ張られるから身体も押さえ付けられてるのだけど。
「……あの、」
「まあまあ」
「離してくれませんか」
「折角いい眺めなんだから堪能させろよ」
「女に見下ろされるのがいいなんて素敵なご趣味ですね……って、ちょっと、変なとこ押し付けんな…!」
「変なとこって?」
「頭打って沸いたのか元から沸いてたのか知らないけど死ね変態」
「ははっ」
幽霊も山猫も負けず嫌い
「そう思うなら、銃を使うべきだろう」
そんなちんけな得物じゃあ殺せやしないだろう。呆れた色を乗せてそう言うのは、軍を抜けてきた狙撃手だ。
彼は軍人ならでは、近接戦闘も得意としているようだが、最も得意なのは遠距離からの狙撃なのだ。故に、彼が言いたいことはよく理解できる。
「旋棍なんざ、良くて昏倒させるくらいだろうに」
心底訳がわからない、といったように大袈裟に肩を竦める相手に一瞥をくれることもなく、わたしは己の相棒でもあるトンファーに付いた汚れを懇切丁寧に拭き取っていった。
「生憎と、銃は不得手なもので」
「このご時世、銃くらい扱えなくてどうする」
「わたしは近接戦闘を得意としていますので。長銃など長い得物は不利になるだけです」
そんなわたしの背後では、同じように己の武器を手入れしている音が聞こえる。カチャカチャと部品の触れ合う音が部屋の中に響いて、ほんの時々、わたしたちの交わす声がそこに加わるだけで、至って静かだった。
「……もし」
その静寂に、またぽとりと雫を落とすのは彼だった。
「俺とお前が敵同士だったとして、今、互いを殺さねえといけなくなったとして。お前の武器が俺に届く前に、俺はお前の脳天に銃弾を撃ち込めるぜ」
落ちた雫は波紋をつくり、徐々に周りへ浸透していく。
そうして部屋の中を満たしていくのは、殺伐とした殺意だ。
背を向けていたのが仇となったか、相手が今どんな顔をしているかはわからない。それでも確かに、わたしへその銃口を向けているのはわかる。
「…だから、何だと言うのです?」
きっとわたしが振り向こうと顔を動かしただけでも、相手はこの頭を撃ってくるのだろう。スコープ越しの筈なのに視線をばしばしと感じるのは、この距離感の所為か隠れる筈の狙撃手が隠れていないからか…まあ、どっちでもいいかそんなこと。
「殺したければご自由にどうぞ。…でも、」
そこで一度言葉を切ったわたしは、相手の視界スコープに入り込むようにトンファーの片方を下から上へ投げる。それにより一瞬だけ相手の視界がわたしではなくソレに向けば、この殺し合いはわたしの勝ちだ。
彼の視線がわたしの頭部から投げられたトンファーにズレたその隙に、一気に部屋の端から端へ距離を移動したわたしは勢いのまま相手の肩を押すようにして倒れ込む。
体勢を崩した相手の腹に馬乗りになり、片手にはもうひとつのトンファー、もう片手には小刀を持ち相手の首に突き付ける。…背後で先程のトンファーがごとりと着地した音が聴こえた時には、ほら、形勢逆転になっていた。
「……もし、貴方とわたしが敵同士だったとしたら。貴方の銃弾がわたしに届くより速く、わたしは貴方の喉を掻っ捌くなり、骨を粉砕したりできますけど?」
上体を屈め、不意をつかれた驚きで目を大きく開く相手に顔を近付けそう言葉を返す。すると何が可笑しいのか、相手は僅かに口角を上げ「ははっ」と嗤ってみせた。
「お前、本当に人間かよ」
「さあ。もしかしたら幽霊かも」
「おっかねえな」
ここで反撃をしてこないところを見ると、どうやら相手は揶揄うことを止めたらしい。ふっと漂っていた殺気が消えたところで得物を首から退かし身体も起こそうとした……のに、何故両の手首を掴まれているのだろうか。下に引っ張られるから身体も押さえ付けられてるのだけど。
「……あの、」
「まあまあ」
「離してくれませんか」
「折角いい眺めなんだから堪能させろよ」
「女に見下ろされるのがいいなんて素敵なご趣味ですね……って、ちょっと、変なとこ押し付けんな…!」
「変なとこって?」
「頭打って沸いたのか元から沸いてたのか知らないけど死ね変態」
「ははっ」
幽霊も山猫も負けず嫌い