太宰
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※動物に対し、ひどい表現が含まれています。
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「不思議な人だったなあ…」
今日織田さんと共にやってきた人の事を思い返す。
印象は黒と白。髪と服装は真っ黒で、顔半分と首から吊るされた左腕は包帯で白かった彼は、17歳というにはあまりにも大人ぶっていて、そしてとても濃い死の匂いがした。
二人の関係性や、包帯の意味、そして視線を合わせる事なく垣間見た時に見えた彼のどよりとした目など、気になるところが多々ある少年であった。
然し、それだけである。別に知りたいとも理解したいとも思わない。わたしが気にかけなくてはいけないことは、他に山ほどあるのだ。そんな事にこの優秀でない脳味噌を使う余裕など、存在はしない。
そう思い直し入院部屋を見回っていると、またいつかの日と同じように玄関のドアが開く音がする。壁にかけてあった時計を見ると今の時刻は夜の11時、勿論診察時間外であるし、急患だとしても緊迫した様子は玄関から感じられない。
静かに向かい受付から顔を覗かせると、そこには身体の所々がへこみ、四肢の向きが正常とは違う方へ向いており、全身から血を流す一匹の犬が居た。
本来の毛色の白は血と砂で隠されていて、とても見るに堪えない姿のその犬は、睨み付けるようにこちらを見ている。
「───……」
わたしは受付カウンターから移動し、影のないその仔の前に跪く。そして怖がらせないように、そっと手を差し出した。
「──おかえり。」
いつかの日と同じように、わたしは一人微笑んでみせる。
「さあ、君の生きた一生分の話を、わたしに聞かせてちょうだい?」
然しその双眸からは、とめどなく涙が溢れ出てしまっていた。
「君の一生を終えた愚かな人間は、一体だあれ?」