影が薄い子の
「似たもの同士、なのかも」
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「名前、尾形とケンカでもしたのか?」
夕食の支度をする手は止めず視線も手元に落としたまま、隣にいる名前に今日一日気になっていたことを訊いてみた。
思っていたより小声だったそれを、それでも隣にいた名前には届いたらしい。チタタプしていた手を止めごく自然な流れでそれを白石に渡し、私の方を手伝う体を装い距離を詰めてくる。
「…喧嘩、と言えるものなのかはわからないけれど。口を聞いてないのは確かですね」
そして実際に手伝ってくれつつ、私にしか聴こえないほどの小さな声でそう返してくれた。
「アシリパさん、これも切っていい?」
「ああ、頼む」
後ろで「チタタプ、チタタプ」の声を耳に入れながら、私達もそれとない会話を普通の声量で交わしながら、内緒の話も続けていく。…内心、こんなやりとりは初めてで、周りに聞こえるんじゃないかというドキドキと抑えられない好奇心でワクワクしていた。
「何か心当たりはないのか?」
「これといって思い当たるのは特に…まあ別に、元から話す方ではないのでどうでもいいですけど。──他に切るものあります?」
「それで終わりだから、次はこっちを煮込んでくれないか?」
「わかった」
「ありがとう。──でも、さくらと話している時の尾形は楽しそうだぞ?」
「馬鹿にしてる、の間違いじゃないです?それ」
ぐるぐると鍋の中身を混ぜながら、名前が少しだけ笑った気配がする。
共に旅をするようになって暫く表情が変わらなかったが、最近はこうして、少しずつ表情を崩すようになってきてくれている。杉元たちの前ではまだそこまでいっていないようだが、尾形の前ではその様子がよく見られることを、私は知っていた。
だから、そんな二人の様子がおかしいことにも、すぐに気づけたのだろう。
「話しかけてみたらどうだ?」
「わたしから?どうして?」
わたしに怒っているのなら、むしろ話しかけない方がいいのではないでしょうか。そう言って鍋を覗き込む名前に、私は初めて顔を向けた。
「そんなことはない。何より今の状況を打開するには、対話をしてみるのが手っ取り早いだろうし…」
最後に言った言葉に、名前は小さな子供がするような心底わからないといった顔を浮かべる。そんな彼女に、私は自信たっぷりにうなづいて見せたのだ。
「尾形はきっと、待っている。」
姉のようで妹のようで、子供のようで大人のようで。
夕食の支度をする手は止めず視線も手元に落としたまま、隣にいる名前に今日一日気になっていたことを訊いてみた。
思っていたより小声だったそれを、それでも隣にいた名前には届いたらしい。チタタプしていた手を止めごく自然な流れでそれを白石に渡し、私の方を手伝う体を装い距離を詰めてくる。
「…喧嘩、と言えるものなのかはわからないけれど。口を聞いてないのは確かですね」
そして実際に手伝ってくれつつ、私にしか聴こえないほどの小さな声でそう返してくれた。
「アシリパさん、これも切っていい?」
「ああ、頼む」
後ろで「チタタプ、チタタプ」の声を耳に入れながら、私達もそれとない会話を普通の声量で交わしながら、内緒の話も続けていく。…内心、こんなやりとりは初めてで、周りに聞こえるんじゃないかというドキドキと抑えられない好奇心でワクワクしていた。
「何か心当たりはないのか?」
「これといって思い当たるのは特に…まあ別に、元から話す方ではないのでどうでもいいですけど。──他に切るものあります?」
「それで終わりだから、次はこっちを煮込んでくれないか?」
「わかった」
「ありがとう。──でも、さくらと話している時の尾形は楽しそうだぞ?」
「馬鹿にしてる、の間違いじゃないです?それ」
ぐるぐると鍋の中身を混ぜながら、名前が少しだけ笑った気配がする。
共に旅をするようになって暫く表情が変わらなかったが、最近はこうして、少しずつ表情を崩すようになってきてくれている。杉元たちの前ではまだそこまでいっていないようだが、尾形の前ではその様子がよく見られることを、私は知っていた。
だから、そんな二人の様子がおかしいことにも、すぐに気づけたのだろう。
「話しかけてみたらどうだ?」
「わたしから?どうして?」
わたしに怒っているのなら、むしろ話しかけない方がいいのではないでしょうか。そう言って鍋を覗き込む名前に、私は初めて顔を向けた。
「そんなことはない。何より今の状況を打開するには、対話をしてみるのが手っ取り早いだろうし…」
最後に言った言葉に、名前は小さな子供がするような心底わからないといった顔を浮かべる。そんな彼女に、私は自信たっぷりにうなづいて見せたのだ。
「尾形はきっと、待っている。」
姉のようで妹のようで、子供のようで大人のようで。