影が薄い子の
「当たるも八卦当たらぬも八卦」
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好き嫌いはわかる。しかし恋はわからない。
大切だとか、守ろうとする感情もまあ、わかる。だが愛は知らぬ。
だから、自分がこいつに抱く感情が何なのか、わからずにいる。
「尾形さんもインカラマッさんに占って貰ったんですか?」
外套の裾を掴み背後から尋ねてくる女に、珍しいこともあるもんだと片眉をあげて振り返る。
普段こいつは、他人に質問ってものをしない。それは暗に他人に興味が無いことを指していたが、聞かれれば答えることから会話は成立するために他の連中は特に気にしちゃいないようだった。
かくいう俺も気にしちゃいなかったが、そんな奴から疑問符が飛んできたのだ。驚くのも無理はないだろう。
「わたしのあと、彼女とお話していたでしょう? 尾形さんも何か気になることがあるのかと思いまして」
「…まあ、そんなところだ」
「望む答えは貰えましたか?」
「わたしは残念ながら、欲しい答えはいただけませんでしたが…」とこれまた珍しく、いつもあまり変わらない表情をわかりやすく崩し如何にも残念がる様に、今のこいつはやたら気分が上がっているらしいと当たりをつける。そんなにあの占い師とのやりとりが愉快だったのだろう。
『誰かの存在が不可欠と視えるのです』
あの占い師は、この女の死期は未来によって変わると言っていた。
明日かも知れない、十日後かも知れない、一年後、十年後かもわからないと。だが確かに、誰かの存在が影響しその死期は延びるのだと。
『貴方の未来に、名前さんが視えるのですから』
そして頼んでもいないのに占われ、そう言ってのけた。
つまりは、こいつの命は俺が握っているということになるのだろうか。
「…」
「…? 」
黙ったままじっっと見詰める俺に、女は居心地悪そうに身動ぐ。
「…あの占い師から言われたのは、」
「ん?」
「お前の死期に、俺が関わっているということだけだ」
しかし俺から発せられた言葉に、素早く反応し破顔したツラで距離を縮めてきた。
「本当ですか?」
「近ぇ馬鹿」
「それってつまり、貴方がわたしを殺してくれるということですか?」
「知らねえよいい加減離れろ」
初めて見る笑顔にぎょっとしながらも、悪い気はしなかった。我に返った女が距離を戻し表情までもを普段の仏頂面に戻してしまったものの、余程嬉しかったのか掴んだままだった俺の外套を持ち上げ口元を隠している。
「やっと、やっとわたし…」
ぶつぶつと呟く声は全ては聴こえなかったが、何やら勘違いしている女に「言っておくが、」と釘を刺しておく。
「俺は、タダで殺してやるほどお人好しじゃないんでね。見返りがないとなあ」
「見返り…お金ですか? 幾らお支払いすればいいのですか?」
「さあ…金塊二万貫くらいか?」
「わあ、ぼったくりますねえ」
冗談だとわかっているのに、女は怒る素振りもなく可笑しそうに目を細めるだけだった。それは自身の命を終えるであろう相手を得たからか、己の死期が近いと知ることが出来たからか。
嬉しいというよりは、安心したというような。そんな表情をしていた。
(…こいつにこんな顔をさせられるのは、きっと俺だけなのだろう)
大袈裟ではなく、本気でそう思った。
恋はわからない。愛は知らぬ。
だから思う。この女の命を握ったと感じた瞬間に沸々と湧くこの感情の正体はもしかすると…
「それでは、お金が手に入るまで頑張って生きましょうか」
「はっ、精々くたばんなよ」
「尾形さんこそ、わたしより先に死なないでくださいね」
まあ、今はわからなくても構わない。
生きる意味を与えた今、女はますますそばを離れることはおろか、勝手に死ぬこともなくなった。
考える時間は、たくさんあるのだから。
大切だとか、守ろうとする感情もまあ、わかる。だが愛は知らぬ。
だから、自分がこいつに抱く感情が何なのか、わからずにいる。
「尾形さんもインカラマッさんに占って貰ったんですか?」
外套の裾を掴み背後から尋ねてくる女に、珍しいこともあるもんだと片眉をあげて振り返る。
普段こいつは、他人に質問ってものをしない。それは暗に他人に興味が無いことを指していたが、聞かれれば答えることから会話は成立するために他の連中は特に気にしちゃいないようだった。
かくいう俺も気にしちゃいなかったが、そんな奴から疑問符が飛んできたのだ。驚くのも無理はないだろう。
「わたしのあと、彼女とお話していたでしょう? 尾形さんも何か気になることがあるのかと思いまして」
「…まあ、そんなところだ」
「望む答えは貰えましたか?」
「わたしは残念ながら、欲しい答えはいただけませんでしたが…」とこれまた珍しく、いつもあまり変わらない表情をわかりやすく崩し如何にも残念がる様に、今のこいつはやたら気分が上がっているらしいと当たりをつける。そんなにあの占い師とのやりとりが愉快だったのだろう。
『誰かの存在が不可欠と視えるのです』
あの占い師は、この女の死期は未来によって変わると言っていた。
明日かも知れない、十日後かも知れない、一年後、十年後かもわからないと。だが確かに、誰かの存在が影響しその死期は延びるのだと。
『貴方の未来に、名前さんが視えるのですから』
そして頼んでもいないのに占われ、そう言ってのけた。
つまりは、こいつの命は俺が握っているということになるのだろうか。
「…」
「…? 」
黙ったままじっっと見詰める俺に、女は居心地悪そうに身動ぐ。
「…あの占い師から言われたのは、」
「ん?」
「お前の死期に、俺が関わっているということだけだ」
しかし俺から発せられた言葉に、素早く反応し破顔したツラで距離を縮めてきた。
「本当ですか?」
「近ぇ馬鹿」
「それってつまり、貴方がわたしを殺してくれるということですか?」
「知らねえよいい加減離れろ」
初めて見る笑顔にぎょっとしながらも、悪い気はしなかった。我に返った女が距離を戻し表情までもを普段の仏頂面に戻してしまったものの、余程嬉しかったのか掴んだままだった俺の外套を持ち上げ口元を隠している。
「やっと、やっとわたし…」
ぶつぶつと呟く声は全ては聴こえなかったが、何やら勘違いしている女に「言っておくが、」と釘を刺しておく。
「俺は、タダで殺してやるほどお人好しじゃないんでね。見返りがないとなあ」
「見返り…お金ですか? 幾らお支払いすればいいのですか?」
「さあ…金塊二万貫くらいか?」
「わあ、ぼったくりますねえ」
冗談だとわかっているのに、女は怒る素振りもなく可笑しそうに目を細めるだけだった。それは自身の命を終えるであろう相手を得たからか、己の死期が近いと知ることが出来たからか。
嬉しいというよりは、安心したというような。そんな表情をしていた。
(…こいつにこんな顔をさせられるのは、きっと俺だけなのだろう)
大袈裟ではなく、本気でそう思った。
恋はわからない。愛は知らぬ。
だから思う。この女の命を握ったと感じた瞬間に沸々と湧くこの感情の正体はもしかすると…
「それでは、お金が手に入るまで頑張って生きましょうか」
「はっ、精々くたばんなよ」
「尾形さんこそ、わたしより先に死なないでくださいね」
まあ、今はわからなくても構わない。
生きる意味を与えた今、女はますますそばを離れることはおろか、勝手に死ぬこともなくなった。
考える時間は、たくさんあるのだから。