影が薄い子の
「当たるも八卦当たらぬも八卦」
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「わたしは、いつ死ねますか?」
綺麗に微笑むその女性 から発せられたのは、およそその表情からは想像出来ないものでした。
聞き間違いかと思いすぐに反応が出来ないでいた私に、そのひとは小首を傾げ「インカラマッさん?」と私の名を呼ぶ。情けないことに、それでようやく我に返ることができた。
「貴女の占いはよく当たると聞きました。過去に起きた出来事を言い当て、未来も見えるのだとか」
「ええ…」
「なら、貴女にはわたしの未来も見えているということですよね? だから教えていただきたいのです。わたしは、いつ、死ぬのか」
再度問われた内容は、ああ聞き間違いではなかった。
彼女の願いを聞くのはこれで二度目になるけれど、やはりどうしてもつり合わない。いつも光を宿さない瞳はきらきらと輝き、頬を赤く紅潮させ、口の端は穏やかに緩やかに持ち上げられ、まるで恋をする女の子のよう。表情はそうであるのに、何故その微笑みから吐き出されるのは仄暗く深い闇を彷彿とさせる言葉たちなのだろう。
「…何故、そのようなことを聞くのですか?」
「? 何故とは」
「死というものからは、誰も逃れることは出来ません。しかし、それをわざわざ知ることは無いと思われますが」
「そうでしょうか」
「そうですよ。だから占うなら他のことを…」
「他に知りたいことなど、わたしにはありません」
きっぱりと告げられた一言に、二の句を継げなかった。
「他のことなど、どうでも良いのです」
「名前さん…」
「わたしにとって大切なのは…もう、死ぬことに対してしか、ないのですから」
どこまでも綺麗に微笑むのだった。
「「未来は変わるから、答えられない」ねえ。良く当たる占い師が聞いて呆れる」
彼女が先程まで座っていた場に、今度は軍服を着た男性が胡座をかいて座り込む。足の上に頬杖をつき、じっと覗き込まれるようにして見てくる瞳に、光はない。
しかし口元は愉快そうに持ち上がっていた。
「言ってやればよかったじゃねえか。視えてるんだろう? あの女の死期ってやつが」
「…意外です。まさか貴方が占いを信じているなんて」
「信じちゃいねえさ。ただ、占いに踊らされるあいつを見るのも一興かと思っただけだ」
「教えてしまえば、彼女はそれだけを見据え、その為にしか残りの人生を使わないでしょう。…そんなの、悲しすぎます」
「あいつの人生だ。好きにさせりゃあいいだろう」
「…尾形ニシパ」
「?」
「どうか、彼女の生きる意味になってあげてください」
「…それは、占いか?」
「正直に言うと、名前さんの未来は誰よりも不確定でとてもあやふやなものです。しかしだからこそ、変えられる…と言うより、沢山ある未来の内、より良い方へ向かえる可能性だってあるのです」
「その為には、誰かの存在が不可欠と視えるのです」
「…何故俺に言う。誰でも良いのなら俺は御免だぞ」
「その理由ははっきりしています。だって」
占い、信じる、信じない?
「貴方の未来に、名前さんが視えるのですから」
綺麗に微笑むその
聞き間違いかと思いすぐに反応が出来ないでいた私に、そのひとは小首を傾げ「インカラマッさん?」と私の名を呼ぶ。情けないことに、それでようやく我に返ることができた。
「貴女の占いはよく当たると聞きました。過去に起きた出来事を言い当て、未来も見えるのだとか」
「ええ…」
「なら、貴女にはわたしの未来も見えているということですよね? だから教えていただきたいのです。わたしは、いつ、死ぬのか」
再度問われた内容は、ああ聞き間違いではなかった。
彼女の願いを聞くのはこれで二度目になるけれど、やはりどうしてもつり合わない。いつも光を宿さない瞳はきらきらと輝き、頬を赤く紅潮させ、口の端は穏やかに緩やかに持ち上げられ、まるで恋をする女の子のよう。表情はそうであるのに、何故その微笑みから吐き出されるのは仄暗く深い闇を彷彿とさせる言葉たちなのだろう。
「…何故、そのようなことを聞くのですか?」
「? 何故とは」
「死というものからは、誰も逃れることは出来ません。しかし、それをわざわざ知ることは無いと思われますが」
「そうでしょうか」
「そうですよ。だから占うなら他のことを…」
「他に知りたいことなど、わたしにはありません」
きっぱりと告げられた一言に、二の句を継げなかった。
「他のことなど、どうでも良いのです」
「名前さん…」
「わたしにとって大切なのは…もう、死ぬことに対してしか、ないのですから」
どこまでも綺麗に微笑むのだった。
「「未来は変わるから、答えられない」ねえ。良く当たる占い師が聞いて呆れる」
彼女が先程まで座っていた場に、今度は軍服を着た男性が胡座をかいて座り込む。足の上に頬杖をつき、じっと覗き込まれるようにして見てくる瞳に、光はない。
しかし口元は愉快そうに持ち上がっていた。
「言ってやればよかったじゃねえか。視えてるんだろう? あの女の死期ってやつが」
「…意外です。まさか貴方が占いを信じているなんて」
「信じちゃいねえさ。ただ、占いに踊らされるあいつを見るのも一興かと思っただけだ」
「教えてしまえば、彼女はそれだけを見据え、その為にしか残りの人生を使わないでしょう。…そんなの、悲しすぎます」
「あいつの人生だ。好きにさせりゃあいいだろう」
「…尾形ニシパ」
「?」
「どうか、彼女の生きる意味になってあげてください」
「…それは、占いか?」
「正直に言うと、名前さんの未来は誰よりも不確定でとてもあやふやなものです。しかしだからこそ、変えられる…と言うより、沢山ある未来の内、より良い方へ向かえる可能性だってあるのです」
「その為には、誰かの存在が不可欠と視えるのです」
「…何故俺に言う。誰でも良いのなら俺は御免だぞ」
「その理由ははっきりしています。だって」
占い、信じる、信じない?
「貴方の未来に、名前さんが視えるのですから」