この理不尽な世界に鉄槌を
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※原作より二年位、太宰が来る前。
三年程前から、殺人事件が起きている。
とは言えそんなものはこの世の中では日常茶飯事の事で、一々ニュースや新聞で大々的に取り上げられるものなんてやれ被害者が芸能人だのやれ加害者が政府のお偉いさんだのに限られ、何の面白みもない其れは世間に知られないものも少なくはない。若し全ての殺人事件を取り上げていたのなら、テレビは毎日毎時間その報道で流れ続け、新聞はその頁全てが埋まってしまう事だろう。
詰まり何が言いたいかというと、その五年前から起きている数件の事件というのが些か奇妙だ、という事だ。
殺しの手口もバラバラ、被害者たちにもこれといった共通点はなし、犯人の特定はおろか殺人の動機すら解っていない、事件が起きている場所がヨコハマ市内という事とその犯人たちは未だ捕まっていないという事だけで、一見して見れば単発の未解決事件に過ぎない。
然しそんな関連性の無い事件を、と有る名探偵は〝犯人は同一人物の連続殺人事件である!〟と声高らかに宣言している。……と有る武装探偵事務所の、黒張りのソファの上で駄菓子を頬張り乍ら。
「本当、軍警は頭がかったいなあ。ボクに依頼すれば秒で終わるってのに」
片手に鼈甲飴の付いた竹串を持ち、もう片手で持っていた新聞をバサリと机の上に投げ置く。それを受け取った女医は繁繁と開かれた頁を一望してはその一部を読み上げていった。
「何何……『謎の殺人事件相次ぐ!金属バットでの撲殺、ベルトでの絞殺、ロッカー内に監禁・放置での飢餓と精神的ショック死、除草剤を用いての毒殺……』そんで今回は、四肢を削ぎ落としたバラバラ殺人って訳かい」
何れの事件も犯人の目処は立っておらず、悲しきかな、迷宮入りになってしまいそうな予感がしている。全く軍警は何をやっているんだかと説教のひとつでも垂らしたくなるというものだが、女医自身、この記事を見ただけでは犯人が誰かなんてわかりっこなかった為、反対に何故この数件の事件が同一犯となるのか、名探偵が叩き出した結論が不思議でならなかった。
「……何故、犯人が同じ人間だと解ったんだい?」
「動機が一緒だからさ。」
女医の問い掛けに、名探偵は鼈甲飴を噛み砕き乍らさも当然の事のように言い切る。ガリ、ゴリと、咥内の琥珀色が音を立てて細かくなっていく様を想像し乍ら、女医は名探偵の言葉が続くのを大人しく待った。
「何て事は無いよ。この事件たちは全部──復讐心から起きているだけだから」
(……その感じだと、犯人も解ってるようだねェ)
(ボクを誰だと思ってるのさ)
(軍警には教えてやらないのかい?)
(そんな義理無いね。まあ、教えて貸しを作るのも有りだけど……)
(ボクはこの偽善者を〝悪〟だとは思わないからね。)