4、久しぶり、はじめまして、さようなら
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この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
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※※※
・原作のカッコイイ五条先生はいません。
・良い子はTPOちゃんと考えようね!
・主人公が偽名で名乗ります。(ややこしい)
「えっ、行かないとダメ?」
戻ってきた硝子の美しさに目眩を覚えながら、まずは自己紹介兼ねての挨拶を交わし、それから潔高くんの話を聞いた。その返事が冒頭である。硝子いるのに素で言っちゃったてへぺろ。
いやだってさ、わたしの存在をわざわざ悟たちに知らせる必要はないと思うんだよね。ここまで連れてきてもらって今更何言ってんの? って話なんだけど、向こうから来ないってことは悟たちも大概どうでもいいって思ってるってことでしょ?
って思ったことそのまま言ったら——もちろん、名前の部分は上手くぼかしたよ!——、潔高くんの苦笑いただきました! わがままな先輩でごめんね!
こほん、咳払いをスイッチに悠仁くんの義姉モードに入る。
「そもそも、何故そのお二方なんですか? 大抵こういう時は、学校のトップの方に意見を聞くのでは?」
今のわたしは、悠仁くんの義姉、潔高くん・硝子とは初対面という設定だ。顔見知りは悠仁くんだけ、呪霊が視えたのは今回が初めて、呪力や術式に関しては……あー、そういえばここら辺どうするか作戦立ててなかったなミスったわ! いいや知らない体で行ってやるわ!
「虎杖君は今、とある事情により死亡扱いとなっています。」
「えっ、待って悠仁くん学校ぐるみでイジメられてるの? 教育委員会に訴える?」
「ねーちゃんちょっと静かに。」
「あっハイ。」
「本来であれば貴女が言うように、学長に事情を話して指示を仰ぐのですが、虎杖君のことは学長にも内密にしています。故に、『彼が任務で連れ帰ってきた』ということも公には出来ないんです。」
「虎杖が生きていることを知っているのは、私と伊地知、それに虎杖の担任の五条悟を初めとした数人だけだ。そうなると、貴女のことを話せる相手も自ずと決まってくる。」
潔高くんの言葉の続きを硝子が話し、それを聞いた自分の眉がみるみる下がっていくのがよくわかった。口では「なるほど……」と呟くものの、本心としてはめんどくせえなの一言である。
だがしかし、このイベントは回避できないのだろう。ここで逃げればわたしだけではなく悠仁くんにまで非が及ぶ、それだけは阻止せねばなるまい。
「……命令されて行くのが解せませんが、仕方ありませんね。」
はあ〜〜〜、と長い長い溜め息の後、意を決して顔を上げて三人の顔を見る。
「伊地知さん、悠仁くんの担任のところまで案内していただけますか?」
◇
「どうしよう既に帰りたい。」
「ねーちゃん頑張って。」
悠仁くんに励まされるけど、その間にも精神攻撃をガツガツ喰らっていてわたしのHPはもう瀕死状態である。それもこれも、目の前のドアを開けずとも聞こえるキャッキャウフフの声の所為だった。
潔高くんと硝子に連れられやって来たのは、高専内の地下にある一室だった。ここなら人通りも滅多にないため、不審者扱いのわたしや死亡扱いの悠仁くんでも大手を振って歩ける。この場所を指定したのは向こうだというのだから、多少なりとも悠仁くんを気遣えるくらいの良心はあるようだった。
「今更聞くけど、悠仁くんにとって担任の先生はどんな人?」
「五条先生? めっちゃ強いし、ちょっとどうなの? って思うこともたまにあるけど基本優しいよ。」
「そっか……ごめんね。そんな先生をわたしは今とてもぶん殴りたい気持ちでいっぱいです。」
「はは……」
昔の記憶も相俟ってか、もはやわたしの顔はチベットスナギツネのような虚無を浮かべたようなものになっているだろう。謝罪の後の言葉は悠仁くんにしか聞こえないように小さくしたつもりだったけど、前にいる潔高くんも気まずげに微笑んでいるところを見るとどうやら聞こえていたみたいだ。
潔高くんも硝子も大人になっているということは、部屋の中の奴らも当然大人になってるんだろう。子供がいる職場でイチャコラしてんじゃないよTPO弁えろクズ二人。あとわたしに成り代わってる女。ふざけんな。マジでふざけてくれるな。紐束縁はこんなところで盛るような女じゃねーんだよ!!
アッ、口が悪くなっちゃった。
「本格的におっぱじまる前に済ませるか。」
硝子も流石にドン引いたお顔で——いやあそれでも美しさは変わらんな——、でも慣れた様子でドアに手をかける。
咄嗟に隣にいる悠仁くんの目元を手で覆い隠すと、顔だけこちらに振り返った硝子が「ひとまず私と伊地知が先に入って説明してくる。ここで待っていてくれ。」とチベスナ顔で言ってきてくれた。
お気遣いありがとうございます、家入先生。ついでに帰っていいですか。
◇
「えーと、貴女が虎杖の姉のような人……ということでいいのかな?」
「はい。〝糸田紬(いとだつむぎ)〟といいます。」
部屋の中に入ると、そこは応接室のような造りになっていた。手前に対面式のソファとテーブル、その奥に部屋主のデスクがあり、男一人と女一人は奥のデスクに、男一人はソファの片方に座っていた。
上から、五条悟、紐束縁(偽)、夏油傑である。どうやら傑が、わたしの応対をしてくれるらしい。三人からはもれなく「邪魔しやがって」みたいな雰囲気が伝わってきますが、そもそも呼び出したのオメーらだろが、文句言うんじゃねえ。
——それにしても。
ちら、と。バレない程度にわたしの成り代わりに視線を送る。
親の仇を見るかのような突き刺す視線を向けてくる、見知らぬ女。身体は華奢で庇護欲を掻き立てられるような線の細さで、明るい茶の腰まで伸びる髪を持ち、背後から最強の男の首に腕を回すのを誰にも咎められることなく許されている存在。抱き締めるとかはどうでもいいっていうか出来ればやめていただきたいんだけどそれより、ねえちょっと、美人なのは元から? それとも設定? わたしなんて地毛の黒髪も平均女子より背が高いのもバイトと獣医業で培った筋肉もそのままなんだけど?
わたしやこの女をトリップさせたのが誰なのかとか、なにか意味があってなのかとか、考えてもわからないことは考えない。だがこれだけは言わせてほしい。せめて平等の対応をお願いしたい。
「あ? 何見てんだよ。」
「いえ、別に。すみません。」
とか思ってたら悟と目が合ったらしい、即座に謝っておいた。目隠しとかしてるからこいつの視線だけはわからん。ていうか何その目隠し? ツッコんだ方がいいの??
「伊地知からある程度の話は聞いているけど、貴女本人からも話を聞いてみたいと思ってね。」
「はあ、そうですか。」
つーかわたしは名乗ったぞ。お前も名乗れや傑このやろ。
そう腹の中では悪態のオンパレードだったけど、わたしはちゃんとした大人である。表情や態度には出しませんよ。
「貴女が、この世界の人間じゃないというのは確かかい?」
「ええ。そうですね。」
「そして、今回二度目のトリップをしたと。」
「そうなりますね。」
「トリップするのは、自分の意思で?」
「そんな神様みたいなこと、出来たらすごいですねー。」
向かい合って、お互いにこにこと笑顔を浮かべながらの一問一答。悠仁くんと潔高くんがハラハラしているのが横目に見えて、それがかえってわたしを安心・冷静にしてくれていた。
「……今回貴女を襲ったような呪いの姿は、以前から視えていたんですか?」
「それって、あの化け物みたいなやつですか? 悠仁くんが倒してくれた。」
「ええ。」
「視えたのは今回が初めてでした。自分の世界にいる時はもちろん、昔悠仁くんと住んでいる時にもあんなのは……」
「はいダウトー。」
傑からの質問が呪い絡みになったところで、悟がわたしの声を遮ってしゃしゃり出てきた。突然の第三者の声に今度は堂々と顔を向けると、そこにはしてやったり、といやらしく口角をあげている悟の顔が伺えて。
「オマエ、そこそこ呪力持ってんじゃねーか。それなのについさっき呪霊が視えるようになったとか嘘だろ。」
ははーん。こいつらの狙いがわかったぞ。尋問役を傑にしたのは、悟がその目隠しに隠されている六眼で外からわたしの様子を見るため。そしてわたしが嘘を吐いたり誤魔化したりしたら、今のように追い込むためか。
試しているのかどうか、目的は知らんけど。追い込んで、信用をなくして、悠仁くんから離したいってところかな?
——残念だったな! 対策済みだっての!
「それは……」
「何? 言い訳でもあんの?」
「こら悟。せっかくだから聞いてみようじゃないか。……言えるものならね。」
ニヤニヤ笑うクズ二人を交互に見つめ、わたしは改めて笑顔を浮かべる。
「そういう『設定』なんじゃないですか? 呪力が芽生えた義弟と一緒にいられるように、わたしにも呪力を身に付けてくれたのかも。」
「はァ??」
「身に付けてくれたって、一体誰が?」
「さあ? わたしをこの世界へ飛ばした神様じゃないですか?」
不敵に笑うわたしが癪に障ったのだろう、ガッタンと大きな音を立てて立ち上がった悟が、女を置いてこちらへ歩み寄ってくる。おいおい離れていいんか? とか思っているとわたしの目の前で足を止めて、上半身だけをグンっと屈めてガンつけてきた。目元見えないけど多分。
ピリッだか、ピキッだか。そんな音が聞こえてきそうな部屋の空気に、わたしは怯むことなく悟を見上げる。
「ねーちゃん……!」
大丈夫だよ、悠仁くん。こいつの癇癪は慣れてるからね。
「適当言ってんじゃねーぞ。悠仁の姉みたいな奴だっつーから下手に出てりゃ調子に乗りやがって」
「下手とは……? わたしは、わたしの考える推測をお伝えしたまでです。呪力だか呪霊だか知りませんが、今までのわたしには無かった能力なんですから。……貴方がたこそ、可愛い学生が見ている前でそんな態度でいいんですか? 大人としてどうかと思いますよ。」
「話逸らしてんじゃねえよブス。」
「貴方が喧嘩を売ってくるからでしょう。」
文句を言われるとは思っていなかったのか、悟のイラつきがどんどん増しているのが手に取るようにわかった。そして極めつけは、
「ああ、先程お伝えした『設定』のことですが。そこにいる女性ならよくご存知なんじゃないですか? 彼女もこの世界に飛ばされてきたのでしょう?」
わたしが紐束縁(偽)に話を向けたことが、心底許せなかったのだろう。いよいよ我慢の限界を迎えた悟は、わたしの胸倉を掴み勢いよく立たせた。
「……あら? 最強とうたわれる男が女に暴力ですか。随分とまあつまらない手段ですねえ。」
——『あれ、最強の男が女に暴力? 随分つまんないことするね。』
あー、そういえば昔悟と喧嘩した時、似たようなことあったなあ。
◆
「もおおおお!! ほんっとに心配したんだからな!!?」
一触即発だったわたしと悟を、引き離すことで止めてくれたのは悠仁くんだった。
悠仁くんの『先生! ねーちゃんのこと殴ったりしたら嫌いになるかんね!!』発言に悟の教師心はショックを受けたようで、存外すんなりわたしの服から手を離した。解放されたわたしはすぐさま悠仁くんと潔高くんによって悟と距離を取らされ、なんなら部屋の外にまで追いやられた。
一緒に部屋を出た悠仁くんは、わたしの手を掴んだまま黙々と歩を進めていく。スピードも歩幅も気遣われることなく歩くから、わたしは小走りで着いていく羽目に。
背中からは無言の怒りを感じたので、わたしもただ黙って大人しく引っ張られることにした。
しかし、とある部屋に着くなり肩を掴まれ大声でそう叫ばれてしまえば、湧いてくるのは怖さではなく嬉しさで。
「ねーちゃん五条先生の性格知ってんでしょ!? そんならもっと穏便にいくよう誘導してやって!?」
「いやー、まさかかつての友人があんなにクズになってるとは思わなくて。あいつらのムカつく顔見たら抑え効かなかったねあっはは!」
「笑い事じゃないってえ!」
床に手を付き愕然とする悠仁くんが、まるで自分のことのようにわたしの身を案じてくれている。そんな義弟に、義姉は何をしてやれるだろう……少しだけ考えを巡らせてから、わたしもしゃがみこんでその頭を撫ぜた。
「ごめんね、悠仁くん。」
「……それは、何に対しての謝罪?」
「強くて頼りになる五条先生の、嫌な部分見せちゃって。」
まだ子供である悠仁くんに、大人の汚い一面を見せてしまった。あれは義姉として、義弟の教育に良くなかったと今更ながら思うのだ。
「それに対しては大いに反省してます。」
「ちょっと違うんだよなあ……」
「あんなんだけど、嫌いにならないであげてね。」
それに、わたしやもう一人の異分子の所為でこの世界の人たちの仲が拗れるのは居た堪れない。見ての通り悠仁くんは良い子だし、悟や傑は悠仁くんみたいなタイプは嫌いじゃないはず。そもそも気に喰わないならリスク背負ってまで悠仁くんを生かしたりしないだろう。
そう考えると、わたしたちの存在が邪魔になってないか不安にもなるもので。
「大丈夫だよ。」
少しだけ塞ぎ込みそうになった思考が、悠仁くんの声で再び開けてくる。
「オレ、五条先生たちのことも嫌いにならないし、ねーちゃんのことも絶対守るから。安心して。」
「だから、離れてかないで。」縋るように上目で覗き込んでくる悠仁くんに、ああこの子は本当にわたしのことを慕ってくれているんだなあと思った。同時に、この子に悲しい思いはしてほしくないなあと。母性? 姉性? が芽生えた瞬間でもあった。
しかし、悟に吐いた言葉といい、今の言葉といい。天然人たらしの才能があるなあわたしの義弟は。ねーちゃん君の将来が少しだけ心配になったよ。