番外編①2021.3.20
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この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
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※※※
・番外編
・連載中に虎杖くんのお誕生日やってくる。
・お祝いしないわけにはいかないでしょう!
・本編の時系列的には12話の頃。五条らとの関係も多少マイルド仕様になっております。
「伊地知くん、大事なお話があります。」
任務を終えた車内で、膝に肘をくっつけてゲンドウポーズを取るわたしに、運転中の潔高くんが何事かと生唾を飲み込む。わたしの隣に座る今回のパートナーだった伏黒くんは、やや呆れがちにしながらも黙って話を聞く体勢を取ってくれていた。
ふっふっふ、伏黒くんにはもう了承を貰っているから今のわたしは強気だよ!
「来週の土曜日……来たる三月二十日は、何の日かお分かりで?」
「二十日ですか? ……ちなみにこれ、外したら罰ゲームとかあります?」
「え、何でそんな怯えてるんですか。」
「五条先生が今の紬さんみたいなムチャぶりしては伊地知さんのことどついてんですよ。」
「やり直し! 今の流れもっかいやり直しぃ!!」
「という事でtake2! 伊地知くん、来週の土曜日って悠仁くんの誕生日なんだけどさ。」
「いきなり答え言っちゃうんすか。」
「だって! 伊地知くんに嫌われたくない!」
「きっ、嫌いませんよ!」
狭い車内でぎゃいぎゃい騒ぐ大人二人に、どこまでもクールを貫く子供という構図が出来上がりつつあるが、大人気ないとか思わないでほしい。普段はこんなんじゃないから、もうちょっと落ち着いた大人を演じてるから。今は任務終わりでちょっと気分が昂揚してるだけだし、議題が議題だからテンション上がっちゃってるだけだから!
だって! 我らが悠仁くん義弟の誕生日が近いんですよみなさん!
「コホンっ。……それで、虎杖君のお誕生日がどうしたんですか?」
「この世界にトリップしてきて初めての義弟の誕生日だよ? お祝いしないわけないよね!」
「初めて?」
「再会して初めてってことね!」
伏黒くんの冷静な指摘にギクリとするものの、そこは大人になって身に付けた自然な流れで言い直して難を逃れる。だあー危な! 潔高くんと話してるから気が抜けちゃうなあ〜気を付けないと。
「で、わたしの計画に是非とも伊地知くんも乗ってほしいなって思ったんですよ〜。」
「そういうことなら喜んで。私に出来ることがあれば仰ってください。」
「流石伊地知くん! 話がわかる〜! 見返りとして皆さんのお手伝い頑張りますからね!」
呪術師として任務に出るようになってからも、わたしは高専の用務員としての仕事も相変わらず続けていた。だから補助監督さん達の仕事場にもちょくちょくお邪魔しに行っている。初めこそ皆さん抵抗感があったみたいだけど、あくまで用務員として仕事をしているとゴリ押ししたら観念してくれたのだった。
おっと、話が逸れたね!
わたしのお願いに忙しいにも関わらず快諾してくれた潔高くんに〝悠仁くんお誕生日おめでとうの会〟の計画を伝える。ぶっちゃけわたしが考えたこの作戦は補助監督である潔高くんの協力が不可欠だから、断られたらどうしようと思ってたんだけど……。
「概ね承知しました。でも最後のは……」
「やっぱり無理そう?」
「無理ではありませんが、それだと納得しない人も出てくるのでは?」
「でもその日だけ何も起こらない・なんてありえないでしょ? だからこうすれば上からも文句言われずに済みますよね!」
「そうかもしれませんが……」
「わたし、どうしても悠仁くんのお祝いしてあげたいんです。そのためにはなんだってしますよ。」
「しかし……!」
「伊地知さん、何言ってもムダですよ。紬さん頑固すぎますから。」
「〜〜〜……はぁ。わかりました。善処しましょう。」
めっちゃゴリ押ししたのと、伏黒くんからのナイスアシストにより潔高くんは首を縦に振ってくれた。
「ありがとうございます! わたしも頑張りますね!」
これで計画が進むぜ〜! と喜ぶわたしを見て、伏黒くんと潔高くんがバックミラー越しに目を合わせて同時に溜め息を吐いていることなんて全く気付くことなく。
わたしは一人、一週間後に迫る悠仁くんのお誕生日に思いを馳せるのだった。
◆
三月二十日。
座学の授業を終えた虎杖は、先程まで共に机を並べていた伏黒、釘崎の二人に連れられ寮の共同スペースにやって来た。
四方から飛んでくるパイ投げ用のクリーム、弾けるクラッカーの破裂音、響く拍手のあたたかな音。大きなケーキに目を奪われ、沢山並んだ色んな種類の料理に食欲がそそられる。
しかし何より、同級生、先輩達、教師陣に、京都校の学生達。任務で関わったことのある呪術師や補助監督も揃っており、皆が全員、虎杖の誕生日を祝うために勢揃いしていた。
こんな大勢の人に一挙に祝われることなんて、一生に一度あるかどうかではないだろうか。虎杖は顔面に喰らったパイに隠れて目を潤ませる。
沢山の人から告げられる「おめでとう」は、まだ自分が生きていていいのだと思わせてくれるには十分な効果を発揮していた。
「あれ、そーいやねーちゃんは?」
ある程度盛り上がりが落ち着いて、皆それぞれ歓談しながら料理をつまんでいる光景を見渡しては、虎杖がぽつりと零す。
自惚れているつもりはないが、姉役として自分を大切にしてくれている彼女が一番騒ぎそうなものなのに、今日は声どころか姿さえまだ見ていない。沢山並べられた料理の幾つかは彼女が作ったものであることから、この会を知らないはずがない。というよりこれはきっと、彼女の計画によるものだろうということも、誰に言われずとも虎杖は理解していた。
その義姉の姿がないことに首を傾げていると、虎杖の声が聞こえたのだろう伊地知がその疑問に答える。
「『主役は遅れて登場するものだ』と言って、紬さんは到着までまだ時間がかかるようです。」
「いや、主役ってオレじゃないの?」
「ごもっともです。が、折角あの人が開いてくれた誕生会です。虎杖君は気にせずに皆さんと楽しんでください。」
それがあの人の願いでもありますし、あの人なら地を這ってでもちゃんと来るでしょうから。微笑みながらそう言う伊地知に、虎杖は少しだけ感じていた寂しさを払拭するようにかぶりを振る。
「わかった。伊地知さん、ねーちゃんが来たら教えてね。」
「はい、必ず。」
それだけ頼み、気を取り直して伏黒達がいるテーブルへ向かった虎杖の背中を変わらずの微笑みで見送った伊地知は、踵を返すと同時にやや表情を曇らせる。腕にはめた時計に目を落とし、少しだけ眉を寄せて窓の外を見遣る彼を、数人の大人達は視界に捉えていた。
◇
「これで最後! っとぉ!」
斬りつけた呪霊が霧散していく様を見届けることなく踵を返したわたしは、急いで帳を降ろしている補助監督さんの元へ向かう。
いやあ〜、流石に一日中呪いの相手ってのは疲れるね! さっきまではアドレナリンどばどば出てたから気にならなかったけど、これで終わりと思うとガクッとくるね。歳には逆らえないねほんと。
「うあー、だいぶ時間押しちゃったなあ……みんな楽しんでるといいんだけど。」
腕時計を見れば、予定していた時間より二時間も過ぎてしまっていた。まあこれはわたし自身の問題というよりかは、移動の時に渋滞にはまったりしたからその所為ではあるんだけど。せめてここから高専までは道が混んでないといいんだけど……そう思いながら、のんびりと天を仰いだ。
ら、帳の中でばさばさ飛んでいる異形を発見する。異形ってか呪いなんだけど……おいおい? 任務で聞いてた数より多いじゃんか?
「紬さん、お疲れ様です! 今帳を上げますね……」
「あー、まだ上げないでください。もう一体残ってたので祓ってきます。」
帳の端まで来ていたわたしは、待機してくれていた補助監督さんにそれだけ告げて180度身体の向きを変える。走り出したわたしの背中に「え? ちょ、紬さん!?」と慌てた様子の補助監督さんの声がかかるけど、すみませんもうちょっと待っててくれると助かります。
「あーもー! 呪いのバーゲンセールかっての!!」
もうお分かりかと思うけど、わたしが企てた〝悠仁くんお誕生日おめでとうの会〟の詳細はこうである。
・三月二十日、この日に限り呪術師に任務を割り振らないよう潔高くん達補助監督さんに頼む。
・それから悠仁くんと関わりのある人達を高専へ招待し、お祝いしてもらうよう頼む。
・代わりに、皆に振られるはずだった任務はわたしが担う。
・これが重要。上記三点を、わたしと補助監督のみなさん、それから伏黒くんだけの秘密とすること。
そんなわけでわたしは今日、早朝から呪いを祓う、移動する、祓う、移動、祓う……といった呪霊討伐弾丸ツアーを堪能しているわけである。
いやだってさあ、この世界の人達に悠仁くんのお誕生日祝ってもらいたいじゃない。所詮わたしは別の世界から来た人間なわけで、この世界にとってはそんなに重要な奴ではない。この世界の人達は死ぬまで同じ世界に生きていなきゃいけないんだから、出来ることならみんな仲良しでいてほしいじゃない。
そう思った時、わたしが裏方に徹することでみんなが悠仁くんのお祝いを出来るなら喜んで引き受けようと思ったのだ。みんなに悠仁くんが必要なように、悠仁くんにとってもみんなは大切で失いたくない仲間だろうから。
そんな人達に囲まれてお祝いされれば、きっと悠仁くんも幸せだろう。そう思ったから、わたしは今一人でここにいるのだ。
——ああ、わたしの偽者? あいつもこっちに引っ張ってこようと思ったけど、悟と傑が五月蝿そうだから置いてきたわ。だから今頃みんなと一緒になって悠仁くんをお祝いしてるんじゃなかろうか。
純粋にお祝いする分には許そう。だがしかし今回のイベントにかこつけて誘惑しようものなら黙っちゃいないぞおねーちゃんは。
「……なーんてね。もうそんな力も残ってないっての。」
——ウー……ロン……ャ
はい、なんかごちゃごちゃ説明してる間にわたくし、糸田紬はさっきの飛んでた呪いに捕まりましたー。絶賛ピンチだぜ!
くそう……一回やる気スイッチ切っちゃうと一気に身体が重くなるんだよ……と言い訳をしてみるも、これはほんとにただの言い訳でしかない。わたしが弱いのはわたしの所為なので、誰も責めようがないからとりあえず目の前の呪いに対し言いがかりをつけておく。お前も飲み物関連の言葉喋るのな! わたしが相手する呪霊飲み物に未練ありすぎじゃない!?
「あー……悠仁くん、喜んでくれたかなあ。」
幸せな誕生日になったかな? みんなと親睦深められたかな? ……笑ってくれてるかな。笑ってくれてるといいなあ。そんな事ばかりが頭の中に浮かんでは飛沫のように消えていく。
今わたしに未練があるとすれば、悠仁くんの笑顔が見られないことだなあ。そう思ってただ一言「ごめんね」と誰に向けてかわからない謝罪をしてから、わたしはゆっくりと目を閉じる。わたしを掴む呪霊の腕が動いて、喰われる…——そう覚悟した直後。
ドパァンッッと何かが弾け飛ぶような音の後に大量の液体が頭上から降り掛かってきて、わたしの頭からつま先までをびっちゃびちゃに濡らした。
「……は?」
「何してんの、オマエ。」
予想だにしない展開に尻もちを着いたままぽかんとするわたしの目の前に立つ、一人の男。
その男にも同じように呪霊の血液だか体液だかが降り掛かっているはずなのに、寸でのところでその動きは鈍くなり男の身体に触れることなく振り払われていた。
「さ……五条さん……」
くっそいいなその術式! と腹の中で叫びながらも口から出すのは「何でここに?」という質問だけにすると、悟は——わたしが呆けている間に誰かへ電話をかけ「見つけた」「結構やばめ」「とりあえず着替え用意しといて」と話してからぶちりと電話を切っていた——それが気に喰わなかったのかますます機嫌を損ねていくような気がした。
いや、わたし当然の質問しただけだよね? 別に間違ってないよね?
「コソコソしてた伊地知を問い詰めたら、オマエだけ任務で高専離れてるって聞いたんだよ。」
「はあ、」
「なあオマエ何やってんのホントに。一人で任務請け負うとかバカかよ?」
「や、だって、」
「ア?」
「だって、みんなには悠仁くんのお祝いをしてほしかったから。」
呆けた心のままに、思ったことを口にすると、悟は何か言いたげに口を開いたものの結局言葉にはせずに盛大な舌打ちをかますだけに止めた。いやそれだって失礼だからな? と思い睨みを利かせていると、悟は苛立たしげに自身の頭をガシガシと掻いていた。
「そんな風に思う割に、オマエは悠仁の誕生日を自分の命日にするつもりだったわけ?」
それで悠仁が喜ぶとでも思ってんの? と諭されて、ハッとする。幾ら役とはいえ、今のわたし・糸田紬は悠仁くんの義姉なのだ。悠仁くんにとって近しい位置にいるわたしに何かあったら、優しいあの子のことだ、きっと無駄に胸を痛めてしまうに違いない。
それはつまり、わたしが悠仁くんを泣かせるということになる。
「それはゴメンだわ。」
「やっと自覚したか。」
目からウロコ状態のわたしを見て、悟は呆れたようにわざとらしい溜め息を吐く。それからわたしの腕を掴んで無理やり立たせた。
「僕の大事な生徒、泣かせないでよね。」
そう言う悟は、立派な〝先生〟に見えたのだった。
◇
それから悟の術によって高専へ瞬間移動で戻ったわたしは、待機していたらしい硝子の診察とお小言を受けてからシャワー室に放り込まれた。
呪力を使い切っていて正直すぐにでも寝たいけど、わたしには今日中にやらねばならない事が一つだけ残っている。それを遂行せねばならないのだ。
急いでシャワーを浴びて着替えて、髪もろくに乾かさないまま寮へと走る。そして会場となっている共同スペースに辿り着くなり「悠仁くん!」とその名を叫んだ。
「あ! ねーちゃん!」
わたしの脳内フィルターが、勝手にそう写しただけかもしれない。それでも確かに悠仁くんは、さっきまでのどこか浮かない顔からパッと灯りが点いたような明るいものに変わった気がしたんだ。
——ああ、わたし。生きてて良かった。
みんなの注目が集まる中、わたしは悠仁くんの元へ早足で突き進みその勢いで抱き着く。悠仁くんはびっくりしたみたいだったけど流石は体幹のいい男の子、難無く受け止めてくれて同じように抱き締められた。
「悠仁くん、遅くなってごめんね!
お誕生日おめでとう!!」