28、傑姫救出作戦の巻
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この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
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※※※
・呪術、呪霊などなど設定捏造、オリジナルでーすよ。
・五条と偽者によるイチャイチャシーンがあります。それとない描写があるので、お読みになる際はご注意ください。
・思いがけない急展開で作者もびっくり。
作戦決行の日。
集まったメンバーの中、特に作戦の肝となる二人のテンションの違いに一同やや引き気味だった。
かたや、つやつやの男・五条悟。
かたや、心做しかげっそりの女・糸田紬。
昨日の一昼夜を共にしていた二人の間に何かあったことは明白だったが、それを聞くのも野暮というもの。というより触れたら最後な気がしたので、大人組は敢えて気付かないふりを貫くことにした。家入硝子のみが、ゲラゲラと笑っていたが。
「おわっ! ねーちゃん大丈夫??」
「ゆ゛う゛じぐん゛!!!」
後から合流してきた虎杖悠仁の背中にひしっと張り付いては、彼の制服に皺が寄るのも厭わない様子でしがみつく。義姉のただならぬ様子に、セコムである義弟は自分の担任をじっとり睨み付けた。
「……先生、ねーちゃんに何したん?」
「ヤダなあ悠仁、何もしてないよ。一日中ずーーーっとくっついてただ・け♡」
きゃるん、と可愛く言っているが、みなさん考えてもみてほしい。アラサーの190cm超えのゴリラ男がそんなことを言っても全く可愛くないと思いませんか。
「紬がたっぷり呪力をくれたお陰で、最強が更に最強になった気分。負ける気がしないね。」
「その代わりねーちゃんからの信用は地に落ちてる気がすっけどね。」
虎杖の冷めた返しにも今はダメージを受けないのか、上機嫌の五条悟は「じゃあ頑張ってくるね〜」と言って踵を返す。これから一人、すべての元凶の元へ単身乗り込むというのに、その背中はいつもより頼もしく見えたとか何とか。
◇
「こほん。では気を取り直して、みんな今日はよろしくね。」
「ねーちゃん大丈夫?」
「呪力根こそぎ持ってかれたけど大丈夫よ〜。今頑張って生成してるから。」
「それ、オレに寄りかかってない方がいいんじゃねーか?」
「いーのいーの。勝手に流れ出ちゃう分は負担かからないから。」
むしろパンダチャージしないと心が死ぬ。と真顔で言うわたしに、パンダはもう何も言わなかった。みんなも何も言わなかった。察してくれてアリガトウ。
「潔高くん、人払いは大丈夫かしら。」
「既に完了しています。学生達も皆さん任務で出払っていますので、巻き込まれる危険はありません。」
「ありがとう。夜蛾さん、なるべく穏便に済ませる予定ですが……」
「万が一戦闘になった場合の被害は気にするな。高専内であればどうとでもなる。」
「ありがとうございます。硝子とパンダはわたしについてきて。」
「煽るのは任せろ。」
「オレはあくまでオマエのセーブポイントなんだな……」
「ふふ〜、頼りにしてるよ。……で、建人と雄、悠仁くんは近くで待機ね。わたし達だけで対処しきれない数の呪霊を傑が出してきたら、突入お願い。」
「わかりました。」
「すぐに行きますから安心してくださいね!」
「……」
建人と雄からは快い返事を貰えたものの、悠仁くんからは無言の否定が返ってきてしまった。これまで基本的に従順だった悠仁くんの初めての反抗に、微笑ましくなってしまうのはわたしだけだろうか。
「悠仁くん。」
「……オレ、ねーちゃんと一緒じゃダメ?」
だってこの子がごねる理由は、自惚れ上等、大半がわたしのことなんだもの。
「悠仁くんが隣にいてくれたらすごく心強いよ。でもわたし達が一緒だと、明らかに何か企んでるってバレやすくなると思うんだ。」
傑の中の認識でも、悠仁くんはわたしの絶対的味方って位置付けだと思うから。まるで言い聞かせるような口調になってしまうのは、もはや仕方のないことだ。
「だから悠仁くんには、離れた場所で、客観的な立場でわたしと傑の様子を見ててほしいの。何か異変があったら、それにいち早く気付けるように。すぐに動き出せるように。」
拳を握る悠仁くんのに触れて、一本ずつ指を解いていく。
「隣にいなくても、絶対守ってくれるって信じてるから。……だから、悠仁くんに頼みたいんだ。」
そして開いた手を両手で包み込んで、温度を共有する。「だめ?」そう聞くと、ややあって悠仁くんはへにゃりと力の抜けた笑顔を浮かべた。「ずりぃ」って言われたけど、何がだろうか。
「はーーー……もうオレ情けねえ。わがまま言って」
「え、むしろ悠仁くん甘え下手だからもっと来てほしい。」
「ねーちゃんも下手くそだよな。」
「え、そう?」
わたしめっちゃ悠仁くんに甘えてると思うけど。首を傾げてこれまでの自分の行動を思い出していると、ぎゅぎゅっと手を握り込まれる。
目を閉じた悠仁くんはしばらくそのままでいたけど、やがてパッと目を開ける。
「——うん、もう大丈夫。ナナミン達と行くね、オレ。」
いろいろな感情を、自分の中でうまく昇華出来たようだった。その切り替えの速さ、見習いたい。
「ねーちゃんは、夏油先生に集中ね。呪霊のことはオレらに任せて。」
「わかった。任せる!」
元気よく返事をすると、いつもの明るい笑みを浮かべながらも名残惜しそうに手が離れていく。
それにほんのちょっとだけ寂しいと思ってしまったけど、決して表には出さないようにした。
……義弟の自立はめでたいことなんだから! ぐすん。
「オマエら、本当の姉弟みたいだな。」
「ん?」
持ち場に向かうみんなを見送っていると、硝子が不思議そうにしながらそう言った。寄りかかっているパンダも、わたしの頭上でふんふんと同意するように首を縦に振る。
その振動を感じながら、わたしはのんびりと「そうだねえ……」と口を開く。
「きっと、お互いしんどい時に出会ったから。支え合うにはぴったりな相手だったのかもしれないね。」
それが悠仁くんにとって良かったのかは、正直わたしにはわからない。
でもわたしにとっては、悠仁くんの存在にはすごく、すごく救われているんだよ。
「縁。オマエ、もしも夏油と五条の催眠が解けて〝紐束縁〟に戻れたらどうするんだ?」
硝子に、久しぶりに本当の名前で呼ばれる。
それに違和感があると伝えたら、硝子とパンダはどう思うのかな。
「んー、どうしようねえ…——とりあえず、無事に姫を助け出したら考えようかな。」
今、大事なのは傑を助けることだ。言外に言ったわたしの気持ちは伝わったようで、硝子は「そうだな。」と返すだけだった。
「よーし、じゃあわたし達も行こうぜ。傑姫の奪還じゃー!」
「姫で通すのか。」
「ぶはっ!!」
◆
硝子が傑を呼び出した場所へ向かうと、そこには既に目的の人物がいた。周囲にあの女の姿がないのを確認して、悟はちゃんと仕事をしてるようだ……と内心で感心しながら、わたし達は傑の前に躍り出た。
「……成程。」
「!」
「声が……!」
傑がわたし達を見留めると、頭に直接響くように傑の声が聴こえてくる。それはわたしだけではなく、硝子やパンダにも同様みたいだった。
「硝子からの呼び出しなんて何事かと思えば、そういう事か。」
「約束通り、一人で来たんだな。ちょっと意外だったよ。」
「縁は今、悟と一緒にいるからね。あの子の邪魔はしたくないと思っただけさ。」
「随分寛大だな。オマエはもっと束縛するタイプだと思ったよ。」
「そうしたいのは山々だけど、縁がそれを望まないからね。仕方のないことだ。」
「……オマエ、そんなタイプ?」
「わたしは一途です!」
あんな尻軽女と一緒にしないで! と、硝子と傑の舌戦を見ながら聞いてきたパンダに鼻息荒く答える。でもちゃんと小声だから安心してほしい。二人の邪魔してないから!
「今の悟は少し揺らいでいるようだけど、じきに理解するさ。そこにいる浅ましい女より、縁の方が良い女だってね。」
「! オマエ、五条のこと知ってたのか。」
「毎日あれだけ騒いでいれば、嫌でも耳に入るさ。縁を悲しませたくないから、誤魔化すのに大変だったよ。」
「……そりゃどうも?」
貼り付けた笑みをわたしに向けてきたことで、傑の標的はわたしに移ったらしい。だから首を傾げながらそう答え、パンダに背中から降ろしてもらい傑と真っ直ぐ向き合った。
すると傑は、おもむろに自分の隣に1体の呪霊を出現させる。警戒するふたりに対し見たことのある呪霊に一人で目を丸くしていると、今まで頭に響いていた傑の声が今度はその呪霊から聞こえてきた。
「本当に貴女は、縁の邪魔ばかりするね。」
間違いない。わたしが本殿で逃がした呪霊だ。
「そう言われましても……あの人がつっかかってくるから、いなしてるだけですよ?」
これは本当だ。わたしからちょっかいをかけた覚えはないぞ。
「私の中では、貴女の方がよっぽど尻の軽い女に見えるよ。随分と色んな人間を手懐けているじゃないか。」
「人誑しの夏油さんには負けますよ。」
これも本当。学生時代の傑は、その物腰のやわらかさと確固たる意志を持っていて、それに見合った実力もあった。そんな傑に惹き付けられる人間は多かっただろう。
「それに、わたしがみんなを手懐けている風に見えるのは、みんなが優しいからですよ。わたしがどうのっていう話じゃない。」
「いや、紬もだいぶ人誑しだよなあ。」
「自覚のある夏油の方がまだマシだな。」
「ちょっと後ろの人たち〜? 敵の援護射撃するのやめな〜??」
話が進まないから! それにわたしのことそんな風に思ってたの? 地味にショックなんだけど??
と意識が逸れそうになったものの、傑が皮肉そうに笑みを浮かべたことで再度集中する。
「昔の縁も、そうだった。」
そう喋る呪霊の……傑の声は、どこか嘲笑めいていた。
「今の縁は、昔とまるで違う。愚かで愛しい子だ。」
おん? なんか普通にディスらなかった今??
「時の経過がそうさせたのかな、縁は関わる人間を限定しているんだ。そこに入れた私はなんて幸せか……選ばれたことがとても嬉しいと思うよ。」
呪詛師にまで堕ちた私を救いあげ、受け入れてくれたあの子に私は自分の全てを差し出すと誓ったんだ。
言葉だけを聞くと、随分とまあ狂愛じみてるなあと思うけど、言葉とは裏腹に傑の表情はどこか浮かないものだった。まるで自分に言い聞かせているような風に感じたわたしは。
「それ、本心からの言葉ですか?」
「……なんだって?」
「夏油さん、わたし貴方に聞きたいことがあるんです。」
一度躊躇って、でもすぐに意を決して、傑に問いかけた。
「貴方にとって、紐束縁とはどんな人間ですか?」
それは、ずっと気にかかっていたことでもあった。ぶっちゃけ傑が〝紐束縁〟という名の人間ではなく、成り代わりであるあの女自身のことを好きなのだとしたら、正気を戻すにしても催眠を解く必要はないだろうと。
いや、そもそも解き方わかんないんだけどさ。
呪詛師になった傑をこっちに引き戻したのはあの女の唯一の功績だろうし、その唯一に関わりの深い傑がころっと落ちる可能性だってなくはないし。
でももし「紐束縁だから」と言う理由であの女を好きなのだと錯覚しているなら、やっぱり覚ましてやる必要はあると思うのだ。だってそんなの、どう考えたって傑がかわいそすぎる……何の感情も——いや、せめて友情くらいはあってほしい——ない人間のことを好きと勘違いし続けるなんて不憫でしかないし。誰も幸せになれないだろう。
だから、傑の本心が知りたいと思ったんだ。その返答次第で、今後のわたしの身の振り方も変わるしね。
ただこれ……ご本人が聞くのってめっちゃ気まずいの!! みんなわかってくれるよね!?
だってこれ「傑ってわたしのこと好きだったの?」って聞いてるようなもんだからね?? わたしそんなに自分に自信があるわけじゃないからね?? むしろ年とともに卑屈さを重ねてるからね!!
……ごほんっ。
「どんな人間か……」
「彼女が昔と変わったというなら、夏油傑という男は今と昔、どちらの彼女が好ましいと思うのですか?」
まあそれを聞けるのも、傑に自我があると思ってのことだ。きっとあの女に操られるといっても、言動の全てを操れるわけじゃないんだろうと当たりをつける。でなけりゃここまで会話は成り立たないだろう。
「貴方の気持ちを無碍にするつもりは無いんですよ、わたし達。誰を好きになろうがその人達の自由ですから。でもその感情を操って、利用するのは不誠実だ。」
相手にとっても、相手のことを大切に思う者達にとっても、それは侮辱である。
「貴方は、貴方の全てを操られるほど弱い人間ではないはずですよ。」
だからわたしは、わたし達は、あの女が許せないのだ。
「……私は——…」
傑が何かを言おうとした途端、頭を抱えて苦しみだした。その異変に駆け寄ろうとするもパンダに腕を掴まれ、その場から傑の様子を見ていることしかできず。
「私……わた、シは……」
傑の声で喋っていた呪霊も、ぶるぶる震えさっきまでの流暢な話し方じゃなくカタコトになっていく。
「……抵抗してる?」
「かもしれないな。オマエの言葉が届いて、夏油が自分の異変を感じ取ったのかもしれない。」
「わたしなんかの言葉でも、届く隙間があったのは幸いだったね。」
身を削った甲斐があったわ。主に精神面だけど。そう言うわたしに硝子は何か言いたげだったけど、傑が叫んだことで一斉に顔を前に向ける。
叫びに反応したように、傑の周囲に複数の呪霊が出現していく。どれも等級が高そうで、それでいて——あの女の呪力をひしひしと感じて。
「こ、ロス。コロス、おんナ、」
「ちょいとヤバそうだな……紬と硝子は下がってな。」
「うん。——みんなに任せるよ。」
パンダの言うことを聞いて後ろに下がるわたしと硝子と入れ違いで、颯爽と呪霊に向かっていく二人の呪術師の背中。
そして。
「行ってくんね、ねーちゃん。」
「うん、気をつけてね。」
ハイタッチをしてから遅れて向かっていく義弟の背中に、今までにない頼もしさを覚えたのだった。
◇
悠仁くん達が呪霊を相手にしている間、わたしと硝子は傑に近付くチャンスを窺っていた。
「混乱してる今ならいけるかな?」
「油断はするな。操られてても特級だからな。」
「それなー。」
四人がかりだというのに祓っても祓っても次々出てくる呪霊に、どんだけ取り込まされてたんだと内心あの女に対し怒りを抱いていると、ふらふらと覚束無い足取りで傑がこっちへ歩み寄ってくる。
悠仁くん達には引き続き呪霊を相手してもらうよう合図をして、硝子の前に立って傑と向き合い、揺らいでいるその瞳としっかり目を合わせて……ああ、もしかしたら今になってようやく、傑とまともに目を合わせたかもしれない。
「……私は、縁に救われた。」
いつの間にか件の呪いを祓っていたらしい。傑の声は、本人に戻ってきていた。
「縁は、言ってくれたんだ。『嫌いなものは嫌いなままでいい』って。その言葉があったから、私は……」
「……!」
覚えがある言葉だった。高専三年の夏、わたしが元の世界に戻る数日前。思い詰めたような傑に対して、〝わたし〟が言った言葉。
自分の放った言葉が、誰かの支えになっていたなんて。嬉しいようでいて……烏滸がましいとも思った。
「夏油さん、貴方が大切にしているその言葉は、本当に今の彼女から言われた言葉ですか?」
「……違う。縁はただ『おかえり』と言って抱き締めてくれた。」
もう傍から離れないでと、一緒にいてと、あたしが助けたその命を、これからはあたしを助けるために使ってと。
傑の口から溢れ出る言葉の数々を、脳内であの女に喋らせてみる。……うん、あの女なら言いそうだ。脳内では涙目+上目遣い+あの巨乳を押し付けながら言うシチュエーションが余裕で再生された。ハイハイ、美人は得ですね〜それで男はころっと落ちるんだもんね〜〜ペッペッ!
「……確かに貴方を救ったのは、彼女なんでしょう。彼女に恩があるのもわかります。でもそれが、貴方の全てを差し出す理由にはならない。」
夏油傑の中で、〝紐束縁〟とはどんな人間?
『嫌いなものは嫌いなままでいい』と背中を叩く人間か、
『自分のためにその命を使え』と恩着せがましく言う人間か。
「ちなみにわたしの知る紐束縁は、誰かを隷属させるなんて考えてすらいない。他者と対等でいたくて頑張って背伸びしてるような、そんな女ですよ。」
だからいい加減にさあ、傑。
「ちがう、縁は、あの子は…——あの子が、ちがう?」
「目を覚ませって話だよ!!!」
そんなわたしの叫びとともに、ゴィンッと鈍い音が周囲か、はたまたわたしの頭の中だけか、わからんけどとにかく響き渡った。
え? 何したかって?
悠仁くん直伝の頭突きですけど??
え? 相手がなんか言ってたって?
…………。まあ、やっちまったもんは仕方ない! うん!!