25、囮
name
この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※※※
・呪霊、呪術に関したことは捏造とオリジナルです。
あたしは、神様に選ばれた人間なの。
その神がどこに行きたいか?って聞いてくるから、迷わず「呪術廻戦の世界がいい!」って答えた。
転生じゃなくトリップが良いとお願いしたのも、その方が手っ取り早く推しのキャラ達に逢えるからだ。
問題は、異世界トリップのことをキャラ達にどう納得させるかということだったけど、その世界ではかつて、あたしと同じようにトリップした人間がいたらしい。しかも原作から昔、さしす組がまだ学生だったあの時代に、同級生として。
その女は今元の世界に帰っているから、その〝席〟が空いたままなのだと神は言った。もしその女として呪術廻戦の世界に行くなら、最初の面倒なイベントは省略・仲良しの設定から始められると。
まるであたしのためにお膳立てされたようなポジションに、笑いが止まらなかった。どっかの誰か知らないけど、めんどいレベル上げサンキュー! とお礼を言いたいくらいだ。あたしは迷わず、その女に成り代わると即決した。
神は言った。
「あちら側の人間全員に成り代わりだと気付かれたら、強制送還する。」
正直、楽勝だと思った。あたしがその女だとバレないように『設定』を加えればいいだけの話だし、それに関して神はNOとは言わなかった。だから思うままに、あたしに有利になるよう設定を加えていった。
・あたしのことを、前にいたトリップ女だと信じて疑わないこと。
・過去の記憶や記録も、全てあたしに書き換えること。
これは大前提。
・呪術師だけど、呪霊とは戦わなくていいよう特別免除されていること。
だってそんな簡単に死にたくないしね〜。
・五条悟ら推しキャラ達は、あたしのことが好きで好きでしょうがないようにすること。
夢にまでみた逆ハーレム! これくらいの楽しみがないとね!
大体こんな感じかな? これが常識改変ってやつか〜と思えばまるであたし自身が神様になったような気がして、気分は最高だった。
そうしてあたし——紐束縁は、呪術廻戦の世界に飛んだ。
正直成り代わりの女の名前がダサくて神に一言文句言いたかったけど、こればっかりはしょうがない。
飛ばされる際に、その女の名前やこの世界でどんな立ち位置だったかを見せられたけど、ぶっちゃけどうだっていいと思った。
どれだけ好きに動いたって勝手に過去との擦り合わせはしてくれるんだし、わざわざあたしが過去に倣うことはない。
だってこれからはあたしが紐束縁、あたしが中心で世界は回るんだから!
——そう、思ってたのに。
「どういうことよ! どうして〝本物〟の紐束縁がまたこの世界に来てるのよ!!」
はじめこそ気付かなかったけど、糸田紬と名乗るあのトリップ女がウザったくて嫌がらせを続けていた時、神に見せられた記憶とそっくりの状況になったことがあった。
それがあの、猫を殺してプレゼントした時だ。その報復に来た女が容赦なくあたしを傷付けるその姿と、昔この女が同じようなことをしてる姿がダブって見えて、しかも女は知らないはずの紐束縁のことをなんだかベラベラ喋ってて。
もしかしなくても、この女が紐束縁本人なのかと思った時には焦った。
思ってすぐに気を失って、でも失った先でそう叫ぶあたしに、神は言った。
これは、あたしに与えられた試練なのだと。
「試練……!?」
本人が現れてもあたしが紐束縁として、気付かれずに過ごしていけるか試したのだという。
「……それで、どうなったというわけ……!?」
あたしの問いに、神は答えなかった。
「まあいいわ。今回の事であの女もタダじゃ済まないでしょ。精々痛い目見るといいわ……ホントは、死んじゃえばいいんだけど。」
ハ、と嘲笑うあたしに対し、神は聞く。
「もし死ななかったら? …——そうねぇ。せっかく呪術廻戦の世界にいるんだから、呪霊に無惨に殺されても文句は言えないよねぇ?」
そのための用意は、万全にしておいた方がよさそうだ。
神はあたしの願いを聞き入れてくれた。数々の呪霊を出してくれて、それにあたしの呪力を流し込めば意のままに操ることができると。
この世界のキャラに対しても、『設定』に加えてあたしの呪力を必要量流し込めばある程度操ることはできるらしい。
あたしの呪力を渡せるのは、今のところ五条悟と夏油傑の二人だけだが……最強二人が揃えば十分でしょ。
二人は未だあたしにぞっこんだし、今回あたしが傷つけられた事であの女のことを恨んでさえいるはずだ。もし呪霊で殺すことができなかったとしても、あの二人が殺してくれるに違いない。
あの女さえいなくなれば、あたしが成り代わりだとバレる心配はもうない。神から与えられた試練とやらをクリアして、今度こそあたしにとって最高で幸せな日々を取り戻してやるんだから!
◆
「夏油さん、本人から呪力譲渡されてる以外に、あの人の呪力こみこみの呪霊、取り込んでたりしないよね……?」
最悪の事態を想定してしまったわたしの言葉に、反論する声は挙がってこなかった。それが逆に全ての答えのような気がして……はは、ぞっとしないね。
「五条さん。わたしの力は貴方の呪力の底上げになっていますか?」
「……そうだね。だいぶ楽になったよ。」
「そうですか。それは良かったです。」
そしてそれは、わたしのやるべき事が出来たということでもあった。
「もし夏油さんが、あの人に操られるようなことがある場合……彼から呪霊を取り除くか、わたしの呪力を流し込めば。彼を正気に戻すことが出来るかもしれない。」
◇
——翌日。
呪術師として復活したわたしは、早速任務へと赴いていた。
「今日もよろしくね悠仁くん!」
「オレとねーちゃんなら余裕っしょ!」
2級になったわたしは、等級的にいえば単独任務に出ることが出来る。でもまだ怪我が万全じゃないっていうのと、秘密の作戦のために複数人で臨んだ方がいいだろうという判断から、悠仁くんに招集をかけたのだ。
それと——
「それにまあ、最強僕もいるしね! 二人とも何の心配もいらないよ!」
「あははは……どーぞよろしく……」
その作戦のため、今回は悟も一緒なのです。乾いた笑いが零れちゃうのは仕方ないよね〜アハハハ。
「でも先生はあくまで監督としてでしょ? ねーちゃんとオレがメインなんだから黙って見ててくれればいいから!」
「仲間外れは良くないよ悠仁〜。紬もホラ、まだ完治したわけじゃないしね!」
そして何でかわたしは、悠仁くんと悟の間を行ったり来たりしてるんだよね〜〜〜謎! いい加減頭ぐらんぐらんしてきたよ〜!
「それに僕、ちょっと嫌な呪力に充てられちゃって気分悪いんだァ〜。くっつきながら紬に上書きしてもらわないと困っちゃう。」
「……先生さ、いつの間にねーちゃんのこと名前で呼ぶようになったわけ? っていうかなんでそんなに仲良くなってんの? 首絞めるくらい嫌ってたのに。」
「大人にはイロイロあるんだよねえ〜。」
「ねっ? 紬。」と何故か笑顔100%の悟と、「ねーちゃんどういうこと?」と拗ねモード100%の悠仁くんに同時に覗き込まれたわたしはひくり、と頬を引き攣らせる。
……そうだ、そうだった。悠仁くんってまだ、悟がわたしにしたこと(※首絞め)許してなかったんだっけ〜!!
「……人選、間違えたかな?」
身体を揺すられながら左右からあーだこーだ言われる声はシャットダウンし、潔高くんが合流するまでの短い間、わたしは虚無でいることを決心した。
『私は反対だ。』
美しい顔を顰めて、硝子は吐き捨てた。
『夏油が操られているかもわからん今、オマエが囮になる必要は無いだろう。』
これは昨日、三人しかいない地下での話の続きだ。
『でもさあ硝子。まずはあの人の目的をハッキリさせるのが大事だと思うよ?』
『そんなの言われんでも分かる。オマエを追い出したいか殺したいかのどちらかだろ。』
『まあわたしもそう思うけど、それを確認するためというかさ! ほら、五条さんにも一緒に来てもらえば安心……』
『それに私は、そこでヘバッてる五条のことも100%信用しているわけじゃない。まだアイツに惚れてると宣っている限り、紬のことは任せられない。』
ですよねー!
硝子の言うことは尤もである。ついこないだまでクソめんど……いや、一番厄介な敵ポジションにいた悟があっさり手のひら返すようにしてわたしに接してるんだもん。硝子の反応が正しいというものだ。
『五条がアイツに操られて、今ここにこうして居るのかもしれないだろ。』
『酷いなー硝子。僕を疑うの?』
『……オマエ今までの自分の身の振り方を思い出せよ?』
『そんな簡単に信じられるか』『そんなあ』とやいやい言い合う二人を余所に、わたしは一人熟考する。いつだかの夜にももし悟が演技をしてたら〜って考えたことがあるけど、実の所冗談でそう思っただけで、今の悟が本心本音本物なんだろうなあって思っている。そりゃ未だ催眠も解けてないし、寝返る危険性はあるけどあの女の呪力を受け付けなくなってるのは本当っぽいし——あ、
『五条さん、謝ってくれたんですよ。』
ぴっ、と人差し指を立てて発言したわたしの声に、一人はきょとんと、一人はまるで天変地異の前触れでも知ったかのようなお顔で『…………はぁぁ???』と声を大にして驚いていた。そんなお顔も美しいなんて世の中不公平だわマジで!
『紬、マジか、コイツが?』
『マジマジ。』
『この天上天下唯我独尊、100%悪くてもぜっっっったいに自分の非を認めないコイツが??』
『そうそう。七海くんが後で大切に食べようと思って取っておいた地域・個数限定の爆発的人気の惣菜パン食べちゃって、ガチ切れの七海くんに三時間追いかけ回されても絶対謝ろうとしなかったっていう五条さんが。』
『待って、何で紬そんな昔の話知ってんの。』
『七海くんから聞きました。』
本当はその追いかけっこの一部始終を硝子と見てゲラゲラ笑ってたんだけど。まあそんなこと言えるわけもないので、『五条さんと接するにあたって気を付けること、の教訓として話してくれました』とけろっと言えば『アイツまだ根に持ってんのかよ』とぶうたれていた。建人スマン。根に持つタイプだと思われちゃったわ。
でも硝子には効果抜群だったみたいで、今度は硝子が考えモードに突入。その結果、まだまだ認めたわけではないけどひとまず信用はしてくれたみたいだった。
『あの五条が謝るなんてな……。六割くらいは信用してもいいか。』
『みんな何なの、僕のことキライなの?』
『日頃の行いじゃないっすかねえ。』
べちんっとデコを叩かれた。ちょ、失礼じゃないかなあ!?
『と、とにかく! あの人の呪力を取り込んでも、本人の呪力を底上げしてあげれば何とかなるみたいだし! 夏油さん救出のためにも、わたしが動けるに越したことはないよ!』
狙われてるにしろ、その呪霊全部祓っちゃえばわたしの安全も保証されるし! と最終的にはゴリ押しして硝子を説得し、リハビリも兼ねて今回の任務が組まれたというわけだ。
『……紬にとっては、傑は比較的嫌いになってもいい奴だよね。なんでそこまで思えるの?』
『え? だって硝子と五条さんの大切な仲間でしょ? それなら助けるよ。』
それにわたしにとっても、傑は大事な友人なんだから。とは、言えないけどねえ。
「じゃあオレが家入さんに渡した呪霊って、元はねーちゃんを狙ってたやつかもしんないってこと?」
今回の任務に至るまでのいきさつを悠仁くんに説明すると、彼の大きな目がくくっと吊り上がるのが見て取れておう……となる。
でもこれは心配からの怒りなんだってことは、これまでの経験からよーくわかっている。優しい義弟は、それ故に怒りも隠さないでぶつかってきてくれるのだ。
「しかも、あの人が操ってるなんて……」
「そんなことが可能なんですか?」
悠仁くんの言葉を拾った潔高くんがバックミラー越しに後ろにいるわたしを見て、心配げな表情を浮かべている。そんな二人を安心させるように、わたしは笑って見せた。
「可能だと、わたしは思ってるよ。」
「それなら尚更、他の方にお任せした方がいいのでは……」
「うーん、でもそれでみんながこれ以上怪我するのは嫌だし。万が一夏油さん以外の人が操られる可能性を潰しておきたいの。」
その為には、わたしがその呪いを相手にした方がいい。そう思ったのだと告げれば、不思議そうな顔をした潔高くんが「では何故、五条さんと虎杖君と一緒に?」と聞いてくる。
ふふん、その問いには確信を持って答えられるよ。
「二人とも、あの人の呪力を嫌ってるみたいだからね!」
悠仁くんに至っては、悠仁くんというより宿儺があの女の呪力を毛嫌いしてるからね! 言質は取ってあるよ! 言えないけど!
「もしあの人の呪力を感じる呪いが現れた時、すぐに気付けるでしょ? ヒトって嫌なものに対しては敏感だから。その呪いをわたしが相手にすればいいかなって!」
これが複数人で臨む理由だ。今回の任務は元々呪霊の数が20体くらいいると言われている場所だし、何よりわたしが任務に就くとあの女の耳に入るように吹聴もしてある。必ず仕掛けてくるだろう。
「その代わり、普通の呪いは悠仁くん達にお任せしちゃうことになるけど……」
「そういうことなら任せて! むしろオレは、ねーちゃんに頼ってもらえて嬉しいから謝んないでいいよ。」
「今度はちゃんと、守るから。」と静かにやる気を漲らせている悠仁くんの目を見て、まだあの事件の時を気にしているのかなと思った。わたしがあの女に何かされるとわかっていて離れてしまったことを、悔いているような。
だから安心させるように。悠仁くんの手を握り、そこに額をくっつけた。
「……ありがとう。よろしくね。」
本当は自分の身を案じて任務に臨んでほしいけど、気にかけてくれるのはやっぱり嬉しい。だから諭す言葉ではなく、素直にお礼を言うに留めた。
「……え、何後ろの義姉弟。アレが普通なの? 距離近過ぎない?」
「はあ。再会した当初からあんな風でしたが……」
「ふうん?」
おいコラそこ。特に助手席の男。義弟とのほのぼのタイムを邪魔するんじゃない。ジャンケンに負けた自分を恨むんだな!
なんて思っていると、耳元に顔を寄せてきた悠仁くんからこっそりと内緒話が。
「……ねえ、〝アレ〟でホントーに催眠解けてないん? 先生。」
「らしいよ〜。解けてたらわたし達のこと義姉弟って言わないだろうしね。」
「それもそっか。……う〜〜〜ん、まだ釈然としないけど、ねーちゃんがそう言うならオレももう何も言わないよ。」
「ふふ、ありがと。さすが悠仁くん。」
「でも、許したわけじゃないから。」
え、と思った時には悠仁くんのお顔は既に離れていて、にっといつもの明るい笑顔を浮かべている。
「頑張るからね、オレ!」
「う、うん??」
その笑顔に絆されわたしもつられて笑うものの、頭の中ははてなでいっぱいだった。
なんかさっき、ほっぺたに当たったような気がしたけど……まさかね。
この時、一瞬の間に。
悠仁くんが悟に見せつけるようにわたしの頬にキスを落としたことも、それを見ていた悟が目隠しの奥で眉を潜めていたことも。
二人の間に走る目に見えない火花に潔高くんが震えていたことも、にぶちんのわたしが気付けるはずもなかった。
◆
「では皆さん、お気をつけて。」
「伊地知くんも気を付けてね。」
車を降りて、わたし達三人は鳥居を潜り、潔高くんは鳥居の前に立ち帳を降ろす。薄暗くなってくる周囲を見渡しながら階段を昇っていると、するりと悟に右手を取られた。
「……あの、何すかこの手。」
「言ったでしょ? 出てくる前に縁から呪力貰ってしんどいの。」
「好きな人から呪力貰ってしんどいって、よく考えなくても矛盾がすぎる……無下限は発動しないんですか?」
「縁から殺意は感じないからね。術が発動する条件下じゃないみたい。」
「そんなに辛いなら条件変えて弾いちゃったらどうです?」
「それやったら、僕がこうやって秘密裏に動いてるのバレちゃうでしょ。これは紬の為でもあるんだよ。」
「はあ……どうも?」
「誠意がこもってなーい。」
罰としてこうね、と言いながら悟は指を絡ませ恋人繋ぎをしてきた。くっ……こいつわたしの右手が万全じゃないのわかった上でやってきてるな……! 抵抗しようと腕をぶんぶん振っても全く離してくれる気配はなく、むしろ「なーに、そんなに嬉しいの?」とそりゃもう楽しそうな声で言われてしまえば真逆の心持ちのわたしはすん、と虚無になる。しかも「僕がいざと言う時動けなかったら、困るのは紬でしょ」なんて言われた日にゃあ、抵抗することも憚られるというわけで!
そうなのだ、万が一にも頼みの綱である特級様が呪いを祓えないなんてことがあれば、わたしだけじゃなく悠仁くんにまで危険な目に合わせるということ。それだけは避けねばならないと思えば、悟の身体からあの女の呪力を打ち消しとくに越したことはないわけで……!
「……第一、前までは普通に受け入れてたんですよね? なんで急にダメになったんですか。」
諦めと、以前からの疑問を溜め息と共に吐き出しながら聞くと、悟は「うーん、そうだね〜……」なんて言いながら空を見つめる。
「麻薬って言うくらいだから、一度絶ってもまたすぐに依存しそうですけど。」
「何でかなあ。僕にもこれといった答えはまだ分からないんだけど。」
「他に依存するものが出来そうだから、かな?」
「……ふーん? 良かったですね?」
空を見上げたままの悟の答えがなんか意味深に聞こえたけど、然程興味もないので深く聞くのはやめておくことにした。
こんなのんびりしてるけど、今は任務中なのだ。集中すべきは悟の話じゃないのである。
結局恋人繋ぎは、呪霊と鉢合わせるまで繋がれたままだった。
◇
悠仁くんと悟と分かれ、わたしは一人で本殿の中にいた。囮作戦なうである。死語。
これまでの任務では、最後に出てくる予定外の呪霊一体が怪しいのだと硝子は言っていた。現に悠仁くんが持ち帰った呪霊の腕はあの女の呪力が満ち満ちていて、明らかに無関係じゃないことを物語っていた。であれば今回も、予定数の呪いを祓い終えた時にあの女の操る呪霊が出てくるのでは、というのがわたし達の見解だった。
だからこの本殿に入る前に三人である程度の呪いを相手にし、数が5体を切ったところで残りは悠仁くんと悟に任せ、わたしだけが本殿の中に入った。二人と分かれ一人になったところを、件の呪いに襲わせるといった作戦である。
『一人で対処しきれなかったらすぐに言って。僕の術式で本殿ごとぶっ壊すから。』
『それわたしも一緒に死ぬやつですね??』
といったやり取りを経て、携帯端末は通話モードにしてある。これで直接会話は出来なくても、外にいる二人には音や声は聞こえているはずだ。
そこまで広くない本殿の中だったけど、奥に行くにつれて光の届かない闇の世界へ繋がっているみたいだった。その半分、丁度中央辺りまで来たところで、わたしは足を止めた。
——いる。
呪いの姿はまだ見えない。けど、奥から聞こえてくる〝声〟に、呪いの存在を確信した。
どうして、なんで、と途切れ途切れに聞こえてくるから、この神社に関係のある人から産まれた呪いなのかなあ。いやでもそれだとあの女が用意した呪いではない? わたし達の読み違いか、今回がたまたまスカだったのか……まあどっちにしろ祓うことには変わりないし、考えるのは後ででもいいか。
そう思って刀を構えた時、ずるり、と何かを引き摺るような音が聞こえ、目の前の闇が揺らいだ。
——くる。
〝なんで……、ドウ、して……〟
でも、途中で違和感に気付いた。
〝どうし、テ……ド……シテ……〟
徐々に見えてくる姿は、見たこともない呪いのカタチだ。
でもそれなのにどうして、この声には聞き覚えがあるんだ。
〝わ、シを……どウして……〟
どうしてただの戯言が、わたしの胸を突くんだ。
どうして——
〝ワタシたちヲおいテいったんダ!! 縁!!〟
傑の声で、そんなことを言うの。