3、さしす
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この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
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※※※
・お前がわたしでわたしもお前で? みたいな状態。
・かっこいい五条と夏油はいません。
「悠仁に姉がいたァ??」
「正確に言えば、「姉のような人」みたいだけどね。」
余程驚いたのだろう、素の反応で返してくる悟の様子を見て、やっぱり悟も知らなかったのかと私も内心で驚いていた。
高専時代、呪詛師にジョブチェンジした私は昨年のクリスマスに猿共を根絶やしにしようと計画を興した。しかし計画は失敗、私自身も乙骨憂太に殺されかけたところで悟に捕縛された。てっきり殺されるものだと思っていたし、私自身もそれで良いと思っていた。
『オマエが死にたくなくなること言ってやろうか。』
『……なんだ、藪から棒に。』
『縁、帰ってきたぞ』
『!? 紐束縁か……!?』
『他に誰がいんだよ。』
しかし、悟からの話を聞いて死ぬのが惜しくなってしまった。
紐束縁。異世界からやって来たという私達の同輩は、高専三年の夏に突然姿を消した。元の世界に戻ったのだろうと皆は諦めていたが、私はどうしても諦めきれず、呪詛師に堕ちたあとも全国各地を周り、彼女を捜していたのだ。
私の脳裏に、高専時代の楽しい日々が次々と蘇る。
『オマエが改心して、また呪術師としてやっていくってんなら。縁に会わせてやるよ。』
親友が、悪魔に見えた瞬間だった。しかし私は悪魔に魂を売ってでも、またもう一度、縁と会いたかった。
猿……非呪術師のことは嫌いなままだ。未だ殺意が湧くようなことだってある。それでも。
——『嫌いなものは、嫌いなままでいいんじゃない?』
かつて言ってくれた彼女の言葉だけを信じて、私は今こうして再び呪術師として世界に立っている。
私が呪術師として、そして教師として高専に戻ってきたのは今年の四月だ。二学年の生徒達は、ついこの間まで敵対していた相手が教壇に立つことに初めこそいい顔をしなかったが、今ではそれなりに打ち解けている。
そして、今年の一学年にはとんでもない少年が途中転入してきた。虎杖悠仁。呪いの王・両面宿儺の指を取り込んだ少年。虎杖の存在は呪術界の上層部にはよく思われておらず、悟と私が任務で高専を離れている間に特級相手との任務を当てられ、その命を落としたとされている。表向きには。本当は宿儺によって生き返っているが、このまま戻しても二の舞になることは明白だったため、もっと強くしてから戻すことにしたのだ。
この事を知っているのは、私と悟、生き返った現場にいた硝子と伊地知、七海と灰原、そして縁だけ。奇しくも学生時代、黄金期と呼ばれていた年代の人間達に限られたのが笑えた。縁は最後まで私達の作戦に反対していたが、今では渋々納得してくれている。素直でいい子なのは大人になっても変わりなかった。流石は私の……おっと、話が逸れたね。
その虎杖が、今回出向いた任務で出会った一人の女性を高専に連れ帰ってきたのだ。伊地知からの報告によれば、呪霊に襲われていた彼女を助け出し顔を見るなりひどく驚いた様子の彼に詳細を聞いてみたところ、幼い頃二年ほど、一緒に住んでいた姉のような人が居たという。
「それが、助けた女だったって?」
「ああ。しかも話はそれだけじゃない。」
その女性は昔、『自分は別の世界から来た』と言っていたらしいのだ。突然家に住むようになったし居なくなるのも突然だったため、幼い虎杖はすっかり信じ込んでいたらしい。
「普通なら、そんな馬鹿な話と思うけれど。私や悟は、そうは思わないだろう?」
「……じゃあ何、その女も縁と同じトリップ野郎ってこと?」
「信じてあげてもいいんじゃないかな。そうでなければ、私達は縁のことを裏切ることになるからね。」
「あ? 僕が縁を裏切るわけないでしょ。」
ピリ、と殺意を走らせる悟を「わかってるさ」と宥め透かす。まったく、少しは大人になったかと思えばこうしてすぐに機嫌を損ねるのだから。まあ、縁に関することなら私も似たようなものだから、とやかく言えやしないのだけどね。
「その女性、今は気を失っているみたいでね。虎杖の頼みもあって硝子に診てもらっているそうだけど、見に行くかい?」
「はァ?? なんっで僕がわざわざ出向かないといけないの? 起きたらテメーで来いって伊地知に言っといて。」
「はいはい。だと思ったよ。」
「つーかザコ呪霊に襲われて気絶とか、そいつが雑魚過ぎない? 縁の武勇伝聞かせてやりてーわ。」
「まあまあ。一応虎杖の知り合いだからその辺にしておけって。〝五条先生〟?」
「同じこと思ってるくせに」と、隠れているはずの目元が挑発的に細められていることなど、長年の付き合いでとうにわかりきっている。そして悟も、私が未だ見知らぬその女性に対しどう思っているかなどわかりきっているのだろう。
当然だ。私にとって、縁以外の女なんてどうでもいい。その女が虎杖と関係があろうが、####NAME2と同じような境遇でこの世界に来ようが、どうだっていいのだ。
——ただし……、
「悟、傑、いる?」
ノックもせずに部屋に入ってきた愛しい者の姿に、私も悟もそれまでの話なんて一瞬にして忘れ去り頭の中は彼女のことでいっぱいになる。
「あれー? どうしたの縁、もしかして寂しくなっちゃった?」
「……バレちゃった? 部屋に誰もいなかったから……」
「うんうんゴメンね。僕も傑も仕事でさー……」
悟と話すその小さくも唯一の存在に、私は一人改めて誓う。もしもう一人のトリップ女が、縁にとって危険な人物であった場合……
「そうだ! 縁、オマエの他にトリップしてきたって奴がいるみたいなんだけど、どう思う?」
「…——え?」
——虎杖には申し訳ないが、容赦なく殺す。そう誓うのだった。
◆
首への痛みに目を覚ました時、見えた天井は何やら覚えがあった。
「ねーちゃん、大丈夫?」
天井と一緒に見えた虎杖く……悠仁くんのお顔は心配げに眉が下がっていて、なんでそんな顔しているんだろうとまだ覚醒しきっていない頭でぼんやり考える。ゆっくり起き上がると、また首に走る鈍痛。そこでやっと、痛みの原因と悠仁くんの表情の理由がわかった。
「ごめんね。手刀、強くやりすぎちゃったみたいで……」
「いやいや。気絶させて・ってお願いしたのはわたしだし、気にしてないよ。」
「でも」と尚も続けようとする悠仁くんの頭に手を乗せて、強制的に言葉を止めさせる。思い通りに口を閉ざした悠仁くんを褒めるようになでなですると、恥ずかしいのか口をもごもごさせるだけで拒まれることはなかった。
まったくもって、可愛い義弟である。
「ここって、高専の保健室?」
「よくわかったね。」
「昔と変わってなかったから。よくお世話になったなあ……あれ、そういえば潔高くんは?」
「家入先生と一緒に、五条先生達に報告に行ったよ。」
「硝子居たの? もうちょい早く起きればよかった。」
残念だあと大袈裟に肩を落としていると、悠仁くんの中でわたしの反応が合致したのか「あ、そっか」と声を洩らす。
「五条先生らと同い年ってことは、家入先生とも同じだもんな。仲良かったの?」
「硝子は親友だよー。……でもそっかあ、」
硝子も、わたしのことわからないのか。途中で飲み込んだ言葉は、じんわりとわたしの心を冷たくしていく。悠仁くんに配慮して口には出さなかったけど、やっぱり親友に気付いてもらえないのは少し、いや結構ショックかもしれないな。
おもむろに触れた、右腕にある傷の跡。指でなぞったわたしに気付いた悠仁くんはやっぱり聡い子で、わたしが何を思っているかわかったのだろう。先程までわたしがしていたように、今度は悠仁くんがわたしの頭に手を乗せて撫でてくれた。
「〝縁さん〟、その傷どしたの?」
悠仁くんがわたしを名前で呼ぶ。そのことで今は姉弟設定ではないことに気付いて、わたしは紐束縁として口を開いた。
「この傷、ここにトリップしてきて最初に作った傷だったんだけど、硝子が治してくれたんだ。ここだけじゃなくて、他にも色んなところ治してもらったよ。」
術式で治してもらったところは傷跡はないが、縫ったりなんだりと普通の治療をしてもらったところはうっすらと跡が残っている。
「硝子は『女の身体に傷跡を残すなんて』ってよく悔しがってたけど、わたしは残ってよかったと思ってるよ。この世界での経験も、硝子たちとの思い出も、自分の世界に戻ってもこの跡を見れば思い出せたから。」
そう、大事な思い出だ。残念なことにその思い出はわたし一人の記憶にしか残っていないけれど。
「……オレとしてはさ、」
「ん?」
「やっぱり女の子の身体に傷がつくのは嫌だなあって思ってたんだけど。そんなカッコイイこと言われたら、悪くないって思っちゃうね。」
「ふふー、でしょでしょ?」
「さっすが、オレのねーちゃんだわ。」
「悠仁くんは、女の子の傷もちゃんと愛してあげなね。」
「おう!」
なんて他愛ないことを言い合いながら、わたしは悠仁くんと笑いあう。成り行きでの姉弟設定だけど、悠仁くんが義弟でホントによかったと思うのだった。
「なあ、伊地知。」
「はい、何でしょうか家入さん。」
「なかなか面白い事態になっているな。私も一枚噛ませろ。」
「えっ! ……なんのことで、」
「とぼけるな。お前と虎杖が連れてきた女性、本物の紐束縁だろ?」
「!? 家入さん、気付いて」
「当然だ。紐束縁は、私の唯一無二の親友だぞ?」
「流石……!」
「と、言えればカッコ良かったんだがな。腕にあった傷跡、あれは私が治療したやつだ。覚えがあるなと思った瞬間に全部思い出した。」
「それでもお見事です。」
「どうして偽者が紐束縁を騙り、紐束縁本人が他人になるのかまでは理解し兼ねるがな。でも…——こんな面白い話があるか。」
『も〜〜、いつまで気にしてるの硝子ちゃん。こんくらいの傷跡どってことないよ。』
『だってお前は女だぞ。身体に傷を残していいわけあるか。』
『いいじゃんいいじゃん。誇りで勲章だと思ってるよわたしは。この世界に来た証拠になるしね!』
『それに、傷跡の有無で女扱いしない男なんてこっちから願い下げだわー。』
『安心しろ。縁が行き遅れたら私が貰ってやるさ。』
『やだ惚れた。』
『久しぶり硝子〜!』
『戻ってきたんだな。昔ついた傷は治ったのか?』
『傷? ——ああ、うん! なんかトリップで移動した時の作用? で無くなっちゃったみたい!』
『……そうか』
『そもそも、女の子が身体に傷をつけるなんてありえないでしょ! ずっと綺麗なままでいたいし……もしあたしがケガした時は、最優先で治してね!』
『……?』
「…——全く、親友の顔を忘れるなんて最低だな。私は。」
「? 何かおっしゃいましたか?」
「いや、何でもない。」
そんな私だと知っても、お前はきっと笑って許してくれるんだろうけどな。
「思い出したこと、縁さんにはお伝えしないのですか?」
「しない。それじゃあつまらないだろう?」
「あはは……」
「今のあいつには、伊地知と虎杖がいれば十分だろう。私は精々高みの見物しながら、虎杖悠仁の義姉とやらと親しくやるさ。」
五条たちがいつ気付くか、気付いた時の反応が楽しみだな。そう思う半面、親友を泣かせたら去勢するのも吝かではないな、と一人目論む女医がいたのだとか。