22、和解?
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この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
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※※※
・呪力に関しての説明は捏造ひゃっはー。
・五条・いきなり距離縮めてくる・悟がいます。かっこよくはありません。
——
報告。
10月×日、特級呪術師・夏油傑による4級呪術師・糸田紬への刑を執行。
執行終了後間もなくして、校庭に張っていた結界を破り未登録の巨大な呪霊が出現。
その呪霊は特級相当の強さを持っていると判断。巨大さ、形状からして仮称・だいだらぼっちと名付ける。←後の調査にて特級仮想呪霊・だいだらぼっちと断定。
だいだらぼっちは結界を突破後、満身創痍状態の糸田紬へ明確な意思を持って危害を加えようとするも、特級呪術師・五条悟によって討伐完了。完全な消失を確認している。
未だ要警戒だが、現状新たな呪霊は確認されていない。
だいだらぼっちの出現経路、経緯については未だ調査中。
詳細が分かり次第再度報告していく。
だいだらぼっちによる被害は物的、人的共に無し。
しかし、刑執行により糸田紬は重傷。
・頭部をはじめとした全身裂傷、及び全身打撲
・右腕橈骨、尺骨骨折
・左第9、10肋骨骨折
・右足首捻挫
以上の症状の大半は家入硝子により完治。骨折の治療、及び頭部裂傷による後遺症を懸念して◯◯病院へ搬送。精密検査を兼ねて入院中。
本人の意識は搬送途中に失われるまで特に異常は感じられず。
入院は五日ほどを予定。頃合いを見計らい、糸田紬からも事情を聴取していく。
聴取は、本人の希望により五条悟に一任する。
◆
傑とのバトルという刑の執行を無事に乗り越え、へろへろになったわたしを支えてくれた悠仁くんにカツ丼をオーダーしている時。
突如空から現れた大きな呪霊に一同騒然としている中、たぶんわたしだけは状況が理解出来ずぼけっとした顔をしてただろう。
え、あれだいだらぼっちじゃね? うちの地元で伝承になってるだいだらぼっちじゃね?? と血の足りない頭で思っていたせいか、だいだらぼっち(仮)と目が合った。
あ、これは本気でヤバいかも。そう思った時にはもう呪いの手は伸びてきていて、それからわたしを庇うように悠仁くんが身体を抱き寄せる。
「悠仁くん、わたし置いて逃げて。」
頭が回らないなりに、なんとかそれだけは口にする。だと言うのに悠仁くんから食い気味に「却下!!」と言われ、むむ、と思った。
思うだけ、考えるだけで身体が動かせないのが悔しくて堪らない。わたしのせいで悠仁くんを、ともすればこの場にいる人達を危険な目に合わせていることがどうしようもなく——……。
そう、思っていた矢先だ。
こちらに伸びていた呪いの手が、わたし達を掴む寸前でピタリと止まったのは。
「……さとる、」
「五条先生?」
わたしの呟きは、悠仁くんの声に掻き消される。たぶん今、わたしも悠仁くんも同じような顔をしているんだろう。
なんせ、紐束縁から離れた悟がわたし達を守るように呪いとの間に立っているのだから。
「大丈夫? 二人とも。」
呪霊の動きが止まったように感じたのは、悟が発動させている無下限のお陰だった。悠仁くんがいるからかいつもの軽い調子でそう聞いてきた悟は、そのままくるりと身体ごとわたし達に振り返りじろじろと見下ろしてくる。目は見えないけど。それからその無駄に長い足を折りたたみしゃがんだかと思えば、悠仁くんの頭——だけでなく、何故かわたしの頭までもをくしゃりと撫でてきた。
「???」
「やりゃ出来んじゃん。ボロッボロだけど。」
頭を撫でられることも、その後に言われた言葉も今のわたしにはキャパオーバーすぎて間抜けな顔をさらしてしまう。そんなわたしに悟は「あとで色々、話聞かせてもらうね」と言い、悠仁くんには「アレの相手は僕がするから、今のうちに離れて硝子に診てもらって」と告げて、再度呪霊へと向き直っていった。
ポッポー。鳩が豆鉄砲を喰らったような顔というのは、きっとさっきから浮かべているわたしと悠仁くんの顔のことをいうんだろうなあ。なんて思うわたしより早めに我に返った悠仁くんによって、わたしはあのだいだらぼっちさんから距離を取ることになるのだった。
「悠仁くん、あの人だれ?」
「五条先生本人だと思う、たぶん。」
悠仁くんにさらっとお姫様抱っこされたのも然ることながら、わたし達の驚きの種はやっぱり態度が豹変した悟に向けられていたのだった。
「うえええ怖いよお悠仁くんんんん。」
「だっ、大丈夫だって! 今も助けてくれてるし! ……たぶん。」
◇
それから。
救急車に乗せられたところまでは覚えてるけど、そこからの記憶はない。次に目が覚めた時は病院のベッドの上で、あの女に引けを取らないくらいの包帯ぐるぐる巻きには笑った。お揃っちとか嬉しくない。
笑った振動がアバラに響いてすぐに悶絶しながらも、まーた右腕吊るす生活かあ……と内心げんなりしてはベッドのリモコンを探り当て上体を起こす。
今は夜中。窓から見える夜空は快晴のようで東京の割には星がよく見えた。そしてわたしがいるこの部屋は個室らしい。上体を起こして見えたソファには、我が義弟がその身を丸くして眠っていた。
声をかけようかとも思ったけど、起こしてしまうのは忍びないのでやめておく。さっきカツ丼作って、ってお願いしちゃったけど、わたしが原因での精神的疲労を常に負っているのは悠仁くんだよなあ……むしろわたしが日々の感謝の気持ちを込めてお・も・て・な・ししないといけないんじゃ……ああでもこの腕だし! ままならないなもう!
骨折が治ったら悠仁くんに最大のおもてなしを絶対すると誓って、きょろりと部屋の中を見渡しながらぐっぱっと左手の感覚を確かめる。うん、何ともなし。次に両足の……あー、右足首痛いな、ぐねったかな。動かせないことはないけど、安静にしてた方が良さそうだ。
最後に、呪力の廻りを確かめる。数時間前までほぼ空っぽだった呪力は、どうやらそこそこ戻りつつあるようだ。
「……はは、宿儺様々ってか。」
あの黒と赤の世界にいた時のわたしは、いわば魂、または精神体だった。わたしを構成する軸となるその部分で直接呪力を奪われてもみろ。莫大な呪力を持っているか力の生成が追い付かないとたちまち呑み込まれて食い尽くされてジ・エンドだ。そんな形で死ぬなんて真っ平御免だったから、呪力の生成を頑張りましたとも、ええ。『頑張れ頑張れ』って心のない応援されたけどそもそもあの王が奪わなきゃいいだけの話ですよね!! という文句は叩き落とされた。許さない。
意識してなかったけど、わたしはそこらへんの調整が得意らしかった。まあ、じゃなけりゃ悪癖で外に呪力流しまくってたらすぐにわたし自身が呪力尽きて使い物にならなくなるってもんだ。呪力を外に流すそばから、新たな呪力を生成していたというわけだ。もちろん、排出と生成のバランスが崩れればすぐに呪力空っぽになっちゃうけど。
つまり何が言いたいかというと、呪いの王に呪力を奪われるそばから呪力を作っていくことで、わたしは自分の魂を守ったのだ。更に言えば王は悪戯にわたしの呪力を奪う量を時々によって増やしたり減らしたり更に増やしたりとしやがったから、それに合わせて生成する量の微調整が出来るようになったというわけだ。
それを得るために大切な何かが減ったことは伏せておく。でもやはり世の中は等価交換なんだなと痛感した。
知らんけどな!!!!
「宿儺、が何だって?」
「!?」
考えに耽っていたせいだろうか、耳元で囁かれたその声に慌てて振り向くも、またアバラに響いて痛みに呻く。その声の主は労わるように背中を摩ってくれるが、頼むから今は触んないでもらえますかねえ……!?
「あらあら、随分痛そうだねえ。」
「な、んでここに、」
「ん? 言ったでしょ。『話聞かせてね』って。」
アバラなんて怪我したの初めてで、この痛みをどう緩和させたらいいのかわかんない。折れてるのかひびが入ってるだけなのかはわかんないけど、普通に深呼吸するのも怖いしだからこそ呼吸を乱したくない。
それでも、相手に聞かねばならない。そう思って涙目で見上げた先には、こんな暗がりでも目隠しを付けたままの悟がいた。
「寝顔見に来ただけだったけど、起きてるなら丁度いいね。ちょっと付き合ってよ。」
いや、まず夜中に来んなよ! 話も日中で良くない!? 寝顔見にって……あれか! 隙あらば処するつもりでか! なんて叫びは腹の中だけで済ませ、わたしは渋々、本当に仕方なく首を縦に振ったのだった。
丸腰でろくに動けない今、わたしに抵抗する術は皆無だからだ。
◇
「まず、君の状態から話そうか」
間接照明のみが照らす薄暗いロビーで、悟は話を始めた。
病室から移動したのは、悠仁くんを起こしたくないというわたしの願いを悟が聞き入れてくれたからだ。普通こんな夜中に出歩こうものなら看護師さん達に怒られそうなものだけど、どうやらここは呪術界御用達の病院らしい。更に言えばわたしの病室があるフロアは呪術師を収容する区画らしく、そこでは何時でも面会可能だしよっぽどの重症患者でなければある程度のことは許されているらしい。
それをわたしが知らないのは、学生時代高専内の保健室しか使ってなかったからだろうなあ。
閑話休題。
「身体にあった裂傷は全て硝子が治したけど、骨折や捻挫はそのままだよ。手術は終わってるけど、頭も打ってたみたいだから後日精密検査の予定。」
「そうですか。」
あー、そういえば硝子に治してもらった記憶あるね。悠仁くんに抱えられ避難した先に硝子がいて、最初は断ったんだけど硝子と悠仁くんから「ふざけんな」とお叱りを受けたからそれなら……とお願いしたんだった。個人的には出血を止めてもらっただけで満足でしたわ、うん。
「検査に異状が見られなければ、入院は五日くらいだって。ここまではOK?」
「はい、大丈夫です。」
素直に頷くわたしを見て、悟は少しだけきょとんとしては「じゃあ、次ね」と話を続ける。多分今までは売り言葉に買い言葉で、常に喧嘩腰だったからなあと心当たりはあったものの、今は悟だって普通のテンションなのだ。わたしだけがオラオラするのもおかしいだろう。
そもそも、わたしからオラついたことはないぞ。相手の出方次第で態度変えてるんだからなこっちは。特に今はアバラ的に事を荒立てたくないから静かなだけだ。
「終わりに邪魔が入って有耶無耶になっちゃったけど、君は傑から執行された刑を見事やりきった。だから当初の予定通り、君は無罪放免。誰もあの事件のことで君をどうこうする事はないよ。」
「えっ、」
いや、驚くのも無理はないだろう。もしこれが夜蛾さんや潔高くんから言われるなら素直にヒャッホーイと喜べるってもんだけど、なんせ相手は悟だよ? あの女好き好き大好き芸人から『オマエ条件クリアしたから許してやんよ』って言われたも同然なんだよ??
信じられると思う? 傑が終わったから次俺の相手しろよって言われるかと思ってたんだぜこっちは??
「何その反応? もっと喜んだら?」
「え、いやだって。わたしに条件が良すぎて何か裏があるとしか……」
五条さんは何かないんですか? わたしに対して。なんて聞かなきゃいいことを聞いてしまったからか、悟が呆れモードになったのがわかった。
「新米の呪術師が呪霊100体相手にするなんてよっぽどだよ。僕らのことなんだと思って——…いや、あんな仕打ちしたらそう思っても仕方ないのかもね。」
「まあ、そうですね。」
「素直かよ。」
なんて言って笑ったかと思えば、一拍の間を置いてがばりと頭を下げた悟にわたしはまたもや驚かされる。
「ゴメン。」
「は?」
ましてや、謝罪されるなんて。誰が想像出来ただろうか。
だって相手はあの五条悟だぞ?? 天上天下唯我独尊、常に他人を見下していないと気が済まないあの男がだぞ??
「頭ごなしに君を疑って、苦しめて、傷付けた。殺そうとしたのは……やり過ぎだったと思ってる。」
自分の行動に絶対の自信を持ち、何がなんでも譲らなかったあの小学生男子みたいなあの男が…——と、そこで自分こそ悟のあれそれを決めつけていたことに気が付いた。
わたしが知っているのは、学生だった五条悟だけだ。それから10年は経ってるんだもん、そりゃあ大人として変わった所だってあるはずだ。それなのにわたしは、今の五条悟を見ようとしていなかった。
「——もういいです。謝ってくれたので。」
今のわたしは糸田紬だから、過去にばかり目を向けていたなんて到底言えるはずがない。だから謝れないのがもどかしいが、許すことで喧嘩両成敗にするとしよう。
「でもわたしが許すのは、五条さんがわたしにした事だけです。あのおん……あの人や夏油さんがやった事に対して、代理で謝ろうなんて思わないでくださいね。」
「勿論。むしろ僕だってびっくりしたくらいだよ。あの二人があんな計画立ててたなんて知らなかったから。」
「……五条さん、猫質のこと知らなかったんですか?」
「知らなかったよ。僕と学長が傑から聞かされてたのは、100体相手にさせることだけだったからね。」
「…………仲間はずれですか?」
「それ聞いちゃう?」
あの猫質に関して、夜蛾さんはともかく悟は知ってるものだと思ってた。三人で画策して糸田紬ざまぁwwwwみたいな感じで……だって今までの様子だとそう思うよね。
そうじゃないにしても、あの女にとって悟は……言わば何でも聞いてくれる男だ。他人の好意を利用するなんてクソだと思うけど、まあそこは当人達の問題なのでわたしは口を出すまい。
出すまいと思ってたけど、まあ聞いちゃったよね。好奇心の方が勝ったよね。
「僕さあ、わかんなくなっちゃったんだよね。」
悟が肩を竦めて言った言葉の意味がわかり兼ねて、首を傾げる。すると悟自身も確認していくように、ぽつりぽつりと続きを話していった。
「縁のことは、今でも好きだよ。でも前までの盲目的な感じではなくなってて、なんて言うか……『あの子が全て正しい』わけじゃないよなって。」
僕と縁以外の人間にも勿論心があって、感情があって、大切なものがあって。縁にとっては下らないものだとしても、それは誰かにとってみれば大事なものかもしれない。そう思うと、簡単に壊すことは出来ないよなって、思ったわけで。
「まあ、そう思うようになったきっかけが、君が起こした事件なんだけどさ。」
僕もきっと、自分の大切なものを壊されたら君みたいにキレるだろうね。そう考えたら、君があんな事をしたのも責められないというか。
うんうんと一人で頷いている悟を、ぽかんとした顔で見てしまうわたしの心境を皆さんお分かりいただけるだろうか。いやまあさっきからその顔してばっかなんだけど、悟のあまりの変わりっぷりにちょっと理解が追い付かないのだ。察して欲しい。
「その理論だと、大切なものを傷付けたわたしは責められるべきでは?」
「君が傷付けた原因が縁にあるなら、縁だってそれ相応の罰は必要でしょ。それに君は傑からの罰を受けたんだから、それ以上はただの暴力だよ。」
「なるほど。」
でも、今の状態がきっと本来の五条悟の姿なのだろう。
こいつ頭は悪くないのだ、悔しいことに。冷静に物事を考えられるようになれば、あの女の非道さも、わたしの無謀さも、そして傑の盲信っぷりも、全部客観的に見ることが出来て、時にはドライになったりも出来るのだ。あの女を紐束縁と言っている時点でまだ催眠は解けてないみたいだけど、それでもここまで変わったのは流石としか言いようがなかった。
五条悟だから。なんて便利な言葉。
「君がさ、言ったじゃん。『紐束縁の何を見てきたんだ』って。」
「あー、確かに言いましたね……?」
「で、僕なりに考えてみたわけ。昔の縁と今の縁の同じところや変わったところを。……そしたらまあなんと、違うところばっかりが目に付いてさ。いっその事赤の他人なのかなって思うほど。」
何故ここで、わたしがギクリとしなきゃいけないんだろうか。
「今の縁からは、一番最初に出会った時の武勇伝が出来るとは到底思えない。それ程までにか弱くて、華奢で、エロい。」
「最後のいります?」
しかも武勇伝ってあれか、教科書詰め詰め鞄フルスイングで呪霊倒したアレか。
「今挙げた三つの印象だけでも、昔の縁のイメージとは全然違うんだよね。でも僕の記憶に浮かぶ姿は、今の縁に切り替わるんだ。」
「さいですか……」
「むしろ昔の縁とイメージが合致するのがどこかの動物狂いなんだけど、そこんところどう思う?」
「おん……」
こ、れは……試されてるんだろうか? ここでなんて答えたら正解なんだ??
催眠が解ける条件がわかってない今、下手に刺激するのもどうなんだ? 「そうです! わたしが本物の紐束縁です!」って言って催眠が解けなかったら、また怪しまれるんじゃ……折角ちょーーーっとだけ和解みたいなの出来そうなのに、振り出しに戻るのだけは勘弁願いたい。
となれば、今のわたし……糸田紬に言えることは。
「……五条さん、わたしと最初に会った時にお話したこと覚えてますか?」
「それって、僕が君の胸ぐら掴んだ時?」
「覚え方……まあいいや。その時にわたしが『設定』がなんちゃらって話したのは?」
「あー、そういえば言ってたね。」
「わたしがこの世界に飛ばされたと同時に呪力が身に付いたように、あの人にも何かしらの『設定』が設けられたんじゃないですかね? 詳しくは知りませんけど。」
秘技! 曖昧にして誤魔化す作戦!!
「もしかしたらその設定で、この世界に飛ばされた時に外見を変えているのかもしれませんよ。」
「実際、そんな事可能なの?」
「さあ? わたしをこの世界に飛ばした神様は、何も教えてはくれませんでしたから。」
ここら辺の知識は、ぶっちゃけ異世界トリップものの小説から得たものだ。だから本当にそんな神様みたいな存在がいるかもわからないし、残念なことにわたしは会ったことがない。
でも、現実としてトリップという現象は起きているのだ。それなら神様の存在がある可能性だってあるし、その神様と相見えることが出来たのなら、トリップした先で生きやすいようにあれこれ『設定』するかもしれないじゃないか。
あの女はそれで〝わたし〟に成り代わってるわけだし。
「うーん、要領を得ない話だね。」
「こればっかりは何とも……あの人本人に聞かないとですね。」
曖昧にし過ぎたかな、二人で頭を抱える羽目にはなってしまったけど、話が逸れたのでわたし的には万々歳である。
「ねえ、それってさ。」
「はい?」
「もし、君達をこの世界に飛ばした神みたいなやつが本当にいたとして。途中でもう一度会えるもの?」
「わたしは一度も会ったことありませんが……どうだろ、有り得なくはないんじゃないですか?」
小説では、頻繁に神様と会っているものもあった気がする。そういう時は大体物語の分岐で、主人公に新たな力を授けたりなんかするやつ。
まあわたしは? そんなこと一度もありませんけどね??? 贔屓が酷い。
「そっか、有り得なくはないか。」
「……? 何か気になることでも?」
思わず聞いてしまったあと、すぐにしまったと口を塞いだけど悟は気にしていないようだった。むしろ待ってましたと言わんばかりに、頭の中に浮上している疑問を吐き出していく。もしかしたら誰かに聞いてほしかったのかもしれない。
「刑の執行後、出てきたバカでかい呪霊覚えてる?」
「ああ、あのだいだらぼっちみたいな。」
「みたい、じゃなくて本物のだいだらぼっちだよ。」
「マジですか。」
「アレは傑の呪霊じゃない、未登録のものでさ。で、アレの出現経路を調べてたら、ほんの少しだけなんだけど——」
「あの人と繋がりがあったって?」
「あ、やっぱりわかる?」
「話の流れから推測しただけです。それにあの呪い、確実にわたしを狙ってきてましたし。」
つまり悟が言いたいのはこういうことだろう。あの女がわたし達をトリップさせた神とやらに「ねえねえなんか超強い呪霊ちょうだい〜」っておねだりして呪霊を用意してもらい、それにわたしを襲わせたんじゃないかって。
更に聞くに、あの女の術式は他者への呪力譲渡らしいのだ。限定された人によるらしいけど、もしそれが呪いに対して有効なら? しかもこの世界の呪いではなく、神があの女のために用意したものであれば尚更有効性が上がりそうなものだ。
「だいだらぼっちさんに、あの人の呪力でも感じました?」
「まだ誰にも言ってないけどね。」
ええ〜〜〜それなんてチート〜〜〜??? ズルくないあの女だけさ〜〜〜??? 腹の中でそう文句を言うものの、表向きには「ふむ……。」なんてちょっとカッコつけてみた。全てはアバラのためである。
「無くは無い、でしょうね。これも、本人に聞いてみないことにはわかりませんが。」
「結局そうなるかあ〜。」
「すみません。役に立たないトリップ女で。」
「いや、有り得なくないって事実だけわかればいいよ。」
「とりあえず今は、あの人とだいだらぼっちさんが関係してることは伏せておいた方がいいのでは? もっと決定的な証拠が出るまで様子みるとか。」
「そうしようかなあ。でもそれってつまり、君がまた狙われるかもしれないってことだけど。」
「うーん。まあ、その時はその時でどうにかしますよ。がんばります。」
「うーん……そう来るかあ……」
腑に落ちない様子で頭をガシガシ掻いている悟に首を傾げながらも、それよりも気になることがあったわたしは「あの、」と口を挟んだ。
「五条さん、もっとあの人のことを擁護するかと思ってました。好きな人相手なのに容赦がないというか……」
「え? そりゃそうでしょ。」
「僕は呪術師だからね。」
さらりと当然のように零れ落ちたその言葉は、五条悟が五条悟たる所以なんだろう。
「さて。僕からの話はこれで終わり。」
「え?」
「次は君の話を聞かせてもらおうか? 糸田紬チャン。」
「ヒェッ」
夜の帳は、まだまだ上がってくれそうにない。
◇
それからわたしと悟は、夜通し雑談を交わしていた。
「君も呪力譲渡が出来るみたいだけど。」
「そうみたいですねっ? 知りませんでしたけど!」
「しかも人に対してだけじゃなくて、物にも流せるの?」
「そうみたいです! よく知りませんけど!」
「結界術得意なんだね?」
「教えてくれた皆々様のおかげでございます!」
「悠仁っていい子だよね。」
「あの子こそ神に選ばれたかのよう。やんちゃな見た目通り年相応の男の子のようにイタズラとかエロ本とかパチンコとか興味あるところも可愛いし他人の心に寄り添える優しい子だし喧嘩つよつよだけどちゃんと拳を振るう相手は見極めてるし家事もわたしより完璧だし高校生にしてあのスパダリやばくない? 悪いおねーさんに引っ掛かったりとかしない? あーでもそういう人は直感で避けるかな? そこも凄いよねさすがわたしの義弟! 最高! 大好き!」
「めっちゃ語るじゃん。」
「語らずにいられようかッッ!!?!? 〜〜〜っっ」
「アバラ?」
「あ、あばら……!」
痛みに悶えるわたしにゲラゲラ笑う悟、ギルティ。
悟が悪いと思いますわたしのテンションが上がる話題振ってくるから!
「……大好き、ね。」
ぐぬぬと唸っている時に悟がなんかボヤいた気がするけど、今はそれどころじゃないのでそれには突っ込まずに必死に呼吸を整える。
いやしかし、我ながら答え方下手くそじゃんね? 触れてほしくないことに対しては言葉少なで語りたいことに対しては我を忘れるほどって……こんなのはぐらかしてるって思われるじゃん?? ここでこそ女優力を発揮させるとこだろ紬! 大丈夫お前はやれば出来る子だ!!
落ち着いてきた痛みにはあ、と安堵して、蹲っていた身体を起こし座り直す。
「だからこそあの時、だいだらぼっち相手に悠仁くんを、みんなを危険に晒してしまったことが悔しかった。自分が許せない。」
「……別に、糸田のせいじゃないでしょ。」
「いえ、わたしのせいです。……だから、五条さんには感謝してます。」
あの場にいた人達を守ってくれてありがとうございました。と今度はわたしが頭を下げる。最強の片割れである特級様からしてみれば手こずる相手じゃ無かったんだろうけど、あの呪いの等級が特級だったのだと聞かされた時は肝が冷えた。あの場にいた術師が全員で束になってかかれば、きっと倒せたとは思う。でも怪我は免れなかっただろうし、最悪何人かは死んでいたっておかしくはなかったのだ。もしそうなったら、わたしはわたしを一生許せない。あの女が出現させたというのが本当なら、三度目の正直でわたしはあの女を殺していたに違いない。あと、自分のことも。
わたしやあの女といった異物のせいで、この世界の人達が死ぬなんてあってはならないのだ。
「アレを倒したのは、僕だけの力じゃないよ。」
下げた頭に何かが乗る感触と、降ってくる声に我に返り、そろりと頭を上げる。視線を向けた先には、顔にかかる黒は見えなくて。まるで空の青を閉じ込めたような双眼が、真正面からわたしを見据えていた。
「あの時の僕も、今と同じように糸田の頭を撫でたでしょ。その時に君の呪力を貰ってたんだよ。」
「え?」
「貰った君の呪力はそのまま僕の呪力になって、あの特級呪霊を容易く祓えた。弱らせて傑に取り込ませようと思ってたのに、加減を間違えて消滅させるくらいには呆気ないもんだったよ。」
「……それは、どこまでが嘘です?」
「残念だけど、全部本当だよ。」
そう言う悟の目は、優しげに細められている。
「糸田はさっき、自分のせいでって言ったけど。自分を卑下するその糸田のおかげで、守られた命があることは忘れないでやって。」
——これが悟の演技だったら、主演男優賞ものだなあ。
騙されてもいいと思うくらい上手で、そして嘘でも嬉しいと思えるくらいには、悟の言葉は本物じみていた。
くそ、顔だけじゃなくて中身もイケメェンになってやがるじゃねーか。