19、元後輩たち・2
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この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
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糸田紬(本名:紐束縁)
28歳。拘留なう。
拘留されてから二日ほど爆睡かましていた。それが呪いの王のせいなのかは不明。
宿儺にピ——自主規制——されてなかなか放して貰えなかったとかなんとか。呪力はたっぷり奪われた模様。
王からのハラスメントから逃れ無事に戻ってこれたと思ったらまさかの後輩からハラスメントを喰らうなど……誰が予想しただろうか……
カワイイと思っていた後輩の新しい一面を知って涙が止まらない。
一個下の後輩が二人ともこわい。
七海建人
28歳。さいみん解けた。
歌姫や硝子と同じように、罪悪感と後悔に苛まれている。もし自覚するのがもっと早ければ、あの事件は起きなかったかもしれないのに……と、近くにいたからこそ自分を責めている。
自分は責められて当然と思っていたところに、主人公の義弟が笑顔で許してくれるものだから溜まったもんじゃない。「ねーちゃんもおんなじこと言うと思うよ!」当たり前だが血は繋がっていないし、なんなら姉弟役を始めて数ヶ月なのにあまりにも似た反応をする二人に複雑な感情を抱かずにはいられない。君達本当に、ただの役なんですか?
これからは贖罪として、虎杖達に協力を惜しまない。
苦しまないで七海……もっと同期のあっけらかんさを見習って……
灰原雄
27歳。さいみん解けた。
催眠解けて主人公(偽)が偽物だと気付いてからも、誘われれば喜んで乗っていたある意味健全なオトコノコ。
「美人なナイスバディに誘われたらそりゃあ、男としてはね!」
据え膳はきっちり頂く。
過去に主人公の真っ裸を唯一見たことのあるラッキーボーイ(?)
そのおかげで催眠が解けるなど誰が思っただろうか。
学生時代は(今も)自分だけが主人公と秘密を共有していることが嬉しくて優越感に浸っているとかいないとか。先輩の肌はまだ俺しか見たことないんだと内心マウント取ってそう。縛りはまだ有効そうだからみんなに言えないけどね!
あとで同期と合流して、お互い催眠が解けていることを話し合うと思う。
「学長! 何故許可してくれないんですか!」
机を叩いて抗議する元教え子に、夜蛾正道は「落ち着け」と諭す。しかしそれは見事跳ね除けられ、夏油は怒りや苛立ちを露わにしていた。
「落ち着いていられるわけがない。貴方にとっても自分の元教え子が見知らぬ女に傷を負わされたんですよ。」
「糸田紬はもう見知らぬ女性ではないだろう。今となっては同じ呪術師……仲間だ。」
「あの女が〝仲間〟? 本気で言っているんですか。それなら〝仲間〟に手を出したあの女はやはり罰を受けるべきでしょう。」
「罰は与える。しかし殺すのはやり過ぎだ。」
「本人は殺されるのを覚悟しているって話ですよ? それを叶えてやるだけじゃないですか。」
先日から似たような議論を繰り返すばかりで、話は全く進んでいなかった。どちらも一歩も引かない故の攻防ではあったが、いつもであれば率先して話に割り込みそうな五条が口を出さないことも話が長引いている要因の一つだった。
「悟、君からも学長を説得してくれないか。私達の大切な子が傷付けられたんだぞ。」
「……」
そう言ってみても傍観の姿勢を崩さない親友に、夏油は隠しもせず舌を打った。
「とにかくだ。彼女の処遇を決断するにはまだ早い。本人からも聴取しなければならないし、縁にも目が覚めてから事情を聞かなければ。」
締め括るように夜蛾がそう言ったことで、この場での話し合いはもう続けられないことを悟った夏油は、表情を怒りに染めたまま誰よりも早く部屋を出ていく。
きっと紐束縁の元へ行くのだろう。今の夏油の行動パターンは、高専で自分に抗議しに来るか病院で紐束縁の目が覚めるのを待っているかのどちらかなのだから。
思わず零れてしまった嘆息をそのままに、サングラスを外し目頭を揉む。そんな夜蛾に、今まで黙っていた五条が声を掛けた。
「ねえ、学長。」
「何だ?」
思えば、夏油との話し合いの最中に五条が口を出してこなかったことに夜蛾は内心で驚いていた。夜蛾から見た五条も夏油と同じく紐束縁を溺愛しているようであったし、交流会の時のように人目が有る無しに関係なくよくくっついていた。かつての教え子達が仲が良いのは喜ばしいこと。しかしいい大人が周囲の目を気にしなさすぎるのも如何なものかと、教育的指導(物理)をしたのも記憶に新しい。
その後まあ、夜蛾にも色々あって考えを改めることになったのだが。それはまた、機会があった時にでも話すとして。
〝未だあの紐束縁が本物だと信じて疑わない五条〟からこの二日何も言われないことが、夜蛾には不思議で仕方がなかったのだ。
「学長には、糸田紬はどんな風に見える?」
「……それは、敵か味方か、という意味でか?」
「いや、ただ単に印象として。」
そして口を開いたかと思えば、夜蛾を言及するものではなく純粋な疑問をぶつけてきたのだ。
「確かに糸田紬はやり過ぎたと思うし、縁を傷付けたことに対しては許せないけど。でも自分にとって〝大事なもの〟を壊されたら、そりゃあブチ切れるよなって。僕もきっと同じことすると思うんだよね。」
「だから糸田紬の気持ちもわかるし、傑の気持ちもわかる。でも縁の気持ちだけがわかんなくて……だからこそ、僕はどうしたらいいのかわからない。」
そう言い考えに耽るかつての教え子は、どうやらきちんと大人として成長しているようだった。もちろんまだまだ我儘を通すし文句ばっかり言うし子供じみた行動だってするけれど、決して停滞しているわけではないようだった。
少し逡巡した後、夜蛾は口を開く。
「……俺から見た糸田紬は、悟に似ていると思う。」
「は? 僕?」
「佇まいは立派な大人だが、口を開けば一気に幼くなるし、自分に正直だ。思ったこともすぐ言うだろう。」
「え、これ僕はどんな心境で聞いてればいいの?」
「一度大事だと思ったものには情が深いところも、それを害されれば素直に怒れるところも。」
「……」
「違うところといえば。お前のようなクズさが彼女には無いことと、彼女は他者のために自らを犠牲にするところだ。」
五条は、自他共に認める最強だ。それは単に力だけの話ではなく、家柄や彼の立ち位置などももちろん関係している。故に自らを犠牲にすることなく物事を最善へ進めていくことが出来るが、糸田紬は違う。
彼女の総合的な力には限りがある。故に彼女が動く時には自分と他者を天秤にかけざるを得ないし、その天秤は他者の方へ傾くことがほとんどだ。
それは〝昔から変わらない〟、彼女の長所でもあり短所でもあった。
「糸田紬は、強い人間だと思う。呪術師としても、これからもっと成長していくのだろう。……だからこそ、心配だ。」
「……学長、アイツと話したことあったっけ?」
めっちゃ語るじゃん、と僅かに驚いた様子の五条に、夜蛾は素知らぬフリで言葉を続ける。
「だから悟、自分がどうしたらいいかわからないというなら、まずは彼女とちゃんと向き合え。彼女だけではなく、傑とも……縁とも。」
言葉を交わして、相手の気持ちを聞いて。それから自分が何を思い、動いた方がいいのか考えても遅くはないのだと、夜蛾は告げる。
まるであの頃の、お互いが教師と学生だった頃のような心境に口元を緩めると、同じ心境になったのか、五条も「学長が夜蛾センに戻ったみたい」と言って笑った。
——まったく、世話が焼ける。この最強二人も、あのお転婆娘も。
大人になれど手のかかる元教え子達に、呆れながらも微笑ましいと思ってしまう一人の教師の姿がそこにはあった。