18、招かれる
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この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
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※※※
・王サマ〜出番でーす!
・かっこいい宿儺はおりません。
気が付けば、わたしは知らないところにいた。
……ってこの文言トリップした時に言いそうなやつだな。わたしの場合一回目も二回目も呪いとの追いかけっこから始まったからそんなこと悠長に考えてる暇なかったけど。
とまあ自分の思考にツッコミつつ、改めて辺りを見渡す。
閉鎖的な空間だけどせまっくるしい感じはなく、むしろ先の終わりが見えない。黒い景色。それなのに、足元の水場が赤く淡く光っているおかげで自分の姿や周囲が良く見えた。
周囲……うん、天井? にはここら一帯を囲えるような大きな肋骨部の骨が見えて、足元には何か動物の骨が散らばってるのは見えた。頭蓋骨に角……あの形状からしてウシ科かな——なんて獣医学生時代に学んだ知識を引っ張り出してみたものの、正解などわかるはずもないので早々に諦めた。現実逃避を。
「——ここ、地獄じゃないよね?」
それか、クジラみたいな巨大な生き物の腹の中でもないよね? なんかピ〇キオ連想されるんだけどこの空間。
とまあ現実を見てみたところで、それの正解もわからなかった。誠に遺憾である。
え、待って。わたしまだ殺されてないよね? 確か建人に連行されて地下のなんもない部屋に辿り着いて、疲れたからすみっコぐらしよろしく角に座り込んで体育座りで寝たところまでは——いや全部じゃん。ちゃんと覚えてるわわたし。寝てる時に殺されてない限りは、これは夢! ドリーム! わたしの意識がわたしに見せてる夢だ! うん! 殺されてなければな!!!
「——どこかの小僧と同じことをほざく。」
「ん?」
脳内で自分を励ましていると、不意にわたし以外の声が聴こえた。
呆れ100%、溜め息混じり、そんな決して大きくはないはずのその声は何故かすっと耳に入ってきて、ゆっくりと声がした方へ振り返る。
すると高く高く積まれた骨の山、その頂きに頬杖をついて気怠げにこちらを見下ろす……
「悠仁くん!?」
そう、悠仁くんがいたのだ!
あ、そうかわたしの夢だもんね! わたしに都合がいい内容なのかな!
それにしたって髪は上がっていてお顔には謎の紋様が入ってて和装に身を包んでいるなんて、はじめて見る悠仁くんの様相にあらヤダかっこいい! とおばちゃんみたいなリアクションをしてしまう。
髪が上がっているのはお風呂上がりに見たことあるけど、いやなんかそもそもの雰囲気がいつもと違いすぎてなんかこう……っ、上手く言えないんだけどかっこいいことには変わらないのでそう叫んでおきます。
うちの義弟かっこいい!! 夢だけど!!
そう思い骨山の麓に手を付けて見上げたわたしを見下ろす悠仁くんのお顔は、ちょっとの不機嫌とまるで可哀想なものを見るような目をしていた。
「アレと一緒にするな、女。」
「え?」
「これ以上俺を小僧と抜かすなら、容赦なく頭と胴を切り離してやるぞ?」
そして唐突の殺害予告をされ、あれ夢の悠仁くんガラ悪いな?? と思いこそすれ。いやこれ悠仁くんじゃないな、と直感的に否定の言葉も浮かんだ。
「それにここは、貴様の夢の中ではない。俺の生得領域内だ。——分を弁えろ。」
わたしの夢じゃない。〝彼〟の生得領域。悠仁くんのそっくりさん。〝ガワ〟が同じ。中にふたり。——器。
それらを頭の中で繋いで、弾き出した答えは。
「貴方まさか、両面宿儺!?」
なんてこった! わたし呪いの王と対峙してらあ!!
「喧しい。」
キンッ
◇
思わぬところで呪いの王、両面宿儺とこうして相見える展開になるなど、誰が予測できただろう。
いや、この呪い普段から悠仁くんの中にいたんだよねそういえば。一回も出てきたことなかったからすっかりうっかり忘れてたわ。
「——はっ!」
えっ、あれ、わたし寝て? いや意識が飛んでた?? いつの間に??
頭の上にたくさんのはてなを浮かべながら周囲を見ると、そこはさっきまでと変わらない黒と赤の世界。ということはまだ、両面宿儺の生得領域内ということで……。
「ちょっと! 酷くないですかいきなり首ちょんぱなんて!」
「ほお。今度は認識が早いな。」
「そりゃどーも!」
ぐりん、と後ろを振り向けばやっぱりさっきと同じようにふんぞり返っている宿儺がいて、「学習する奴は嫌いではないぞ」とケヒケヒ笑っていた。
……くそ、その笑い方で笑う悠仁くんも悪くねーな……またちょんぱされるから言わないけど。
と密かに悶えたことは腹の中に隠して。いい加減本題に入るかと改めて呪いの王を見上げた。
「あの、ご質問してもよろしいでしょうか?」
「今は気分がいい。三つまでなら許してやる。」
「ありがとうございます。では気分が変わる前に一問一答で参りましょう。」
「何故わたしをここに?」
「何、労ってやろうと思ったまでだ。」
「貴方は誰の味方ですか?」
「俺は誰の味方でもない。」
「悠仁くんの身体、解放してくれません?」
「土台無理な話だ。」
「ふむ。そうですか……ありがとうございました。」
い、色々ツッコミてえ〜!!
と思ったけど、これ以上はきっと彼の機嫌を損ねてしまうのだろう。なので諦めて一人で考えにふけようとしたところで、意外や意外、「なんだ、欲のない女だな」と向こうから声をかけられた。
え、これ試されてる? 話したら「喋るな」って言われて首ちょんぱルートと、無視したら「無視するとはいい度胸だ」って言われて首ちょんぱルートに分かれてるとか? どっちにしろちょんぱされるやんけ! と思い心の中で泣いたけど、それなら少しでも宿儺の情報を得たいという好奇心が勝ったため無視ルートは避けることにした。因みにここまで0.5秒。
「貴方が三つまでと言うので、従ったまでですが……」
恐る恐る言ってみたら、首は飛ばなかった。キセキ!
「あれで満足か。」
「ええ、まあ。知りたいことは知れたので。」
「——ほう?」
え、ちょっと、何で頬杖ついて聞く体勢に入ったんです?? 身体ゆったり後ろの骨に落ち着かせないでもらえません??
「詳しく聞こうか。貴様の見解を。」
話すっきゃないですね! どうせ逃げられないですしね! ぐすん!
「えーっと、実はわたし、めちゃくちゃ嫌いな奴がいるんですけど。そいつ、最強の呪術師二人を味方につけてて。それに貴方まであちら側だったら詰んだな、と思って……」
「俺があの阿婆擦れに心を砕くはずがなかろう。馬鹿が。」
「そうですねすみません!!」
っていうかあの女のこと知ってるんですね! え、待ってこの王どこまで知ってんの?
「あの女の呪力は好かん。まとわりついてきて気色が悪い。」
「?? はあ……」
「まあ、それはどうでもいい。さて、続きを聞こうか。」
あっ、教えてくれるわけではないんですね。
「えと、じゃあ続きを。そんなわけで二つ目の質問は、貴方の立ち位置を確認したかったんです。返答次第では今後の展開を考え直さなきゃいけなかったので。」
「三つ目の質問は、まあわたしが呪術師になろうと思ったきっかけでもあったので。せっかくご本人に会えたので聞いてみようと思っただけです。」
「一つ目の質問に関しては、単純に現状把握のためだったんですけど……返答がわたしの想定外だったので飛ばしました。すみません。」
だって、労うって何。この呪いが? わたしを? なんで?? ってなるでしょ?
言い終えたわたしは最後に謝罪で締めてすごすごと頭を下げる。しばらく沈黙が続いて、わたし一人が緊張感でバクバク心臓を鳴らしていると比較的近いところからピシャン、と水音がした。
目を開けると、視界には誰かの足が見えて……いやいや誰かなんて決まりきってますけど! なんで!? なんでこっち来たの王サマ!? ずっと玉座にいてくれていいのにね!?
圧が! なんかよくわからん圧が凄いんだよこの王!
「顔を上げろ。」
「は、ハイ!」
言われるがままがばっ! と身体を起こすと、宿儺は不躾にじろじろとわたしの頭から爪先まで一通り見渡して。「今度は俺の質問に答えろ」と命令を下した。
うえええん! 悠仁くんの優しい笑顔がみたいよお! さっきまでかっこいいとか思ってたしいや普通にかっこいいんだけど、やっぱり中身が違うと印象がまるっと違うっていうね! いや当たり前なんだけどちょっと油断してたっていうか!
こんだけ近いと普通に怖いんだわ!
「はい喜んで!」
「貴様の問いに答えた俺が、嘘を吐いているとは思わないのか?」
あまりにもテンパリすぎて居酒屋の返事みたいになってしまったけど、宿儺はそこには触れずにそんなことを聞いてきた。ちょっとというかだいぶ意外な質問に、わたしの騒いでた感情もしゅるっと落ち着きを取り戻す。
「え、嘘だったんですか?」
「そうは思わないのか、と聞いている。」
「全く思わなかったです。……貴方がそんな下らない嘘を吐くなんて思いもしないですし。」
さっきのわたしの質問に対して、宿儺が嘘を吐く必要もメリットも無いと思っていた。し、そんなみみっちい嘘をこの呪いの王が吐くわけがないと、ある意味では信用していたのだ。
両面宿儺の、呪いの王としてのプライドを。
「——成程。」
わたしの答えが是だったのか、宿儺はひとつ頷くだけだった。
「貴様、何故あの女を殺さなかった?」
と思ったら物騒なことを聞いてきたよオイ! この呪いほんとどこまで事情知ってんの!??
「な、何故とは?」
「貴様らが世界の転移者ということは知っている。あの女に本来の名もかつての居場所も奪られ、同志には敵意の込められた目で見られているのだろう? ……力も申し分ない。そんな貴様が、あの女に遠慮する意味がわからなくてな。」
顎を掴まれ、目を逸らすことも出来ずに真正面から言われた言葉は、ぐっさりとわたしの胸に刺さった。
ショックではない、これは驚きと……たぶん、嬉しくて、だ。
あの時のわたしは、まあ倫理に欠けていたと思う。醜い一面だ。本来なら誰にも見せられないくらいの。
でもこの呪いは……いや、呪いだからかな。わたしの醜い部分を否定しなかった。認めてくれて、かつ何故手を抜いたのだと咎めるようなことを言う。
ああ、やばい。それに救われている自分がいる。
「……確かにムカついたし、本気で殺そうと思ってました。」
抵抗も忘れ、わたしは近い距離のまま〝両面宿儺の顔〟を見据える。
今だけは、わたしの汚い部分を。見せてもいいよね、そう思ってしまって。
「でも、あまりにも手応えが無さすぎて。……わたし、弱い人間を甚振る趣味は無いんですよ。」
たっぷりと皮肉ってみたわたしを見て、宿儺はさも愉快だと言いたげに口角を吊り上げた。
「ケヒッ。貴様も大概、いい性格をしている。」
「そりゃどうも。」
たぶんわたしも、似たような顔をしているに違いなかった。
「——まああとは、わたしの我儘です。悟と傑……貴方の言う、かつての同志があの女のことを大事にしているので。」
催眠の、設定のせいかもしれない。でも少なくとも現状では、二人や建人、雄はあの女のことを大切に思っているわけで、それを奪ってしまうのもどうなのかなあって思ったというのもある。
「わたしは、わたしとあの女のせいでこの世界に住む人達を悲しませたくはないんです。だから、殺さなかったのはあの女に遠慮したとかじゃ決してないですよ。」
「あくまで他人のために己を曲げるか。」
「曲げてるつもりはないですよ。——これでもわたし、医療に携わってる人間なんです。命を救う側の人間が、簡単に命を奪っちゃいけないと思うんですよ。」
だから、わたしはわたしのやりたいようにやっただけなのだ。
動物狂いの獣医として、理不尽に殺された動物達の仇討ちをしたいと思ったからそうしたし、でもやっぱり医療人である以上、殺して終わりというのも違う気がした。
トリップしてきた人間として、この世界に初めから存在する悟達のことを優先的に考え、その結果として殺さなかっただけのこと。
獣医としての自分も、呪術師としての自分も。彼らのかつての友人・紐束縁としても、悠仁くんの義姉・糸田紬としても。わたしは、どのわたしにも自信と誇りを持っているだけなのだ。
「でも、後悔してませんよ。本気で殺そうとしたことも、結果殺さなかったことも。矛盾してますが、わたしがそうすると決めて見事成し遂げたんですから。」
だから、宿儺の言うように己を曲げたつもりはない。自信たっぷりのドヤ顔で宿儺を見据えていると、数秒の後、彼はまたどこか納得したように一人で頷いていた。
「ああ、だからか。」
「?」
「自らを信じ、誇り高く生きる。——だから貴様から流れてくる呪力は、不快ではないのか。」
「?? 何言って——」
アッ、そういえば今顎掴まれ……悪癖発動中じゃ……??
やっべまたちょんぱされる! と慌てて離れようとしたんだけど、あろう事か宿儺はわたしの後頭部と腰に手を回し更に密着してきて……っ!?
ちょっ、やめ! 抱き着くな……って力強いな!! なんて戸惑っているわたしのことなんてそっちのけで、宿儺の手は頭を滑り項に触れてきて。
思わず、ビクリと身体が跳ねた。
嫌でも思い出してしまう。かつての級友に向けられた殺意も、呼吸が出来なくなる苦しみも、頭が熱く、でも冷えていく感覚も、じくじくと痛んだ心も。
見知らぬ呪いのどんなぐちゃぐちゃな姿より、あの出来事の方がしっかりトラウマとなってわたしに根付いていた。
「——ああ、そういえば以前、六眼持ちの男に甚振られていたな。」
ねえほんとこの呪い詳しすぎない? どこで情報集めてんの? なんてツッコミをする気力すらなくただ震えるわたしを横目に見てタチの悪い笑みを深めた、と思ったらするりと項を撫でられた。
「安心しろ。すぐに善くなる。」
そして、言うが早いかわたしの首筋に歯を突き立ててきたのだった。
…………はあ??? ちょおま、何してんの!!??