17、琴線
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この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
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悠仁くんに、嫌がらせの件をぶっちゃけてから数日の間は、何故か平和な日々が続いていた。
その間セコムの如く出来るだけわたしの傍にいてくれた悠仁くんに向こうも恐れをなしたんだろうか。このまま嫌がらせに飽きてまたお互い関わらない交わらない路線でいけないものだろうか。
紬ちゃんはそれを強く望みます!!
「なんて、そんな上手い話があるかーってね。」
「ねーちゃんそっち行った!」
この先の行く末を憂い空を見上げるわたしの視界に、悠仁くんが映り込んでくる。ちなみに言うと、義弟に追いかけられている呪いの姿も。
アレおかしいな? そのビル四階だけどその屋上から飛び降りてきたようちの子。呪霊祓うよりそっち助けた方がいいかな?
なんて、思うだけ無駄なことを一瞬だけ考えるも、わたしの持つ呪具の狙いはちゃーんと呪霊に定まっている。
「あいあい! 任せといてー!」
そのまま重力に従って落ちてくる呪いを刀で一閃すれば、それはわたしに触れる前にモヤとなって消える。
んー、今の手応えは3級くらいだったかな? そう評価しながら刃についた呪霊の血を払って落とし、鞘に納めた。個人的にこの動作が結構好きだったりする。だってかっこよくない??
なんてちょっといい気になっていると、背後から新たな呪いの気配を感じた。でもわたしは振り返ることすらせずに、「キキちゃん」と一言だけ呟く。するとぬいぐるみ戦隊の一体・キキちゃんが呪霊の攻撃を全て弾いた。
「悠仁くんよろしく〜。」
「あいよ!」
そうしてわたしは動くことなく、背後の呪霊は悠仁くんによって祓われた。ザフッと呆気なく消えた呪霊と、周囲に感じられなくなった呪いの気配。……うん。任務完了っぽいね。
「今ので最後?」
「だと思う。ということで……」
向かい合ったわたしと悠仁くんは、にっと笑いながら両手でハイタッチを交わす。「おっつかれ〜!!」と自然とハモった声に、また二人で笑った。うーん、青春!
「キキもお疲れ!」
悠仁くんはわたしの頭の上に乗っているキキちゃんにも労ってくれた。その義弟の可愛さにぐう、と呻いたのは内緒である。
みなさんお気付きでしょうか。
そう! わたくし糸田紬、先日から呪術師デビューを果たしております!
ご存知かもしれないけど、呪術師になるには特に試験とかそういったものはない。ある程度戦うことが出来れば術師を名乗ることは出来るのだが、まあそこら辺の詳しい事情は置いておくとして。とにかくある程度の知識、そして実地試験を何度か繰り返し問題がなければ、晴れて4級呪術師としてスタート出来るのだ。
「見事な手際、そして虎杖君とのコンビネーションでしたが、戦いの最中にボーっとするのは感心しませんね。」
「ング、」
「ナナミン相変わらずキビシー!」
呪術師として任務をこなすにあたって、単独で動けるのは2級以上の術師だ。だからまだまだ新米のわたしは悠仁くんとコンビを組んで今回の任務にあたったわけだけど、正直言ってわたしも悠仁くんもある意味で問題児のため二人だけで、というわけにはいかなかったようで。
こうしてお目付け役として、建人が同行してくれているのだ。
サングラスの位置を整え、講評を述べた建人は何故かホールドアップの体勢をとる。最初は疑問符を浮かべたわたしと悠仁くんだったけど、二人同時にピーン! と思い至り。顔を見合せにんまり笑いながら、今度は三人でハイタッチを交わしたのだった。
あ、もちろんわたしの悪癖の件は建人は知らないよ! だからキキちゃんは、夜蛾学長から呪骸を貰ったものという体で押し通してるよ!
「それにしても、他人の呪力で作られた呪骸をここまで使いこなすとは驚きですね。」
「あっはは〜。これはわたしが使っているというより、夜蛾学長の術式が強力なのでは? 『糸田紬を守れ』って呪いが込められてるんですよきっと!」
内心ギックギクの心臓バックバクだけどね!!
◇
なんとかわたしの女優力に助けられ、高専に戻ったわたし達は二手に分かれる。なんと悠仁くん、今度は伏黒くんと野薔薇ちゃんと埼玉で任務があるのだ。任務のハシゴだなんて大変……ハシゴするのは居酒屋くらいにしておきたいものだ。
「新田ちゃん、悠仁くん達のことよろしくね」
「お任せくださいっス紬さん!」
「伏黒くんがいるから大丈夫だと思うけど、この子達結構平気で無断行動しがちだから。その時はじゃんじゃん叱ってやってね。」
「ねーちゃんひどくない??」
「承知したっス!」
今回悠仁くん達についていく補助監督、新田ちゃんと固い握手を交わし、わたしと建人はその場で二人を見送る。
最後まで悠仁くんが心配げに振り返ってはいたけど、その心配を吹き飛ばすくらいの笑顔を浮かべて、わたしは手を振り続けたのだった。
うん、そうだね。もしかしたらここからが気を引き締めないといけないところかもしれないね。
腹の中で、悠仁くんにそう語りかけながら。
あの人が何か仕掛けてくるなら、悠仁くんがわたしから離れる時を狙ってくると踏んでいる。更に言えば今日は二年生もみんな任務に出払っていて、比較的いつも近くにいてくれる人がほぼいないこの状況を、あの人が狙わないはずがないと思っているのだ。
硝子や潔高くんの傍にいた方がいいと、悠仁くんやパンダには言われたけどわたしは同意しなかった。どうせなら直接対決してやろうかと意気込むくらいだったからである。
それにねえ……大人の醜い争いに他人を巻き込むなんて気が引けるじゃない。
ま、向こうの出方次第だね! 何もなければそれに越したことはないし、あったらあったでどうにかなんべ!
なんて、呑気に思っていた数分前の自分を殴りたくてしょうがなかった。
——数日後。
任務から戻ってきた虎杖悠仁は、宿儺と会話をしながら一人で校舎の中を歩いていた。
今回の任務は成功。しかし結果として、虎杖に暗い影を落としていた。
それを追い込むために、滅多に出てこない呪いの王はここぞとばかりに出てきては口を歪め嗤うのだ。
「それ、伏黒には言うなよ。」
呪いの言葉を吐き続ける宿儺にぴしゃりと言い放った虎杖は、辺りに視線をさ迷わせる。こんな自分が、いや、こんな自分でさえも受け入れてくれる義姉の姿を、虎杖はずっと捜していた。
——そもそも、ここはこんなにも静かな場所だっただろうか?
虎杖の心に、じわりと嫌な予感が走る。
校舎だけじゃない、高専の敷地内、学生寮の周囲をも歩いてみたけど、求める人物の姿が何処にもない。
——いや、そもそもあの義姉が、向こうから会いにこないのがおかしい。
きっと虎杖の知る義姉であれば、彼らが高専に戻る日を聞きつけ、門のところで待ち構えていたっておかしくないのだ。一番に駆けつけてきて、無事を確認したらほっとしたような笑みを浮かべて、「おかえりなさい、お疲れさま!」と言ってくれるに違いないと。
そう思うからこそ、現状未だ義姉と会えていないことに、虎杖の心は徐々に焦りを見せていた。
「——ああ、成程なァ。」
一度は引っ込んだ呪いの王が、再び虎杖の頬に出現する。虎杖にはわからない何かに、彼は気が付いたようだった。
「貴様の姉役も、随分と愚かなことをする。」
「……どういうことだ。」
「俺が教えてやる義理はないな。」
ケヒケヒと嗤う王に、虎杖の心は更に焦る。この呪いの王が、他人の不幸が大好きなコイツがここまで機嫌が良いということは、オレにとっては最悪な展開になっていると言っても過言ではない。
そう思ったから、虎杖はすぐに踵を返しある人物を求めて全力で走る。
脳内ではあのムカつく嗤い声が響いていたが、まだ事情を知らない虎杖はギリっと奥歯を噛み締めることしか出来なかった。
「——伊地知さん!」
「っ! 虎杖君!」
今度は求めていた人物がすぐに見つかり、虎杖は少しだけ肩の力が抜けた。
しかし相手の色のない顔を見て、すぐに顔を引き締める。
「伊地知さん、ねーちゃんは、」
「……紬さんは…——」
伊地知の顔を見るに、何かあったのは明白だった。
どんな被害に遭ったのだろう、怪我はどの程度? 意識は? そんなことばかりを考えていたからだろうか。
「糸田紬さん、君のお義姉さんは……
紐束縁さんへの殺害未遂で危険人物とみなされ、今は地下の隔離室に拘留されています。」
「——は?」
伊地知の発した言葉が、理解出来なかった。
——ケヒッ。
脳内では、やはりあの嗤い声が響いていた。