16、セラピー
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この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
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※※※
・うじうじじめじめ主人公。
目を付けられた! あの冗談も効かない呪の王に!
狙われた! 殺される! だから嫌だったんだ!!
どうする……五条悟達に助けを求めるか?
いや、もう虎杖悠仁に近付かなければ問題はないはず……!
もう関わらないようにすれば大丈夫のはず!
「あたしがこうなったのも、全部あの女の所為だ……! 絶対許さない……ッ!!」
でもそれなら、どうやってあの女を消す??
◆
じっ……と、自分の手のひらを見つめる。
それにいち早く気付いた悠仁くんに「どったの?」と覗き込まれ、「いんやーなんでも」と笑って返した。
先日浮上した疑惑を潔高くんに報告したところ、彼は余りにも迅速すぎる対応を取ってくれた。
まずわたしに、高専時代にその力の可能性があることに気付いていたか、気付きそうな・気付いていそうな人はいたか聴取をとり。
『わたしも悠仁くんに言われて初めて気付いて。昔は思いつきもしなかったよ。』
『学生時代、五条さん達からそれらしいことを言われたりは?』
『んんんんー……? なか……ったと思う。気付いたら黙ってるような連中じゃないし。』
『それもそうですね。』
であれば、一度家入さんにも話してみましょう。勿論、紬さんの本来の力のことは伏せて。
テキパキと指示を出してくれる潔高くんには本当に頭が上がらない。彼のサポートが無ければ、こうして高専に身を置いたり術師を目指して動けなかったり出来なかっただろう。うう……、あとで労いの飲みに誘お! いや、何か仕事の合間にリラックス出来るものをプレゼントした方がいいかな。それかストレス発散出来ること……もの……ああこの話はまた後で考えるとして!
で、硝子にもこの疑惑を話してみたところ。
『他人に呪力を流し込む?』
『悠仁くん曰く、不思議な力が流れてくるって。』
『……紬は特に意識して流しているわけではないんだな?』
『イエス、マム。』
わたしの話を聞いて、硝子はどこか合点がいったように『なるほどな』と一人で頷いていた。え、ちょっと情報共有して? そう思っていたのがバレたみたいで、硝子がやや呆れ顔で教えてくれる。
『お前、七海の任務にくっついていった時あいつに手握られたんだろ?』
『おっふ、』
『握っている間は特に気にならなかったそうだが、呪いを祓っている時に変化に気付いたそうでな……ちょっと待て、なんで頬を染める。』
『いやだってさ……七海くんみたいな紳士イケメンに手握られるなんて貴重な体験だったから。』
当時のことを思い出して赤面、ちなみにどこから浮気になるかな、と真顔で尋ねるわたしの百面相を見てか、『オマエの情緒どうなってんだ』と更に呆れられたのは言うまでもない。ついでに硝子曰く、えっちしたら浮気だそうです! 心がお広いですね硝子様!!
『捥いで捨ててサヨウナラだな。』
『十分許容範囲広いと思ウヨ。わたしはハグしたらアウトかなあ……いや、それも時と場合によるかも。』
なんて、ちょっと話が逸れたものの。
本題をまとめますと、わたしは自分の知らないところで建人や狗巻くんに対しても自然と呪力を流していて、彼らはそれのせい? おかげ? でいつもよりパワーアップしたのを感じていたらしかった。
ぬいぐるみなどの〝物〟は初めから呪力が備わってないため、呪力を満たすとわたしの意思を聞いてくれる分身体みたいな感じになる。
それに対し〝人〟の場合は、元からその人自身の呪力が身体を満たしているわけだから、わたしの呪力が入り込んだところでその人の呪力にはもちろん勝てない。結果、体内でその人の呪力に変換され、その総合量を増やすことができる、みたいな感じだろうか。
『簡単に言うと、輸血みたいな?』
『だな。オマエの呪力はO型タイプってわけだ。』
『なるほど?』
O型ならまあ、万人に輸血しても大丈夫だと思うけど。
『もし仮に合わない人がいたら、拒絶反応みたいなの起こるんかな?』
『そればっかりは合わない人間に聞いてみないとわからないな。』
『そうだよね〜。』
『ちなみに、人間以外にはどうなんだ? 例えば…——ぬいぐるみとか』
『え゛っ? や、やったことないからワカラナイナア。』
『そうか。』
この時の硝子の微笑みの意味がちょっとわからなかったけど、それ以上聞いてこなかったから問題ないだろう。セーフセーフ!
と、いうことがあって、それを思い出していたのだけど。
これからの注意点としては、わたしのこの力は出来れば限られた人にだけ伝えて欲しいということと、そのために無闇矢鱈に他の人に触れないように心掛けなくてはいけなくなってしまったことだろうか。
前者に関しては、夜蛾学長に知られる分にはまだいい。でもなあ……悟や傑に知られるのがなあ……と渋ってはみたものの、特級様に隠し立て出来るような内容ではないので諦めました。呪術師になるなら、仲間の力は把握しておいた方がいいもんね。理解はしてるけど納得してるかと言われれば微妙なところだった。諦めたけどね!
で、後者に関してはまあ、それなりに気を付けるようにしている。とはいえそもそも他人に触れる機会なんてそんなないわけだし、基本的には今までと変わりない生活を送っていた。
「なんだァ? オレのモフモフが気に入らねえってか?」
「そんなはずはありません至高の喜びでございます〜。」
「いや、なんで敬語だよ。」
上からにゅっと覗き込まれて見当違いなことを仰るパンダさんに、わたしは滅相もない! と後頭部をごりごり擦り付ける。そんなわたしを羨ましげに見る悠仁くん、君もあとで堪能するといいさ。
そう。わたしは今、パンダによるアニマルセラピーを受けていた。後ろから抱き着いてもらい寄りかかることで全身にモフみを感じるという贅沢仕様に、ここ最近のストレスが浄化されていくようだった。
楽園はここにあった……。
え? がっつり触れてるじゃんって? まあ相手はパンダだし……パンダはわたしの事情を把握してくれてる子だからいいのさ〜。今日こうして悠仁くんとパンダを呼んだのも、それを伝えるためだしね。
「人間に対しても悪癖が発動していた模様。」
「棘が感じてたやつか。まためんどうが増えたな。」
「え、ごめんめんどい人間で……」
「でもそれ、ねーちゃんが他の人に触んなきゃOKじゃね?」
と、今後気を付けるとして、でも急に距離を置かれたと怪しまれないように悠仁くんやパンダにはこれまで通り接触していこうということに。
そして物は試しということで、今はパンダに触れることで呪力を流しているのだ。いや意識してやってるわけじゃないけど。
「どう? わたしの呪力流れてくるのわかる?」
「ん〜、言われてみれば? って感じだな。」
「その後呪力使ってみるとわかるのかなあ。建人も狗巻くんも、祓ってる最中に気付いたらしいし。」
「おっしゃ、悠仁。この後ちょっと付き合え。」
「手合わせっスか! 喜んでー!」
じゃあオレ、ちょっくら身体あっためてくんね! と言うや否やどんっ! と走りに行ってしまった悠仁くんをパンダとふたりで見送る。
どっかの居酒屋の挨拶みたいな返事だったなあとぼんやり思っていると、悠仁くんの姿や足音がなくなったタイミングでパンダがわたしの頭をわしわしと撫でてきた。え、これなんてサービス?
「大丈夫なのか?」
「ふはは、むしろあんな幼稚な方法でこられて肩透かしもいいところだよ。」
話は変わる。
あのぬいぐるみ爆散事件の後から、わたしは例のあの人から嫌がらせを受けていた。
自室のドアの前に、みんなが苦手とするような虫が大量に散らばっていたり、作業着がぼろぼろに引き裂かれていたり、なんなら部屋の中が荒らされていたり。潔高くんに頼んで部屋に鍵を付けてもらってからは、用務員としての仕事道具が壊されていたり。
それだけであればあの人の仕業かどうかは確証がないと言えたけど、階段から突き落とされた時にちらっと見えた人影も脚立に乗って作業している時に上から水が降ってきた時に見えた人影も同じだったことから、すべてあの人が一人でやってるんだろうなあと思う。
何でそこまでしてわたしを追い出したいのかよくわからないけど、何も言ってこない限りわたしだって出ていく理由はないので素知らぬ態度で今日まで過ごしてきた。むしろ労力使いまくってて疲れないのかな? と思うほどだ。
約束通り、被害の状況は逐一パンダと狗巻くんには伝えていた。だからきっと、パンダは心配してくれているんだろう。
「パンダのママみが強くなってて紬ちゃん動揺。」
「誰がママだ。」
せめてパパと呼べ、とつむじをグリグリされて痛たたた!? と発狂するわたしを見てケラケラ笑うパンダ。パパならいいんだ? というツッコミは腹の中にしまっておいた。あっ、でもパンダがパンダのパパみたいにガッデム! みたいに厳つくなったらどうしよう……愛する気持ちは変わらないけど。
「なんていうか、全部想定の範囲内だからダメージ受けてないんだなコレが。」
「いやいや、階段から落とされるのは最悪死ぬぞ。」
「うん、あれはびっくりしたね。初体験だったし。」
咄嗟に頭を庇ったから大きな怪我とかはなかったけど、地味に身体の色んなところに青アザが出来ちゃったからそれを隠すのには苦労した。
「実害出てんじゃねーか」と顰めっ面で言うパンダの優しさが嬉しくて笑うと、またつむじが狙われたのでさっと頭頂部を隠した。これ以上押されてお腹下したら大人として恥ずかしい。
「ほんとに、自分で思ったより平気よ? でもまあ、本音を言うなら……ちょーっとだけ堪えてたりするかな。」
他人からこんな明確な悪意を受け続けるのは、流石にちょっとしんどいとは思っていた。向こうも労力を使っているんだろうけど、それを黙って押し付けられるこっちの身にもなってほしい。正直相手にするのも疲れるのだ。そっちに気を割く暇があったら、もっと術師になるための勉強に使いたいんだよ。
「あーあ、せめて直接言いがかりをつけに来てくれるんならこっちだって対処のしようがあるのに。人間めんどくせえ〜!」
「人間からそんな言葉を聞くとはな。」
「人間だから、言うんだよ。」
そのめんどうに付き合わせてごめんね。そう謝るわたしの頭を今度は優しく撫でるパンダの優しさを、わたしは知っている。知ってて利用しているような罪悪感が、わたしをじんわりと侵していった。
うーん、自尊心傷付けられると自己肯定感も下がるなあ。
◇
「パンダ先輩ばっかりズリィ。」
そう頬を膨らませた悠仁くんは、その日の終わりにわたしの部屋に行くと言って聞かなかった。その言葉の意味がわからず「え、パンダをモフってたわたしがズルいんじゃなくて??」と素で聞いてしまってからは、口すら聞いてくれなくて反抗期かな? とか思ってたけどどうやらそれもこれも違うらしかった。
にぶちんなねーちゃんですまねえ……と思いながら悠仁くんが部屋に来る前に急いでドアの前に散らばる虫やゴミを片付け、部屋の中に異常がないか確認をして。そうこうしているうちに両手にレジ袋を抱えた悠仁くんが部屋に乱入、わたしが手伝う間もなく夕飯を作り上げ、あれよあれよという間に二人で完食、促されるままお風呂に入り、出てきたところで捕まった。
わたしは今、悠仁くんに髪を乾かしてもらっている。他人に髪を乾かしてもらうのって何でこんなに気持ちいいのかなあと思いながら肩の力が抜けたわたしを見て、やっと悠仁くんの雰囲気が柔らかくなった気がした。
乾かし終えたら、確認のためか髪に指を通した悠仁くんの手がそのままわたしの頭を掴み、こてんと身体を倒される。頭が着地したのは悠仁くんのお膝の上……正確に言えば膝の上に置かれた折り畳みブランケットの上で、筋肉の硬い感触と布の柔らかい感触に一瞬だけ思考がバグった。
いや、実はだいぶ前からバグってはいたのだけど。悠仁くんに聞くタイミングを逃しに逃して今に至るっていうね。
「……どしたの? 悠仁くん。」
「ん。ヤキモチ妬いた。」
「? 誰に?」
「今日はパンダ先輩、昨日は伏黒の玉犬たち。」
仰向けになって下から見上げる悠仁くんは、また少しむすんと拗ねたような顔をしていて。モフモフを独り占めしてたわたしに嫉妬するならまだしも、何故パンダや伏黒くんの式神ちゃん達に嫉妬……? と本気でわからずに首を傾げるわたしに、悠仁くんは溜め息と共におでこに手を降らせてきた。
ぺちん、と軽い音が鳴って、おでこが叩かれる。反射的に「痛ー」と喚くと、今度は優しい手つきで撫でてくれた。
「オレだって、ねーちゃんのこと甘やかしたいのに。」
そうしてぽつりと落とされた言葉に、わたしはぱちぱちと瞬きを二回くらい。
「え、わたしめっちゃ甘えてるじゃん? 現在進行形で。」
ご飯作ってもらって髪乾かしてもらって……と指折り数えると、悠仁くんは首を振って「全然足りません〜もっと甘えてきてください〜」とぶうたれる。
そこでやっと、悠仁くんの言いたいことがわかったわたしは、やっぱりにぶちんなのかもしれない。
「……あらあら、心配かけちゃってた?」
「ん。そりゃさ、動物みたいに癒してやることは出来ねーけど。オレだって話くらい聞いてやれるし、こうやって寄りかからせてあげられるよ。」
「……」
眩しい。その優しさが光となって悠仁くんに後光が差してるような錯覚がする。昼間パンダにも感じた罪悪感がまたじわじわと胸を湿らせ、その感覚に悠仁くんの顔を直視するのが憚られて、両手で顔を覆い隠した。実際は天井の電気が眩しかっただけなのかもしれないけど、今となってはどっちだったかなんてどうでもいい。
少なからず弱った心に、他人の体温は心地好すぎた。
「……ねーちゃん?」
「ちょ、ちょっとまって、このままでいさせて。」
この言い方だと、悠仁くんはわたしが嫌がらせをされているということには気付いていなさそうだった。それに安心半分、黙っていることに罪悪感半分でどういう顔で悠仁くんを見たらいいのかわからない。
どうする? 話してしまう? 大人としてのプライドも、恥も外聞もすべて捨てて、縋ってしまう? ——きっと優しい悠仁くんのことだ。義姉がそんな目に合っているとわかれば怒ってくれるのだろう。守ろうとしてくれるのだろう。
でもそれじゃ、向こうに火に油を注ぐだけだ。それに何の解決にもならない。こんな陰湿な人間の汚い部分を、子供に見せるべきではない。
ああだめだ。何が正解なのかわかんない。泣きそう。いやなんでだよ。今泣く意味がわかんない——
「ねーちゃん。」
堂々巡りする思考に混乱していたわたしを我に返らせたのは、悠仁くんのあたたかい手だった。
「さっき言ったでしょ。『もっと甘えて』って。」
「オレ、ねーちゃんに甘えられんの結構すきよ?」
「頼られてるって、信用されてるって思えるから。」
そして、悠仁くんの口から降り注ぐ言葉達に、ひやひやに染みていた心があたたかくなるような感じがした。
「ねーちゃんだって、オレのこと放っておかないだろ?」
言われて、ハッとする。もし仮に逆の立場だった場合、わたしは教えてくれなかったことに拗ねて、理不尽に怒って、きっと落ち込む。何で言ってくれなかったの、わたしはそんなに頼りないのか、大事なことを言えるような関係ではなかったのか、なんてこと思う。絶対。
その考えに至った時、もやもやだった思考が急にクリアになったような気がした。
おずおずと顔を覆う手を退かすと、いつもの飄々とした顔でわたしを見下ろす悠仁くんがいる。悠仁くんの後ろで光っているのはやっぱり人工的な明かりで、眩しいことには変わりないけど、ちゃんと真っ直ぐに見上げることが出来た。
「……悠仁くん。わたしの悩み、聞いてもらっていい?」
「もちろん。」
ああ、わたしは何を思い悩んでいたのだろう。義弟がこんなに嬉しそうに笑顔を見せてくれるなら、もっと早く打ち明ければよかった。
「……ただし、条件があります。」
「条件?」
「相手には、口出しも手出しもしちゃダメ。それを守ってくれるならお話します。」
「相手?? ……うーん、よくわかんねーけど、オッケー!」
「言ったからね? はい、縛り完成ー!」
そもそもわたし、隠し事とか出来ないタイプだしな!
この数分後、縛りを設けたことを激しく後悔する義弟の姿がありましたとさ。