2、作戦会議
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この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
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※※※
・擦り合わせと作戦会議。
・捏造モードでレッツゴー
「潔高くん……老けたね……」
「老けっ!? …………否定はしません。縁さんがいなくなってから、既に10年は経っていますから。」
「なんてこったい。」
かつて自分が住む世界とは違う世界にトリップしたことのあるわたしこと、紐束縁(ひもづかゆかり)は、この度その世界に舞い戻ってきました。
最初こそ命の危険に晒されたものの、それが過ぎればかつての後輩くんと再会。きゃー久しぶりーとはしゃいでいたところに、後輩・伊地知潔高は眼鏡を押し上げながら周囲を気にして「お話があります。大事な話が」と告げて血みどろのわたしを車に乗せた。
「虎杖君。すみませんが、少々寄り道しても構いませんか?」
「? おお、別にいいっすよ!」
というかおねーさん、伊地知さんと知り合いなんすね! と先程のわたしと同じようにはしゃぐ少年・虎杖悠仁くんを後ろへ乗せ、車は出発する。潔高くんからタオルを渡され顔や頭を拭い、虎杖くんが自分が着ていた制服を差し出してくれたので甘え拝借したことで少しは見られる格好になったわたしを見留めて、潔高くんは話しだした。
現れるのも唐突なら、帰るのも唐突だった一度目のわたしのトリップ。高校一年の春にこの世界へ〝飛んできた〟わたしは、二年と数ヶ月の時間を過ごし、三年生の八月に自分の世界へ戻った。それからかれこれ10年を、平和な自分の世界で大学生と獣医として生きていた。それを思えば、こちらの世界だってそれくらいの年月が経っていてもおかしくはないだろう。時間の進みの違いとか、ほら、考えるのめんどいし。今はただ、同じように10年が経っていることを喜ぼうではないか。時差ボケがなくて助かります。
その、わたしからしてみれば10年の間にこちらの世界で起きた出来事を、潔高くんは話してくれた。
わたしがいなくなったあと、かつての同級生の一人が呪詛師となり世界を滅ぼそうと目論んでいたこと。昨年のクリスマスに彼を捕らえ、殺さずに改心させたこと。今はもう二人の同級生らと共に高専で働いているということなど。とんでもないことを淡々と、まるで報告書を読み上げるかのように告げる潔高くんを驚きで凝視してしまったのは言うまでもなかった。
そして驚くべきことは、それだけではなく……というかこっちの方がびっくり仰天したわけではあるけど。
「びっくりしたなあ。この世界にもう一人〝紐束縁〟がいるなんて。」
なんとこの世界には、既にわたしと同じ名を持つトリップ者がいるそうなのだ。更に驚いたことに、かつて共に勉学を学んでいた彼らは、その子をわたしだと思い接しているそうなのだ。そしてその子もその子で、まるで昔から知っているかのように振舞っているのだとか。
「でも、潔高くんもその子をわたしだと思ってたんでしょ?」
「はい。でも妙な違和感はずっとあったんですよ。」
潔高くん曰く、過去の話がいまいち噛み合わない時があったり、そもそもの見た目も違うらしい。
それなのに抱いた違和感は、脳が「何かがおかしい」と疑問と認識する前に「彼女は自分の知る紐束縁だ」という結論にすり替わるのだという。
「まるで、催眠術にでもかかってるような感じだねえ。」
潔高くん自身もよくわかっていないなりにしてくれた話をまとめると、そんな感じの内容だった。一見すると支離滅裂なことを言っていると思うけど、わたしにはその現象を説明できる術を持っていた。
何故その子が、自らを紐束縁と偽っているのか。何故記憶のすり替えが出来たのか。それはまあ、つまり。
「こっちの世界に来るとき、何か〝設定〟したんだろうね。例えば、君たちの記憶の〝紐束縁〟をその子にすり替えたとか。」
なんてチートな羨ましいなオイ。でも〝初対面〟で彼らに会うより〝かつての仲間〟として再会した方が、はじめの警戒レベルも確実に下がるだろう。この世界に早く馴染み上手いことやっていくには、この世界の住人たちに信頼されることは必須なのだから。イージーモードでいけるならわたしでもそっちを選ぶ。
まあわたしの場合、最初から選択する余地も無ければ今回はハードモードからのスタートになるわけだけど……あれ。
「そんな状態だったのに、なんで潔高くんはわたしが紐束縁だって認識できてるの?」
「それは……」
途端言い淀む潔高くんに首を傾げていると、今まで静かにしていた虎杖くんが「あっ!!」と突然声を張り上げる。
「わかった! 伊地知さん、おねーさんのこと好きだったんでしょ!」
「んん?」
「ブフォッ!」
虎杖くんのこと忘れてたなあと思っていたせいで、彼が発した声は聞こえどなんて言ったかまでは聞き取れなかった。しかし潔高くんはそうではなかったようで、盛大に動揺するもんだから車が揺れる揺れる。対向車とぶつかりそうになったところで何とか正気に戻った潔高くんは、急いで車を路肩に停めた。ちょっと酔いそうになったことは言わないでいてあげよう。
「いっ、虎杖くん何てことを! た、確かにあの学年の中では唯一の常識人だったし綺麗な人だとは思っていましたが……っ! 決して好きだなんて恐れ多い!!」
「めっちゃ動揺してるじゃん。」
「私はただっ、憧れていただけで……! 何度もその優しさに救われたので!」
「虎杖くん、もういじめないであげて。」
「そうだね……ごめんね伊地知さん。」
わたしに好意を持ってくれていたことは単純に嬉しかったが、こんな形で暴露させられているのがあまりにも不憫でどうしても憐れみの目で見てしまう。虎杖くんもそうだったのだろう、二人でポンッと潔高くんの肩や背中を叩いてやると、なんかもう吹っ切れたのか「それですよ! それ!!」と勢いよく振り返ってきた。それとはどれでしょう。
「今の縁さんには、そういった優しさが無いんです! まるで人が変わってしまったかのような……そんな違和感があったからこそ、貴女を見掛けた時に本物だと気付けたのかもしれません!」
わあっ! と泣き出してしまった潔高くん。大人になった今だからわかる、彼のこれまでの苦悩を垣間見た気がして、ああこの後輩も社会にもまれているなあとつい貰い泣きしてしまいそうになった。
「今まで大変だったね。まだよくわかってないけど。泣ける時に泣いちゃいな。」
「縁さん……っ!!」
ともあれ、運転手がこの様子じゃあ運転が再開されるのはまだ時間がかかるだろう。それならば今すべき事は、と思い至ったところで、わたしは虎杖くんに向き直る。
「虎杖くん、今までの話聞いてて質問あるかい?」
「いや、つーか質問だらけっすけど。」
「だよね〜。」
トリップだの成り代わりだの、その手のラノベやアニメを観ていないと到底理解できない、というか信じ難い話だろう。そう思ったわたしは、虎杖くんに一から説明することにしたのだった。
◇
話を聞き終えた虎杖くんは、目をキラキラさせてわたしを見ていた。
「じゃあおねーさんは、二回も異世界に飛んでるってこと??」
「そうそう。」
「マジで映画みてー!! なんか特殊能力とか使えんの!?」
「はっはー。残念ながら、呪いが見えるようになったことくらいでチート能力はないんだなこれが。」
神様は不平等だねと、まだ見ぬもう一人のトリップ者との対応の差に内心項垂れていると、「それでもすげーじゃん!」と虎杖くんは励ましてくれる。
こうも素直に凄い凄いと褒めてくれる虎杖くんに、この子こんな反応で大丈夫かしらと逆に心配になってしまう。もし嘘だったらとか考えないのかな……今後怪しい商法とかに引っかかったりしないかなと心配していると、それに気付いたのか少しだけむっとした表情で見られてしまった。
「オレ、おねーさんが嘘吐いてるかどうかくらいはわかるからね?」
「おや、意外と聡いんだねえ虎杖くん。」
「聡いっつーか……多分、おねーさんに成りすましてる人と会ったことないからかも。」
「ほうほう?」
それから今度は、わたしが虎杖くんの話を聞く番となる。元は呪いの視えない一般少年だったけど、知人が呪霊に襲われた際に視えるようになったことや、両面宿儺の器となっていること、それが要因で高専に通い出したこと、家族がいないこと、自分は今死んだことになっていること、などなど。
ここ数ヶ月でハードな人生を歩んできている彼の物語は、しかしそれでも明るい声色で本人が話してくれた。
全くもって強い子だ。この世界が小説や漫画になっていたら、彼が主人公に違いないと思えるくらいには、強く優しい子だ。
「なんだかさ。オレとおねーさん、境遇が似てる気がしなくもないから、なんか他人事だと思えないんだよね。」
「まあ、わたしもこの世界に来るまでは呪霊なんて見えなかったし、家族もいなけりゃ現状住む所すらないしね!」
「あ、もちろんおねーさんの方が大変なのはわかってるよ?」
「苦労や大変さに上も下もないよ。他人と比べるものでもないしね。」
全くもって優しい子だ! 思わず頭を撫でてしまったのは仕方がないと思う。
「まあそんなわけで。オレが高専に来てから、〝縁さん〟って人には会ったことないから、その催眠? みてーなもんにかかってないのかも。」
「なるほどねえ。それはそれで安心したよ。」
催眠にかかっていた状態からわたしを思い出してくれた潔高くんと、紐束縁がわたしだということを理解してくれている虎杖くん。この二人のおかげで、わたしはわたしが〝紐束縁〟なのだと自覚していられる。それさえ自覚していれば、例えこの先わたしの存在を疑われても、わたしはわたしで居られる。
「ありがとうね。虎杖くん、潔高くん。」
わたしが紐束縁を騙る誰かと出会う前に、こうして出会ってくれたことは感謝してもし足りない幸運に違いなかった。でなければわたしはきっと、この世界にひとりぼっちになってしまうところだった。
「最初に君たちに出会えたから、わたしは今もこうして生きてる。」
そう言って、虎杖くんの頭をもう一度、今度は潔高くんの頭も一緒に撫でる。虎杖くんは照れくさそうに、潔高くんはせっかく止まった涙をまた両目から溢れさせていた。
「やっぱり! 貴女が縁さんで間違いないですぅぅぅ!!」
おいおい泣き出してしまった潔高くんを見つつ、虎杖くんと目を合わせ。堪えきれないといった風に彼が噴き出すものだから、わたしもつられるように微笑んだのだった。
……潔高くんをこんなに泣かせる程疲弊させるなんて、今の紐束縁は何をしてくれやがってるの??
そんなことを腹で思いながら。
◆
「え、別にこのままでいんじゃない?」
これからどうするか。そう問うてきた二人にけろりと答えると、忽ちむっとした顔になってしまう。なんで二人して同じ顔するの仲良しさんか!
「……なんでですか?」
「なんでって言われても……今の現状でわたしが本物の紐束縁だって言っても、誰も信じちゃくれないよ。」
潔高くんみたいに自然と気付いてくれれば話は別だけど、逆に怪しまれそうだしね。言いながら慰めるように頭を撫でてやれば、眉間に寄っていた皺が少しだけ薄まる。
「とは言え、隠すのはあくまで〝わたしが本物の紐束縁〟だってことだけ。別の世界から来たってことや、それ以外のことは正直に話すつもり……全部話したあとの処遇だとか、そういうのはそっちに委ねるよ。」
だから、わたしのことは〝得体の知れない怪しいヤツ〟として接してほしいことを伝えると、渋々ながらも頷いてくれる。それに内心ほっとした。
わたしの所為で、補助監督である潔高くんに要らぬ疑いがかけられるのはごめん被りたいからねえ。
「あ、それじゃあさ」
今後の方針が決まりかけた時、後部座席の虎杖くんが何やら思い付いたようでぽんっと手を叩く。その声と音にわたしと潔高くんが振り返ると、虎杖くんはニッと企むような笑みを浮かべていた。
「おねーさん、オレのねーちゃんになるとかは?」
「……虎杖くんの」
「お姉さん……?」
宇宙猫を顔の横に浮かべる大人二人に対し、虎杖くんは変わらない笑みで自分が考えた作戦をプレゼンしていく。思い付きにも関わらずしっかりとした内容に、わたしも潔高くんも感心してしまった。
まるで、あるはずの無い記憶が思い起こされていくようだった。
◇
「実際のところ、どう? 高専で虎杖くんの身辺調査してるんだよね?」
「それはもちろん。ですが、今の内容であればさほど矛盾は生じないかと。縁さんがトリップしてきたという事実さえ隠さなければどうにでもなりますしね。」
「戸籍の問題とかね。」
「はい。それに二年だけ一緒に住んでいたとなれば、調査もそこまで追求しないでしょう。穴をついた良い作戦だと思います。」
「補助監督さんが言うんだから間違いないね。」
虎杖くんの作戦内容を聞き、彼にはちょっと待ってもらってわたしと潔高くんは一度車から降りて最終確認をしていた。彼が身辺調査されてるとか、そういった事を本人に聞かせないためでもある。あとは呪術界の深いところにいる潔高くんからの見解を聞いて問題がなければ、この作戦は速やかに遂行されるのだろう。
「でも、大丈夫かな」
「……何か、心配事が?」
「この作戦は、半分は本当だけど半分は嘘でしょう? その嘘がバレた時、虎杖くんと潔高くんが責められる事態になるのだけは嫌だなと思ってさ。」
わたしは、わたしの存在を知った上で受け入れてくれる二人がいれば良かったのだ。しかしこの作戦は、真実を知る二人が完全に巻き込まれてしまっている。わたしという異分子のせいで、この世界の住人が被害を受けることだけは避けたいのだけど。
そんなわたしの考えが顔に出ていたのだろう。潔高くんはふっと微笑んで、わたしの両手を優しく握ってくれた。
「大丈夫ですよ。そもそも、貴女を騙る人物がいるせいでこのような事態になっているんです。貴女は何も悪くない。」
「潔高くん」
「私は、私の意思で、貴女を守りたいんです。虎杖君もきっとそう。だからどうか、貴女と共犯でいさせてください。」
「潔高くん…………立派になって……!」
かつての後輩は、とても素敵な大人の人になっていた。そんな人のためにも、わたしが自分を偽ってはダメなのだと改めて思う。
潔高くんと虎杖くんのためにも、頑張って生きていこう。うん。
「それより、縁さんこそ大丈夫ですか?」
「うん?」
「立場が変わるということは、かつての仲間に警戒されることになります……五条さん達にも。それでも、縁さんは平気ですか?」
そろそろ車に戻ろうとしたわたしの手を、未だ掴んでいた潔高くんは少しだけその力を込めて引き止めた。見上げると真剣と心配がごちゃまぜになった表情で、潔高くんはわたしを見ている。
「貴女を騙るあの人は、特に五条さんや夏油さんにべったりです。その分、あの人達への催眠も強いはず。」
「え、待って。べったりって精神的に?」
「物理的にも」
「死にたい」
「縁さん、私は今真剣に話しています。」
「あっ、はいすみません。」
茶化したわけではないけれどさらっと叱られたので、とにかく今は黙ることにする。その分あとでじっくり聞いてやるからな。
……あ、いや、やっぱり聞きたくないな。
「貴女が紐束縁だと認識されない以上、風当たりはきついものになるかもしれません。それでも……」
「まあ、なんとかなるよ。」
「縁さん、」
「だって、潔高くんと虎杖くんがいるもの。」
本当のわたしを知ってくれている人が一人でもいるならそれだけで百人力だし、ハードモードからノーマルモードにまでレベルは下がると思うのだ。精神的にって意味だけど。
「それに、忘れちゃいけないよ潔高くん。」
「?」
「一回目のトリップの時、その類のイベントは既に経験済みなんだよ。」
だから警戒されようが敵認定されようが、この世界の勝手がわかっている分一回目よりイージーだって!
そう言って微笑んだわたしに、潔高くんはどこか呆れと安堵と、そして少しだけ泣きそうな顔になった。でもわたしは、敢えてそれに気付かない振りをした。
「お待たせ〜」
「お、話終わった?」
「うん、つつがなく〜。じゃあ早速だけど虎杖くん。わたしのこと気絶させてくれない?」
「へっ?」