15、もう一人の
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この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
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※※※
・みんなおまたせ! 主人公(偽)の出番だよ!
・【共有】と時間軸は同じ。
「かわいいなあ〜この猫ちゃん!」
昼メシの時間、普通の学校でいえば昼休みにあたる時間帯。オレは伏黒に連れられ、学生寮の茂みの中にいた。
ちなみにねーちゃんは今日、狗巻先輩の任務に同行してるよ!
「ずいぶん懐っこいのな!」
「紬さんに治療してもらってから、より懐くようになったな。」
「へへっ、お前わかってんなあ〜。」
伏黒が呼べばどこからともなく草を掻き分けやって来たその猫は、初めて会うオレにも人見知りすることなく身体を擦り付けてきては喉をゴロゴロと鳴らす。その可愛さ、いつもの任務の合間の最高の癒しともいえた。
ねーちゃんから話だけは聞いていたこの猫の話を伏黒にすると、あの伏黒が少し表情をやわらかくして「紬さんから聞いたのか」とほっとしたように言ったのだ。あの伏黒が!
「この猫がケガした時、伏黒も手伝ったんだってな。」
「ああ……あの時の紬さんは怖かったな。」
「ねーちゃん、獣医ってことにプライド持ってるみてーだからなあ。」
思えば、この世界で獣医としての話を聞いたのはこの時だけだ。好きなことを仕事にして、毎日忙しかったけど充実していたんだと言っていたのを思い出す。
オレがまだ、ねーちゃんと同じ部屋で住んでいた時。二人の過去の擦り合わせも兼ねて、色んな話をした。
このお陰で、よっぽど斜め上の質問をされない限りはオレとねーちゃんは互いのことを答えられるようになっている。未だオレとねーちゃんが嘘を吐いているということに気付く奴はいなかった。
何の警戒もなく仰向けになる猫の腹には、その治療の際縫われた跡が残っている。その跡は傍目にも綺麗でほんのうっすらとしか見えないことから、ねーちゃんの技術の高さを垣間見た気がした。
ふふん、誇らしいねこりゃ。そう思っているのがバレたのか、伏黒に「何でオマエがドヤ顔してんだよ」と呆れ気味に言われてもへっちゃらだった。
そんな時だ。
好き放題されていた猫の耳がぴくりと何かの音を拾い、慌てて身を起こしたかと思えば一目散に逃げ出してしまった。
その一瞬の出来事にオレと伏黒がびっくりした顔で顔を見合わせていると、猫が逃げた方向とは逆の方の茂みがガサガサと茂みが揺れ動いて。
「あっ! いたぁ!」
ひょっこりと顔を出したのは、ねーちゃんの名前を騙るあの人だった。
「もー、探したんだよ2人ともぉ」
「紐束さん……」
あの人だとわかった瞬間、伏黒の表情が僅かに曇ったのを見逃さなかった。
「こんなところで何してたのぉ?」
「いえ、別にこれといって用事は……」
「ふぅん? 怪しいんだぁ。」
……そういえば、ねーちゃんから聞いたことあるな。五条先生や夏油先生だけじゃなくて、伏黒や狗巻先輩のこともこの人は狙ってるって。
その話をした時のねーちゃんのチベスナ顔も一緒に思い出しては『だからなるべく、あの女と二人っきりにさせないように気を付けて見てるんだ』という言葉も思い出して、オレは立ち上がる。
ねーちゃんがいない今、オレが伏黒を守らねーとって思った。
「あの、すんません。もういいっスか? オレら、次の授業の準備しなくちゃいけないんで。」
さり気なく伏黒とその人の間に入り、威圧しないよう気を付けながら口を挟む。
思えば、それがオレとその人の初めての会話だった。
「虎杖……」
「いいから行くぞ、伏黒。怒られちまう。」
明らかにほっとした様子の伏黒の気配を背中に感じて、自分の行動は間違っていなかったのだと察する。咄嗟に吐いた嘘だったけど、そうと決まればここから離れた方がいいだろう。そう思い踵を返したオレの腕を引き留めたのは、紛れもなくその人だった。
「待ってよぉ悠仁クン。せっかくあたし、君とお話しにきたんだよ?」
「オレ?」
「そうそう〜。ほら、あたし達ちゃんとお話したことなかったでしょ? これから仲良くなるためにも、お話したいなぁって思って。」
触れられた瞬間、何故か身体に寒気が走る。自分の中の何かが書き換えられていくような奇妙な不快感に思わず突き飛ばしたい衝動に駆られるも、なんとか寸でのところで耐えた。
すり、と甘えるように擦り寄られると、その不快感は更に増した。……が、オレが残れば済むってんなら話は早い。
「わぁ! すごい筋肉ー! 悠仁クンいい体つきしてるんだねぇ。」
「……悪ィ、伏黒。先戻っててくんね?」
「虎杖、でもオマエ……」
「オレなら大丈夫だから。……あ、でももしかしたら遅刻すっかもだから先生に伝えといて。」
そうやって頼めば、伏黒は真面目だから授業に行かないなんてことはないだろう。さり気なく伏黒とアイコンタクトを取れば、伏黒はそれ以上何も言わず「……わかった」と言って足早にここから離れていった。
◇
「……で、話ってなんスか」
自然な流れで掴まれている腕を離してもらって、寮の壁に背中を付ける。その人はオレの前に立って「汚いよぉ?」って言ってくるけど、ねーちゃんが掃除してんだから大丈夫なんで気にしないでください。
「あのねぇ、あたしも悠仁クンのお姉さん? と同じで別の世界からトリップしてきた人間なんだぁ。」
「そうらしいっすね。」
「知っててくれたのぉ?? 嬉しいなっ!」
それからその人は、こっちから聞いたわけでもないのにペラペラと自分のことを話していく。そのほとんどが「あたしは可哀想」「あたしは頑張ってる」「あたしは」「あたしが」とまあ自分のことばっかだったから途中で聞き流すようになっていた。興味のない話を延々とされても困るってもんだ。
大体この人、オレのこと避けてなかったっけか。理由はわからんけどオレが生きてることを隠されてる時、五条先生らから話を聞いてるもんだと思ってた。聞いた上でオレと一切関わろうとしてこなかったから、興味なしか嫌われてるもんだと思っても仕方ねーよな? それが何を思って、このタイミングで仲良くなろうと思ったんだか……内心でそうボヤきながら、ちら、と。その人の姿をちゃんと見てみる。
背は釘崎と同じくらい、でも全体的に華奢ですごく頼りなさげだ。身体のどこにも傷跡のない、綺麗な腕や脚をしていた。それは見る人によっては守ってやりたいと思うのかもしれんが、オレは他人より腕力が強い方だから、反対に傷付けちまいそうだと思った。それなのに出てるところは出てるみてーだから、なんかこう……エロゲに出てきそうな体格してんなあとは思う。
その分ねーちゃんは背も狗巻先輩くらいあって、本人が『女の中では怪力の部類に入ると思う』と真顔で言ってたこともあって、全体的に筋肉がしっかり付いている。それなのに触れるとやわこいから、やっぱり女の人なんだなあってしみじみしたっけ。一回ねーちゃんに言われて腕相撲してみた時、顔を真っ赤にして全力で必死になってたけど全然動かなくて、『怪力のプライドが傷付いた!』って怒ってきたっけなあ。あれはかわいかった。うん。
ねーちゃんの手や腕、脚には幾つもの傷跡がある。昔この世界にいた時、呪術師として付いた傷もあれば、自分の世界で獣医として働いている時に、咬まれたり引っ掻かれたりした傷もあった。
思い出であり誇りだとハッキリ言ったねーちゃんは、オレが羨むほどにカッコよかった。
——ああ、結局そこだなあと思う。
散々外見のことを言ってみたけど、結局は性格が大事だよなあ。
この人の性格は伏黒達や伊地知さん達から聞いていて、それこそ会う前から良い印象は持っていなかったのだ。第一印象〝ねーちゃんに成り代わってる偽者〟だったし。
それでも、オレなりに他人からの意見だけで決めつけんのは良くないなって思ってたわけ。だから今こうして、向こうから来てくれたのをいいことに改めて話してみてるけど……結果、あんまり近付きたくないタイプだなってことはわかった。
「ちょっとぉ〜、ちゃんと聞いてる??」
その演技くさい喋り方も、わざとらしく頬を膨らませるあざとさも、全て上辺のものに見えてこの人の本心が見えない。オレはたぶん、そこが引っかかってんだ。
「……あ、ごめん。何だっけ。」
「ひどぉい! ちゃんと聞いてよぅ。」
近くにいるあいつらが、きちんと本音をぶつけてくるから。隣にいてくれる義姉が、いつも明け透けに笑ってるから。
「それにぃ、年上にはちゃんとケーゴ使わないとだよぉ??」
「ごめ……スミマセン。」
「もぉ、そんな常識も教わらなかったのぉ?」
だからオレは、この人が苦手なんだ。
「悠仁クンの〝ねーちゃん〟も、教育がなってないねっ!」
「!」
苦手だ。そう確信した瞬間にねーちゃんのことを話に出され、指先がピクリと反応した。
「小さい頃一緒に住んでたんなら、ちゃんと〝躾〟しなきゃダメじゃんね? あとになって恥ずかしい思いをするのは悠仁クンなんだからさぁ。」
「……ねーちゃんは関係ないだろ。」
「あっ、でもぉ。そもそもあの人がちゃんとした常識持ってたら、悟達とあんなことにはなってないか!」
きゃらきゃらと笑うその顔は、明らかにねーちゃんを馬鹿にしているように歪んで見えた。
「そぉだ! なんならあたしが一から教えてあげよっか? 君の知らないコト、あたしならイロイロ教えてあげられるよぉ??」
オレのことをとやかく言われんのは、まあムカつくけど今は置いとくとして。ねーちゃんのことを言われんのは、とてもじゃないけど癪に触って。
いつの間にか両手は、拳を握っていた。でもその手を取られ包み込まれると、ぞわりとした不快感と、また何かが変えられてしまいそうな恐怖にも似た感情がオレの中に駆け巡った。
「あたしならぁ、悠仁クンのすべてを受け入れてあげられるよ。……だから、あの女じゃなくてあたしを好きになって?」
「気安いぞ、売女が。」
吐き捨てるように言ったのは、誰か。
「それ以上口を開いてくれるなよ。うっかり殺してしまいかねん。」
◇
突然鳴り響く携帯端末の音に、ハッと我に返る。
あれ、今何かあった? と一瞬だけ感じた空白に疑問はあるけど、今はそれよりこの音を止めなくては、意識がそっちにばかり向いてあたふたと音の出処を探る。制服のポケットに入れていた端末を取り出すと、ねーちゃんの名前で『着信中』と表示されていた。
やっべ早く出ねえと! そう思ってあの人に断りを入れようと振り返ってみたけど、いつの間にかその姿はなく。
首を傾げながらも、オレは慌てて電話に出るのだった。
『あ、悠仁くんごめんね急に! 今大丈夫?』
「大丈夫ー! どしたのねーちゃん。」
『あんね、今狗巻くん達と話しててー。今夜はみんなでお好み焼きパーティーにしない?』
「おあ! いーねいーね! 伏黒達にも言っとくわ!」
結局、何しに来たんだあの人……?