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この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
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※※※
・作中の犯罪行為は真似しちゃダメ絶対。
その日、女が家に帰ると奇妙な気配がした。
一見、何の代わり映えもしない部屋の中。しかし確かに感じる視線。
女の部屋には、沢山のぬいぐるみがあった。女の趣味とも言える。
部屋の中を見渡し、そのぬいぐるみ達が並ぶ棚を見る。
溢れかえるほどの数のぬいぐるみを一つ一つ確認していくと、ひとつだけ見覚えのないぬいぐるみがあることに気が付いた。
とても可愛らしい、女の趣味に合ったぬいぐるみ。
手に取り、まじまじとその顔を眺めていると…………
ぎょろり、ぬいぐるみの目が動き視線が絡み合った。
「どう? この話怖いと思う?」
「そこはかとない気持ち悪さを感じる。」
「おかかー……」
「思ってた反応とだいぶ違う。」
はいはいみなさんこんにちは! いい加減誰に挨拶してんだろうって感じだけど、そこには触れないでもらえるとありがたいな! わたしもよくわかってないから!
今日は先輩呪術師に同行して任務の見学をしましょうということになり、その人達と補助監督さん、そしてわたしのよにんで任務先へ移動している。その間退屈だったんでわたし作の怖い話を振ってみたところ、あまり良い評価は得られませんでした残念。
ちなみにその先輩呪術師が誰なのか。みなさんならもうお分かりかと思いますが、念の為お伝えしておきましょう!
準1級呪術師の狗巻棘くんと、準2級呪術師のパンダです! ぱちぱち!
「やっぱり術師にそれ系の話は効かないかー。」
「いやだから気持ち悪さはあるって。そもそも、その話ってホラーなのか?」
「こんぶ。」
「ジャンル的にはホラーだと思うで。」
「大雑把だなあ。」
「高菜〜。」
とは言っても、今日の任務は狗巻くん一人で請け負えるレベルのものだ。彼一人が呪いを祓い、パンダはわたしの護衛としてついてきた。「いやあすまんねパンダ〜」「お前一人にすると何処で怪我してくるかわからんからな」「え、もう完全にお守りじゃん……」「だからそう言ってんだろ?」とは、車に乗り込む前のやりとりである。
年上とは……? と脳内では考える人が出現したけれど、悲しくなりそうだから深く考えないようにした。
「でも、引き受けてくれてありがとね。狗巻くん。」
「しゃけ!」
わたし案の怖い話大会を強制的に終えて、改めて狗巻くんにお礼を言う。すると狗巻くんはニコッと笑みを浮かべて、ピースサインまでしてくれた。
「ツナマヨ。」
「なるほどなあ。だからいつもよりテンション高いのか。」
「しゃけしゃけ〜。」
「狗巻くん、なんて?」
それから狗巻くんとパンダで話し出しちゃったから通訳を頼むと、パンダは普段の狗巻くんの任務の状況を教えてくれる。
わたしまだ狗巻くんの喋ってることわかんねーんだすまぬな……! 簡単なことならジェスチャー付きで何となくわかるんだけど、細かい感情の機微とかは全然なんだ……。
「棘は呪言師だから、基本的に任務は単独が多いんだ。だから今回、オレや紬と一緒で嬉しいんだと。」
「しゃけ!」
「いっ、狗巻くん……!!」
パンダの通訳に対し笑顔で首を縦に振る狗巻くんの何と可愛いことか! しかも、わたしが同行するの本当は嫌がってないかなあとか不安に思っていたこともあって、狗巻くんのその気持ちが聞けてほんとに嬉しい。感動して思わず狗巻くんとパンダの手を取ってぶんぶん振り回してしまった。運転していた補助監督さんに「車内では暴れないように!」って言われちゃったてへぺろ!
◇
「『闇よりいでて闇より黒く その穢れを禊ぎ祓え』」
補助監督さんの代わりにわたしがそう唱えると、忽ち辺り一面に黒い幕……帳が降りていく。
糸田紬としての初めての結界術が無事成功し、狗巻くん、パンダ、補助監督さんそれぞれとハイタッチで喜びを分かち合う。
「邪魔しないようにするからね! 気をつけて頑張ってね!」
「しゃけ! こんぶいくら。」
「サンキュー、紬も気を付けろ。ってよ。」
「うっす!!」
それから、補助監督さんは帳の外、わたし達は帳の中に別れ更に狗巻くんだけが敷地の奥へと進んでいく。むん、とやる気が漲っている後ろ姿に「紬の帳に触発されたのかもな。」とパンダは笑っていた。
◇
呪言師という術師の存在を、昔も今も見たことがなかったわたしは勿論その戦い方を見るのも初めてだった。
「なんっというか……鮮やかだね。」
少し離れた距離で隠れながら狗巻くんの戦いを見ているわたしとパンダだったけど、思わず感嘆の声を洩らしてしまう。
「遠くからだと、勝手に呪霊が弾け飛んでるようにしか見えないね。」
「その威力故に、棘はおにぎりの具しか喋らねーんだ。」
「ようやっと理解したわ。」
確かにこれは、下手に喋れないなと思う。わたし達が普段口にする愚痴レベルの言葉でも、狗巻くんがひとたび言葉にすればそれは現実になるのだ。なんて恐ろしい。
「ちなみに、紐束縁は初対面開口一番でいろいろ喋らせようとしてきたぞ。」
「マジあいつ一回でいいから痛い目見てくんないかな。」
わたしに呪言師としての才が無くて命拾いしたな!
「目が死んでるぞー……っと、そういやずっと気になってたんだが。」
「ん?」
「そのぬいぐるみ、どーしたんだ?」
狗巻くんを見守りながら一連の会話をしていたわけだけど、ふとパンダがわたしへ視線を寄越し首を傾げる。その視線の先、わたしの頭上には、五日前知らぬ間にわたしの部屋に置いてあったあのぬいぐるみがあった。
ええ、今日も今日とて呪力込め込めの作業中でございます。
「まさみちが作ったやつみたいだけど……オレ、そんなの渡してないよな?」
「うん。パンダからは今日貰う予定だったしね。」
「紬がまさみちから直接貰ったのか?」
「いんや。なんか部屋に置いてあったのさ。」
わたしは何気なく言うが、その不可解さに気付いたのだろう。パンダのプリティフェイスがぐぐっとご機嫌ななめの様子に変わっていく。
パンダ故に人間ほどわかりやすくないが、明らかに変わった表情にわたしは微笑む。
その時ちょうど、わたしの脳内に〝ピロリロリーン!〟と軽快な音が鳴り響いた。〝対象〟に、わたしの呪力が満タンになった合図である。
「それって……」
「ちょい待ちパンダ。」
何か言いたげなパンダの言葉を遮って、わたしは頭に乗せていたぬいぐるみを持ち顔の前まで持ち上げる。
「『目を閉じて、耳を塞いでくれる?』」
ぬいぐるみにそう意思を伝えると、そのぬいぐるみは素直にぎゅっと目を瞑り自分の両手で耳を塞ぐ。その形で固まったぬいぐるみは、わたしが新しい意思を伝えるまで決して動かないだろう。
正直なところ、作り物の目が実際に閉じるなんてことは不可能だ。まぶたなんて無いし。だから目の部分が窪んで身体に埋まることで物理的に見えないような形となっている。見るに堪えないほどブサ……いや、痛々しい姿になってしまってちょっと申し訳ないなと思う。パンダも「うわあ……」と言葉を失っていた。
……ちょ、確かにわたしがそうするよう伝えたけど! わたしは悪くないよ! そんな目で見ないで!
「時にパンダよ。狗巻くんの呪言って、人や呪霊以外にも効果ある?」
「あーどうだかな。流石に無機物には効かないんじゃねーか?」
「狗巻くんの声を聞ける〝耳〟があればいける?」
「いけ……いやわからんな。あとで棘に聞くか。」
「そうだね。」
そこで会話を終了させてふたりで狗巻くんを見ると、ちょうど最後の一体を祓い終えたところだった。
こちらに向けてピースサインを向けてくる狗巻くんにわたしとパンダも手を振り返して、がさがさと茂みから出る。
さてさて。答え合わせは、狗巻くんと合流してから行うとしましょう。
◆
「ふたりとも、任務の前の気持ち悪い話は覚えてる?」
その話に出てきたぬいぐるみがこちらになります。と言いながらさっきのぬいぐるみをふたりの前に差し出すと、「いやアレお前の話かよ!」とパンダからのツッコミいただきました〜。狗巻くんも色んな具の名前を言ってくることから、きっとツッコミを入れてくれてるんだろう。良い反応ありがとうございます!
狗巻くんの任務が終わってからも帳を上げることなく、わたしと狗巻くん、パンダのさんにんは呪霊のいなくなった平和な帳の中にいた。
「狗巻くんお疲れさまー!」
「お疲れ〜。棘、今日の調子はどうだった?」
「しゃけ! ツナマヨ!」
「お? いつもより喉の負担が少なかったって? どういうことだ?」
「おかか〜……」
自分の喉元に手をあてて首を傾げる狗巻くんに倣い、わたしとパンダも首を傾げるもまあ答えなんて出るはずもなく。まあきっと、狗巻くんの調子がすこぶる良かったか相手の等級が情報より下だったとかそんなとこだろう。何故か狗巻くんがじっとわたしを見ては更に首を傾げているけど、さんにん寄ってもわからないものは置いておこうじゃないか。
で、冒頭のように話を振ってみたわけですが。
ふたりが良い反応をくれたのは嬉しいけど、わたしとそのぬいぐるみから距離を置くのはちょっと寂しいぞ!
「お前の知らないうちにお前の部屋にあったんだろ!? そのぬいぐるみ!」
「高菜〜〜〜!!」
「うんうん。ふたりの気持ち悪さはよーくわかるよ。だからコレが何なのか、ふたりと一緒に検証したいと思って連れてきたんだよ〜。」
「だー! こっち来んな!」
「明太子ー!」
「え、ちょっとそこまで!? ごめんわたしが悪かったから! 戻ってきてふたりとも!!」
距離を置くどころか脱兎のごとく逃げるふたりを追いかけるも、そのぬいぐるみを持ったままだったからふたりは更に逃げる逃げる。
最初こそふたりの反応が楽しくてわざと追いかけていたところもあるけど、あまりにもふたりが近寄ってこないのでぬいぐるみの方に離れてもらうことにした。
◇
「なあマジでこえーよアレ。」
「しゃけ〜……」
「うん、こうして見られる側に回ると気味悪いね。」
木の根元にちょこんと座り、窪ませたことで見えない目元がこっちに向けられている。それだけならまだしも口は初めから笑っているから、より不気味さが際立っている。
ふたりの側に立ったわたしは、ようやっとふたりが逃げた意味がわかり口元を引き攣らせた。
「で、どう検証すんだよ。」
「あ、そうそう。狗巻くんにお願いしたくて。」
「?」
「あのぬいぐるみに、爆散するように呪言を使っていただけないかなって。」
「高菜!?」
「これはわたしの推測なんだけど、あの中に何か入ってると思うんだよね。それを確認したくて。」
「だからって、何で爆散だよ……」
「人の手で引き裂く方がメンタルしんどい。」
それよりは離れた位置から散り散りになるのを見た方がまだマシな気がして。そう言うと渋々同意してくれたふたりには感謝しかない。「いや、確かに……?」「しゃけ?」「いやでも……」「おかか?」「う〜〜〜ん」本当に渋々だった。
わたしが意思を伝えればいいのかもしれないけど、万が一にもそれで〝向こう〟に怪しまれても困るからね。これ以上わたしの力は使えないと思ったのだ。
「『手をどかして、耳を澄まして。次に聞こえる声をちゃんと聞いて』」
念の為耳を塞いでいるようにとジェスチャーで伝えてくる狗巻くんにOKサインを出しながら、わたしは小声でぬいぐるみにそう意思を伝える。するとぬいぐるみが自分の耳から手を離すのと、狗巻くんがぬいぐるみに向かって「『爆ぜろ』」と言ったのはほぼ同時。
パァンッと見事に爆散したぬいぐるみは、綿とフェルトとボタンと……黒い機械とカメラとに分かれ影も形も無くなった。その勢いが思っていたより凄くて、思わず敬礼でぬいぐるみの最期を見届けたのであった。
「こりゃあ……」
「海老マヨ……」
「ああ、やっぱりね。」
ぬいぐるみに入っていたのは、盗聴器と小型カメラの両方だった。ぬいぐるみが爆ぜた衝撃で壊れているそれらをひょいと拾い上げ見つめていると、狗巻くんとパンダからまた引かれた視線をいただく。
「ちょ、どん引くのはわかるけどそんな目でわたしを見ないで!」
「いや、むしろなんでお前そんなに平気そうにしてんだ?」
「こんぶこんぶ!」
「いやだって、ある意味予想を裏切られなかったっていうか。」
あのぬいぐるみが部屋に置かれていた時から何となくそんな気がしていたと話せば、ふたりの顔がまた神妙なものになる。「このこと、誰かに話したか?」とパンダに聞かれ正直に首を横に振ると、「なんでだよ」と更に詰問される。狗巻くんにも心配げな声で「ツナ〜……」と言われてしまっては、わたしが悪いわけじゃないんだけど何だか申し訳なくなってきてしまう。
「いや〜はは、あんまり事を荒立てない方がいいと思ってね〜。」
「そんなんで五日も我慢してたのか。」
「だって、十中八九あの人の仕業だし。ただ単独での犯行なのか複数での犯行なのかわからなかったからさ。」
犯人はわかってる……というか奴しかおるまいよ。たぶんわたしのプライベートを覗いて弱味を握ろうとか、そんな企みだと思う。いや知らんけど。だから知られちゃいけないことだけは伏せて、基本的にはいつもと同じ生活を送っていた。
でもやっぱり、気にしないと思ってもそれなりに気を遣うわけで。めんどくせえいっその事ぶっ壊してやらあ! と思い立ち今回に至るのだ。
「でも多分、五条さん達は関わってないと思うんだよね。」
もし関わっているなら、ガガちゃんを渡してきた時に仕込むだろうから。というのがわたしの見解だ。
「だからこれは、わたしとあの人の問題かなって。それなのに他の人に言うのも違うかな〜って……」
「おかか!」
「い、狗巻くん?」
たははーと笑いながら話していたわたしの眼前に、狗巻くんの手で〝×〟が作られる。それから憤慨した様子でまたおにぎりの具を並べ立てていく。
どうしよう怒ってることしかわからない! そもそも何で怒ってるの!? と戸惑っていると、パンダが宥めるように狗巻くんの頭に手を置きつつわたしにはデコピンをかましてきた。
ちょっ! パンダ力強ぇ! え、おでこ陥没してない? 大丈夫??
「棘の言う通りだ。そういう事こそ周りに言って助けてもらえよな、お前。」
「しゃけ!」
「確かにこれは紬と紐束####NAME2の問題かもしれん。けど向こうには少なくとも悟と傑が味方でいるんだ。アイツらまで巻き込んだ喧嘩になったらお前最終的に殺されるぞ。」
「物騒!」
「それに既に正攻法じゃない手段を向こうはとってきてるんだ。これから何してくるかわかったもんじゃない。」
「だから紬。オレらにちゃんと言え。」
「……でも、大人の喧嘩に君らを巻き込むわけには、」
「オレらが嫌だったら、せめて悠仁にはちゃんと言えよ。お前になんかあったらアイツ黙ってねーぞ。」
「おんん……義弟に「わたし嫌がらせされてます!」って言うの? 普通に嫌がらせされるよりメンタル削られるんだけど……」
「いくら!」
「それならオレらに言うしかないな〜。」
さっきまでの真剣さはどこへやら、狗巻くんもパンダもニコ〜っと笑って笑顔という名の圧をかけてくる。しかも会話の流れではめられた感もしなくもないし、仕方がないかとこっちが折れるしかなさそうだ。
「はいはい。逐一報告させていただきます〜。」
「ちなみに、今は他の嫌がらせとかは?」
「ないよ。でも盗聴と盗撮が出来なくなったから、これから何か仕掛けてくるかもね。」
まったく、中学生かよ。とつっこみたくなってしまう。大人になってまでこんな陰湿なことで悩むとは思いもしなかったわ……いや、盗聴とかは大人だから出来たことかな? どうでもいいわ。
「でも、報告するにあたって条件がある。」
「なんだよ。」
「わたしが何されようと、ふたりはあの人に対して口出しも手出しもしないこと。これを守ってくれるならちゃんと報告するよ。」
これだけは絶対に譲れない。わたしの所為でこのふたりにもしもの事があったら、それこそわたしは自分を殺してしまいたくなるかもしれない。
「わたしは、事情を知ってくれている人がいる・っていうだけで十分支えになるから。だからこれだけは約束して。」
「でもよぉ。それじゃお前……」
「しゃけ。」
渋るパンダを遮り、狗巻くんは指で丸を作りながら同意してくれる。その優しさに自然と口角は上がり、「ありがとう」と伝えると狗巻くんもニッコリと微笑んでくれた。
そんなわたし達を見てか、パンダも嘆息を吐いては切り替えるように「わかったよ」と頷いてくれたのだった。