12、女子会
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この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
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【女子会】
「伊地知くん、〇〇業者から連絡ありましたけどわたし対応しておきます?」
「コピー用紙補充しときました〜。ついでにコピーするものあるならやっときますよ。」
「学生達に伝達ですね! どうせ校舎の方行くので引き継ぎますよ〜。」
「はい、お疲れさまです。10分でもいいので休憩してくださいね。」
「差し入れでーす! 甘いものとしょっぱいものあるので、お好きな方どうぞ!」
「あ、五条さん夏油さん紐束さんは地雷なのですみません。」
「紬さん、補助監督の間でなんて呼ばれてるか知ってます?」
「えっ、何……悪口? 怪力ゴリラとか?」
「逆ですよ逆。なんでゴリラ? 紬さん、戦場に舞い降りた救世主って呼ばれてますよ。」
「メッシ?」
こんにちは、糸田紬です。わたしは今、学生の釘崎野薔薇ちゃん、禪院真希ちゃんと一緒にショッピングに来ております!
花の女子高生の中にオバサンが混ざっていいのか文句を言う奴もいるだろうけど、なんとかアッシーという立場を貰っているので許してほしいな! ちなみに車は高専の社用車だよ!
とはいえショッピングと言っても、主に買い物をしているのは野薔薇ちゃんだけだ。真希ちゃんも今はあまり欲しいものはないらしく、わたしも特にこれといってないから、ウインドウショッピングして冷やかすだけ。でもお出かけ自体が久しぶりだったし、若い女の子達と出かけるなんてそうそうない。二人が楽しくしている姿を見るだけで癒されるしパワーも貰えるわ……なんて年寄り臭いことを考えながら一緒にカフェに入った時、野薔薇ちゃんが冒頭のように切り出してきたのだ。こっちとしてはなんのこっちゃ? 状態である。
「なんで急にサッカー選手出てくんだよ。」
「だって野薔薇ちゃんがメシアって言うからー。」
「言い出したの私じゃないけど!」
カラカラ笑う真希ちゃんと一緒になってからかうと、うがーっとなる野薔薇ちゃんがとてもカワイイ。悠仁くんはよく「釘崎の情緒がわからない」と真顔で言ってるけど、ここまできっぱりさっぱり自分を曝け出せるのは実はとても凄いことなんだぜ! 大人になった今だからようくわかる。ありのままの自分を認めて、受け入れて。それって大人になればなるほど難しくなってくるから。
「真希さんも一緒に聞いてたじゃないですか!」
「まあな。なんかスゲー崇拝されてたぜ、紬。」
「ええ〜? 何かしたかなあわたし。」
真希ちゃんにも言われてしまったので、どうやら野薔薇ちゃんの聞き間違いとかではなかったらしい。パンケーキを刻みながら最近あった出来事、というか仕事内容を思い起こしてみる。
ええと。仕事の範囲が広がったから、術師になるための勉強をしながら補助監督さん達のお仕事部屋にも入れるようになったんでそこでの雑務をお手伝いするのが多かったかな。勿論、機密に触れるようなものは見ちゃいけないと思うのでそれは避けるようにして、ちょっとした書類の整理、ごった返しているお部屋の片付け、消耗品の補充と注文、補助監督さん達へお茶出ししたり差し入れしたり、学生達への伝言や呪術関連でない業者への対応をしたり。
「とまあ、新入社員が初めに覚えるようなことをやっているだけで、崇拝される謂れはないと思うんだけど……」
「「それだ。」」
「えっ、どれ??」
声を揃えて断言した二人、特に詳しい真希ちゃんが言うには、補助監督さん達は呪いを祓うことが出来ない代わり、その他の業務を全て行っていると言っても過言ではないらしい。にも関わらず呪術師達の補助監督への扱いは酷いものなのだという。これはもちろん人によるから全呪術師がそうというわけではないけど、それでも彼らを下に見る人は多いのだそうだ。
「補助監督は、医療界での看護師ってことかあ。」
「そこに、自分達を助けてくれる用務員の登場だ。あの人らが救世主って呼ぶのもあながち間違いじゃねーだろうな。」
「ううん、複雑な心情……」
これはあくまでわたしの主観だけど、人間の医療も動物の医療も大して違いはない。診察し、治療方針を決める医者・獣医がいて、それをサポートする看護師達がいる。
ぶっちゃけた話、獣医一人では病院は回せないと思っている。診察や手術の補助や入院管理をしてくれて、受付、調剤、会計等もこなし、飼い主さん達へのフォローも欠かさず、病院を綺麗に保つために彼女たちは終始動き回ってくれているのだ。自分の世界で獣医として働き始めてすぐに、彼女たちの有難みをひしひしと感じたものだ。
呪術界では、術師が医者、補助監督が看護師という立場にあたる。その看護師ポジションの彼らへの扱いが酷いというのは聞くに耐えないし、労働環境改善すべきなんじゃないかとすら思う。でも特殊な分野だからなあ……
そんな彼らの助けになっているなら、良かったと思うんだけど。でもわたしはわたしで、座学や結界術などを教えて貰っている身だ。更に負担をかけてしまっているのは事実だろう。
「迷惑かけてるわたしが救世主って呼ばれるのは、気が引けるなあ。」
「いーんじゃないですか? あの人達、紬さんの勉強を誰が教えるかで毎回争ってるらしいですし。」
「えっ、押し付け合うほど嫌がられてんの……?」
「逆ですよ逆。ってかなんでちょいちょいネガティブになるんですか。」
「私らに一般教養を教えてるのもあの人らだけど、それよか紬に勉強教えたくてしょうがないみたいだぜ?」
「気晴らしになるからいいんだ」と彼らは笑っていたのだという。そういうことなら、まあ……甘えちゃっていいのかな? 代わりにもっとお手伝いしてあげればギブアンドテイクになるだろう。
「ここは素直に喜んどけよ。紬は歓迎されてるんだ。」
「どっかのトリップ女とは違ってね〜。」
「ングッッ」
さっきまでほわほわ和やかなムードだったというのに、野薔薇ちゃんが零した発言にパンケーキが喉元を過ぎてくれなかった。見事詰まらせたわたしに慌てることなく飲み物を渡してくれる真希ちゃん、手慣れすぎやしないか……? しかしありがてえ! と思いグラスを受け取る。水分で胃に流し込んだことで一命を取り留めるわたしのことなど気にも留めず、野薔薇ちゃんはテーブルに頬杖をついてチッッと盛大な舌打ちをかましていた。
え、何々どうしたの? 急にご機嫌ナナメになっちゃったよ??
「紬、アレだアレ。」
「あれ?」
真希ちゃんに促され野薔薇ちゃんの視線の先を追ってみると、ここから少し離れた交差点、対角線側に一組の男女がいた。
どっちも見覚えのある顔に、わたしの顔も野薔薇ちゃんみたいに形容し難いものになっていることだろう。瞬時に顔が変わったわたしを、真希ちゃんは大笑いしていた。
答えなんて言わなくてももうおわかりかと思うが、わたし達が見つけたのは悟ともう一人のトリップ女、紐束縁(偽)だった。
恋人のように、べっっとりと腕を組んで距離感ゼロで人目も憚らずいちゃいちゃしている姿を直視してしまった。しかも男の方は惜しげもなく素顔を晒していて、女に至ってはンなもんどこに売ってんだ? というくらい露出高めの服を着ていた。
ただでさえ目立つ装いに、目立つ行動をしているせいで周囲の人キャーキャー言うどころかドン引いて目も合わせないようにしてんじゃねーか。あいつらの半径2メートル以内に誰も近付かないように距離置かれてんじゃねーか……。
イコール、わたしのライフはもうゼロだ。南無阿弥陀仏!
「私、どーしても好きになれないんですよね、あの女。」
パンケーキがリバースしそうな心地になっているわたしの耳に、野薔薇ちゃんのその名に相応しい刺々しい声が届く。
「男に媚び売ってばっかで何もしてなくないですか?」
「交流会の時も、傑に護られてたって話だな。」
「はァ!? 腐っても術師なんでしょあの女! 戦いに来いや!!」
野薔薇ちゃんと真希ちゃんの憎々しげな声に、わ、わかる〜!! と激しく同意する半面、も、申し訳ねえ……!! と大人として居た堪れない気持ちになってわたしの情緒もブレブレである。そんなわたしに追い打ちをかけるのが……
「紐束縁マジで気に喰わねえ。」
「昔の紐束縁はあそこまでひどくなかったらしいけどな。」
他人のことを言っているとわかっているものの、わたしの本名出されるのマジでメンタル削られるわあ〜……!
◆
「はあ……」
「ホラ余所見してんなよっ」
「びやあ!」
高専に戻ってきてからというもの、ライフが若干回復してきたわたしは段々イラついてきて。ダメ元で寮に戻ろうとした真希ちゃんを呼び止め稽古をつけてほしいと頼むと「おー、いいぜ」と快諾してくれた。
野薔薇ちゃんはこれから、悠仁くん伏黒くんの一年生トリオで映画鑑賞をするらしい。二人によろしくね、と言って別れた後、真希ちゃんとわたしはそれぞれ着替えてから得物を持って校庭へ向かった。
武器の扱いに長けている真希ちゃんには、こうして度々稽古をつけてもらっていた。糸田紬の現時点での戦いのスタイルとしては、呪具を使ってどうこうする、という方針で固まりつつある。故に真希ちゃんに師事を仰ぐのは当然ともいえた。
それについて、補助監督の一人に「学生に教わるなんて大人としてどんな心境ですか?」と聞かれたことがある。その質問に悪気がないのはわかっていたし、その人なりにわたしの大人としてのプライドを気にしてくれたんだろう。武器の扱いなら傑も得意としているとも、親切心で教えてくれた。
だがしかし! 今のわたしが傑や悟から何か教わる気はさらさらない。微塵もない。天地がひっくり返っても! 有り得ない!! そこには断固たる意志があるので、覆ることはまずない。そっちの方がプライドずったずたにされるのは目に見えてるしな。
それにわたしは、年下から教わることになんの感情も抱かない。わたしが出来ないことなんて沢山あるし、それが出来る人のことは何歳だろうが尊敬する。こと呪術界においては、身に付けた力や技はその人の信念そのもののように感じるから尚更だ。
学生だからなんだというんだ。術師を目指す糸田紬にとって、彼女たちは強くて、カッコよくて、とても頼りになる先輩に違いないんだ。
「相変わらず、変な声で鳴くなァお前は!」
「いや、不意打ちの時はしょうがないでしょ!」
「どう、だかっ!」
「ンぶっ!」
長物を踊るように振り回す真希ちゃんの攻撃を、木刀で受け止める。ビリビリと痺れるような感覚に、わたしも怪力の類だけど真希ちゃんも強いよなあ! と素直に感心した。身体を使って訓練するようになってから徐々に高専時代の感覚を取り戻しつつあるけど、やはりブランクがあるのは否めない。加えて身体は十年前と違うのだ……適度に運動していた10代とろくすっぽ運動していなかった20代、筋力も体力も何もかもが違うのだ。大事なことだから二回言っとくよ!
攻撃を避けて、受けて、いなして、時々喰らって。
反撃を避けられ、難無く受けられ、いなされて時々ほんのちょっとだけ掠ったりして。
そうやってわたしの体力が尽きるまで、真希ちゃんはいつも付き合ってくれるのだ。
◇
「なーにイラついてんだ?」
地面に転がるわたしのおでこをつついて、真希ちゃんが隣に座り込む。
これが若さの差か……と絶望しながら何とか起き上がって、深呼吸を数回。合間に「バレてましたか」と白状すると、「紬はわかりやすいからな」とお褒めの言葉を頂きました。
「……ねえ真希ちゃん、紐束さんがこの世界に来たのっていつくらい?」
「傑のバカの百鬼夜行より前だから、ちょうど一年前くらいか?」
「……最初からあんな感じ? 周りの反応とかも。」
「悟のバカが連れてきて初めて会ったが、まああんなだったな。既に悟は溺愛してたし、呪詛師だった傑だってあいつがいたからこっちに戻ってきたって言うしな。」
「そーですかーーー……」
「正直、私ら学生からしてみればどこがいいのかよくわかんねーよ。恵も困惑してるし、棘は見つかる前に逃げてる。」
「イラついてたのは、紐束縁が原因か?」とズバリ聞かれたものの、残念なことに不正解だ。ぶぶーと口を尖らせてそれを伝えると、容赦なく両頬を片手で掴まれわたしの顔は左右から見事潰された。ぶひゅう、と口から空気が漏れ出たのは不可抗力だ。
あれこの子、本当にわたしより年下だよね??(確か二回目)
「じゃあ、何に?」
「まひひゃう、しゃふぇひぇひゃいひょー。」
「ちゃんと喋れバカ。」
理不尽な罵倒と共に手を離してくれたから、ちゃんと言わないとまたブス顔を披露する羽目になってしまう。美人の前でそれだけは阻止せねばなるまいと、渋々口を開いた。
「わたしがイラついたのは、どっちかというと五条さんに対してだよ。」
「あ? 紬、まさかお前……」
「あ、それは絶対有り得ないから安心して。ノーラブ・イエスキルくらいの心持ちでいるからわたし。」
「お、おう。」
「だってさっきの五条さん、いつもの目隠しやサングラスしてなかったでしょ?」
高専時代、何故サングラスをしているか悟に聞いたことがあった。そして今の目隠しになった経緯を、潔高くんから聞いている。〝視えすぎてしまう〟六眼持ちの、それ故の悩みや苦労、その他諸々をだ。
それなのに今日の悟は、その双眸に護るものを何も身に着けていなかったのだ。それが本人の意思か偽者の頼みかは存じ上げないけど、あんなの自分で自分を苦しめるだけじゃないのか、そう思ってしまったのだ。
「あの人には、確かにムカつくこと言われたし酷いことされたけど、悠仁くんの担任教師だし……。あんまり自分を蔑ろにするな・って思ったらちょっとイラついた。」
そう言って自然と零れ落ちた溜め息をそのまま吐き出していると、隣からも長い溜め息が聞こえてきた。
え、もしかして呆れられちゃった? と恐る恐る真希ちゃんの顔を覗き見てみると、彼女は頬杖をついて優しい眼差しで微笑んでいた。
いっ、イケメェン……! イケメンが降臨されている……ッ!!
「バカだな、お前。」
「バカ??」
あれ? バカって、言われてときめく言葉だったっけ??