8、説明しよう!
name
この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※※※
・ナハナハ君に関しては捏造です。
・主人公の術式? みたいなものが明らかに。
帳の中に入り込んだ瞬間、その呪力の濃さに思わず顔を顰める。みんなこんな中戦ってんの? 凄いな!
そんな簡単な感想を抱きながら悠仁くんの呪力を探ろうとするけど、辺りに漂うこの濃さの所為で上手く探れない。呪力コントロールだけじゃなくて、呪力感知の特訓もしておけば良かった! と後悔しながらとりあえず森の方へ行こうと勘を頼りに走り出したところで、前から向かってくる白黒の巨体に出会した。
「パンダ!」
「あ? 糸田か?」
「キャアアアアわたしのパンダのお耳が! 焦げてる!!」
「いや、オマエのじゃないし。」
パンダの冷静な返しに、爆発したわたしの情緒は一瞬にしてスンッと落ち着く。照れ隠しかなもう! ……あ、はいすみません真剣にやります。
「やっぱり来ちゃったかー……」
「え、何その反応? それより、真希ちゃんと伏黒くんの状態は?」
パンダの肩に乗っていた二人の容態を聞くと、真希ちゃんは肩を貫かれ出血、伏黒くんは特級呪霊に何か変なの植え付けられたらしい。これから帳を出て硝子の元へ行くのだと言うパンダに、先に止血だけさせてと頼み二人を降ろしてもらった。
こんなこともあろうかと、応急処置のセット持ち歩いててよかった!
着込んでいたツナギを上半身だけ脱ぎ、袖部分を切り分け包帯を作る要領で長くなるように切っていく。
「###NAME3#、その首どうした?」
「え? ごめんパンダ何か言った?」
「いや……」
「真希ちゃんごめん、ちょっと制服脱がせるね。」
それから気を失っている真希ちゃんに一言声をかけ……アアア真希ちゃんの美しいお顔が! 殴られとる! 特級かお前このやろ覚えてろよ!
腹の中で暴言を吐きつつ外面は大人の余裕を見せるようにして、彼女の制服を上半身だけ脱がせて傷を露出させた。まあ正確に言えば、左肩の部分だけね。
それから持ってきていた水で汚れを洗い落とし、傷口をガーゼで塞ぎつつ先程の簡易包帯を真希ちゃんの肩にキツく巻き付けた。
「わたしが仕事中にずっと着ていたツナギだから、わたしの呪力がこれ以上の出血を防いでくれるとは思う。」
「オマエの術式って確か……」
「コレを術式と言っていいのかよくわからんけどね。」
詳しい話は後にするとして、さあお次は伏黒くん! 彼も様々な箇所に傷を作っていたが、一番優先すべきはやっぱり腹に埋め込まれたこの変なのだろう。ナハナハ言ってるこいつ。
「パンダ、これ何だかわかる?」
「恵が言うには、呪力に反応するやつみたいだぞ。」
「呪力に、ねえ……」
このまま引きちぎってもいいが、伏黒くんの身体を見るに根が張っている。それを無理に引っ張って失敗すると大変なことになりそうだ。そう瞬時に判断したわたしは、伏黒くんの頬をペシペシ叩き彼を起こす。後ろでパンダが「鬼畜……」と引いていたが今は! 緊急事態なので!
「伏黒くん、起きてる?」
「ん、……糸田さん?」
「はい、糸田さんです。ねえ伏黒くん、今君の呪力ってどれくらい残ってる?」
なんとか目を覚ました伏黒くんは、それでもしゃっきりと目覚めていない所為もあってぼんやりとわたしを見ているようで見ていなかった。空を見つめながらもわたしの質問の意味を理解してくれたようで「……もう、すっからかんです」と小さな声で答えてくれた。
「ん、ありがとう。」
「糸田さん、なにを……?」
「まあ、物は試しってやつだね。」
わたしの言わんとすることがわからない伏黒くんとパンダは、揃って首を傾げる。何それカワイイ……と思うだけに留めて、わたしは伏黒くんの腹に寄生するナハナハの口(みたいな所)に指先を近付ける。
「これ、呪力を食い物にするんでしょ? それなら呪力が無くなった宿主より、まだまだ余裕のある新しい宿主に移らないかなって思って。」
「ちょ、それってまさか、」
「えいっ。」
ポッ、と指先から呪力を出すイメージで力を込めると、案の定ナハナハは新しいエサを見つけたと言わんばかりにわたしの指に齧り付いてきた。そのまま引っ張ればずるずると伏黒くんの身体を張っていた根も一緒に出てきて、正直うげえって思ってしまう。
剥き出しになった根はまるで意思を持っているかのようにばたばたと蠢き、やがては居場所を見つけたかのように手早く動いてはタンクトップ姿のわたしの肩に張り付いた。
「いっっっ!!」
「紬!」
肩から身体の内部に根が侵入する感覚に、大声を上げそうになったところを寸でのところで止める。わたしの指から離れた口は、今度はわたしの肩の上でナハッと鳴いている。
……どうやら、わたしを新たな宿主として気に入ったようだった。
「〜〜〜ッッはあ! ビックリしたあー。」
「いやそんな感想で済むか!」
呪力は!? 肩は!? 大丈夫なのか!? とあたふたするパンダを見ると逆に冷静になってきて、大丈夫だよと返す。それから伏黒くんを見ると、苦しみから解放された彼は表情穏やかに気を失っているようで。
よかった、助けられた。と、一人安心した。
「これでもついさっきまで呪力コントロールの訓練してたから。呪力の流れを少なく遅くすれば、意外といける。」
「そういうもんなのかソレ……?」
「ようわからんけど、大丈夫なのは本当だよ。」
「その割にはナハナハの部分、さっきよりデカくなってるんだけど。」
パンダに言われ肩へ目を向けると、なるほど確かに? さっきよりナハナハが大きく、鳴く回数も増えてる気がするね?
顔の横でナハナハうるさいなこれ。
「これ、やがては蕾になって花が咲いたりして。」
「ちなみに花が咲いたら?」
「わたし死ぬんじゃない?」
「縁起でもねえこと言うなよお!」
◇
「ところでパンダ、悠仁くん見かけなかった?」
動揺したパンダを落ち着かせてから——意外にもわたしがピンピンしていることで安心したのだろう——本題に入ると「悠仁って、虎杖悠仁か?」とカワイイお目目をくりっとさせて聞いてくる。そうそうその悠仁くん〜と返せば、オマエら知り合いだったのか? と。
おや、まだ言ってなかったのね悠仁くん。わたしからバラしちゃってもいいかな?
まあ、全て知っているパンダには本当のことを言っておこうか。
「『糸田紬は、一度目のトリップで一緒に住んでいた虎杖悠仁の姉のような人間である。』っていうのが、わたしと悠仁くんで作った設定なの。だから今のわたしは、義弟の安否が心配で堪らなくて駆けつけてきた義姉ってことになるね。」
「あ、あー……なるほどな。悠仁が生きていたことを隠してたから、今まで言わなかったのか。」
「流石パンダ、賢い。」
でももう隠す必要ないから、堂々と義姉弟として振る舞うつもりだけどね! と言えば、あいわかった、と快く理解を示してくれたパンダ、君はいいオスだよホントにね……!
「でもだからって、今のオマエを悠仁の元へは行かせらんないぞ。」
「え! なんで」
「なんでもクソもあるか。ただでさえ相手は特級、邪魔になるのは目に見えてる。」
今のわたしは、少しでも呪力を使えば肩のナハナハに奪われてしまう。これでは身を守ることも、力を使うこともできない。そんな状態で行ったところで、確かに邪魔だし足手まとい、悟の言うように、無様に殺されて終わるかもしれない。
そんなの、全部わかってるよ。
「でも行くよ、わたし。」
「……紬、」
「だってわたしは、悠仁くんのねーちゃんだもん。」
わたしがそう言ったとほぼ同時、少し離れた上空に浮かぶ大きな木の根があった。そのさらに上、根の上には悠仁くんともう一人、誰かが特級呪霊に向かっていく姿を確認できて。
「じゃあ、二人をよろしくね。パンダ。」
言うが早いか、わたしは悠仁くんの元へ再び駆け出す。
「……だよな。オマエはそういう奴だって知ってたよ。〝縁〟。」
パンダの悲痛なその声は、わたしの耳に入ることはなかった。
◆
さて、わたしの力について説明しよう。
ちなみにこの力は昔、一度目のトリップをした時と同じものになるため、糸田紬を名乗る間は大々的に使うつもりはない。まあ、時と場合によるけど。
物には、寿命がある。物と言ってもその種類は千差万別、文房具などの消耗品から滅多に買い替える事のない耐久消費財まで様々である。
〝物〟に呪力を込めるとやがては呪具になるが、それはあくまで武器となり得る物しか対象ではないだろう。刀とか、槍とか。
しかしわたしは無意識に、普段使いする物にも呪力を流してしまう悪癖があった。それこそシャーペンとか、腕時計とか、洋服などにも。
それらは物の寿命の長さによって必要とする呪力量が違っていて、呪力量が満タンになるとわたしの意思を聞いてくれるようになる——それが、わたしの力だ。
それを知ったのが、今と同じように呪力コントロールの特訓を言いつけられた高専一年の頃。夜蛾先生に渡された呪骸にずっと呪力を流し続けていたら、ある時勝手に動き出したのだ。もっと正確に言えば、呪力を流さなくなっても殴られずにずっとコサックダンス踊ってた。夜蛾先生に聞いても驚かれるばかりで、これがわたしの力によるものなのだということが発覚した。
他にも、ずっと身に着けていたマフラーがある時自ら首に巻き付きに来たり、制服はわたしの呪力を纏い防弾チョッキみたいに頑丈になったり。そのお陰で何度も死線を潜り抜けて来れたのだ。マジであの時の制服には感謝しかない。
二度目のトリップを経てもその力は備わったままだったけど、わたしは今〝糸田紬〟として生きている。つまり紐束縁の時に身につけた力を持っているなんて、昔から関わりのある人達にバレるわけにはいかない。だからまあ、知らぬ存ぜぬを貫こうと思ったけど、やっぱり緊急事態にそんなことは言ってられなかった。それがさっき真希ちゃんに使ったツナギや、ずっと持ち歩いている呪骸のことだ。
ツナギにもしっかりわたしの呪力が貯められていたので、真希ちゃんの止血をする際に〝これ以上出血させないように〟意思を伝えておいた。そして呪骸は、これから特級呪霊相手に頑張ってもらうつもりである。他にも途中落ちてる木の棒とか拾ってエクスカリバーに仕立てたかったけど、今呪力を流すとたちまちナハナハに吸われてしまうため、これ以上武器は増やせそうになかった。全くもって残念である。
誰に向けてかわからない解説を終える頃には、わたしは川の近くまで来ていた。そこまで来ると戦いの音が徐々に聞こえてくるようになり、もう少しで合流できそう……と、いうところで肩に走った激痛に、わたしは呻いて近くの木に寄りかかった。
ナハッと頻繁に鳴くようになったそれを見てみると、パンダと別れた時より更に大きさを増していてなんだか蕾のようになっている。
——今は傍に誰もいないから、声を出してもいいかな。そう自分を許してあげてから、思いっきり「いったいなもう!!」と叫んだ。
いくら呪力を少なく遅くしたところで、身体の中を廻っていることには変わりない。だから少しずつ呪力を奪われてはいたのだけど、それがもうクッソ痛いのなんのって。
でもわたしは大人なので。子供であるパンダ達に情けないところを見られたくない一心で、あの時は虚勢を張っていたに過ぎない。
「何なのこれ何なのこれホントもう痛い、メリメリ言ってる、右腕もう動かないしナハナハ五月蝿いし大きくなってるし、ホント何なの、」
誰にもぶつけられない不満や不安をぼそぼそと言っても、痛みは変わらない。変わらないけど、吐き出したことでちょっとだけすっきりした。
大きく深呼吸を繰り返して、痛みで滲んできた涙を拭って、わたしはまた走り出す。
口から出かかった「たすけて」だけは、飲み込み腹の奥へ押し戻しながら。
◇
黒閃をぶつけても祓い切れない特級呪霊相手。確実にダメージは与えているけど決め手に欠ける、さてどうするか。
そう思っていた時に、オレは東堂の術式で何かと入れ替わり気付けば川の中にいた。
オレは何と入れ替わったんだ!? と驚いたのも一瞬、急いで東堂のところへ戻ろうと川を出た時、まさかの人と出会うことになる。
「ねーちゃん!?」
「あ、悠仁くんいたいた。」
無事でよかったあ、とあからさまに安心したような顔をするねーちゃんとは反対に、自分の顔が険しくなっていくのがわかる。
この森の中でタンクトップという無防備な姿に加え、ねーちゃんの右肩には伏黒が喰らっていた芽が蕾のように膨らんでいて、首にはくっきりと手の跡が付いていた。
——一体誰が、この人を傷付けた?
ザワリと腹の底で静かに沸くこの感じは、黒閃を失敗した時の感覚に似ていた。
「悠仁くんマジで強いんだね。特級相手に軽傷で済んでるなんて……」
「ねーちゃん、ソレ誰にやられた?」
つい低くなってしまった声に、ねーちゃんはきょとんとした顔で首を傾げる。「ソレ?」と聞いてくる様子にとぼけている感じはなくて、オレは自分の制服の上着を脱ぎながら短く「首」と教える。脱いだ上着をねーちゃんの肩に掛けながら見下ろすと、心当たりを思い出したのか「ああ、首ね」と自分のそこに触れた。
「これはまあ、勘違いされた時にちょっとね。」
「ということは、高専の人?」
「そうなるかな〜。」
これ以上教えてくれるつもりはないんだろう、ねーちゃんは誤魔化すように笑いながら「上着ありがと。二回目だね」と話を逸らした。それに釈然としなかったけど、「今はそれどころじゃないでしょ」と宥められてしまえばそれ以上追求することはできなかった。
ねーちゃんの言う通り、今は呪霊を祓うことの方が先だからだ。
「もう一人と一緒にいたよね? その人は今呪霊のところ?」
「ッア! そうだ東堂!!」
二人でもなかなか仕留めきれない呪霊を、今は東堂一人が相手にしている。早く戻らねーと! と思い、オレはねーちゃんの承諾なしにその身体を抱き抱えた。
「んえ!? ちょ、悠仁くん!?」
「ごめんねーちゃん! 急ぐから!」
ここに置いていくことも考えたけど、ねーちゃんのことだからまた知らないうちに怪我をしてくる可能性だってあった。それなら目の届く範囲にいてくれた方がこっちも安心だからと抱えたんだけど、意外にもねーちゃんは大人しくしていた。
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ。」
「何が!?」
「今あっちには、〝ガガちゃん〟がいるから。」
「???」
ガガちゃんって、学長から貰ったオレとお揃いの呪骸のことだよね?
◇
東堂の元へ辿り着いた時、見えた光景に思わず「はっ??」と素っ頓狂な声をあげてしまった。
オレが持つ呪骸を〝ジュジュくん〟、ねーちゃんが持つ呪骸を〝ガガちゃん〟と名付けていたねーちゃん。そのガガちゃんが、東堂と一緒になって呪霊に攻撃を繰り出していたんだ、そりゃビックリしてもしょうがないよな?
「何アレどーなってんの!?」
「なんてことはないよ、ガガちゃんに『特級呪霊を食い止めて』って伝えただけ。」
「いやそれが何なのって話で……」
「戻ったかブラザー!」
ねーちゃんに詳しく聞こうにも、東堂に呼ばれれば意識は自然と戦いの方へ向く。
「あの呪骸はオマエのか?」
「違うけど、味方と思っていーよ!」
「む、その女はどうした?」
「わたしのことはお気になさらず!」
東堂がねーちゃんに一瞥だけくれたが、ねーちゃんの返しでひとまず意識の外に置くことにしたらしい。オレもねーちゃんを降ろして東堂に並んで構えた。
「ガガちゃんのことは、囮でも盾でも好きなように使って。確実にここで祓おう。」
「おう!」
「っ!? いや待て!」
一歩を踏み出そうとした時、何かを察知した東堂の手が前に出されストップをかけられる。それと同時に、周囲の植物が瞬時に枯れ落ち相手の呪霊からとんでもない呪力を感じる。
あれ、これ結構ヤバいんじゃ? と思ったと同時に、突然帳が上がり宙に浮く五条先生が見えたのだった。