7、怒らせると怖い人
name
この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※※※
・原作に沿わせていますが、捏造は捏造。
・突然のシリアス。
・からのヒュンッ。
・下の発言していますが、下ネタではありません。
・獣医療関連の箇所はふわっと読んでもらえると嬉しいです。
七海ショックから立ち直ったわたしは、引き続き寮の掃除を行っていた。今戦況はどんな感じになってるんだろうみんな怪我してないといいな〜なんて思いながらふと会場の方へ目を向けると、何故か帳が降ろされていて思わず「えっ?」と声が洩れる。
「なんで帳が……」
そこでふと湧き上がった〝嫌な予感〟に突き動かされるまま、わたしは会場へ向けて駆け出す。
帳に隠されだんだんと見えなくなっていく向こうの景色に、悠仁くんの笑顔が思い出されてわたしの心情は焦る一方。呪骸にボコボコ殴られるけど、それさえも気にならないくらいには早く彼の元へ行かなければとそれしか思っていなかった。
◇
「俺は天元様の所に。悟は楽巌寺学長と学生の保護を——」
突如異変の起きた団体戦。状況の把握と会場で戦っている生徒達の安否を確認するために、僕達教師陣は一斉に動き出した。
「悟……っ!」
緊迫した中で聞こえた、縁の強ばった声。振り返ると両手を胸の前で握り、そのぱっちりした丸い目に涙を浮かべて僕に縋り付く姿に正直グッときたし本当は離れたくなんかないんだけど、これでも僕は悠仁達の担任でもある。僕が行かずに誰があの子達を助けれてやれるだろうと今ばかりは教師としての矜恃が欲望に勝り、縁の背後にいる傑にコンタクトを送る。僕の考えがわかったのかすぐに首を縦に振ってくれた親友を一瞥して、僕は背の低い縁に目線を合わせるようにして上体を屈めた。
「ごめんね、縁。様子見に行かなきゃいけないから、ちょっとの間離れるよ。」
「いやっ! 一緒にいてよ!」
「だーいじょうぶ。縁のことは傑が守ってくれるし、事が終わればすぐに僕も縁のところに戻ってくるから。」
「縁。今は悟の言う事を聞こう。学生達に何かあっても君は悲しむだろう? 私も悟も、縁の悲しむ顔は見たくないよ。」
傑の説得もあって、縁は渋々納得してくれたようだった。「はやく帰ってきてね」の言葉には額にキスを送ることで返事をして、大事な彼女のことは一旦傑に預ける。
二人が部屋を出ていくのを見送ってから歌姫と楽巌寺学長へと向き直れば、何故か二人は変なものを見るような視線を突き刺してきたけど意味がわからなかったから無視した。
「ほらお爺ちゃん、散歩の時間ですよ!! 昼ごはんはさっき食べたでしょ!!」
降りきった帳の前で、一人になった僕は顎に手をあてふむと考える。力技で結界を破ってもいいが、他にいい方法があるかもしれない。ひとまずは歌姫やおじいちゃんが中に入ったから、生徒達だけの時よりかは戦況はマシになったはずだし……ちょっとくらいなら周囲を見て回る時間はあるかな、と円に沿って歩くことにした。
本来ならチャチャッと片付けて縁の元に戻りたいけど、まあ僕は最強であると共に[GTだし。可愛い生徒達のためにも頑張らないとね。
「とはいえ、この結界の厄介さは僕の手に余りそうだなあ。縁を連れてきた方がよかったかな?」
学生時代、僕達四人の中で縁が一番結界術の勉強に励んでいたことをふと思い出す。あの子であれば、この結界の仕組みがわかるかもしれない……そう思い端末を手に取り縁と傑を呼び出そうとしたけど、やっぱりやめておいた。
どの程度の敵が、どれくらいの数居るか全くわかっていないのだ。そんな所にわざわざ僕の最愛を連れてくるべきではない。
あの子は大切に大切に、危険のない場所にしまっておきたいからね。
——だから、〝怪しきは罰せよ〟ってね。
そう、胸の内で呟きながら。
僕は、帳の前で佇む一人の女へ距離を詰めていくのだった。
◇
「……これ、触っても平気かな。」
帳の眼前までやって来たわたしは、躊躇いにちょっと立ち尽くしていた。この帳は、なんとなく術師や潔高くんたち補助監督が普段使っている結界術とは違う気がする。いやなんとなくだけど。だから不容易に触ったりしたらいけないような気もするけど……いやでも中にいる悠仁くん達が心配だし。
そう思い恐る恐る右腕を前に出してみると、とぷん、と何の違和感もなく通過して。考えすぎだったか、と一安心して、さあ乗り込みますかと意を決したところで。
「オイ。」
「ん?」
いつの間にいたのか、悟に呼び止められた。正確に言えば名前を呼ばれたわけではないので無視してもいいんだろうけど、まあそこは大人ですから目を瞑りましょう。
「オマエ、ここで何してんの?」
「白髪さんこそ、こんな所でどうしたんですか?」
「……何、その呼び方。」
「名乗られていないので。」
だがしかし、名乗られない限り名前で呼ばないけどな!
けろっと悪気ゼロで言い切ったわたしに対し、悟は唯一見える口元を引き攣らせた。けれど、予想していたような罵倒は来ず、何を思ったかはああああと長い溜め息を吐き出すだけに終わる。
「……悟。五条悟。」
「はあ、そうですか。で? その五条さんはここで一体何を?」
おお、自ら名乗ってきたぞこいつ。というか偽者がいないとキャラ違うな? 今は緊急事態だからか?
「さっさと学生達を助けに行かないんですか?」
「どうやらこの帳、僕は入れない仕組みになっているみたいでね。」
「え、マジですか。」
悟は入れない、わたしは入れる。悟の言い方だと、他の人も出入りは可能なんだろう。そんな独特な結界を張れるなんて、よっぽど結界術に詳しくて呪力もそこそこある者じゃないと相当に難しいはずだ。でなければ……
「詠唱だけじゃなくて、何か補助的な道具とか使っているとか……?」
一度目のトリップの時、当然だけどわたしは呪術のことを何も知らなかった。そんなわたしが、行き場がなく仕方ないとはいえ呪術高専に入っても同級生らに後れを取るのはまあ当然だった。当然、なのだが。元来負けず嫌いだったわたしは、みんなに追いつくために必死で座学や訓練に励んだ。
その中でも、結界術の類は学んでいて一番楽しかったのだ。詠唱を唱えるのもカッコイイとわたしの中の厨二心が騒いだ事もあり、片っ端から覚えていった。夜蛾先生が咽び泣いて喜んでくれたのが懐かしい。
しかし何せ十数年前に習ったことだ、その全てを覚えているわけではなかった。夜蛾先生、ごめん。
と、思考の海に沈んでいたからか。目隠しの奥で悟が眉間に皺を寄せていることも、触れられるほど距離を縮めてきたことも、実際に腕を掴まれるまで気付けないでいた。
掴まれた腕をそのまま強引に引かれ、近くの木に背中を押し付けられる。その弾みで、肩に乗せていた呪骸が虚しく地面へ転がった。
「いった……!」
「僕の質問にも答えろよ。何でオマエがここにいる? ここで何をしていた?」
打ち付けた背中に顔を歪めていると、腕を解放した悟の手は今度はわたしの首にかかる。
そこでわたしは漸く、悟がわたしを疑い、敵として見ていることに気付いたのだ。
「この帳、オマエの仕業?」
「ち、がうっ」
「義姉に成りすまして悠仁に取り入って高専に入り込んだの? で、中の情報を味方の呪詛師に伝えてたとか?」
「んなわけ、ないでしょ……ッ!」
悠仁くんの義姉に成りすましてるのは、あながち間違っちゃあいないけどな!
「じゃあ何で、術師でもないオマエが帳の仕組みを考えられるわけ。」
「わたしはただ、悠仁くんがあぶないと思って……!」
「何、助けに行こうって? オマエが?」
ぐっと力を込められ、更に持ち上げられてしまえば、より気道が狭まり呼吸が苦しくなる。もがいて呻くわたしを見る悟の顔は、さぞ愉快そうだった。
「呪力コントロールができても、オマエみたいな雑魚すぐに殺されて終わるよ。」
「ぅっ、く」
「……何か言いたそうだね。」
ぶんぶん首を振って否定するわたしを見てか、悟は手の力を弛める。そのまま離してくれりゃあいいのに首に手はかかったままで、場に似合わない優しい声音で「言ってごらん?」と先を促してきた。
くっそ……っ、頭に酸素回んないな!
「だから、なに……? 弱いことが、悠仁くんを助けに行かない理由にはならないでしょ……!」
確かにわたしが行ったところで何も変わらないかもしれないけど、そんなのは10年前だって同じだった。それでも黙って待っていることなんて、わたしには出来ない。——出来ないから、強くなろうと勉強だって特訓だって頑張ったんだ。
——『ふうん。まあそれなりになってきたんじゃない?』
あの時は、そうやって認めてくれていたのに!
昔を思い出し最高潮にイラついたわたしは、ぎろりと悟を睨み上げる。その拍子に、生理的に溜まっていた涙が頬を伝ったが今はそれを拭う気力すらなかった。
それくらい、ブチ切れていた。
「……オマエ、」
「ねえ、五条悟。」
悟が何かを言おうとしたけど、生憎聞く気はさらさらない。
「わたしね、自分の世界では獣医をやっていたんですよ。」
このバカに一泡吹かせないと気が済まなくなってしまった。
「……それ、今関係ないんじゃ、」
「獣医になって働きだして、まず最初にしたオペがねこの去勢だったんですけどね? せっかくだから今日は、その方法を教えてあげますよ。」
そう言うなり、わたしはガッッと下から奴のブツを掴みあげる。
何かって? こいつの股にぶら下がってるブツだよ!
「去勢とは言っても、陰茎をどうこうするわけではありません。睾丸の中にある精巣を取り出す手術ですから。まずはここの陰茎と睾丸の間の…………」
それからわたしはほぼノンブレスで、懇切丁寧に手術の概要を説明してやった。獣医で女のわたしからしてみればただの工程を話したに過ぎないが、以前自分の世界の男友達に話したら玉ヒュンッしたらしいからな! 効果は証明されている!
案の定、顔を蒼くして力が弱まった悟の手を首からどかして離れる。
「義弟が危険な目に遭うってわかってて、行かない義姉がどこにいる? 誰に止められようと、わたしはわたしのしたいようにするだけだから!」
それから落ちていた呪骸を拾い、振り向きざまに「邪魔するならマジで去勢するからな!」と捨て台詞を吐いて帳の中へ飛び込む。
思ったより時間を喰ってしまったし、悟の言うことが本当なら、帳の中に入ってしまえばあの男は追ってこられないだろう。
ふん! どうだざまーみろってんだ!!
そう鼻息を荒くして、わたしはどんより空気が重く感じる中悠仁くんの元へ急ぐのだった。