6、元後輩たち
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この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
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※※※
・捏造が激しい。
・ここで出てくるの?
・出すタイミング逃してたキャラもいるからまだマシだょ…
「ねーちゃん聞いて聞いて! オレ明日、サプライズ登場することになった!」
「……誰の案?」
「五条先生。」
「悠仁くん、下手なことは言わない。あいつの悪巧みに乗るのはやめておきなさい。」
スベって終わりだから! とわたしがどれだけ口を酸っぱくして言っても、右から左へ流されるだけで聞く耳を持っちゃくれなかった。
浮かれる気持ちはわかるよ? やっとみんなに会えるんだもんね?
だがしかしあのめかくしらがくそやろうの言うこと聞いたら絶対悠仁くんが痛い目見る。似た経験わたしもしたことあるからよーくわかる。だから考え直して! 思わぬ流れ弾で黒歴史を思い出しダメージを負ったわたしのことなど露知らず、悠仁くんはまるで遠足前の小学生のようなテンションで明日へ思いを馳せている。初めて見る義弟とそんな様子に、義姉としては呆れつつも嬉しくなってしまうのは当然のことで。
まあ、恥をかくのもいい思い出になるだろう。そう思い直し、それ以上口を出すのはやめておいた。
「いただきます」と二人揃って両手を合わせ、夕飯にありつく。こうして二人で夜ごはんを食べるのもこれで最後だねえと何となしに言うと、今まさに口に入れようとしていたとんかつをぽろりとテーブルに落とした悠仁くん。
「え、最後って?」
「? だって悠仁くん、明日にはもう寮に戻るでしょ?」
明日が悠仁くん生存のお披露目会なら、悠仁くんはもうここに隠れる必要もない。念願だったみんなとの生活に戻れるなんてそんな喜ばしいことはないだろう。
そう思っていたのだけど、目から鱗状態の悠仁くんを見るにあ、これ抜け落ちてたなと察した。そんなところも可愛いじゃないか義弟よ。
「そっか、オレ寮に戻るのか……」
「そうそう。だから同時に、わたしとの同居生活も終わりというわけ。」
楽しかったこの一ヶ月のことを思い返すと、自然と頬が緩んでくる。またこの世界に来て、路頭に迷わずに済んだのは最初に悠仁くんと潔高くんに会えたからだ。
対する悠仁くんの表情は、しゅるしゅると元気のないものに変わっていく。
「……オレがここを出たら、ねーちゃんはどうするの?」
「わたし? うーんそうだねえ……」
用務員で貰えるお給料がもう少し貯まったら、高専の近くに部屋でも借りるかな……あ、でもこの周辺何もないな。それに部屋を借りるとなると身分証明系が必要になるし……それはそれでめんどいなあ。
「潔高くん経由で、高専の敷地内のどこかに住まわせてもらうように頼んでみるかな。」
「! じゃあ、女子寮とかは? 部屋空いてたら一室借りればいいじゃん!」
「いやいや、流石にアラサーが学生寮に紛れ込むのは。」
「……じゃあ、ずっとこの部屋にいるとか。」
「しばらくはそうなるかもね。何はともあれ、わたしの身柄は高専預かりだから。自由には決められないかなあ。」
そう言いながら、自分の皿にあるとんかつの一切れを悠仁くんのお皿に移す。こうやって食事中に話すことも、一緒に料理をすることも無くなると思うと、うん、そうだね。
「確かに、さみしいね。」
悠仁くんの言わんとしていることがわかり、つい本音が零れてしまった。気分は自立する義弟の門出を見送る義姉の気分である。
いや、気分ではなく事実か。
「でも、会えなくなるわけじゃないし。これからはみんなの前で堂々と義姉弟として振る舞えるんだから、良いことでもあるよ。」
ね? と諭すように言うと、悠仁くんはまだちょっと拗ねている顔で渋々ごはんを食べ進める。
「オレ、毎日会いに行くから。」
「うん。」
「みんなに、オレのねーちゃんだって言いふらすから。」
「どうぞどうぞ。」
「……何かあったら、すぐに言ってね。」
「悠仁くんこそ、ねーちゃんに隠し事はなしだからね。」
その日の夕飯は、なかなか食べ終わらなかった。
◇
翌日、「じゃあ、行ってきます!」と元気よく——でも少しだけ惜しむような顔で——部屋を出ていった悠仁くんを見送ってから、わたしも部屋を出る。
今日から二日間かけて開催される姉妹校交流会を、部外者であるわたしが観戦することは出来ない。だからわたしはいつものようにツナギを着込み、脚立を担いで高専の敷地内を歩いていた。
硝子から、怪我人多数の場合には手伝いに来るよう要請がかかっている。多少医療は齧っているがあくまで獣医、本格的な治療は出来なくともお手伝いくらいは出来るだろう。まあ、怪我人が少なく済めばいいだけの話だけど。血気盛んの若者達だ、多少の怪我は仕方ない。
ちなみに紐束縁(偽)は、悟達にとって部外者という認識ではないため一緒に観戦するらしい。へーへーそうですかお好きにどうぞ! でも悠仁くんの勇姿は是非とも録画して後でくれると嬉しいな!
……はっ、待てよ。硝子確か、歌姫先輩が来るって言ってなかった? 五条悟大嫌いな先輩が奴らのイチャコラを見たらブチ切れない? 大丈夫??
歌姫先輩には、可愛がってもらっていた記憶がある。先輩からしてもそうだろう。そんな可愛がっていた後輩があんなビッチに成り下がっていたら、しかも五条悟とベチャベチャしているのを見たら……
「いやコレ、わたしの精神が削られるだけだわ。考えないようにしよう。」
◇
交流会は校舎近辺で行われるだろうから、学生寮の方にでも行って掃除でもしてようかね。それにしても……
「交流会、懐かしいなあ。」
姉妹校交流会は毎年の恒例行事だ、もちろんわたし達の時もあった。基本二、三年生が参加するため、わたしが出たのは二年の時だけ。しかも悟と傑二人で圧勝していたため、団体戦に関してはあまり貢献出来た記憶はない。個人戦は頑張って勝ったけど。
だってあいつら、『負けたらダッツ一週間分な』とか言いやがるんだもん! 頑張るしかなくない? 結果としては全員勝ったからそれぞれ一個ずつ奢りあって終わったけど。
「あの時のクリスピーサンド、格別に美味かったなあ。」
なんて独り言を言いながら、わたしは脚立のてっぺんに座り込んで学生寮の窓掃除に励んでいた。ちなみに頭には呪骸を乗せている。あいつの命令に従うようで嫌だったけど、呪力のコントロールくらいは出来ておいた方がいいと思ったのだ。まあ昔の感覚を思い出しながらやってみたら思いの外上手くいったから、比較的殴られた回数は少なくて済んでいるけど。
ぐうぐう眠る呪骸の寝息を額に感じながらわたしは仕事に打ち込んでいった。窓掃除とかって、一度やり出すとなかなか止まんないよね。
そんな時である。
「貴女が、糸田紬さんですか?」
「ん?」
◆
ちょっと待って。何がどうなってるの。
虎杖悠仁が生きていたことも、高専の中に敵との内通者がいるかもしれないということでも、十分驚くことばっかりだってのに。
「あっ、歌姫センパイお久しぶりですぅ。」
かつての後輩、紐束縁がまたこちらの世界に来たのは喜ばしいことだ。しかしなんで、
「悟ぅ、恵クンと棘クン大丈夫かなぁ?」
「大丈夫大丈夫〜〜〜。縁はなぁんも心配しなくて大丈夫だよ。」
「でも、二人が怪我したらどうしよぅ……」
「悟の言う通りだよ、縁。彼らは強い。」
「傑ぅ……でも、」
「もし彼らがちょっとでも怪我をしたら、私の呪霊達がすぐに硝子の元まで届けるから。」
なんっっっでこんなことになってるの!?
高専時代の紐束縁は、私の良き理解者だった。五条悟への愚痴を親身になって聞いてくれて、なんなら二人で同盟を組んだほど。
別の世界からやって来た人間ということでどんな奴か警戒していたのは最初だけで、縁自身のこざっぱりした性格や戦いに対する向き合い方も共感を持てた私達はすぐに仲良くなり、更に共通の敵(五条悟)を見つけたことで結束は固くなっていた。
それが、彼女が三年になった夏に突然居なくなったと話を聞いて、元の世界に帰れたのか安心と寂しさを抱いたのは言うまでもない。しかしそれからひと月も経たないうちに夏油が呪詛師に堕ち逃亡したことで呪術界は騒然、私も呪術師として駆り出され任務を熟す毎日。この10年の間で、縁のことを思い出す回数はどんどん減っていった。
それが数ヶ月前、紐束縁が再びこの世界に来たことを硝子から聞き、今日会えるのを楽しみにしていたというのに!
目の前で繰り広げられているコレは一体何? 私は何を見せられているの??
「縁……? アナタ、五条悟のこと嫌いだったんじゃ……?」
「歌姫、それ本人の前で聞く?」
「アンタは黙ってろ!」
「えぇ? そんなこと…………あ〜、確かに〝昔は〟そんなこと言ってる時もありましたけどぉ。離れてる間、あたしどうしても悟や傑のこと忘れられなくてぇ〜。」
ふたりのこと、好きだったんだぁって気づいたんですよ。ぽっと頬を染める縁に、私はクラリと目眩を覚える。
「だからまたこの世界に来たら、素直になろうって決めてたんですぅ。」
「縁……!」
「ありがとう、縁。とても嬉しいよ。」
そう言って三人でキャッキャしあう姿を見て、おかしいと思うのは私だけ? 人目もはばからずに仲睦まじくしているのは、当時素直になれなかった反動だとでも言うの? 両校の学長ドン引きだからね?
思わず私は、保健室で待機している硝子にメッセージを送り込む。事前に言っておいてほしかったとか、信じられないだとか、本当に縁なの? とか。そんな支離滅裂な言葉をひたすら思うままに。おかげで十何通にもなってしまったが、今だけは許してほしかった。
待つこと一分。硝子から来た返信は「頑張ってください(笑)」の一言だけだった。
後輩が冷たい!!
◇
歌姫先輩がそんなことになっているとも知る由もないわたしは、下から掛けられた声に掃除の手を止める。視線を下ろすと、脚立の脚元に二人の青年が立ちこちらを見上げていた。
……うん、めっちゃ見覚えのある二人組だ。記憶にある姿より随分逞しくなっていて先輩嬉しくなっちゃうな。
でも油断は禁物だ。この二人は〝紐束縁〟にとっての後輩にあたるのだ。つまり現状では、あの女の後輩ということ。伏黒くんや狗巻くんのことも狙っているあのビッチのことだ、この二人にも催眠みたいなものをかけているかもしれない。考えたくもないけどな!
この二人が何の目的でここに来たのかもまだわからないし、ここはひとまず糸田紬で行くべきだろう。そう考えつくのに要した時間は一秒くらい、そんな怪しまれる程度じゃないはずだ。
「そうですけど、えーと……?」
「これは失礼。私は七海建人、1級呪術師です。」
「灰原雄! 俺も1級だよー!」
戸惑うわたしに、二人は礼儀正しく名乗ってくれた。どっかのクズ二人とは違ってちゃんと大人だね君達! ちゃんと成長してくれてて先輩は嬉しいよ!
「実は貴女に、幾つかお聞きしたいことがありまして。」
「はあ。わたしみたいな用務員に何用でしょう。」
脚立を降りて地面に足をつけながら、わたしは内心首を傾げる。
悟や傑のように、高専関係の呪術師であればわたしのことを知っていてもおかしくはないと思うけど、建人も雄も教師ではない。ただの呪術師である彼らがどこからわたしのことを聞きつけたのか興味はないけれど、誰から聞いたかでは状況は変わってくる。ほんの少し警戒する素振りを見せながら用件を聞くと、建人は特徴のあるサングラスを顔から外しながら「貴女が、虎杖君の姉のような人だと聞いたのですが」と聞いてきた。
「あと、トリップしてきたってホント?」
「え、はいそうですけど。」
「わあ! ホントだって七海!」
凄い凄いとはしゃぐ雄のことはさておき、といった具合で見事にスルーした建人は、じっとわたしを見下ろしてくる。わたしより身長が高いのに威圧がそんなに感じられないのは、わたしに対して敵意がない……からだろうか。
「虎杖君が、呪術師として任務に当たっていることはご存知ですか?」
「? ええ、聞いてますけど……、」
そこで、悠仁くんとの会話の一部を思い出す。確か〝ナナミン〟という呪術師と組んで任務にあたることが多かったとかで……おや?
「もしかして、〝ナナミン〟って……」
「ええ、私のことです。」
やっぱり! 建人のことだったー!
それから、建人は悠仁くんとのことを教えてくれた。とある任務で重めなものに当たり、そこで悠仁くんは友を失い、本人も死にかけるほどの重傷を負ったこと。そして……
「そして私は、彼に救われました。あの任務は虎杖君とでなければ、私はとっくに死んでいたでしょう。」
「だから今回は、貴女に謝罪と感謝を伝えにきたんです」そう言って頭を下げる建人に倣い、雄も「七海を助けてくれてありがとう!」と勢いよく頭を下げる。大の男二人に頭を下げられる、なんて傍から見たら結構ヤバい絵面では。そしてわたしは、彼らに頭を下げられるような人間ではないので、慌てて頭を上げるように伝えた。
だって、わたしはあくまで〝役〟で悠仁くんの義姉になっているだけなのだ。建人達に謝罪もお礼も言われる筋合いのない人間なんだから!
って言えればどんだけ楽か。
「……悠仁くんがあんな良い子に育ったのは、おじい様のおかげであってわたしのおかげではないですよ。」
でもそんなこと、言えるわけがない。だからわたしは、事実だけを伝えることにする。
「それに、わたしも今回のトリップ早々、悠仁くんに助けてもらいました。だから、悠仁くんにお礼を言うべきです。わたしも、貴方も。」
わたしは、お礼を言われる立場ではない、むしろ言わなくてはいけない立場なのだ。助けてくれた悠仁くんと、そして。
「……そうですね。」
「それにお話を聞く限り、わたしの方が七海さんにお礼を言わなければと思いましたよ。」
「私にですか?」
「はい。だって悠仁くんを呪術師として強くしてくれたのは、七海さんのご助力もあってのことだから。」
建人が悠仁くんを強くしてくれたからこそ、わたしはあの時あの子に助けられた。
「ありがとうございます、七海さん。貴方がいてくれたから、義弟は今日仲間と再び会うことが出来ています。」
だから、最大級の感謝を。陳腐な言葉に精一杯の想いを乗せて、わたしは二人に頭を下げたのだった。
◇
「行ってしまわれた……」
無意識のうちに、どこかで聞いたことがあるようなセリフを呟いてしまった。あの後も何度か言葉を交わしたものの、建人も雄も至って普通、最後まで初対面の、知人の身内に対するような態度のままだった。
『……あの、』
『どうしました?』
『……糸田さん、どこかでお会いしたことありますか?』
『へ、』
建人の物腰の柔らかさと、雄の底抜けの明るさのおかげで、わたしの警戒レベルもだいぶ下がっていた。警戒しなくていい会話は楽だなあと肩の力を抜いたその時、不意に建人が何かを考え込むように顎に手を添えたかと思えばそんな爆弾発言を投げつけてきたこと以外は、本当に平和だった。
『七海!! それナンパの常套句だよ!!』
『いえ、私は別にそんなつもりではなく。』
『だろうね!』
あの七海建人が、ナンパみたいなことを言いよった……! と、驚きのあまりわたしはフリーズしてしまった。その間に『ごめんね紬さん! 七海任務明けでさ!』と言いながらも雄が建人を引っ張って行ってしまったことで、その場にはわたし一人だけとなる。
ポカンと呆気に取られていた状態から、二人との会話を思い出して、そして建人の最後の言葉を思い返して。
ボボッ、と。顔が熱くなるのがわかった。
「〜〜〜建人がアレを言うのはずるいなあ!」
イケメンはイケメンでも、建人は悟や傑とは違い誠実さに溢れている。それは大人になって更に磨きがかかっており、それにプラスして大人の色気もあった。
そんな男に? 冗談とはいえあんなこと言われたら? その気がなくても照れるのは仕方がないと思います!!
七海建人(大人)、やべえ!!