1、はじまり
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この小説の夢小説設定 過去に呪術廻戦の世界へトリップしたことのある主人公が、もう一度トリップしてみたら自分のポジションに成り代わる人間がいた。
べつにそれに対しては笑い話で済む話だけどちょっと待って??過去の友人とイチャイチャ??気持ち悪いんでやめてもらえません???
これは、主人公が自分の立ち位置を正しい場所に戻すために奮闘する物語である(?)
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※※※
・トリップもの。
・原作の内容には沿わせない予定。
・pixivにも載せているものになります。
「ああああああああ!!!」
夕暮れ時、日暮れ時、黄昏時、逢魔が時、ゆうやけこやけ。人によってその呼び名の違う、太陽が沈み行くその時間帯。あれ、最後のは違う? まあいいや。
とにかくそんな、空がオレンジに染まっている時分に、いい大人であるわたしは恥も外聞も捨て去って往来の道を叫びながら全力疾走していた。
何のため? それはねえ……
——……モカ……フラ……ペチーノォォォ
追いかけてくる変な化け物から逃げるためだよ!!
そもそも、なんでこんなことになっているのか。
そんなのわたしが知りたいんだけど……ええと、確かこうなる前は、仕事帰りに愛車をぷいぷい言わせながら走らせていたような気がする。単純に考えれば、事故ったりしてこの世界に〝飛ばされて〟きたのだろう……8割方、そんなところだと思う。
これは、異世界トリップというものだ。その確信が、わたしにはあった。
なんでそう断言出来るかって? だってわたしは——
何を隠そう、今回と似たような経験を一度しているからだ。
◆
思い返せば、あれはかれこれ十数年前。高校に入学して真新しい制服に未だ慣れずソワソワしていた日の帰り道。その日貰ったばかりの教科書を重い重いと言いながら持ち帰っていた時、気が付いたら知らない道を歩いていた。
はじめはまだ慣れない道に、どこか間違えただろうかなんて呑気に思っていた。いやでもさっきまで農道を歩いていたのに急に住宅街になっている。なにゆえ……? と首を傾げていたわたしの前に、ブロック塀からにゅるりと現れた〝何か〟が居た。
その〝何か〟は、およそヒトのカタチをしておらず、かと言ってわたしが知りうる限りの有機物無機物のカタチをしておらず。強いて言えば漫画やアニメでよく見るようなうねうねドロドロしていた。カラダ? の至る所に目や口があり、手みたいなものも生えてはいたけどヒトでいえば頭頂部から生えていた。
驚きの余り、思うままに「キモっ」と声を出してしまったのがいけなかった。幾つもある目が一斉にわたしの方を向いて、目が合ってしまった。それが皮切りに、幾つもある口から悍ましい声? 音? を上げたその〝何か〟は、あろう事かわたしに向かって来たのだ。
「えっ、はっ? ウソでしょ!?」
得体の知れないものに近寄ってこられたら、距離を置きたくなるのは本能というか、最早生理的に受け付けないからというか。というかただ単に怖くて慌てて逃げ出したら、〝それ〟は追いかけてきた。見たところ足とか生えてないのに何で動いてんの!? とか、思ったより速いな!? とか、思わなくもなかったけど今はそれどころじゃねえ! と自身を奮い立たせて懸命に走った。
——……かふぇ……ラテ……ソイ……
制服と一緒に卸した真新しいローファーが擦れて、徐々に足が痛みを訴えてくる。それでも足を止めるわけにはいかなかった。
何がなんだかわからないままだったが、ひとつだけわかることがある。それは捕まったら死ぬということだった。得体の知れないものだが、〝アレ〟はわたしにとって悪いもの、というのは本能でわかった。
——……こ…ぉひ……
「っていうかさっきから何なの!? コーヒー飲みたいの!?」
オシャレなカフェでも行ってろ!! と度々聞こえてきていた声にツッコミを入れながら、知らない道を右に左にめちゃくちゃに走り回る。ここまで来るともう家に帰れるか不安になってきたが、命最優先だ、そもそも命が無ければ帰れないし仕方がないと開き直った。
「っつーか鞄おっも……!!」
数分続いた追いかけっこも、遂に均衡が崩れた。
「うあ!」
片方のローファーが足から脱げてしまい、それでバランスを崩したわたしは激しく転倒した。色んなところが痛みを訴えたが考えるのはあとにして、急いで後ろを振り返る。すると脱げたローファーは宙を舞い、やがて追いかけてきていた〝それ〟にパコン、とぶつかり弾かれていた。
「……お?」
そこでわたしは、活路を見出した。
弾かれるということは、触れるということ。触れるということは、物理的攻撃が効くということだ。
幸いにも今のわたしは丸腰ではない。倒せるとは到底思えないが、逃げる隙を作るくらいの時間は作れるかもしれない。そう思ったわたしは、立ち上がり逃げることはせずに〝それ〟と立ち向かう。段々と近づいてくる〝それ〟との距離を見間違えないように目を凝らし、集中し、わたしとの距離が1メートル半くらいまで近づいたその時、わたしはその重い重い鞄を振りかぶって——
◆
「いやー、そんなこともあったねえ!!」
あれからまた色々と大変な、だけど楽しい日々があったことを思い出すけれど、それは束の間だった。
現実逃避か、はたまた走馬灯か、酸欠が見せる妄想か。どれかはわからないけれど、過去を思い出したからといってこの現状が打破されるわけでもなかった。
わたしは未だ、化け物に追われている。とは言えこちとらろくな運動をしていない、しても犬の散歩くらいでしか動いていないアラサーだぞ。学生だったあの頃とは違いスピードも遅ければすぐに息も切れて、今自分がちゃんと走れているのかさえ怪しいってもんだ。
それなのに、わたしはまだ捕まってはいなかった。それは何故か。
弄ばれているのだろうと、瞬時に理解した。きっとこの呪霊は多少なりとも知性があるんだろう。必死に逃げるわたしの痴態が面白くてすぐには捕まえず、力尽きた時にいたぶり殺すに違いない。
十数年前の、不思議体験をした記憶を思い出し、込み上げてきたのは笑いだった。
「わたしなんで、いつも追いかけられてんのウケる……!」
しかも今回もフラペチーノとか言ってる奴だし。そんなに飲みたきゃスタ〇行けや!! とツッコミを入れるのも同じでどうして笑わずにいられようか。
わたしは、自分の世界では幽霊とかの類を見たことがない。
そして一度目のトリップでは、〝呪霊〟を相手にする〝呪術師〟なるものが存在する世界に飛ばされた。
そして今回、二度目のトリップ先が一度目と同じ世界なら、この化け物は〝呪霊〟ということになる。それなら、わたしはこの化け物を倒す術を知っている。
もし違う世界だとして、化け物がまた違う何かだとしたら詰んでるんだけど。そう思いながら、わたしは懸命に動かしていた足を止めた。
急に逃げるのを止めたわたしを大きな手で握り込んだ化け物は、イヤらしい目つきを浮かべたあとがぱりと大きな口を開ける。
実に十年ぶりに呪力を身体に巡らせることに意識していたわたしが、脚に乗せた呪力の塊をその化け物へぶつけようとしたその瞬間、
パァンっと、その化け物が爆ぜた。
「……えっ?」
びちゃびちゃと降り注ぐ化け物の血やら体液やらを浴びながら、目の前で突然起きた状況を理解出来ないでいると、化け物の腹に大きく空いた穴の向こうに人影が見えた。
「おわっ!? やっべえやりすぎた!?」
何やら焦った声が聞こえてくるもののぼーっとしたままでいると、やがて事切れた化け物の体がぐらりと傾くと同時にサラサラと視界から消えていく。
そうして見えた先には、ピンクがかった髪色をした、なんか見覚えのあるような制服に身を包んだ一人の少年が居た。
「あっ! 大丈夫ッスか!? ケガとかしてないッスか?」
血まみれのわたしに臆することなく駆け寄ってきた少年に首を縦に振ると、少年は安心したように「よかった!」と笑う。
「人が呪霊に襲われてるって連絡が入ってさ! 急いで来たんだけど間に合ってよか……」
人懐っこそうな明るい少年だな、と呑気に思っていると、少年はたちまち笑顔から申し訳なさそうな顔になり今度は謝罪をしてくる。その行動に首を傾げると、少年は「間に合ってないっすよね、すみません」と二度目の謝罪。
「おねーさん、怖い思いしちゃったよね。オレがもっと早く来てれば……」
「そんなことないよ、少年。君のおかげで、わたしは助かったよ」
まあ、服はびちゃびちゃだけどね。と笑うと、少年はハッとして「すんませんっした!!」と頭を下げる。
「今、伊地知さん……大人の人呼んでくるんで待っててください!!」
と叫んで引き止める間もなく行ってしまった少年の背中を見送りつつ、わたしはふむ、と情報整理をすることにした。
街並みはわたしの世界と変わらなそう、つまりこの世界も日本なのだろう。
先程の化け物。アレは呪霊と言って差し支えないだろう。
そして、それを祓った少年。少年が呪霊を祓った時、拳に呪力が集まっているのが見えたこと、少年が着ていた制服に着いていた〝うずまき〟の釦。
それらが意味するのは、幸か不幸か、わたしはまた同じ世界にトリップしてきたということ。
極めつけは…——
「おねーさん! 大人の人連れてきた!」
「貴女が被害に遭われた方ですか! ご無事で何より——って、縁さん!?」
「お? 君もしかして……潔高くんかい?」
どうやら同じ世界でも、わたしが知っているこの世界より未来の世界のようだけれど。