伏黒
name
×刀剣乱舞のクロスオーバー名前は(あるけど)一生呼ばれません。
何せ審神者ですから。
呪術界のみんなと刀剣オタクの家に産まれた審神者と審神者過激派の付喪神達がわちゃわちゃしてる。
※勢いで書いているのでいろいろ設定がゆるい。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『そういえば審神者、オマエ恵を守り人にしようとしてるの?』
話し込む薬研と伏黒の姿を遠目に見遣りながら、審神者は先日の五条との会話の一部を思い出していた。
『恵とは……?』
『少年院で会ったろ、ツンツン黒髪の』
『ああ、イケメン君』
『イケメン君だあ??? オマエ僕に対してもイケメンって言ったことないよね??』
『どこで張り合ってんです?』
ここまでがワンセットで思い起こされたが、うん、この部分は要らないなと即座に切り捨てる。五条が知ればまたぶちぶち文句を言われそうではあるが、審神者の脳内だけのことにまでとやかく言われる筋合いはない。
『その呼び方は、乱がしていたんですよ。守り人の件に関しては、わたしというより薬研が彼をスカウトしたんです』
『ああ、あの男の娘な』
『確かにわたしより可愛いですが、立派な男士ですよ』
『薬研っていうと、その乱チャンの兄弟刀だったか。何だってまた』
『……まあ、薬研なりに思うところがあったんでしょう。とはいえ強制ではありませんし、彼が断れば守り人にするつもりはありませんよ』
面倒だったから説明を省いたなんて、そんなそんな。ともかく五条に言ったように、伏黒が薬研の誘いを断るようであれば潔く引くつもりの審神者であった。
そもそも、審神者が眠っている間に必ずしも誰かが守らなければいけないわけではないのだ。名字家に居た頃は部屋に結界が張られていたし、高専に居る時は前者の何倍も強固な結界が学校全体を守ってくれている。それらの中で眠る分にはよっぽどの事がない限り安全であるし、これまでだってどうにかなってきたのだ。自身のことであるが、皆が心配するよりは楽観的に考えている審神者なのである。
「小さい頃はしょっちゅう誘拐とかされてたみたいだけど、基本わたしが寝てる間に全て解決してたり途中で起きてもすぐに男士達が成敗してくれたりしたから、そんなに怖くなかったよ」
薬研と代わり、隣に座った審神者があっけらかんとした調子でとんでもないことを言い出すから、伏黒はまた審神者に驚かされる。
審神者はといえば、交代して早々兄貴肌を魅せたらしい薬研が釘崎に「薬研ニキ!!」と拝まれている光景を微笑ましげに見つめていた。
「ほとんどの人の目的は、『審神者の力』を求めてたからね。わたしを殺してもその力は手に入らないわけだし、生かして洗脳して上手く使おうとしてたみたいだから」
名字家の人達は毎回大騒ぎしていたみたいだけど、と笑みの種類を一瞬だけ嘲るものに変えた審神者の黒い瞳は剣呑さを含んでいた。その鋭さの意味を、伏黒は詳しく知らない。だが伏黒は、呪術界においての御三家『禅院家』と血縁関係にある人間だ。直接的な関わりはないものの、たまにあの家に訪れる際の嫌な視線も、囁かれる批難も、古い考えに固執した老人達の罵倒も、知っている。呪術師と関わりのない名字家ではあるが、特殊な力を持って産まれてくる人間に対しての扱いはどこも変わりないのだろう——それだけは、審神者の反応からよくわかった。
「でも、中には面白い誘拐犯の人もいたりしてね。『この依頼が終わったらプロポーズするんだ』って謎の死亡フラグ立ててたりしたなあ……あの人今も元気かなあ」
「誘拐犯の息災を気にするの、審神者さんだけでしょうね」
「ふふ、悪い人には見えなかったからかな」
瞬きひとつ。その間に視線も表情も雰囲気さえもパッと切り替わったなと思えば、次の瞬間にはからからと思い出し笑いする審神者に、よくもまあころころと表情を変えられるなと伏黒は変なところで感心していた。最初に会った時より随分若い……というよりは幼い印象だとも思ったが、流石にそれは失礼だろうときゅっと口を引き結んだのは相手には内緒である。
「とまあ、何が言いたいかっていうとね。昔もなんだかんだ大丈夫だったし、伏黒くんが無理に守り人になることはないんだよ・ってことなのさ」
そう言って向ける笑顔を信用出来ないのは、何故なのか。伏黒は心の中で自問する。外からは力を狙われ、中からは命を狙われ、身近であるはずの身内からは決して良くない扱いを受け、本来物である付喪神達とは偽りの家族ごっこをずっと続けていて。しっかりとイカれている世界に身を置いていて、何も思わないのか——何も思わないほど、彼女もイカれているのか。
何故かそれが、伏黒にはやるせなく思えてしまうのだ。
——神に愛されるこの人は、悪である筈がないのだから。
「やります。」
「んんっ?」
「守り人。やります」
善き人は、悪から守らねばならない。善き人は、易々と死ぬべきではない——今度こそ、死なせない。
だから、その笑顔の裏に隠した本心を教えてほしいと。懇願するような思いで、伏黒は審神者を正面から見つめた。
その視線を受けた審神者は、何を思ったかおもむろに伏黒の頭に手を伸ばし優しい手つきでその跳ねた毛先を撫ぜた。表情は、先程までの幼い印象とは真逆、まるで母が子に対して向ける、包容力のある笑みで。
「伏黒くんは、いい子だねえ」
「……ガキ扱いしないでください」
「してないよ。君は立派な男の子だもの」
伏黒の意図は、審神者に正しく伝わっている。〝審神者〟としての自分ではなく、〝わたし〟という人間を想ってくれている事がようくわかり、だから嬉しくて仕方がないのだ。
審神者が思っている以上に深刻に考えているきらいがありそうだが、まだ二度目ましての浅すぎる関係だ。それは今後ゆっくり伝えていけばいいし、審神者も伏黒の事をもっと知っていけたらいいと思う。
強さと脆さを兼ね備えた、優しい男の子。どうか健やかであれと、願わずにはいられなかった。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「はい」
「とはいえ、そう毎日お願いするものでもないから安心してね。必要な時に連絡するから、連絡先教えてもらってもいい?」
最後に携帯端末を持っていたのは七年前になる審神者に、現代の進化したそれの扱いはまだまだ不慣れなよう。「まだ色々と使いこなせてないんだよねえ」と苦笑する審神者に丁寧に教えながら、伏黒は電話番号とメッセージアプリのIDを交換した。
「伏黒、恵くん」
伏黒の画面を見つめながら、感動と満足を混ぜ合わせたように笑う審神者に、伏黒は暫く目が離せないでいた。
このあと、二人の様子を見ていた他の生徒達とも連絡先を交換して。
一気に増えた連絡先の数にご満悦な主人の姿に、また刀剣男士達も微笑ましげにしているのだった。
「刀剣男士って言いますけど、女の付喪神もいるんすね」
「え? ウチには男士しかいないよ?」
「え、でもあの時、スカート穿いてた……」
「ああ! 乱ね!」
その後顕現された乱藤四郎により、高専生達がまた驚かされたのは言うまでもない。