伏黒
name
×刀剣乱舞のクロスオーバー名前は(あるけど)一生呼ばれません。
何せ審神者ですから。
呪術界のみんなと刀剣オタクの家に産まれた審神者と審神者過激派の付喪神達がわちゃわちゃしてる。
※勢いで書いているのでいろいろ設定がゆるい。
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「いやあ、悪いなウチの大将が」
「や、もうだいぶ落ち着いたんで……」
カラカラと笑う薬研の隣で、伏黒はどこか居心地悪そうに居住まいを正す。
眼前の校庭では自分以外の高専生と審神者、そして審神者が顕現させた刀剣男士達の姿があり。審神者と男士を含めた鍛錬が再開されていた。
流石に一時のような酷い混乱状態は落ち着き、生徒達はとりあえず審神者のことを受け入れていた。まだまだ知らないことは多いがいっぺんに聞かされようものならまた脳みそが沸騰しそうではあったし、生徒達から見た審神者は悪人や害のある人間とは思えない。それに何より、あの五条が連れてきた人間だ。その事実と自分達の直感を信じ、あとは小出しで情報を聞き出そうと暗黙の了解ができあがったのだ。
今は審神者がここへ来た理由……〝臨時講師〟の名前通り、審神者が生徒達の鍛錬を見ている状態だ。しかし一人では目が届かないこともあり戦のプロである刀剣男士達を顕現させ、各自に付かせるようにしていた。
これを特に喜んだのは釘崎と真希で、釘崎は顔の良い男士との鍛錬にそれまで以上の精を出し——但し、パンダの時同様ぶん投げられているが——、真希は自身が呪具使いということもあって、刀剣の扱い方を熱心に学んでいるようだった。
パンダも狗巻も刀剣男士達から色々学ぼうと、神様相手に積極的に会話を交わしている。狗巻に関しては相変わらずおにぎりの具しか喋れないが、コミュニケーションは上手く取れているようである。
そんな、仲間たちの様子を遠くから見つめ。伏黒は何故自分はここに居るのだろうと視線を手元に落とす。それもこれも、鍛錬が再開される際に薬研から誘われたのだ。「ちょっと話そうぜ、伏黒の旦那」と。
「ちょいと失礼」
「っ、」
俯いた伏黒の髪を、気配なく掻き上げる相手に一瞬肩が持ち上がる。黒い手袋を身に着けたその手は上げた髪の根元……どうやら額の部分を確認しているらしい。「確かに治ってるな」という言葉を聞くに、伏黒はあの時負った傷を見ているのかと合点がいき、無意識に強ばっていた身体の力を抜いた。
あの時、両面宿儺との戦闘で伏黒は決して軽くはない怪我を負った。特級呪物相手に死ななかっただけマシだったが、特に酷かったのは頭部からの出血で。それを駆け付けて応急処置してくれたのが、この薬研藤四郎だったのだ。
ちなみに高専に戻ってから家入に治してもらったため、傷は痕すら残っていない。そこらの件は、恐らく審神者あたりから話を聞いたのだろう。
「あの時は、ありがとうございました」
「別に大したことはしてねえさ。奴さんが早く引っ込んでくれたのがデカかっただけだ」
伏黒より小さな手が離れていき、再び髪の毛が視界を覆う。
「それに俺っちは、大将からの主命に従ったまでだ。礼なら大将に言ってくれ」
その隙間から横目に見ると、薬研は優しく細めた目を正面へ向けていた。その視線の先に居るのは審神者なのだろうことは確認しなくてもわかりきっていることなので、伏黒はわざわざ相手の視線を追うことはせずに、再び自身の手元へ落とす。手持ち無沙汰に両手の指先を付けたり離したりしながら、審神者と刀剣男士達のことを考えた。
あの時顕現されていた薬研以外の五人も、今顕現されている四人も、審神者のことをしっかりと主と認めているようだった。それにしては互いの話し方や扱いはただの主と家臣というよりは、親しい間柄でするような砕けたもの。友人や、兄弟や、家族と接するような関係性だ。
五条が言っていた。彼らは刀剣として力を発揮したい反面、ヒトとしての生活を送ってもみたいのだと。その思いが審神者との関係を今のようにしたのだろう——理解はできたが、納得できるかと言われると伏黒の答えは否だった。
彼らはいつしか、審神者の魂を喰らうのだ。それがわかっていて尚、家族のようにいるなんて——そんなの、あんまりだろう。
だから、伏黒は神様達の存在を認めたくなかった。審神者というお役目を認めたくなかった。眼前で楽しそうに笑っている審神者の顔が、本心を隠しているようにしか見えなかった。
「アンタは優しいな」
いつの間にか握り締めていた拳に、そっと小さな手が乗せられる。それに驚いて隣を見ると、薬研がどこか嬉しそうな笑みで伏黒を見据えていた。藤色の瞳は、まるで幼子を見るような目つきで。黒に包まれた手は、まるであやすように数回拳を叩いて。
「大将が旦那を守り人に認めたのも頷けるってもんだ」
ゆっくりと開かれた拳の中には、自身の爪で傷付けた手の平があった。
「……なんで、俺なんかにそんな大役をさせようって思ったんですか」
伏黒はずっと疑問だったのだ。現世で眠る審神者を守る役目を担っているのは、現状では五条ただ一人。その理由は言われずともわかっているからこそ、何故2級呪術師である自分に……弱い自分に白羽の矢が立ったのか。自分に告げた神様本人なら答えてくれるだろうと、伏黒は問うた。
薬研藤四郎は、さも当然とばかりに告げる。
「そりゃ、旦那が大将自身のことを見てくれてるからだな」
それはまるで、迷い人に道を示す慈悲深い神のようであった。