甚爾(過去)
name
×刀剣乱舞のクロスオーバー名前は(あるけど)一生呼ばれません。
何せ審神者ですから。
呪術界のみんなと刀剣オタクの家に産まれた審神者と審神者過激派の付喪神達がわちゃわちゃしてる。
※勢いで書いているのでいろいろ設定がゆるい。
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審神者が目を覚ますと、そこは見慣れた和室の天井だった。
そこが彼女の本丸の自室であると気付いたのは、その視界に一緒に映り込む刀剣男士の姿があったからである。
「ああ! 主! ようやくお目覚めになられましたか!」
「あるじさま!」
「長谷部……今剣……」
潤んだ目を真っ赤にさせながら「傷は痛みますか? 気分はどうですか?」等と矢継ぎ早に質問をしながら審神者の身体を揺するへし切長谷部と、くりくりとした目を細め本当に嬉しそうに破顔し、「ぼく、岩融につたえてきますね!」と持ち前の速さで一目散に部屋を出ていった今剣。
あの時の部隊のメンバーという共通点から、審神者は自分が気を失う寸前に何をしていたか、何と戦っていたかを思い出していった。
そして自分がオチる寸前、誰が傍にいてくれたかも。成程、だからこの男士はここまで取り乱しているのか。
「ごめんね、長谷部。貴方の忠告を無視した結果がこのザマだ」
「いいえ……いいえ! 主が無事ならもうそれで……っ!」
「みんなは怪我してない?」
「大倶利伽羅が未だ、腹部損傷の中傷です。主はご自身の手入れ中に意識を失いましたので」
「悪いことしたなあ」
そう言う審神者の腹部も、痛みはないが包帯が巻かれている状態だ。審神者は刀剣男士を手入れすることは出来るが、自身を治す反転術式は使えない。今は意識体である彼女が怪我をしたままということは、現世での肉体も未だ治っていないということだ。
と、いうことは。まだあまり時間が経っていないのかなと審神者は推察する。
「長谷部、わたしが現世で意識飛ばしてからどのくらい経ってる?」
「まだ半日程度です。主の意識がすぐに本丸へ来られなかったので、俺も他の奴らも心配しましたよ」
長谷部の瞳には、審神者しか映らない。そこに含まれた様々な感情は総合して仄暗い色をしており、じっとりと、審神者を覗き込む。
「どちらへ行かれていたんですか?」
その瞳の意味に審神者が気付いたのは、果たしていつだったか。
「どこって言われても……」
「まさかまた、あの呪いの王の元へ……」
「あ、それは無いよ。虎杖くん近くに居なかったし。でもねえ…——覚えてないんだよねえ。なんか、夢を見ていたような気はするんだけど」
だからか、本当のことは言えなかった。
本当は、全部覚えている。夢というより、あれは自身の記憶の断片であることも。その時話をした男の人のことも。その時自分が、何を感じ何を思ったかも。
ねえおじさん。あれからわたし、ちゃんと後悔がないように選択してきたつもりだよ。
今のわたしを見たら、おじさんはなんて言うかな。
「まあ、あと一日くらい本丸にいれば現世に戻ってもいいだろ」
今剣が連れてきたあの時の戦闘部隊のメンバーに加え、一緒にやって来た薬研藤四郎に診察をされた審神者は、太鼓判を押されほっと安堵の息を吐く。それは彼の後ろに控えていたへし切長谷部、今剣、岩融、次郎太刀、陸奥守吉行、山姥切長義も同様で、やや緊迫していた部屋の中の雰囲気がぷつんと切れ穏やかなものに変わったのを、彼ら全員が感じていた。
「あの時の大将は連日徹夜の過労もあったからな。ここにいる間は大将の肉体も休まるし、ちょうどいいだろ」
「ありがとう、薬研。大倶利伽羅の手入れはしてもいい?」
「本丸でなら呪力の消費も少ないし、やっても問題は無いと思うぜ」
それから、遅ればせながら当時の戦闘報告と反省を皆で話し合い、あとはゆっくりと休んでくれと長居はせず男士達は部屋を出ていく。長谷部や薬研からは「何かあったらすぐに呼ぶように」「決して無理はしないように」と釘を刺され、審神者は苦笑しながら彼らを見送った。
さて、と審神者は自分の部屋を見渡す。ゆっくり休むとはいえ眠るわけにもいかないし、無理しない程度に何かをするにも部屋には何も無い。それならやることは一つだな、とひとつ頷いては布団から起き上がった。
大倶利伽羅の気配を辿り、審神者が着いた先は本丸の庭にある池だった。その中には錦鯉がいて当番制で餌をやることになっているが、微動だにしない後ろ姿を見る限り、今日は彼が当番というわけではなさそうだ。そんな事を思いながら「怪我人がうろついちゃいけませんよ」と声を掛ければ、ややあって相手が反応を返す。
言葉は無い。ただ僅かに振り向き、顎をしゃくるだけ。その動きで相手が求めていることを察した審神者は、大倶利伽羅の隣に座り込んだ。
「お待たせしました。手入れさせていただきます」
「……他に言うことは」
「無茶な進軍、誠に申し訳ありませんでした。己の力を見誤りました」
今後このようなことがないように、体調を万全にして任務に当たりたいと思います。と頭を下げる審神者を一瞥だけして、大倶利伽羅は鼻を鳴らす。すると言葉もなく審神者の前に己自身——大倶利伽羅の本体を差し出し、おもむろに立ち上がったと思えば踵を返した。
「アンタに話がある」
「話?」
「詳しくは手入れ中に話す」
それだけ言ってさっさと自分一人で手入れ部屋へ向かう大倶利伽羅の背中に疑問符を浮かべながらも、審神者も両腕で大倶利伽羅の本体を抱えながら彼の後を小走りでついていく。
「走るな」
「はあい」
あまりいい予感はしないことに、審神者はどうしたものかなと頭を悩ませたのだった。