甚爾(過去)
name
×刀剣乱舞のクロスオーバー名前は(あるけど)一生呼ばれません。
何せ審神者ですから。
呪術界のみんなと刀剣オタクの家に産まれた審神者と審神者過激派の付喪神達がわちゃわちゃしてる。
※勢いで書いているのでいろいろ設定がゆるい。
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『ったく、最後の依頼がガキの誘拐だなんてな』
胸クソ悪ィ、と舌を打つ男の隣で目が覚めた幼女……幼い頃の審神者は、寝起きとは思えないしゃっきりとした動きで上体を起こした。
その小さな細い手腕や足は、ロープで乱雑に縛られている。
『おじさんが、わたしをさらったの?』
『アァ? 誰がおじさんだ誰が』
俺はまだピチピチの二十代だっての。とぼやく男に対し、審神者は『ピチピチ……』と復唱する。気になるところはそこかよ、と内心ツッコミながらも、男は審神者の様子をじっと観察する。
——いやに落ち着いてるな。
縛られている手足にも驚くことなく、自分を『さらったのか』と聞いてきたことから、この子供にとっては誘拐なんてものはこれまでに何度もあったのだろうな、そう当たりをつけた。
——まあ、泣き喚かれるよりはマシか。
男……甚爾は、そう結論を出し嘆息を吐いた。家を捨てた男に、名乗る名字は無い。
術師殺しと悪名高い甚爾が今回受けた依頼は、幼児の拉致誘拐だった。この子供の家系は呪術師ではないが皆が刀剣狂いで、国宝級とも言える代物がごろごろと、国公認で個人の屋敷で保管されているらしい。
それだけでも十分に狙われそうなものだが、今回甚爾に依頼してきたのは何故か呪詛師だった。
なんでも、その一族の中に時折、〝審神者〟と呼ばれる人間が産まれてくるのだそうだ。そいつは自分の魂を引き換えに、刀剣に宿る付喪神を降ろし、実体として現世に顕現させることが出来るんだとか。付喪神は基本審神者に絶対の服従を誓っているため、審神者が[[rb:呪詛師 > こちら]]側にいれば、無下限術式と六眼持ちの五条悟が産まれたことで崩れたパワーバランスがやや均等に保たれるのだとかどうとか。
鼻息を荒くして力説していた依頼主の話は半分も聞いていなかった甚爾には、術師達がどうこうしたいかなどまるで興味は無かった。しかしそんな他人の都合の為に、毎度毎度誘拐される子供の身を思えばほんの少しだけ同情を覚えたのは確かだ。
『……おい、ガキ』
『?』
『お前、名前は?』
だからこれは、ただの気まぐれに過ぎない。
依頼主にこの子供を引き渡すまでの時間潰しだと、甚爾は隣の小さな存在に話しかけたのだった。
子供は、その年齢に相応しくないほど物事を知っていた。
『わたしは、さにわだよ』
『自分のなまえは知らないの』
『知っちゃったら、男士たちにさらわれちゃうから』
たいして気になるわけでもないが、話のネタとして甚爾が質問したことに、子供はしっかりと答えていった。
『こわくないよ。今日みたいにゆうかいされるの、なれちゃったから』
『ゆうかいされても、ころされないからヘーキだよ。わたしは、ころすにはもったいない人間らしいから』
だからこんなにも落ち着いているのかと思った。
『わたしをさらった人たちはね、みんな同じこと言うんだ。『仲間になろう』『一緒に悪者をやっつけよう』『その為に〝審神者〟の力を貸してほしい』って』
『でもね、男士たちがいやだって言うからわたしもヤダって言うんだ』
しかしそれでも、こんなに落ち着いていられるものなのか? とも思った。殺されないにしても、傷付けられることはあるだろうに。
『男士たちはね、わたしの心の中にいるの』
『なまえを呼んであげれば、出てきてくれるよ』
『でも、今はみんなおこってるから呼ばないほうがいいかも。おじさんころされちゃうから』
たまに甚爾の自尊心に触れることも言われたが、事を荒立てるべきではないと舌を打つだけに留めたりもした。
『今までわたしをさらった人たちは、みんな男士にころされちゃったから』
『まだみんなれんどは低いけど、人間には負けないって言ってる』
『おじさんは、男士に勝てる?』
それまで甚爾の質問に答えるだけだった子供が、その質問をきっかけに今度は質問する側に回る。
『……少なくとも、今までお前を拐った奴らよりは強ぇだろうよ』
『やっぱりそうなんだ』
質問の内容によっては適当に返すだけだったが、気が向いた時には本当の気持ちを織り交ぜて答えたりする。そんな自分がガラじゃないと、誰に言われるでもなく甚爾自身が思っていた。
『男士たちがね、言ってるんだ。おじさんは今までの人たちとどこかちがうって』
『へえ? カミサマのお眼鏡にかなって何よりだぜ』
『今はみんなおこってるけど、ほとぼりが冷めたら手合わせ? したいって言ってるよ』
『ハッ。テメーの主人の誘拐犯相手に随分と呑気だな』
——まあ、しかし何だ。ガキの相手なんざしちめんどくせえだけかと思っちゃいたが、なかなかどうして、下手な大人と話しているより随分と気が楽だった。
『おじさんは、いつもこーゆーお仕事してるの?』
『今回はまだマシな方だな』
犯罪には変わりないしどこで優劣をつけるかはわからないが、今回は人を殺していない。それだけを考えるならまだまともな方かもしれないと子供に告げると、『大変だねえ』なんて言われた。
『でも俺は、これが終わったら足を洗うんだよ』
『どうして?』
『この依頼が終わったら、プロポーズしたい奴がいるからな』
『ぷろぽーず?』
ガキ相手に何を言ってんだか、明らかに口走ったと甚爾が気まずげに自分の口を手で覆い隠すと、その腕を引く小さな手があった。
『わたし知ってるよ。けっこんしてください、って言うんでしょ?』
『あ? あァ、そうだな』
『おじさん、こいびとがいるんだね』
いいなあ、すごいなあ、とはしゃぐ姿に、やっと年相応な反応が見られたなと思った。
『お前の親もそうだろ』
『うーん、どうなのかな? わたし、おとうさんもおかあさんも知らないから』
子供が言うには、一族の当主と親子関係はなし、自分が覚えている限り面倒を見てくれる人はいるがその人も母親ではないのだという。
『わたしは、審神者だから。おやくめをはたすために、人より男士たちとなかよくなりなさいってよく言われるよ』
男士たちのことは家族だと思っているし好きだけれど、人間から愛情を注がれたことはないのだと。子供は無垢な顔で、なんとも悲しいことを言うのだ。
甚爾には、この子供がどこに居れば幸せになれるのかわからなかった。きっとこのまま拐われたまま、呪詛師として生きる道も、家に戻り人間として相手にされない、道具として利用される道も、どちらもクソ喰らえだと思った。過去の自分の扱いとこの子供の扱われに、そこまで差はないように感じられたのだ……いや、審神者とやらの力を持っている時点で、持たざる者である甚爾とは違うのだろうが。
昔は、力のない自分を恨みこそした。だが力があるならあるで雁字搦めにされて利用されるのかと思えば、どちらがいいかなんて断言出来るはずもなかった。
甚爾は、自分で家を出る決意をして今ここに居る。その先に生涯を共にしたいと思える愛する女が出来たことは、自分の中の数少ない良かったこと、と思っている。
『おいガキ、お前はどうしたい?』
ようは、自分で選択しなければ。どちらの道に転ぼうとも、後悔ばかりが残る人生になるだろう。
それなら、選ばせてやろうと思った。
『クソみたいな家に戻るのか、クソみたいな人間共と一緒に人を呪って生きていくのか、それ以外か。どれか選べ。』
選んだら、オレがお前の望む通りにしてやるよ。
『……わたしは——』
そしてお前が選んだその先に、愛し愛されるような人間がいればいいなと、他人事のように思うのだった。