七海、真人
name
×刀剣乱舞のクロスオーバー名前は(あるけど)一生呼ばれません。
何せ審神者ですから。
呪術界のみんなと刀剣オタクの家に産まれた審神者と審神者過激派の付喪神達がわちゃわちゃしてる。
※勢いで書いているのでいろいろ設定がゆるい。
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※※※
・原作『幼魚と逆罰』編
・吉野順平が事を起こした日。七海と猪野側。
・流血表現あります。
『僕がいない間さ、七海と一緒に悠仁のこと見てやってよ』
審神者にそう伝言を残した五条は、とある学生を求めて海外へ飛んだ。彼が高専を離れるということは、審神者の夜は自然と決まってくる。
①高専の結界下で寝る
②伏黒に守人となってもらう
③寝ずに夜を明かす
基本的には①か②になるのだが、日を跨ぐ任務などで高専を離れる時には③になることもしばしばあった。圧倒的呪術師不足、現存する術師は、全国に留まらず世界にも足を運ぶことも少なくはない。
とはいえ世界各地にも術師は居るため、日本の術師は日本国内での任務がほとんどなのだが——特級ともなると、話は変わってくるのだろう。
「いやあ、大変ですね特級呪術師って」
「そういう貴女も連日徹夜でしょう。」
体力、気力ともに大丈夫ですか? と心配げに訊ねてくる七海に対し、審神者は笑顔を浮かべながら「だあいじょーぶです」とVサインを作った。
「元々わたしの意識は常に起きてるようなものですし、五徹なんてまだまだ余裕ですね」
「しかし、身体は休まらないでしょう。一度高専へ戻った方が良いのでは?」
「ここから結構距離ありますし……めんどいので全部終わったらしっかり休みますよ」
どう説得しても一歩も引く気のない審神者に、七海は諦めたように嘆息を吐く。
目の前には地下の用水路へ続くトンネル、隣には頼もしくも今はどこか危なっかしい後輩、トンネルの奥からは濃度の高い呪力の気配が漂ってきていて、二人を招き入れるようですらあった。
「……くれぐれも、気を付けてくださいね。」
「だいじょぶです。自分の身は自分で守りますよ」
これでも七海先輩と同じ1級術師ですから。場にそぐわない笑顔に不似合いな隈が気にかかったものの、七海はこれ以上審神者を止めることはしなかった。
止めることはしないが、話の転換はした。
「それで、貴女のことを睨み下げている御仁には触れた方がいいですか?」
七海が審神者と合流した時から、審神者の隣には刀剣男士が居た。その神は恨みがましく審神者へ視線を向けており、対する審神者はまるで意に介さない素振りでスルーしていた。明らかに不自然な一人と一振の様子に、七海は遂に切り込んだのだ。
「え? 何かいつもと違いますか?」
「どう見ても。少なくとも私の知るへし切長谷部殿は、貴女に対してそんな怒りを露わにする方ではなかったと思うんですが」
「ええ〜、長谷部は大体いつも怒ってますよ」
カラカラと笑う審神者とは対照的に、その刀剣男士……へし切長谷部はますます眉間に皺を刻んでいくが、不思議なことに口が出ることはない。いつもであれば小言のひとつやふたつ出そうなものだが、今は言いたくてもぐっと耐えているようでもあった。
「実は、ここに来る前ちょっと言い合いになりまして。今は何も言わない代わりに、こうして監視されてるってわけです」
「成程、よくわかりません」
「まあ、こんなでもお仕事はちゃあんとしますから。安心してください」
「……わかりました」
まあ、もし仮に喧嘩中だとしても、長谷部が審神者を蔑ろにすることはないだろう。七海はそう自分自身を納得させて、「では、行きましょう」と足を踏み入れたのだった。
五条に言われて、審神者はすぐにでも七海と虎杖に合流する筈だった。しかし上から別の任務を言い渡され地方へ飛び、戻ってくるなり休む間もなくまた別の任務を、今度は戻る間もなく別の任務……といった具合で、移動の時間でしか身体を落ち着けることが出来なかった。とはいえ、何の庇護下もないところで眠ることは出来ない為それもほんの気休めでしかないのだが。
これに関して審神者は呑気な思考で、「まあ特級呪術師が居ないんだししょうがないよね〜」くらいにしか思っていなかったのだが、上の無茶振りに憤りを感じたのは彼女の臣下達である。特に主至上主義過激派の筆頭であるへし切長谷部は、審神者に申し立てるだけでなく上の連中に討ち入りに行こうとするほどだった。
『何故主がそこまで身を削る必要があるのですか!』
『そりゃ、雇われ呪術師だからですよ。お上の命令には逆らえないでしょう?』
『それは、そうですが……! こうも任務を詰め込まれては主のお身体に障ります!』
『別に数日の徹夜くらいいつもの事でしょうに』
『せめて守り人と共に任務に就かせるとか!』
『それこそお上が決めることだし、1級術師一人で熟せる内容なんだから人手は割けないのでしょうよ。それに伏黒くんは今、学生としてのイベントも控えてるし邪魔したくないな』
七海と合流する前、審神者と顕現された長谷部は補助監督の運転する車内でやり合っていた。1級術師と付喪神の言い争いにひやひやしつつも、自分はそんなふたりの邪魔をしてはなるまいとただ運転に集中していた。本当のことを言えば、要らぬ火の粉を浴びぬ為であったが。
『ではせめて、七海健人との合流をもう一日ずらしましょう。そのお時間で高専に戻りゆっくり御身を休ませて……』
『却下。わたしが寝たら先輩と虎杖くんの所に向かわせた男士達の顕現が解けるし、ただでさえ遅れてるんだからこれ以上は待たせられない』
『主!』
『これでも、長義が裏で根回しして仕事を効率良く回してくれてるの。みんなが動いてるのに、わたしだけ休めるわけがないでしょう』
何を言っても相手に響かぬ様子に、長谷部はギリっと歯を食いしばる。それを横目に見ていた審神者は、組んでいた腕を解き足を組み直した。
……本当は、この辺りで声を和らげ諭すような言い方に変えた方がいいのかもしれないけれど。
しかし敢えて、審神者は突き放す方を選んだ。
『長谷部。貴方は自分の主を、簡単に約束を破るような卑怯者にしたいのかしら』
『そんなこと……っ! ただ俺は主が心配で!』
『自分達との約束は強制的に縛り付けるのにね。』
『っ』
審神者の言葉の直後、ズン……と車内の空気が一気に息苦しいものになる。温度すら下がったような気さえして、補助監督は自分は関わりがないとわかっている筈なのに震えが止まらなかった。
ずっと、喉元に刃が突き付けられているような感覚。今車内で起きている、感じる全ての事柄は揶揄? 比喩? それとも現実? と混乱に混乱が重なり意識が飛びそうになったその寸前。
す、と額に柔らかな手の感触と、身体全体を包む心地好い力を感じた。
——息が、しやすい。
『巻き込んでごめんなさいね。大丈夫だから、安心して運転してくださいな』
鼓膜を震わせるやわらかな声音に、正気を取り戻した補助監督はすみませんとありがとうございますを繰り返して再び運転に集中することにした。
『行き先は変えないままで、このまま七海先輩の所へ向かってください』
『はっ、はい!』
思わぬ所で神の怒りの片鱗に触れてしまったと、今の頭でなら冷静に考えることが出来た。あとで補助監督の仲間に報告しようと思うことで、後部座席の会話はもう耳に入れないよう必死に努めた。
触らぬ神に祟りなしである。まあ、先程も自分は巻き添えを喰らっただけで直接触れたわけではなかったのだけれど。
『図星を突かれたからといってこれ以上怒るのはやめてください。過労の前に交通事故で殺すつもりですか』
『……申し訳ありません』
『わたしも言い過ぎました。でも謝りませんよ、事実ですし』
『……俺も、もう何も言いません。しかしだからこそ、今回の部隊に俺を入れてください。それが条件です』
『じゃあ今回は長谷部に部隊長お願いしましょうかね。——わたしの身体が心配だと言うなら、ちゃっちゃと終わらせましょう』
「そういえば先輩、怪我したって聞きましたけど」
「家入さんの治療を受けたので問題はありません。」
「なら良かった」
「さすが七海さん!」
「私の力ではありません。家入さんの力です」
途中で2級呪術師・猪野琢真とも合流を果たし、三人で地下を警戒しながら歩く。
審神者と猪野はこれが初対面となるが、猪野は〝尊敬している七海〟と〝噂の審神者〟に挟まれている為テンションが高い。それに加えて人見知りするタイプでもない為、初めからフランクに握手を求めてくる程だった。
一方で審神者も、噂とは? と気になることもあったものの、明け透けに明るい猪野に対し悪い印象は抱かなかった。握手に応じる直前、背後にいる男士の警戒が高まったがそれも無視して猪野の手を握るに終わった。
「後ろに居るのはへし切長谷部・打刀の付喪神様です。今はただのセコムなのであまりお気になさらず」
「いやいや気になるって!」
それから三人で各自の術式の確認、今の呪力の残量、戦闘になった際どう動くか、七海を中心として話を詰めていく。
「猪野くんの術式凄いですねえ。」
「同じ降霊術でも、タイプが全然違うんスねー」
「虎杖くんの所に一振、補助監督さん達の所に一振顕現させているので、ここに出せるのは長谷部を入れて四振になります」
「十分な戦力です。……最後に、覚悟の確認を」
サングラスの位置を直して、七海は審神者と猪野に正面から向き合う。
「相手は、改造された人間を使って攻撃を仕掛けてきます。私達が戦うのは、ほとんどがそれらでしょう。……人を、殺す覚悟はありますか」
強張った声に、猪野はごくりと生唾を飲み込む。その隣で、審神者はきょとりと首を傾げた。
「今更ではないですか?」
「えっっ」
「……」
「あ、そうか。呪詛師を捕まえてもほとんどは殺さないから、皆慣れてないのか」
「審神者さん??」
「貴女は……」
七海と猪野の反応に、審神者はまた首を傾げる。そうして一度長谷部へと視線をやってから、当然のように告げた。
「ほらわたし、昔から呪詛師とかそれ系の人達に拉致誘拐監禁されまくってたから。だからその討伐やらなんやらで、人に手をかけたことはそれなりにあるんですよ」
「それは……」
七海が審神者に問おうとした寸前、空気を裂くように電子音が鳴り響く。それと同時に長谷部がこれまでの雰囲気を打ち消し「主、」と声に真剣味を含ませて審神者へ顔を寄せた。
一言断りを入れて電話に出る七海を一瞥してから、審神者は長谷部の声を聞き入れる。
今回の任務について、昨日までの事を審神者は七海と虎杖の傍に置いている男士から長谷部を通じて聞いていた。それに加え、今再び長谷部から聞いた虎杖側の様子に、審神者は状況を把握する。
「——そう。わかった」
「すみません二人とも、事情が変わりました」
審神者の声と七海の声が被り、七海が続きを——自分は別の場所へ向かわねばならないということを告げる。それに対し猪野は驚きと動揺の声をあげるが、審神者はどこまでも冷静だった。
「どうぞどうぞ、先輩は虎杖くんの元へ向かってください。わたしもここを片付けたらすぐに行きますから」
〝今剣〟〝岩融〟〝次郎太刀〟。
「そしてわたしのお供に〝大倶利伽羅〟を。外に居る〝陸奥守吉行〟〝山姥切長義〟と合わせ、以上七振を第一部隊に任命します」
刀剣男士を顕現させて、タイミング良く奥から現れた改造人間達と対峙しては、七海に振り返る。
審神者の手にはいつの間にか打刀が握られており、髪色は濃い茶に、振り返った瞳は金色に切り替わっていた。
「審神者さん、それは……」
「その話はあとで。……どうかお気をつけて。」
「……ええ、ありがとうございます。」
「ハァ……1級の方々がそう決めたんなら、俺は従いますよっと」
「1級推薦の件、引き受けてもいいですよ」
「がんばるぞー!」