五条
name
×刀剣乱舞のクロスオーバー名前は(あるけど)一生呼ばれません。
何せ審神者ですから。
呪術界のみんなと刀剣オタクの家に産まれた審神者と審神者過激派の付喪神達がわちゃわちゃしてる。
※勢いで書いているのでいろいろ設定がゆるい。
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「どうやったら五条悟を殺せるか」
「え、何急に。怖いんだけど」
寝起き早々言われた縁起でもない言葉に「ゲームの話か何か?」と聞いてみるも、審神者はふるふる首を横に振って「現実の話」と端的に答えた。
一体彼女の生得領域内でなんの会議が行われていたんだと少しだけ肝を冷やしながら、五条はサングラス越しに審神者を見下ろす。起きたものの未だ五条の膝枕を堪能していた審神者は、最後にぐぐっと身体を伸ばしてから勢いをつけて起き上がった。
「いやあ、最近本丸で流行ってる話題なんですよ」
「不穏すぎるんだけど」
「男士達の力を持ってしても完全に絶命させるのは難しいって、ごじょ先輩本当に最強なんですねえ」
「ねえこの話続けるの?」
いくら最強でも心は繊細なんだからね? と言う五条の軽口——本人からしてみれば結構本気で言った——を笑って受け流した審神者は、徐に立ち上がってはキッチンへ移動する。ここは五条の部屋であるが、何度もお邪魔している審神者としては勝手知ったるもので、「ココアでいいですか?」と聞きながらも既にケトルでお湯を沸かし始めていた。
——うーん、僕んちのキッチンに立つ審神者……いいね。
そんな浮ついたことを考えつつ、五条は手元の書類を自然な流れで片付けたのだった。
「で、殺せないなら閉じ込めちゃおうかって話になって。」
「まあ、殺すより封印した方が楽だよね実際」
それでも僕がみすみす封印されるわけがないけどね。審神者が淹れてくれたココアを口に含みながらそう言い切る五条は、自分自身を、そして自分の力を信じて疑わない。確かに、五条ならたとえ封印されても直ぐにその術を解いて、または力ずくで出てくるだろうし、完全に閉じ込める、というよりは時間稼ぎという意味合いで使われることの方が多そうだ。しかし万が一そうなったとしても、今の五条には策がある。
「もし僕が動けない状態になっても、代わりに強い呪術師を用意しておけばなんら問題はないでしょ」
「その為に教鞭取ってるんですもんね」
「そうそう。僕がいなくても特級レベルの呪霊や呪詛師をどんどん倒せるくらいには育て上げるつもりだよ」
学生達はもちろん、既に呪術師として動いている七海や審神者も例外ではない。まだまだ強くなってもらわなくちゃ困るよ、と言って五条は審神者の額を指で弾いた。
存外痛みの少ないそれに「いっっっ!! ……たくない……」と微妙なリアクションになってしまった審神者を見て、五条はケラケラと笑う。
「で? 審神者は何が気になるわけ」
「……バレましたか」
「正直に言わないと今度はホントに痛くするよ」
五条は、審神者の表情の暗さに気付いていた。だから敢えて脅かすような言葉で促してやると、審神者は眉を下げながら「痛いのは嫌だなあ」とぼやく。
きゅ、と一度唇を噛み締めた後、審神者は怖々と口を開いた。
「ごじょ先輩って、寂しんぼじゃないですか」
「審神者の僕に対するイメージってどうなの?」
「あれ、違います?」
「いや、認めたくないけど違わない」
ただ言い方が普通に気恥ずかしいだけ、と真顔で言う五条に対し、この人に羞恥を感じる心があったのか……と変に感心しながら、審神者は続けることにした。
「ごじょ先輩は、殺しても死なない。だから閉じ込めるしかない。先輩がいなくなっても、きっとわたし達は戦えるでしょう。勝ち負けはともかく」
「そこは勝つって言ってよ」
「善処します。……でも先輩、わたし達がどうしても勝てないものがあるのですよ」
「……なぞなぞ?」
「言葉遊びではなくて、事実です。」
素直に首を傾げる五条に対し、審神者はカップの縁を指でなぞりながら真顔のまま、出し惜しみすることなく答えを告げた。
「〝時間〟ですよ」
「時間?」
「ええ。たとえその時の戦争に勝てたとしても、時が経てば人間はみな等しく死にます。」
もし先輩が閉じ込められた空間が、時の経過が無い、または遅い時空だとして。先輩が無事に出てこられたとしても、その世界は何十年も何百年も、もしかしたら何千年も経った未来の世界かもしれない。
その世界は、呪いに呑まれた世界なのか、人間で溢れる世界なのか、どうなっているかはわからない。
「わかっているのはただひとつ。その世界には五条悟を知る人間も、五条悟が知る人間も、誰も居ないってことだけ。」
そうなった時、寂しんぼのあなたがその状況に耐えられるのか……それが心配でなりませんよ、わたしは。
なぞっていたカップを持ち上げ、温くなったココアを啜って口の中を潤す。ぺろりと口端を舐めつつ、しかし相手からの反応があまりにも無いことを不審に思い審神者が視線を上げると、綺麗な青が全てはっきり見えるほど、こぼれ落ちてしまいそうなほど真ん丸く目を開いている五条がいた。
「……何ですかその、いつまでも情報が完結しないようなお顔は」
「いやだって……そうか。そうなることも有り得るのか」
やっとの思いで咀嚼した審神者の話を飲み込んだ五条は、ゆっくり瞬きをしてから顎に手を添えぶつぶつと一人でぼやき始める。審神者は審神者でそんな五条のことは置いといて、考えたことすらなかったのかなあと呑気に残りのココアを飲み干していた。
これまでに、審神者は刀剣男士達から様々な事を教えられ学んできた。
戦術から始まり戦とは何か、それに至るまでの過程や人間達の心情などなど……これまでの歴史を、刀目線ではあるが実際の体験談として聴く話はどこか夢物語のようで、しかし確かに、現実に起こった実話そのものだった。
様々な視点、観点から聞き学んだ結果、審神者は〝もし五条悟が敵側に居たらどうするか〟という議題を浮上させた。そして出した結論が〝封印〟だったのである。
今の審神者にはどうしても、五条悟が死ぬビジョンが浮かばない。というより、男がみすみす殺されるようなドジを踏むとも思えないのだ。
まだ審神者が高専に入学する前、死にそうになったことはあると話だけは聞いているが、それさえ怪しいと思っている。そう思ってしまうくらいには、審神者は五条の力を認めていた。
認めているからこそ、五条すら勝てないものはなんだろうと考えた結果が〝時間〟だったのだ。
「さて、もう一杯いただき——」
「もし、僕が本当に閉じ込められそうになったらさ」
空になったカップに名残惜しさを感じ、おかわりをいただこうと立ち上がった審神者の声を遮る声があった。声の主はもちろん五条だったが、その後続けられた言葉に今度は審神者の目が丸く見開かれることになる。
「そうなる前に、オマエの領域に僕を閉じ込めてよ。」
存外五条の声音は穏やかなもので、惜しげもなく曝されている青もやわらかく細められている。そんな声と顔で、更には審神者の心を突くようにその長い人差し指で彼女の心臓の上をとん、と的確に突いた。
言葉や行動、そのどれにも驚かされた審神者だったが、それは決してセクハラだとかそんな意味なんかではない。
「……正気ですか? 少なくとも九十四回は死にますよ、先輩」
「構わないよ。僕の精神はそこまで脆弱じゃないから」
殺されることより、審神者と二度と会えなくなる方が僕にとっては死ぬ程辛いことだからね。
そう言いながら胸に置かれた手はそのまま腰に回り、審神者の身体は五条の方へ引き寄せられる。立ったままの審神者と椅子に座ったままの五条では当然頭の位置がいつもと逆転しており、今じゃ五条の頭は審神者の胸の高さまでしかない。その状態で抱き着かれれば当然彼の顔は審神者の胸に当たるが、審神者は特に抵抗せずされるがままだった。
……なんとなく、今はこうするのが一番だと思ったのだ。この大きな子供を慰めるには、鼓動を聴かせるのが良さそうだと。
先程のやわらかな声音も、表情も、審神者には五条が泣きそうに見えたのだ。
そんな審神者の読みは当たっていたのか、五条は決して疚しいことをするでもなく。ただただ審神者に縋るようにして暫く離れることはなかった。
ふと、審神者は想像してみる。
自分が目覚めた時、世界は一変していて。自分を知る人間も、自分が知る人間も、ましてや男士達さえ居なくなった世界に、ひとりぽつんと立ち尽くす姿を。
——真の孤独とは、本当の恐怖とは、絶望とは。この事をいうのではないかと、背筋が震えた。
「先輩、ごじょ先輩。」
「……名前で呼んで」
「悟さん、顔あげてください」
されるがままだった審神者が五条の肩を叩いて促し、五条の顔を上げさせる。やや億劫そうに顔を持ち上げ審神者を見る五条のふたつの青は、やや曇りがちに光を失いかけていた。
——ああ、やっぱり。この人も想像したのだろう。そしてわたしと同じように、絶望したのだ。
「悟さん、大丈夫ですよ。あなたを独りにしませんから」
それなら、彼が望むように。自分の心に閉じ込めてしまうのもアリなのかもしれないと審神者は思った。
「わたしの領域には、もう沢山の神達が居ますから。今更人間の一人増えたところで問題はないでしょう」
それでこの寂しんぼが、独りで泣かずに済むのなら。
「この審神者にどーんとお任せあれ、です。まあ軽く九十四回は死んでもらいますが」
「……本当、めんどくさいよね。オマエの領域展開」
「そればっかりはわたしに文句言われても……」
「そもそもこの話振ったのオマエだしね。先輩虐めて楽しいかよ?」
「そんなつもりはこれっぽっちも無かったんですけどね!」
「てへぺろじゃねーわ。ンな顔しても可愛くねーわ」
「先輩先輩、口調が悪くなってますよ!」
でもまあ、何より一番はそんな事態に陥らせないこと、そしてわたし自身がもっと強くなることだなあ。青色に光が戻ってきたのを見ながら、審神者はひっそりとそう決意したのだった。
審神者だって、自分の知らないところで大切な人が居なくなるのはもうごめんなのだ。