五条
name
×刀剣乱舞のクロスオーバー名前は(あるけど)一生呼ばれません。
何せ審神者ですから。
呪術界のみんなと刀剣オタクの家に産まれた審神者と審神者過激派の付喪神達がわちゃわちゃしてる。
※勢いで書いているのでいろいろ設定がゆるい。
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「あ〜〜〜、お茶が美味しい〜〜〜」
一方その頃、自らの生得領域内に来ている審神者は、縁側に座り呑気に茶を啜っていた。
歌仙が淹れてくれたお茶に、燭台切が作ってくれたおやつ。それらは任務を終えた審神者を労うように用意されたもので、それをやわらかい日差しの下で戴くのは最早贅沢ともいえる。少し離れたところでは短刀達が遊んでおり、それも相俟って審神者の領域内は平和そのものであった。
至高……! と多幸感に包まれながらみたらし団子にかぶりついた時、審神者の隣に座る影があった。その影は盆に置かれた審神者の湯呑みの横に自分の湯呑みを置き、すんとすまして茶が注がれるのを大人しく待っている。その無言の圧に審神者は団子の串を咥えながらも、律儀に注いでやった。
「行儀が悪いぞ、主殿よ」
「その主が茶を注ぐまで待っている男士が目の前にいらっしゃるものでねえ」
「はて、俺は別に頼んだ覚えはないが」
「はいはいそうですね〜わたしが勝手にやっていることですね」
この一連の流れは、一人とその一振にとっては日常茶飯事であるために各々のんびりとした口調だ。「はいどうぞ。お団子はあげませんよ」「あなや」と最後の落ち着くところまでやり取りをしたところで会話は止み、暫く一人と一振の間には茶をすする音や団子の咀嚼音、短刀達の笑い声だけが聞こえていた。
「で?」
「ん?」
「何か話があって来たんじゃないの? 三日月」
一本目を食べ終えたところで、審神者から話を切り出す。いつまでもぽやぽやと日向ぼっこをしているわけにもいかないと思っての切り出しだったが、相手は何処吹く風と言った様子。
「はて、主が俺に聞きたいことがあるのでは? と思って来てみたのだがな」
「それはそれは……わざわざ御足労いただきありがとうございます」
短い返しの中に見事痛いところを突かれた審神者は、二本目のお団子を手にかぶりつく。数回の咀嚼の後ごくんと飲み込んですぐ、「あのさ、」と口を開いた。
「わたしこの前、両面宿儺と話す機会があったんだけど」
「ああ、器に会いに行った時のことか。あの時は秋田がなかなか泣き止まず大変だったな」
「あれはわたしもびっくりしたわ。……んでその時、まあ、なんか気になることを言われたわけでして、わたしなりに色々考えてみたというか」
「ふむ。」
「〝今のわたし〟が聞いたら、三日月はちゃんと答えてくれる?」
「そうさなあ…——時が来た、のだろうな。」
物事を知るには、タイミングがあるのだと三日月宗近は言う。そして今の審神者には、彼女の抱く疑念の答えや真相を聞くに値しているのだとも。それは審神者が、人としても〝審神者〟としても成長した今だからだと言う。
「して、主が聞きたいことというのは?」
「うーん……凄く今更すぎて恥ずかしさすらある質問なんだけど、いい?」
「今になって疑問を持つことが出来た、というのは大きな成長だろう。」
「そっか。……じゃあ、聞いちゃうけど。
刀剣男士達を降霊したり、顕現させたりするのに使う〝力〟って、何?」
しん、と。周囲の音が何も聞こえなくなる。つい先程まで快晴だった空にも、いつの間にか分厚い雲が流れちらちらと太陽を隠してしまう。
日差しのなくなった庭園は、それだけで色褪せて見えた。
「言い方は多様にあるが、一般的には〝霊力〟や〝神力〟と呼ばれるものだろうな」
「それって、善悪で例えるなら〝善〟っていう認識でいい?」
「人が掲げる善悪の違いは、俺にはわからないが……そうだな。悪いものではないだろう。神聖で、何の混じりもない澄み切った水とでも考えてくれていいぞ」
「そう……そこがわからないのよね」
二本目の団子を食べ終えた審神者が、口の端についたタレをぺろりと舐めながら首を傾げる。
「だってわたし、そんな力持ってないもの。」
神聖である神を使役するには、呪術界で言うなら〝正の力〟でなければいけない筈なのだ。にも関わらず審神者に反転術式は使えない。それはつまり、審神者の身体には〝負の力〟——〝呪力〟しか流れていないということになる。
正と負は、似て非なるものだ。善と悪は、相容れない。
〝呪力〟は〝悪〟ではないが、人間のどろどろな感情から練り上げられる力だ。神聖さなどまるで無い、人間臭い泥にまみれたような力だ——そこまで考えたところで、審神者の中に矛盾が生じたのだ。自分の中には呪力しかないのに、何故その力をもって神を顕現させることが出来たのか。何故この神達は、彼女のことを主と呼ぶのか……審神者は、不思議でしょうがないのだ。
産まれた時から一緒にいるこの刀剣男士達は、一体なにものなのだろう。そんな疑念が湧いてしまったのだ。
我ながらほんと、今更すぎて笑えてくる。審神者がそんなことを思っているのを知ってか知らずか、三日月は曇った空を見上げては微笑んでいた。
「では今度は、俺から主へ問おう」
「ん?」
「墨を垂らし均等に混ぜ合わせた水を、主は汚いと思うか?」
「……そうだなあ」
審神者は、想像してみた。透明な水の中に、墨が入り込み溶けていく様を。くるくる混ぜて真っ黒になったそれを。
純粋な黒。他に何も混ざっていない、綺麗な黒。
「わたしは、綺麗だと思うかな」
「はは、主らしい答えだな。」
「その答えが、俺達が主の声に応えた答えだ。」と声だけ聞くとややこしいことを言われた審神者が、素直に疑問符を浮かべる。
「えっと? つまり三日月達は、わたしの呪力で顕現されたってこと?」
「そう捉えてくれて構わんぞ」
「でもそれって、三日月達は神というより、」
審神者の言葉は、三日月の指でもって唇を塞がれたことで不自然なところで止まる。突然の接触にぱちくりさせる審神者の目には、三日月の双眸に浮かぶ月だけが映り込んでいた。
「——我らを〝なにもの〟とするか。それは主次第だ。」
引き込まれそうだった月が離れていき我に返った審神者は、無意識に「わたし次第……?」と聞き返す。その呆気に取られた顔付きは幼い頃のままだなとかつての審神者を思い出した三日月は、破顔しながらゆっくりと立ち上がった。
「まあ、今ではすっかり〝刀剣男士〟と呼ばれることに慣れてしまったがな」
それだけ告げて、音もなく去っていく後ろ姿を審神者はただ黙って見送る。
雲が晴れ、いつの間にか夜に切り替わった紺色の空には沢山の星が瞬き、大きな三日月が浮かんでいた。
「…………あ、お団子無くなってる」
残り一本だったみたらし団子が無くなっていることに気付いたのは、暫くあとになってからだった。