五条
name
×刀剣乱舞のクロスオーバー名前は(あるけど)一生呼ばれません。
何せ審神者ですから。
呪術界のみんなと刀剣オタクの家に産まれた審神者と審神者過激派の付喪神達がわちゃわちゃしてる。
※勢いで書いているのでいろいろ設定がゆるい。
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膝の上に頭を乗せて爆睡する審神者の髪を遊びながら、五条は手に持つ書類を眺める。そこには七海や虎杖など彼女と関わった者達から聞いた審神者の事がまとめられており、五条自身が審神者から聞いていた内容より随分と多かった。
「全く、オマエは本当に他人をびっくりさせるね」
悪態を吐くものの、その声色はやさしげだ。五条の心情が、その声音と手の動きからよくわかるようだった。
——それにしても。これまた厄介なことになってるなあ。
七海からの報告にあった、付喪神……刀剣男士の〝極〟という名の強化は、呪術界からしてみれば吉報だろう。単純に術師がレベルアップするのは喜ばしいことだし、五条だって自分以外の術師が強くなるのは万々歳である。
しかし、審神者の解呪を企てる一個人としては面白くはない展開だ。審神者と付喪神達の縛りが強くなってしまったのであれば、またそれを第三者が解ける可能性が限りなくゼロに近くなったということだ。ただでさえ低かった確率が更に低くなった事実に、溜め息を吐かざるを得ない。最強の男をここまで悩ませるなんて、なんて贅沢な奴だろうと思うが、解呪に関しては審神者は当事者ではあるが本人の知らぬところでやっている事だ。直接文句が言えないからこそ、この眠っている時くらい頬を抓るくらいのことはしてもバチは当たらないだろう。
そんな理不尽な考えから、五条の手は審神者の髪から頬へ移る。触れたやわらかさをもにもにするものの、決して強く抓ることはしなかった。
——……でもまあ、付け入る隙が無いわけではない、か。
ペラリ、次の書類には虎杖から聞いた内容が書かれていた。
付喪神達も、どうやら一枚岩ではない。その可能性があるというだけでも大きな収穫だった。虎杖の問いに神からの回答が直接返ってきたわけではなかったそうだが、全員が審神者の魂を喰らうためだけにいるわけではない、という事実がわかったのは実に有難いものだ。
その神を〝こちら側〟に引き込めればいいのだが。そう考えながら、五条は最後の書類をめくる。
そこには長い、とても長い——名字家の家系図が記されていた。
今年の四月、五条が審神者を起こしに行った日のことだ。
色々あったが無事に目を覚ました審神者と別れ名字の家を出る頃にもなれば、もう彼を邪魔をする人間はいなかった。皆一様に五条と審神者の居る部屋を、まるでこの世のものとは思えないものを見たような顔で見ては廊下の左右に別れて道を開ける。これは五条自身に対してというより、神に対しての畏怖なのだろうと思った。
『五条悟様』
気分悪いなあ、と思いながら角を曲がった時、五条を呼ぶ声があった。声の主を振り返れば、そこにはかつて見たことがあるような一人の女性が佇んでいて……はて、どこかで見たような? 目立たぬように廊下と部屋の敷居の合間に立ち、気配も薄めて立っていた女は、五条が自分を認識したとわかるや否や『お話があります。ついてきてください』と告げるなり踵を返して奥へと進んだ。
その後ろ姿に、五条は思い出す。かつて夏油と家入と共に、夜蛾に連れられこの屋敷を訪れた事を。その時の案内役が、今目の前に居る女だという事を。
他人からは見えない隠された目を細め〝視て〟みるも、おかしな呪力の流れや敵意などは感じられない。この女は最初に会った時も今も、一切の感情を表に出すことは無い。薄らと気味の悪さを感じつつ幾つかの部屋を通り過ぎた先、案内された部屋は随分と簡素だった。
一脚の机の卓上に置かれた、今の時代では珍しい巻物。部屋にはそれだけがあった。
『あれは?』
『名字家の家系図にございます。』
『! 何でそんなもの』
『さる御方に頼まれたのです。審神者様を目覚めさせた者に、こちらを見せるようにと』
『……それって、ニンゲン? それともカミサマ?』
『その質問にはお答え出来かねます』
『ふーん……』
『触っていいの?』『どうぞ』と相手からの許可を得た五条は、躊躇なしに部屋の敷居を跨ぎ紐を解いては巻物を開いた。五条家には劣るがそれでも長い長い人名の羅列に目を通していくさ中、名前の下に桜の花を模した絵柄が描かれている欄が数ヶ所ある事に気付く。
『……』
五条の中で、とある可能性が浮かんだ。
桜の印が描かれた人間は、全部で五人。名字家最初の人間、不均等に間隔をあけて三人、そして家系図の最後に書かれた人間の名前の下に花は咲いていた。
——五人?
桜の描かれている人数と、初めは桃色一色だった花弁が代を追うごとに一枚ずつ黒く染まっていることが気になったものの、五条の予想が正しければこの桜の人間達は、そして一番最後……花弁の色が全て黒く染まっている桜が描かれている人間の名前は。
もしかしなくても、彼女だというのか。
『五条悟様』
五条の背後、部屋の敷居を跨ぐことなく、女は口を開く。
『貴方様の六眼で視えるあの方々が〝なにもの〟であるか、正しく見極めて下さることを祈っています。』
という経緯から、五条はひょんな事から審神者の名前らしきものをゲットしていた。
あの言葉の後いつの間にか女の姿は無くなっていたし、確認しようにも審神者本人が自分の名前を知らないため無意味でしかない。そもそも五条の知るこの名前が本物であれば、審神者を通して付喪神達に知られたら文字通り最期なので誰にも言えずにいた。
しかし、審神者の解呪に必要なカードは着実に揃ってきている。付喪神らと交渉するにも、やはり審神者の名前を知っているというのはこちら側にとって有利に事を運ぶための最強のカードと言ってもいいだろう。
神達は、審神者の名前が欲しいのだから。
「〝——〟」
色々気になることも残っているが、今は素直に喜んでおこう。五条はそう切り替えながら、声に乗せることなく口の動きだけで審神者の名を呼んだのだった。