夏油(過去)
name
×刀剣乱舞のクロスオーバー名前は(あるけど)一生呼ばれません。
何せ審神者ですから。
呪術界のみんなと刀剣オタクの家に産まれた審神者と審神者過激派の付喪神達がわちゃわちゃしてる。
※勢いで書いているのでいろいろ設定がゆるい。
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それは、五条と夏油が星漿体の任務を終えて数ヶ月経ったある日の事。五条、夏油、家入の三人は、担任の夜蛾に連れられ他県のとある屋敷に来ていた。
「呪具についてのオベンキョーなんて、今更じゃねえ?」
「もう一通り教わったものだと思っていたけど」
「つーか、俺ら誰も呪具なんて使わねえじゃん。無意味!!」
後部座席に乗る男二人は長い脚を窮屈そうにさせながら座り不満を垂れ流している。その言葉からもガラの悪い態度からもやる気は全く感じ取れず、いつもであれば夜蛾からの鉄拳制裁が下されるところだが彼は今運転中の身。こめかみに青筋を立てる事しか出来ないでいた。それを知っているからこその二人の態度である。
一方で、助手席に座る家入は大人しく携帯端末を弄っている。話に乗ってこない紅一点に五条は「ノッてこいよ硝子ォ」とぶすくれた。
「いーじゃん。教室で大人しく座学よりかはマシ」
「そりゃーそうだけど」
「さっきから何を見ているんだ?」
家入の行動が気になっていたらしい夏油が、自分の前に座る彼女の手元を座席の後ろから覗き込む。つられて五条も背筋を伸ばして覗き込んでみたが、画面に見えたものに怪訝そうな声を洩らした。
「付喪神ぃ〜〜〜??」
「何だってまたそんなものを」
「センセ、解説お願いしまーす」
「……ハァ」
全ての感情を溜め息で吐き出した夜蛾が、気を取り直して今回の授業の概要を話す。
今五条達が向かっているのは、〝全ての日本刀〟を保管している場所・名字家。ちなみにここで言う日本刀とは、短刀、脇差、打刀、太刀、大太刀、薙刀、槍、剣の全てを指す。以下では刀剣と呼ぶが、百振以上あるその全てを、個人が守っているという。
名字家はひとつめの刀剣が打たれた当初からあるらしく、その歴史は長い。故に、国宝と呼ばれるような刀でさえ国の管理下ではない。
先祖代々、現代になっても刀剣に魅せられている名字の者達は、それはもう大切に大切に刀剣を保管し、愛でていた。そのお陰か、刀剣達に付喪神が宿るようになったのだという。
「俺達はそれを見に来たってわけ?」
「そうだ」
それなりに大きな門構えを通り抜け、国宝級の刀剣がゴロゴロある名字家の敷地内へ入った四人は、案内人に連れられ砂利を踏み締める。そこからの説明は、その案内人が引き継ぐ事になった。
「名字家は元より、皆様のように呪術界には明るくありません。しかし一族の者にも視える者、力のある者は幾人か居りましたので、万全のセキュリティと結界を張る事で刀剣達をお守りしてきました」
「へえ〜〜〜」
「でもそれなら何故、このタイミングで呪術界と関わろうと思ったんですか? 付喪神が宿ったのもここ最近の話ではないのでしょう?」
「……」
案内人の女は、夏油の質問に答える事はなかった。黙り込んで先を進むだけの存在と化した女の背中を見て、生徒達は顔を見合せ顰めたり肩を竦ませたり溜め息を吐いたりと様々な反応をサイレントで交わしていた。
そうこうしている内に、案内場所に辿り着いたらしい。蔵のような建物の閉ざされた重そうな扉を押し開けた女は、「先程の質問は、中の者がお答え致します」と一言告げて扉の前で頭を下げた。
ここから先は、女は入れないようだ。会釈を返した夜蛾が、先陣を切るように先頭を歩く事で四人は蔵の中を進んだ。
大して進まずとも、すぐに開けた場所に出た四人は息を飲んだ。
前方、そして左右に並べられた幾つもの刀剣。ひとつひとつが上等な刀置きに丁寧に置かれており、それが三方面、天井近くまで綺麗に並んでいた。
「これは……壮観だな」
「すごーい」
刀剣しか見えない夏油、家入、夜蛾はただただその光景に圧巻されていたが、ただ一人、一番騒ぎそうな五条だけは、サングラス奥の目を見開いてその顔を驚愕に染めていた。
「……」
——見られている。
五条の〝眼〟は、刀剣以外、その傍に佇むヒトの姿が映り込んでいた。少年から青年、恰好も似たようなものであったり全く違うものだったりと様々で、ただ全員が好機の、品定めするような目で五条を見下ろしていた。その圧は尋常ではなく、百を超える目で見られる五条のこめかみを汗が伝う。生徒の異変に気付いた夜蛾が声をかけようとした時、前方から見知らぬ声が耳に届いた。
「——ようこそ、おいでくださいました。」
周囲にばかり目がいっていた四人の視線が、一斉に部屋の中心部へ向けられる。……瞬間、五条の瞳は再び見開かれる事になる。
「名字家当主に代わり、皆様のお相手はわたくし、四代目審神者が対応致します。宜しくお願い致します」
そこには、巫女装束に身を包んだ一人の若い少女が正座で四人を出迎えていた。微動だにしない動き、感情の読めない表情を視界に入れてからというもの、五条の中で先程から鳴っている警報が激しさを増すようだった。
——気持ち悪ィ。なんなんだ、コイツの〝中身〟は……!
「……サニワ? 聞いたことがないな。硝子はあるかい?」
「無いね」
「夜蛾先生は?」
「いや……」
少女の〝中〟で、蠢く何か。それは一つや二つではない、幾十もの何かが混じり合い、少女を雁字搦めに縛り上げている。それらは周囲に居るヒトガタと繋がっており、それだけで五条は察した。この少女は、一人でここに居る付喪神達全員と何からの結びの関係が築けていると。
「失礼。それは役職名ですよね? 貴女自身のお名前を伺っても?」
「わたくしは、審神者でしかありません。ですのでどうか、審神者とお呼びください」
「……おいオマエ、」
「悟?」
ここへ来る途中、家入の携帯端末で見た〝付喪神〟の概要を思い出す。人を誑かすとされているそれは神々の位で見れば末端の席にあたるが、神には違いない。神が一人の人間に固執するなんて聞いたことがなかったし、しかもこれだけの数にだなんて到底信じ難い。〝六眼〟で視ていなければ、どれだけ説明されても信じなかっただろう。
——いや、というかこれはもう、
「そいつら使ってどうするつもりだよ。世界でも征服するか? それとも、逆ハーレム状態を自慢したかっただけ? 構ってちゃんかよウッザ」
「…………」
この少女が、呪われているとしか。
そう思うものの、五条の口から出たのは悪態だけだった。直感的に、少女と神達の繋がりを口に出してはいけない気がしたのだ。
突然の暴言に、夏油達はぽかんと呆気に取られている。対する審神者と名乗る少女はこれまた微動だにせず、ほんの僅かに眉を動かしただけ。
反応を見せない少女に大きく舌を打った五条は、長い脚で一気に距離を縮め詰問するためにその肩を掴もうと手を伸ばした。少女が何を考えているか、明らかにしておいた方がいいと思ったからだ。
「〝平野藤四郎〟」
しかし少女が何かの名を呟くと、突如彼女の隣に少年の姿が現れる。その姿は誰の目にも映り込み、急に現れた新たな存在——しかも鞘から刀を抜き戦闘態勢の姿に、見えていなかった三人はもちろん、五条も驚きに目を染めた。
平野の切先が触れる前に、五条が飛び退く。
「〝蜻蛉切〟〝歌仙兼定〟〝太郎太刀〟」
その間にも少女は次々と名を呼び、それに呼応するように現れた男達は順に夜蛾、家入、夏油の首元に切先を向ける。
「〝鶴丸国永〟」
最後に紡がれた名の男は、五条の背後から喉元に抜き身の刃を当てていた。
「生憎と、わたくしは自慢したいわけでも構ってちゃんでもありません。わたくしの持つこの力を、皆様のために扱えないかと思いお呼びした次第であります」
ピンと張り詰めた空気の中、少女の凛とした声が部屋に響き渡る。
「〝審神者〟とは、刀剣に宿る付喪神様と主従関係を結び〝顕現〟させ、〝使役〟できる力のある者の事を指します。審神者の力を持って生まれた人間は、わたくしで四人目になります」
「神達は、刀としての本分を果たしたいとの事。彼らが持つそれは、顕現している今なら実体でも霊体でもどちらでも切る事が可能です……避けて正解でしたね? 白髪の御方」
四人の視界の端で、ギラリと光るそれは正しく本物の刀である。
「——どうでしょう? わたくしのこの力、呪術界で通用しそうですか?」
そう言って初めて見せた少女の微笑みは、五条らの恐怖を煽るのに十分な役割を果たしたのだと。後の生徒ら三人のうちの誰かが語った。