虎杖、宿儺
name
×刀剣乱舞のクロスオーバー名前は(あるけど)一生呼ばれません。
何せ審神者ですから。
呪術界のみんなと刀剣オタクの家に産まれた審神者と審神者過激派の付喪神達がわちゃわちゃしてる。
※勢いで書いているのでいろいろ設定がゆるい。
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審神者が虎杖と再会したのは、まあもちろん偶然などではない。呪術師として復帰してからというもの任務・任務・任務・たまの臨時講師、といった具合で審神者は忙しくしていた。同じく五条も忙しくしていたので二人がすれ違う事も多く、虎杖に審神者を紹介する暇もなくあっという間にひと月が経ったところで「あ、これ埒が明かないな」と思った審神者が強硬手段にでたのである。
高専の敷地一帯の探検に出たのは事実。しかしそれの本来の目的は、虎杖悠仁をたずねて、だ。嘘を吐く時には事実を織り交ぜた方が良いというのはよく聞く話だ。
広い広い敷地内を、陸奥守吉行と秋田藤四郎と共に練り歩く。途中家入や伊地知とも会い、探検している旨を伝えると前者には鼻で笑われ、後者には「案内出来ず申し訳ない」と頭を下げられてしまった。
「だいじょぶだよ伊地知くん〜。クソ忙しいってのは長義から聞いてるから」
「それでも私が案内したかった……!」
「うんうん、あとでそっちに顔出すからね。その時一緒に休憩しよ」
本気で悔しがる伊地知を宥めては別れ、再度一人と二振はのんびりと巡る。
「どうじゃ主? 在学中とどっか変わったとこあっか?」
「いや〜そんな変わりなさそうだねえ。でも地上だとどこも人の通りはありそうだから、人を隠すのは不向きだね」
「そうなると、器の少年がいるとすれば……」
「うん。地下だね」
秋田の頭を撫でながら、審神者は自らの足下……さらにその下を見据える。
「地下は、学生時代行ったことないからなあ。本当に探検だ」
「心して行くぞー」と言葉の割りに力の抜けた主の号令に、それでも陸奥守と秋田は元気よく「おおー!」と元気よく返事をする。
そうして事前に見つけておいた、数ヶ所あった地下への道のひとつを進むと見えてくる扉。陸奥守と秋田がそれぞれ本体に手を掛けたところで、審神者は「たのもーう!」と無遠慮に扉を開け放ったのだった。
扉を開けた瞬間、視界が暗転した。
突如真っ暗になった視界に驚きつつも、審神者はゆっくりと瞬きをする。閉じて、開いて。そうして目を開けた時、見えた世界は一変していた。
足は水に漬かり、大きな何かの骨が散らばっている。その骨を追うように視線を上げていくとそこには角の生えた生き物の頭蓋の山、その山の頂上に足を組んで座する、何者かが居た。
——いや、審神者はその何者かを知っている。
「——ほう。あまり驚かないのだな」
呪いの王・両面宿儺。あの少年院で会った存在が、審神者の眼前に居た。
現世とは異なる異質な雰囲気、顕現させていた刀剣男士の不在、そして心の中でいくら呼び掛けても反応しない神達。自分が今いるこの場は、両面宿儺の生得領域の中なのだと審神者が察するのは早かった。それを察した宿儺は、もう一度「随分と冷静だな」と上座から見下ろしたままの状態で告げる。
「あの末端の神等と離され、もっと動揺するかと思ったのだがな」
「……いやいや、十分驚いていますとも。何せこちとら、〝独り〟になったのは初めてですから」
審神者が産まれた時から、刀剣男士は彼女のごく近くに存在していた。現世でも、彼女の領域の中にも誰かしらの存在は常にあって、孤独を感じた事など一度だってなかったのだ。
それが今や、誰の存在も気配も感じられない……今の審神者は肉体からも精神からも離された、抜き身の魂だけの状態であるということに他ならなかった。つまり今ここに居る審神者の魂がうっかり死のうものなら、それを求めてやまない刀剣男士達は一体どうなるか。考えただけでゾッとする。
神が呪いに転じるのは、意外にも容易いのだ。
「それで、何故わたしを貴方の領域へ呼んだのです?」
「良さそうな暇潰しが自らのこのこ近寄ってきたからな。招待してやったまでだ」
「わーーーいこれっぽっちも嬉しくねえです」
「ケヒッ、まあそう言うな。俺は約束を果たしたまでだ」
「約束?」
はて、自分はこの呪いと約束など交わしただろうか? 邂逅した当時の記憶を遡ってみてもそれらしい覚えはなく、審神者は素直に首を傾げてみせる。その態度に宿儺は愉快そうに頬杖をつき、「頑張って思い出せ」とヒントすらくれない。仕方なく審神者はもう一度、今度は細部まで思い出す事に奮闘した。
「とはいえ、あの時わたし貴方と話した記憶がな——」
『貴様とやり合うのは、またの機会にしておこう』
「……え、もしかしてアレのこと?」
「覚えているではないか」
「いや、だってアレは約束というより、」
一方的に言われただけの、ただの戯言じゃんか。その言葉を最後まで言うよりも速く、審神者は身を翻す。すると先程まで審神者が立っていた場所に横一線の亀裂が入り、辺りの骨は粉砕された。
言わずもがな、この領域の主の仕業である。
「ほう! 今の不意を避けるか。そうでなくてはな」
「ちょ、不意打ちは良くないと思います!」
「今代の審神者は動けるようだなあ。いや愉快愉快」
その場から動かず、指先一つだけで次々と仕掛けてくる相手の攻撃を辛うじて避けていた審神者の耳に、聞き捨てならない言葉が届く。その驚きの所為で一瞬動きが鈍くなり、宿儺の攻撃が当たってしまった。
審神者の右腕が宙を舞うが、当の本人は痛みに呻くでも恐怖に顔を引き攣らせる事もなく、ただただ両面宿儺という男を見上げていた。
「……両面宿儺、貴方……〝審神者〟を知っているの?」
審神者の顔は「何故?」と疑念と混乱を物語っている。それに満足した宿儺が、優しく答えてくれるはずもなく。
「何故、と問われる意味がわからないが。貴様のような人間は昔から居ただろうに」
「確かにわたしは四代目の審神者だけど、初代から三代目までが居た間、貴方は既に封印されていた筈でしょう?」
両面宿儺が封印されたのは、今から軽く見積もっても千年前の話だ。
バラバラにされ封印されていた特級呪物と、呪術界と関わりを持っていなかった名字家、引いてはそれより後に産まれた歴代の審神者達がどうやって関われていたというの。そう思ったからこその質問だったわけだが、相手は呪いだ。呪い相手の問答など、こちらにとって分が悪すぎた。
「そうかそうか。貴様は四代目という事になっているのか。人の愚かさは変わらんなあ…——いいや、それとも〝神〟の方か?」
聞きたいことには答えてくれず、ケヒッケヒッと不快な笑いでこちらを見下す呪いの王に、審神者は憤りを感じざるを得ない。それを必死に抑え込む様に更に口角を歪めつつも、両面宿儺は一筋の希望の糸を審神者の眼前に垂らす。
「己の出生を、もう一度探ってみてはどうだ?」
次にここへ来る時までに、答えがわかるといいなあ、人の子よ。
その言葉を最後に、かの呪いの王は強制的に審神者を自身の領域から弾き出したのだった。
審神者が意識を取り戻した時、すぐ近くに見えた憎たらしい顔に思わず全力でグーパンを喰らわせてしまったのはまあ、致し方ない事だと思う。
「急に何すんの!?」
「いやちょっと、嫌な夢見てつい」
それが宿儺の器の少年・虎杖悠仁だということに気付いた審神者が謝りながらも床に倒れ込む少年に手を伸ばす。互いに手を掴みあった際、少年の手の甲に現れた何かの口が愉快そうに三日月を描いていたが、審神者はガン無視した。
「ごめんね、痛かった?」
「まあそれなりにね。でも大丈夫」
「主君! ご無事でしたか!?」
「急に倒れて驚いたぜよ!」
どうやら刀剣男士達の顕現は解かれていなかったらしく、泣き顔で引っ付いてくる秋田の桃色の髪を撫でつつ、陸奥守の肩を叩く審神者はいつも通りで二振は漸く安堵の息を吐く。
二振が落ち着いたところで改めて審神者は少年へと向き直り、「はじめまして。」と告げる。
「君に会いに来たんだ。虎杖悠仁くん」
いろいろあって順番がごちゃまぜだけど、自己紹介は大切だ。
「わたしは、審神者だよ。よろしくね」