虎杖、宿儺
name
×刀剣乱舞のクロスオーバー名前は(あるけど)一生呼ばれません。
何せ審神者ですから。
呪術界のみんなと刀剣オタクの家に産まれた審神者と審神者過激派の付喪神達がわちゃわちゃしてる。
※勢いで書いているのでいろいろ設定がゆるい。
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「やっほー。やっとるかね虎杖くん」
「あっ、審神者さん!」
床に転がる一人の少年を見下ろし、覗き込む審神者に「今日は審神者さんも相手してくれんの?」と目を輝かせる少年は虎杖悠仁。両面宿儺の指を取り込み、受肉させるもその内に抑え込みなおも自我を保つ事が出来ている少年。
……現在、死亡扱いとされている少年だ。
「任務が早く終わったからね。わたしで良ければ付き合うよ〜」
「っしゃ! 今度こそ一本取りますからね!」
「ふふー、元気のいいこと〜」
勢い良く軽やかに起き上がった虎杖の頭をなでりなでりする審神者。その手を大人しく受け入れる虎杖。二人の間には二人の元々の気質故か、微笑ましげなほわほわした雰囲気が漂っていた。
その雰囲気をぶち壊したのは、第三者の五条だった。今の今まで、虎杖に稽古をつけていた男であり、虎杖を床に転がした張本人でもある。
「え、ちょっと何? どういうこと?」
自分を無視して話を進める審神者の手をガッと掴み、驚きに満ちた顔で頭には疑問符を浮かべて五条が審神者と虎杖を交互に見る。頃合いを見て二人を引き合わせようと思っていたのは事実だし、二人が自己紹介をし合う姿は自分の目の前で行われるものだと思っていた。
しかし今、目の前で広げられる会話は顔見知りのそれであるし、なんなら随分親しげだ。少なくとも一回以上は会っていると推察したからこそ、五条は戸惑っているのだ。
「悠仁、審神者の事知ってるの?」
「? はい、たまに一緒に映画も観てるっすよ!」
「……審神者、悠仁と会ってたの?」
「はいー。任務のない日に高専を探検してる時に、たまたま虎杖くんの居た部屋に乗り込んじゃって。それからの仲ですよー」
「乗り込んじゃって、ってオマエ……悠仁も」
二人して悪びれもなくあっけらかーんと言い放つものだから、詰問しようとしていた五条はがっくしと脱力し床に転がる。五条の心情など知る由もない二人は似たような顔で「先生どったん?」「先輩が転がってるのレアかも〜」なんて言って首を傾げていた。審神者に至っては五条の白髪を撫でるオマケ付きである。満更ではない五条はしばらくそのままでいた。
今の五条は、いつもの目隠しはしておらず丸形のサングラスを目元に装着している。故にいつもより表情がよく見えるわけだが、その時の五条の表情を見た虎杖は静かに目を丸くしていた。
「審神者さんと五条先生って、コイビトとか?」
虎杖が審神者にそう問うたのは、これから任務だという五条の代わりを審神者が引き受けてしばらく経ってからだった。
審神者が直接組手の相手をしたり顕現させた刀剣男士が相手をしたりと幾度か繰り返し、ちょっと休憩しようかとなった頃。道場の端に並んで座り込み、虎杖が映画館鑑賞の際に持つよう言われている呪力感知のぬいぐるみに癒しを求める審神者に、虎杖は爆弾を投げた。何気なく聞いた事だったが、もしこの質問に審神者が動揺したら呪骸に殴られちゃうかな、とすぐに思い直したものの、流石というか何というか、ぬいぐるみは眠りについたままだった。
「どうしてそう思ったの?」
「なんかさっきの五条先生、いつもよりやらかい雰囲気だったというか、そんな感じだったから」
オレ達生徒にも優しいけど、さっきの審神者さんに対する態度はまた違ったからと話す虎杖は、少しだけ照れくさそうだ。思春期ともなれば他人の恋愛事情が気にならないわけでもないのだろうが、羞恥が抜けきっていない様子に審神者は内心で若いなあと微笑ましくなった。
「ごじょ先輩とはなあんも無いよ。まあ、わたしの事情を汲んでくれてるから他の人との扱いの違いはあるのかもだけど」
「〝審神者〟のお役目のこと?」
「そうそう。呪術師としてはそれなりに使えると思うけど、お付き合いとなったらわたしほど面倒臭い女はいないでしょ〜」
審神者からしてみればただ事実を伝えただけのつもりだったが、それが自虐に聞こえてしまったのかたちまち虎杖の表情がしょぼんとしたものに変わる。悲しげに「そんなこと言わないでよ」と言われてしまうと、君こそそんな顔しないでよ〜と軽く流すことも出来ない。だから審神者は、言葉の代わりに虎杖の頭に手を乗せた。
よしよしと撫でていれば、察しのいい虎杖は大人しくその手を受け入れるのみで何も言わなくなる。それがわかっているからこその審神者の行動であり、狡いなあと思っても言葉にはしない虎杖なのである。
「お互い、呪われた身としてはいろいろあるよねえ」
「……ッスね」
「わたしは産まれた時からこんなだから、あんまり自覚がないけど。虎杖くんはついこないだ呪いの器になったばっかりだもんねえ」
自分の人生の末路が決められている二人は、二人にしかわからない想いを抱いている。だから意気投合するのも早かったし、言わずとも伝わる感情があった。
「まだ受け入れ難いよね。いろいろと諦めなくちゃいけないのは」
「そーゆー審神者さんは、もう諦めてんの?」
「うーん。わたしの場合は、諦めるっていうよりそもそも考えつかなかったかなあ」
この世に産まれ落ちて審神者としての力があるとわかってからというもの、身近な大人はお役目の事しか言わないし同年代の子供が近くにいたわけでもなし、このご時世にも関わらず学校には行かせて貰えず、ただひたすら刀剣男士達との絆を深めていく日々。恋愛なんて当然優先順位は低いため、一族の誰もが教えてはくれなかった。
「だから多分、そもそもの恋愛の感覚がわからないのかもしれない。自分にとって良い人は好き・嫌な人は嫌いっていう感覚は流石にあるけど、それは人間としてって意味合いの方が強いしね〜」
ちなみに、〝審神者〟のお役目とは別に名字家から課せられたお役目——今はもう反故になっているが——のひとつに『審神者の力を継ぐ子を産んでね』というものがあった。これに関しても一族の考えはドライで、性行為の勉強はさせたもののそこに感情は必要ないのだと言い放っていた。故に審神者は高専に入るまで、本気でセックスはただ子を成すための作業なのだと思っていたのだ。それを聞いた家入が、珍しく面倒臭がらず逃げ出さず、一から教育し直したのは言うまでもない。
おかげで今の審神者は、『セックスは恋人同士がするもの』という、小学生でも知っていそうな常識を身に付けている。……が、こと恋愛感情については未だよく理解できていなかった。
それはきっと、審神者の心の根底に問題がある。
「わたしが誰かを好きになったり、反対に誰かがわたしを好きになってくれたり。そうなったとしても、結ばれもしなければ生涯を共にする事も無いから、結局のところ無駄でしかないよ」
「結ばれるかどうかはわかんなくない? 両想いになれるかもだし」
「でも、魂まではあげられないよ?」
審神者の魂は、彼女の死後刀剣男士達のものとなる。それは審神者が産まれる前から交わされていた〝約束〟であり〝縛り〟なのだ。神との約束は、違えてはならない——そういう決まりなのだ。
「わたしの未来は決まってる。でも、生きていく上である程度の自由は許されてる。まあきっと、好いた惚れたも許容の範囲なんでしょう」
「それなら」
「でも、自分のものにならないとわかっているのに、お付き合いしたいと思う人なんていないよ」
かつて一人だけ、愛に生きた人を知っている。家を捨て、仕事も変え、愛する人と共になるためにそれまでの自分を全て捨てた人だった。
その人が結局プロポーズを成功させたのか、真っ当に生きているのか、知らないけれど。恋とか愛を知らない審神者には、とても眩しく見えたのだ。だから、自分を誘拐した悪い人でも嫌いにはなれなかったし、幸せになっていてほしいとすら思う。
審神者が恋愛というものを身近に触れたのは、それが最初で最後だった。高専時代にも、友情や親愛はあれど恋愛は無かった。少なくとも、審神者の中では。
「虎杖くんは、諦めちゃ駄目だよ」
「……でもさあ、オレだって誰かを好きになったとしても……」
「ごじょ先輩や伏黒くん達が、無策でいるとは思わないけどなあ」
彼らは優しいから、きっと虎杖と両面宿儺を引き剥がし虎杖を生かす方法を探している筈。審神者がそう伝えると、苦く笑った虎杖に「伏黒は、オレのこと死んでると思ってるよ?」と返されハッとする。その顔が面白かったのか次に浮かべた笑顔は先程のような苦しそうなそれではなかったため、審神者も謝る事はせずにつられて笑ったのだった。