伏黒
name
×刀剣乱舞のクロスオーバー名前は(あるけど)一生呼ばれません。
何せ審神者ですから。
呪術界のみんなと刀剣オタクの家に産まれた審神者と審神者過激派の付喪神達がわちゃわちゃしてる。
※勢いで書いているのでいろいろ設定がゆるい。
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※※
伏黒くんはぴばすでー回。
・季節関係ないしそもそも祝ってない。
・そもそもそんな明るい話ではない。
・後半、刀剣破壊の描写があります。ご注意ください。(え)
「やっほー伏黒くん。今日はよろしくね」
「よろしくお願いします」
今回の任務は、市内の学校に生息する2級相当の呪霊数体の討伐。これに抜擢されたのは審神者と伏黒で、高専の門前で軽く挨拶を交わしたあと、揃って補助監督が運転する車に乗り込んだ。
車内で渡されたタブレットを二人で覗き込み事の詳細を確認していく中、その際近付いた顔に伏黒は若干の動揺をしてみせたが、審神者はそれに気付くことなくけろりとしている。それが却って恥ずかしくもあり、同時に少し悔しくもあった。
「長義の話だと、もしかしたら1級相当の敵さんも出るかもなんだって。まあどっちにしろ、伏黒くんだけで対処出来そうではあるけど」
「長義?」
「山姥切長義、打刀の刀剣男士だよ。今は本丸から出て、補助監督さん達のサポートしてるんだ」
「うちのがお世話になってます〜」と運転する補助監督に対して頭を下げる審神者に、相手は「超助かってます!」とミラー越しに目を輝かせていた。どうやら補助監督らとの関係は良好らしく、やれツンデレだのやれ理想の上司だのと唾を飛ばす勢いで興奮しながら話す補助監督の姿に、審神者は嬉しそうに笑う。まるで身内を褒められ喜んでいるような審神者の様子に、伏黒は知らずに眉をひそめた。
伏黒は、審神者を心配せずにはいられない。それもこれも、会う度に驚愕するようなことを言われるが故。今回の山姥切長義のことについてもそうだ。審神者本人も補助監督も実にさらっととんでもないことを言っているのに気付いていないのだろうか。
「……審神者さん、それって常時付喪神を顕現させてるってことですか?」
「え? うんそうなるね」
「現世に実体を留めておくには、呪力を流し続けてるってことで合ってますか」
「あ、」
「うん、合ってるよー」
補助監督は察したらしい。が、漏れ出た声はそのままに伏黒の厳しい視線は審神者に向けられたままだ。
伏黒も、己の影を媒体として玉犬や鵺などの式神を操る。実体化させるにはもちろん彼の呪力が必要であるため、審神者が付喪神達を顕現させることと勝手は同じであった。だからこそ、呪力を流し続けるということの大変さがわかるわけで……長時間顕現を保つなど、今の伏黒の実力では考えられないことであった。それに加え、審神者はこれから任務だ。それはつまり、現在顕現されている神とはまた違う付喪神達をこちらに喚び戦うということ。呪力は更に消費することになる。
「……大丈夫なんですか」
「うん。これくらいなら平気だよ」
伏黒にとってとんでもない事は、審神者にとってはこれくらいのレベルらしい。五条の言っていた『呪力量だけなら五条よりも上回る』というのは、あながちデタラメではなかったのだろう。
——……俺は、まだ弱い。だから、だからまだ、守り人としての役目を果たすことが出来ていない。
ぎゅっと少年の眉に寄せられた皺を認めて、審神者はゆるく微笑んだ。
「せっかくの機会だからさ、伏黒くん」
「?」
「情報の開示といこうかね」
「わたしの術式は、刀剣の付喪神様を顕現し使役すること。顕現するにはもちろん呪力が必要で、一度に顕現出来るのは六人までだよ」
「俺の術式は……影を使って式神を実体化させ操ります。同時に出せるのは二体まで。破壊されない限りは何度も出せます」
「ふんふん。宿儺との戦いでいろんな種類出てたよね。何種くらいいるの?」
「今調伏できてるのはー……でも、あの時二体破壊されていて」
「あの大蛇の子?」
「はい。あとは白……玉犬のもう一体です」
そこで一度言葉を切った伏黒が俯く。その様子に審神者は多くは語らず、「そっか」となんでもないように返した。こういうところに彼のやさしさを感じるのだと思いながら……かつて自分も味わった、苦い記憶を掘り出しながら。
思い出すことはない。だって審神者は一度たりとも、忘れたことがないのだから。
「わたしの方もね、破壊されてしまえば二度と男士達を呼べなくなっちゃうんだ」
「付喪神もですか?」
「とはいえ、肉体はどれだけ傷付いても死ぬことはないよ。わたしの呪力で治せるしね。彼らにとっての破壊……つまり死とは、本体の刀剣が折れてしまう事なんだ」
付喪神とは、物に宿る神様の事を指す。故に、その本体が無ければ彼らは存在する事は出来ない。
「だからその本体は、名字のお家でたーいせつに保管され守られているってわけさ」
「男士達の本体を守る代わりに、審神者さんに力を貸しているという事ですか?」
「まあそんな感じかな。うちの一族は元から刀剣オタクだから全然苦じゃないみたいだけどね〜」
そこだけは感謝してるよーと、間延びした声はひどく冷めたものだった。察しのいい伏黒はそれだけで審神者と名字家の関係を理解したため、それ以上掘り下げて聞くことはしなかった。
「それにしても、なかなかどうしてうちらの術式は似てるねえ」
「まあ、ざっくり分ければジャンルは同じですからね」
刀剣男士を操る審神者と、影を操る伏黒。操術系の術式を持つ二人は、互いの利点も欠点も言われずとも大体を把握できている。それは突然コンビを組んで戦いに臨むという点ではとても有利と言えるだろう。
——もしここに、あの人が居ても話は盛り上がるだろうな。審神者の脳裏に、学生時代の頃の記憶がふつりと沸いては弾けた。
「〝式神使いは術者を叩け〟って言われてるけど、その辺りは対処済みかな?」
「五条先生の訓練受けてましたし、今は先輩達がしごいてくれるんで」
「うんうん。優しい先輩達だねえ」
「その辺り、審神者さんはどうですか?」
「わたしも昔は先輩達が、引きこもってた間は男士達がしごいてくれたからね。大丈夫だと思うよ」
あと、男士を身体に憑依させて力を貸してもらえるようにもなったから、心配ご無用だよ。伏黒くんには一度見られてると思うけど。
そう言う審神者に、確かに伏黒は覚えがあった。今や一番最初に出会った時、審神者の髪や瞳は真っ黒なのに対して、一度だけその様相が変わったのを見たことがある。実力の程はわからないが。
降ろした霊を生身の人間の身体に憑依させる戦い方があることを知っている伏黒は、審神者の言に「そういう戦い方も出来るのか」と思う程度だった。
「ちなみに、この事はごじょ先輩には内緒ね。新技だからあとでびっくりさせたいんだ」
「わかりました。……審神者さんは、五条先生の後輩になるんですよね?」
「うん。ご存知の通り意地悪な先輩だったよ」
聞いてくれる? の言葉を合図に始まった五条との思い出話や愚痴や愚痴は、審神者だけに留まらず補助監督も参加した事によって現場到着までの時間はあっという間だった。
現着してすぐ、辺りの異様な空気に伏黒は緊張を走らせた。その隣では審神者がいつもの調子で、「これはなかなか」とぼやく。
「確実に居るね。2級以上」
「話に聞いていたより数も多そうですね。どうしますか?」
「とりあえず予定通り、男士達に偵察させてみようか」
補助監督に帳を下ろしてもらってから、顕現させた短刀の刀剣男士は二振、五虎退と愛染国俊だった。どちらも伏黒を見るなり「よ、よろしくお願いします……!」「よろしくな!」と一声かけてから地を蹴りあっという間に姿を消した。その際五虎退から預かった大きな白虎はすぐに伏黒に懐き、その手に頭を撫でてもらおうと擦り寄っていた。はじめは戸惑っていた伏黒だったが、審神者から「大丈夫だから撫でてあげて」と言われ恐る恐る手を虎の頭に乗せる。気持ち良さそうにぐるぐると喉を鳴らしだした虎に、ほっと一息吐くと同時に緊張も和らいだような気がした。
「白髪のふわふわ髪は五虎退、薬研や乱と兄弟刀だよ。赤髪の絆創膏少年は愛染国俊、来派の短刀」
「もしかして、男士達の見た目って刀身の長さと関係ありますか?」
「お、聡いねえ流石!」
二振が偵察から戻ってくるまでの僅かな時間、審神者は刀剣男士達についての補足を加える。一部の例外を除き、基本的に本体の長さとヒトガタの身長は連動しているらしい。短刀や脇差は比較的背が低く少年のような面影の者が多く、打刀や太刀は成人男性〜少し高い程、大太刀や槍、薙刀は身長が高く体格もしっかりとした者が多いのだそう。
「ごじょ先輩は、身長だけで考えれば太刀〜大太刀くらい・って言えば何となくイメージつくかな?」「めっちゃ分かりやすいっすね」等と談笑している時に、伏黒は気付いた。恐らくこの会話も、寄り添ってくる白虎も、自分の緊張を解すためなんじゃないかと。
予定と違う呪霊の気配、数も階級も最早アテにならない。それが少しだけ、本人も気付かないところで伏黒に不安を与えていた。思い返せばこの任務は、あの少年院での出来事があってから初めての任務で。嫌でも忘れられないあの時の光景が、伏黒の脳裏をチラついては片隅にずっとこびりついている。
血に濡れる白。片手を失った虎杖。殺される寸前の釘崎。両面宿儺。抉り取られた心臓。呆気ないほど簡単に散った大蛇。浮遊感、衝撃と痛み。赤、赤、赤。
『長生きしろよ』
最期の、笑み。
『あの子がいなくなって悲しいのは、私だけですから』
遺族の涙。
全部自分が弱かったせいなのに、誰も責めてはくれなかった。誰も責めてくれないのは、自分が弱いからだ。
だから、強くなろうと決めた。しかし思いとは感情で、感情とは厄介なものだ。時に力になるそれは、時に弊害にも成り得る……今の自分にとって、その決意はどちらだ?
——ああ、だからこの人と一緒なのか。
近しい者とでも、全く知らない人とでも、伏黒はその決意を理由に躍起になり一人で戦おうとしただろう。そして皆伏黒の気持ちを汲み、思い通りにやらせてくれるに違いない。
しかし審神者が相手だと、まずそういった考えに至らなかった。話の主導権はずっと向こうにあり、不快にならない距離の詰め方と会話の内容で思考の海に潜り込む隙を与えちゃくれなかった。無意識なのか意図的にそうしているのかまでは今の伏黒にはわからなかったが、審神者の存在が〝凝り〟を解してくれたのは間違いなかった。
「あ、主さま……!」
「おっ、」
「戻ったぜー!」
「おかえりふたりとも〜。どうだった?」
偵察から戻ってきた男士達の頭を撫でながら状況を確認する審神者の顔は、これから戦いに向かうとは思えない程に優しいものだった。その審神者の手を素直に享受しながら報告する内容は、とてもその場の雰囲気にそぐわない。
「一階に確認できたのは五体、どれも2級くらいだな!」
「に、二階には三体で……その内一体が1級相当だと思います……!」
「わはー、案の定予定と違いすぎ!」
二振の報告を受けてケラケラと笑う審神者に、流石の刀剣男士達も苦笑いを浮かべている。その反応の意味は恐らく戦うのが自分達ではないからで、伏黒を心配しての事だった。チラチラと向けられる視線が何よりの証拠である。
「そういう事らしいけど伏黒くん、どうする? 一人で行けそう?」
笑い過ぎて浮かんできたらしい涙を拭いながら聞いてくる審神者に、伏黒は一度目を伏せる。視線を下ろした先には白虎がいて、心なしか心配げな目で見上げてきていて……その姿に、かつて自分が調伏していた白と大蛇を見た気がした。
「あ、あの!」
そんな伏黒に、五虎退が近付いていく。「僕の虎さんと、一緒にいてくれてありがとうございます……っ」やや怯えながらもその黄色の眼はしっかりと伏黒を捉え、微笑みを浮かべようと口角が僅かに持ち上がっている。生まれた年数で言えば五虎退の方が遥か年上だというのに、その少年の様相も相俟って伏黒は小さな男の子を相手にしているような感覚になる。
白虎に乗せていた手を五虎退のやわらかな髪に乗せ、安心させるように撫でる。
「……こっちこそ、ありがとう」
五虎退と虎に向けて微笑んだ伏黒は、顔を持ち上げた時にはその笑みを打ち消していた。
「俺一人で行きます。でも、数が多いんで討ち漏らした時はフォローお願いします」
審神者を見るその瞳には、一切の翳りは見当たらない。それに気付いた審神者はにっと笑い、「合点承知之助!」とおちゃらけて敬礼してみせたのだった。
「頼りにしてるよ! 伏黒くん!」
「お見事です! 流石2級呪術師ですね!」
帰りの車の中で。ボロボロの装いなりに軽傷で済んだ伏黒の肩には、眠る審神者の頭が寄りかかっていた。
先の戦いは伏黒がメインだったが、審神者も何もしないわけでもなく。伏黒の護衛にとあのまま五虎退を付け、自身は校舎の外から愛染国俊と更に顕現させた蛍丸とで待機。その際新たに出現した呪霊を相手にしていた。審神者は無傷だったものの愛染が軽傷を負い、戻ってきた伏黒と合流を果たした時に男士達の顕現を解いた。
『あ、この子は蛍丸。愛染と同じ来派で、こんなナリでも大太刀の刀剣男士だよ』
『さっき言ってた〝一部の例外〟ですね』
顕現を解く際、さらりと紹介された蛍丸はじっと伏黒を見上げる。
『……うん。お疲れ、伏黒のおにーちゃん』
何やらひとりで納得したらしい蛍丸は伏黒にそう労いの言葉をかけてから、愛染、五虎退と共に審神者の生得領域へと戻っていった。残された人間二人は揃って首を傾げるだけである。
『補助監督に連絡したから、じきに帳も上がると思うよ』
『怪我をした男士は大丈夫なんですか?』
『ここでも治せるけど、わたしの呪力で満たされている本丸で直接手入れした方が治りは早いんだ』
だから帰りは、わたしの身体お願いしてもいい? はじめて守り人として頼ってくれた審神者に、伏黒は戦闘直後で気分が昂っていた事もありいささか激しく何度も頷いてしまった。そんな伏黒に審神者はまたケラケラと笑い、『じゃあ、よろしくね』の一言と同時に糸が切れたように倒れ込んだのだった。
「審神者さんは呪力を使い切っちゃったんですねー。そりゃあ大量の付喪神を扱うとなるとハンパない呪力量消費しそうですもんね」
「そうですね」
審神者が眠っていることを、疲れて眠っているだけだと勘違いしている補助監督に伏黒は適当に話を合わせることにした。守り人の事があまり公にされていないのだと、補助監督の話しぶりから察したが故だった。
車の振動で、審神者の黒髪がさらさらと踊る。それを視界の端で捉えてから、伏黒は流れる窓の外へ視線をやった。
今頃、審神者は自らの領域で刀剣男士の治療に当たっているのだろう。願わくばその治療が早く終わり、少しでも早く目が覚めてほしいと思う。
——俺だって、聞いてほしいことがあるんだ。
さっきは参加できなかった五条への愚痴とか、今回の任務の反省とか。審神者と話したい事が次から次へと浮上してきては脳内のリストに溜まっていく。もちろん今は審神者の事を守らねばいけないから、油断しているつもりはない。でもそう考えるくらいは許してほしいと思った。
伏黒の手は、自然と審神者の黒髪を撫でていた。